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想いを伝える

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

取材を通して、生きるように働いている人たちに沢山会ってきたけれど、今回もまさにそんな、「好き」を仕事にしている人たちの話を聞いてきました。

とにかく想いに溢れている団体なので、どんな風に紹介しようか迷ったけれど、本を読むより映画を観るよりもドキドキするような話をたくさん聞いてきたので、伝えていこうと思います。

国際環境NGOグリーンピースは、緑豊かで平和な社会を実現するために活動をしている団体です。

地球温暖化、環境汚染、エネルギー問題…地球規模で起こっている問題に対して、国や企業、そして個人に呼びかけながら、人の意識を変えていこうとしています。

話を聞くまでは、環境問題はニュースで聞きかじる程度だったので、言っていることがちゃんと理解できるか少し不安だった。でも、聞いてみたら意外にも、共感できる部分が沢山あったし、自分にもできることがあると感じました。

東京・新宿駅の西口を出て、青梅街道を道なりに進む。脇道を一本入ると、そこはもう住宅街。生け垣から猫が出てきたり、鳥が鳴いていたりするのんびりとした小道を抜けて、グリーンピースのオフィスに伺った。

今回募集するのは、主に広報に関わるスタッフの募集。まずはマネージャーとして広報をまとめている関本さんに話を聞く。

「今地球上で起こっていること、それからグリーンピースの想いを伝えていくのが、わたしたちの役割になります。」

「具体的には、グリーンピースの活動を発表・報告する記者会見を開いたり、プレスリリースを発行して新聞や雑誌などメディアに働きかけています。また、活動を分かりやすく伝えるためにポスターやフライヤーといったコミュニケーションツールも制作します。それからイベントのときには、TwitterやUSTREAMでの中継もします。」

関本さんは、以前はイギリス系企業の日本支社で広報を務めていたそうだ。

グリーンピースで働くことになったきっかけを尋ねてみる。

「環境問題と企業の社会的責任について学びたいという気持ちから、会社を辞めてイギリスの大学院に留学していたんです。そのとき、たまたまグリーンピースが所有している船に乗れるという体験イベントがロンドンであったんですよ。」

ちょうど大学院の講義でNGOの活動をプレゼンする予定だったので、行ってみることにした。関本さんはそこで、初めてグリーンピースの船を目にする。

それはグリーンピースが所有する3隻のうちの1つ、『虹の戦士号』という帆船だった。


グリーンピースの船「虹の戦士号」©Jeremy Sutton-Hibbert/Greenpeace

船名の由来は、北米先住民族のある伝説から。

『いまに、地球は病み、海は黒ずみ、川の水は毒となり、動物たち植物も姿を消しはじめるとき、人々を救うために世界中から虹の戦士が現れる』

関本さんが、伝説を朗読してくれた。

その伝説のとおり、虹の戦士号は1980〜90年代のフランスの南太平洋での核実験を中止させるために出航し、フランス政府からの爆撃を受けながらも抗議をつづけて、ついには実験停止にまで導いたのだそうだ。

「船に乗っていたグリーンピースのスタッフたちが、そんな話をいきいきと教えてくれたんですよ。そのとき、この人たちはまさに虹の戦士なんじゃないかと思ったんです。わたしもその一員になりたいな、と思ったのが、今ここで働いているきっかけだと思います。」

わたしも虹の戦士になりたい。そう思えるのってすごいですね。

「ちょっとかっこよく言い過ぎてしまったかもしれません。」と笑う関本さん。もともと幼い頃から、環境問題を意識する機会が多かったそうだ。

それは、お母さんの影響が大きい。関本さんが、懐かしそうに話してくれた。

「わたしの母は、すべて手作りでつくってしまう人だったんですね。学校で使う道具も、買わずに板を切ったり竹を削ったりして、つくってしまうんです。スケッチの授業のとき、まわりの子はプラスチックのかわいい画板なのに、ひとりだけベニヤ板に紐をつけたものを使っていました。当時は嫌でしたが、今思うと逆にかっこいいかもしれませんね(笑)」

洗剤も歯磨き粉も身の回りは泡立たないものばかりだった。だから、外で泡立つものをみると逆にびっくりしてしまうこともあったそうだ。それから、平和を訴えるデモや集会にもよく連れていってもらった。

「自分の気持ちを表現すること。母から教えてもらったことが、今の仕事に通じている部分も多いんです。だから、親には感謝したいと思います。」

「原発から自然エネルギーへ」首相官邸前での原発再稼働抗議行動 ©Greenpeace/Jeremy Sutton-Hibbert

そうやって関本さんが積み上げてきた暮らしの価値観と、グリーンピースの価値観は、きっと同じ方向を向いているんだろうな。だからいきいきと働けるのだと思う。

「『ニュースの中に自分がいるんだ』という感覚は常にあるんです。福島第一原発事故から1年後に、『福島第一原発事故の教訓』というレポートを発表しました。このニュースは、国内外のメディアで取り上げられて世界中を駆け巡りました。オノ・ヨーコさんもTwitterとブログで紹介してくれたんですよ。」

福島第一原発事故直後に行った記者会見の様子 ©Markel Redondo/Greenpeace

昨年3月以降、グリーンピースは、福島での放射能調査と自然エネルギーを促進する活動を続けている。それは、エネルギー問題を抱える世界中の国々が注目していること。

「だから、広げるだけではなく、『きちんと正確に』伝える責任があるんですね。今は、インターネットを介して24時間情報が見られる時代です。だからこそ、表現には十分気を遣うべきだと思っています。」

そのために、言葉ひとつ言い回しひとつ、それからデザインまでも、何度もチェックを繰り返しながら慎重に伝えていく。

関本さんとともに広報の仕事をしている、成澤さんにも話を聞いてみた。

成澤さんは、学生の時に広告コミュニケーションに興味を持ち、卒業後は報道関係の仕事に就いた。「伝える」ことを軸に活動してきた方だと思う。今でも、新聞や雑誌、それから電車の中吊り広告までチェックして、広報に生かせそうな事例を集めているのだそうだ。

「『伝え方』ってとても大事だと思うんですよ。例えば、デモの報道を新聞で見ると、機動隊ともみ合っているような危険なシーンを扱っていることが多いじゃないですか。だけど、実際には子どもや女性が参加しやすいデモも沢山あります。どちらを伝えるかで、デモのイメージはだいぶ変わると思うんです。もっとピースフルな内容で伝えることができるんじゃないですか?と記者の方に提案していくのも、わたしたちの役割のひとつです。」

成澤さんが、自身のデモについての原体験を話してくれた。

「わたし、高校生の頃にデモをやったことがあるんです。ちょうどその頃、フランスで核実験をやっていて、わたしは広島で育ったこともあり、何かできることはないかと思っていたんですね。それでライブハウスのバンド仲間や友達を30人ほど集めて、渋谷駅の前でデモをやりました。」

ミニスカ姿で拡声器を片手に叫んでいたら、翌日の新聞にニュースとして取り上げられた。読んでみたら、『最近の若者は暴徒化している』というような、訴えとは関係のない内容で、残念な気持ちになったそうだ。そのときの気持ちが、今の「伝える」仕事へと繋がっているのかもしれない。

実際に働いてみて、どうですか?

「面白いですよ。伸びしろがあるな、と感じます。グリーンピースは海外では会員が280万人もいて知名度も信頼度も高いのですが、日本ではまだまだ低く、会員の方も5,000人ほどです。でも、人々を巻き込む方法としては最先端のアイデアを持っているので、それを日本へ向けてもっと発信していきたいと思っています。」

たしかに、世界のグリーンピースの活動をみてみると、面白いものが多い。例えば、アパレルブランドに有害化学物質の取り扱いについて考えてもらうために企画したのは、モデルたちが顔に黒い涙のメイクや酸素マスクを身につけたファッションショー。店頭でマネキンに扮した人たちによるパフォーマンスも行っている。


トロントでファッションブランドに対して行った抗議パフォーマンス ©Greenpeace

「人から人へ情報が伝わるには、『面白いから友達にも伝えよう』という動機があります。そこが、心に引っ掛かるフックなのかなと思うんです。だから、ユーモアだったり、日本だったらオシャレとかカワイイという要素も、+αで取り入れていきたいですね。」

それから、海外のネットワークがあるグリーンピースならではの醍醐味もあるそうだ。

世界40の国と地域にある海外のオフィスとは、毎日のメールのやりとりや定期的なテレビ電話で繋がっている。年に数回、みんなが集まって直接顔を合わせるミーティングの機会もある。

成澤さんが、9月に参加したというサンフランシスコでの会議の様子を教えてくれた。

「基本的に共通言語は英語で、通訳もいません。実はわたしは入ったときは英語が話せなかったのですが、『なんとかこの人たちとコミュニケーションがとりたい!』という気持ちで前向きに取り組んでいるうちに、だんだん意思疎通が図れるようになってきました。」

「そして、メンタルがすごく鍛えられると思います。わたしは、何度も心が折れて涙を流しました。海外の方々は、自分の主張をプレゼンテーションするのが上手いんです。自分もそんな風になりたいと思うし、みんな熱いなって、改めて感動もするし。会議に参加するたびに、自分がステップアップしていくのを感じます。」

各国の広報仲間とオランダでの1枚 ©Greenpeace

なんだかドラマのなかの話みたい。たぶんここでは、傍観者は誰もいないし、それぞれが当事者になって働いているのだろうな。

それは必ずしもキラキラして楽しいことばかりではないと思う。むしろ完全に傍観者になれる仕事の方が、楽だし幸せだという人もいるかもしれない。

でも、ここで働けるのは、伝えるべきことを「自分ごと」として伝えていけるような人だと思います。

最後に、関本さん。

「誰にでも、心のなかに虹の戦士はいるんじゃないかな。誰だって、どす黒い川が流れていたり動物が死に絶えてしまうような世界は望んでいないと思うんです。緑が溢れていて、そこでみんなが笑っているような、そんな社会にしたい。そう思うのって普通のことじゃないですか?」

「グリーンピースは特殊な人たちが働いていると思われがちなのですが、私も普通の女性です。一緒に働いている人たちも、子どもを想うお母さんであったりお父さんであったり、みなさんの周りにもいるような普通の人たちなんですよ。ひとりの人間としてどんなふうに生きたいか、という強い信念を持っている方だったら、一緒に働いていけると思います。」

(2014/6/11 笠原ナナコ)