ギブから生まれる信頼関係
ただ、それさえあれば

秋風が吹く晴れた日。

訪れたのは、茨城県日立市にあるクリエイティブ公民館「kazamidori」。

「いろんな人と関わってみることがいいんじゃないかな」

地方で働く秘訣について、鈴木潤さんはそんなふうに語ってくれました。

鈴木さんは、デザイナーとして東京と茨城の二拠点で活動している方です。

デザインのお仕事のほかにも、茨城県の仕事を紹介する求人メディア「いばしごと」の企画運営や「kazamidori」の運営など、多方面で活躍されています。

今回は、「地域を編集するゼミ」の公開インタビューという形で、30分にわたって話を聞かせてくれました。聞き手は、暮らしのオルタナティブを発信する出版社「三輪舎」代表の中岡祐介さんです。

地方と都市や、仕事とプライベートといった線引きにとらわれず、自由に行ったり来たりしながら働いている鈴木さん。どうしたらそんなふうにいられるのか、そのヒントが詰まったインタビューの様子をお伝えします。

まず話題にあがったのは、鈴木さんが二拠点生活を始めたキッカケについて。

「私はもともと、東京の錦糸町という場所でデザイン会社を経営していまして。歳をとったからですかね、生まれ故郷の日立市に対して愛着の気持ちが湧いてきたんです。そして3年ほど前に、自治体から場所や金銭的な援助をいただきつつ、ここに拠点を構えました」

「それ以来、茨城でもいろいろな仕事が決まるようになってきまして。茨城県北のさまざまなプロジェクトに関わらせていただいたり、広報誌のプロジェクトに携わったりとか。いろんな仕事ができるようになってきました」

2013年にインクデザイン合同会社を立ち上げ、コーポレートサイトやパンフレットの制作、ブランディングなどの仕事を手がけてきた鈴木さん。

2019年にはじめたのが、茨城の企業の想いを紹介する求人メディア「いばしごと」だった。

デザインと求人。まったく違う業界のように思えるけれど、どうして鈴木さんは「いばしごと」をつくろうと思ったのか。

「会社のある墨田区に、『すみだのしごと』というメディアがありまして。そこで自社の求人を出したことがキッカケです。自分たちがわかっていない自社のよさを引き出し、記事にしてもらいました。それによって当社の採用もちゃんと決まって」

「すみだのしごと」は、墨田区で働くことだけではなく、そこでの生活にもフォーカスを当てたサイト。

実際にページを読んだ人が、面接や見学に来てくれたことに可能性を感じたそうだ。

「茨城の学生は、『いい企業がない』と思っている。企業側は、『なかなかいい人がいない』と思っている。ミスマッチが起きてしまっているんですよね。本当は、いい企業もいい学生もいるのに。その課題を解決できればいいな、と思ったんです」

「いばしごと」を覗いてみると、介護福祉やコーヒーショップ、精密機械の製造業など、さまざまな仕事が紹介されている。働く人にフォーカスを当てた記事も多い。

「求人メディアって、条件やスペックが書かれていて、写真も『こっち見て触ってください。』みたいな取材用のものが多い印象で。もう少し踏み込んで人を伝えるサイトがあったほうがいいな、と思いました」

取材では、鈴木さんも自前のカメラで撮影を担当することが多いそう。

「写真を撮るのはもともと好きだったので、それを仕事に活かせたらいいなと思って。自分が撮りたいだけじゃないの?ってスタッフには言われますね(笑)」

会社経営者としての視点。そして、一度茨城を離れて得た客観的な視点。

そんな2つの視点がかけ合わさったことで、「いばしごと」は生まれた。

同じように、仕事と趣味、デザインと求人など。鈴木さんのお話を聞いていると、一般的な線引きにこだわらず、横断的にものごとを見ることで新しい仕事を生んでいるように感じる。

普段から仕事をするうえで、鈴木さんはどんなことを意識しているのだろうか。

「まず、信頼が一番大切だと思っています。最初は誰かキーになる人とつながって、いろんな人を紹介してもらう。そうやって仕事が生まれるということが多かったですね」

「ビジネスであれば当然なんですけども、『自分が潤うだけではなく、ちゃんと還元して回していこう』みたいなことが大切で。“ギブアンドテイク”のテイクだけの人は、やっぱり線引きされてしまうと思うんですよ。これからローカルで働こうと思っている人は、人とどう関わっていきたいかということをまず考えてみたほうがいいんじゃないかな」

地方で働くことを考えると、手に職をもっていないとだめなんじゃないかとか、こういう仕事がしたいとか、いろんな想像がふくらんでくる。

でも、鈴木さんのお話を聞いているうちに、まず誰かひとりでも関われる人がいれば、なんとかなるんじゃないかという気がしてくる。それに地方には、草刈りや地域行事なども含め、都市部では顕在化していない仕事もたくさんある。

自分の経歴やスキルにとらわれずに、まずギブしてみること。そこからつながりや信頼が生まれて何かがはじまることって、想像以上にたくさんあるのかもしれない。

「地方で働くことに対して、あんまり深く考えなくてもいいと思いますよ。どんな場所でも、きっと住んだら住んだで楽しいし、仕事もないわけではないですし。いろんな人と関わってみることがいいんじゃないかな」

もちろん、いいことも悪いことも、関わってみてはじめてわかることがあると思う。準備万端で臨んでみても、それは絶対に起こるもの。

だったらまずは、何か小さなことからはじめてみればいいのかもしれない。いきなり移住するのではなくて、休みの日に通いながら、好きな店に行って知り合いを増やしていくような、そんな些細なことでもいい。

今までちょっと難しく考えていた、地方で働くということ。

少し身近に捉えられるようになりました。

(編集 大前 佳乃)

「地域を編集するゼミ in 日立」を通じて生まれたコラムは、ほかにもあります。こちらからどうぞ。

ゼミの模様は、こちらのレポートから。