山のサハラさん2021/10/18
10月18日 月曜日
小屋の前にある木、鮮やかな葉をつけていたイタヤカエデがいつの間にか冬の木になっている。来週には雪予報も出ています。
季節が変わる頃、美術高校時代の友だちが泊まりに来てくれた。山小屋より上には登らず、ただ会って話をするために。
二人で小屋の屋根裏にお茶やお菓子を持って上がる。
わたしは、退職後にお店を開く準備をすることにしたよと報告したり、友だちは最近、めでたく結婚したので夫婦生活はこんなふうだよと教えてもらったり。
最後は「やりたいこと」を巡って、こんな話になりました。
「旦那さんから、やりたいことをやっていいんだよと言われて考えてみたんだけど、わたし、本当に無いんだよね」
「仕事に行って、買い物をして、料理、洗濯、掃除、そうゆうことが嫌いじゃないし、毎日幸せだなあと思いながら過ごしていて」
振り返ってみても、彼女は進学や就職の時に周りの人たちから「やりたいことは?」とか「好きなことは?」といった質問をされては、ずっと「無い」と思っていたそうな。
自分はどうだろう。う~む、そもそもそんな質問をされることがなんだか苦手だったな・・
高校ではデザインを専攻して、卒業後はアウトドアの専門学校へ進学。今は賄い屋を始めようとしている。側から見れば、やりたいことや好きなことがはっきりしているように思われるけれど、そんなことはない。
高校に入学して最初に悩んだことといえば、自分には好きなことがないかもしれないと思ったことだったし、山が好きなんですか?と尋ねられては「山も好きです」と言い直す。
そうだなあ、ひとつ思うのは、無いものをあると言ったり、あるものを無いと言ってしまうことがつまらないのかもしれない。
だから、やりたいことがないから無いと言える友だちは、面白い人だと思いました。
時計を見ると、そろそろ休憩が終わる時間。
まだ屋根裏に居たかったけれど、友だちを残して自分は仕事に戻ることにした。
「山のサハラさん」は、日本仕事百貨のメールマガジンから生まれたコンテンツ。全国を旅するように働く佐原真理子さんが綴る日記です。