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お店をつくるのは、それをデザインした人でも、プロデュースした人でもなく、そのお店にいつもいる人なんだなと思います。群言堂のお店は、働く人たちが日々、コツコツと積み上げたものでできています。道ばたに生えている季節の草花をいけたり、お客さんに向き合って接客したり。
いつも今ここに気持ちがあるからこそ、心地よい場所は生まれるのだと思います。
群言堂のお店で働く人、WEBメディアを通じて、商品の魅力を伝える人、群言堂の服作りに携わるパタンナーを募集します。
西荻窪の駅を降りて南口の小さなアーケード街を通り抜ける。少し歩くと群言堂のお店であるRe:gendo(りげんどう)が見えてくる。
群言堂は島根県の世界遺産、石見銀山の町を拠点にしながら、古い木造駅舎をお店にしたり、古い建物をコツコツ古材で改装して宿にしたり、全国の百貨店にはいったりして、素材や製法にこだわった服をつくって販売しています。それは表層的なデザインなどにこだわるだけではなく、心や体を整えるようなものです。
Re:gendoも昭和初期に建てられた古民家を改装して、洋服や雑貨などを販売し、食事も提供していて心地のいい空間になっている。
古い玄関の引き戸をあけると、すっと野草茶である「こうか茶」の香りがしてきた。中に入ると、六浦千絵さんと松場忠さんが迎えてくれた。
奥のテーブルに腰をおろして、ゆっくり話をはじめる。
まずは六浦さんの話を聞いた。コレド室町店で副店長をされている方。
「実は私ここRe:gendoのキッチンで働きはじめたのが群言堂に入ったきっかけで、2011年から2年間ぐらい勤めてました。だから西荻窪に降りると、今は古巣に帰ってきたような、ほっとする感じもあるんだけど、どうしてもちょっとぴりっとした緊張感もあります。その気持ちがだいたい8:2ぐらいの割合で自分の中にある感じですね。」
なぜ働きはじめたのか聞いてみると、話は学生のころまでさかのぼる。
「学生時代は、日本より海外に興味があったんです。フランスの歴史ある古い街とか、いつか暮らしてみたいな、と思っていました。」
「何かを美しく見せることに興味があったんです。それで大学を卒業してからは広告の制作会社に勤めていました。でも生活が不規則だったので調子が悪くなってしまって。美味しいごはんが身体に沁みるのを実感したので、今度はごはん屋さんで働こうと思ってRe:gendoの求人を見つけたんです。いい雰囲気だし、ほんと軽い気持ちでした。」
第1印象はどうでしたか?
「本社が山の中だし、会社名に『研究所』とつくし、ちょっとあやしいな、と思ったんですけどね(笑)」
「でも働きはじめてみると、本店のある石見銀山に興味がわいてきたんですよ。それで去年1年間は石見銀山に住まわせてもらいました。そこには私が昔から憧れていた街があったんです。コミュニティがあって、その中で暮らしが巡っているというか。たった一年間でしたが、お腹いっぱいになるくらい刺激的でした(笑)」
その1年間で感じたことってありますか?
「やっぱりまちの骨組みがしっかりしている。軸がある。暮らしという体幹がある。だからあとはどう伝えていくか。それは各々の役目なんだなって思います。」
どうやって伝えるものなんでしょうか。
「本店にいたときに、近所で摘んだ草を店でも家でも活けるんですよ。そのへんからぴっと取って、花瓶にさしたり。本店で働いた1年間では、それが当たり前だったんですけど、わたしは最初びっくりしたんですね。花って、買うものだと思っていたから。」
「しかも草花って、毎日毎日少しずつ変わっていくんです。一週間二週間でがらっと変わるんですね。だから、あの花活けたい、と思っても、もうないんですよね。そうやって日常に季節を取り込んでいることに感動したんです。」
なるほどなあ。そうやってお店も呼吸しているんですね。
「そうですね。たとえば拭き掃除もそうです。棚のほこりをとったりすると、それだけで空気が変わるんです。不思議なんですけど、ものが売れていない棚があるとしますでしょ。『動いていないな』と思って拭くと、お客さまが集まってくださるんですよ。」
「うちの代表の登美さんも『掃除は大事』とよく言うんですけど、それまではあんまり実感はなかったので。でも目の当たりにしてみると、腑に落ちました。」
もっと仕事内容について、具体的に聞いてみる。
「私たちの仕事はオリジナルの群言堂ブランドの服飾販売と、仕入れた雑貨の販売ですね。服に関しては、入荷作業をしてお店に並べて、お客さまのからだに馴染むものを提案する。」
「お求めいただくことになったら、大事にお包みして。ギフトの場合は、松場の実家はもともと呉服屋なので、たとう紙でお包みします。あとはディスプレイも考えますよ。什器を動かして、違う部屋のようにすることも。たとえばバレンタインのときは、想いを伝えるバレンタインにしようと思って、和紙の便せんをディスプレイしました。」
群言堂では「We are here!」という言葉を共有している。もともとは、はじまりの場所である石見銀山=hereだったけれども、どうにもそれだけではしっくりこなかった。でもだんだんとわかってきたのは、hereはそれぞれの場所ということだった。
どのお店も同じにすればいいわけじゃない。たとえば高尾のお店では、東京霊園があるのでお花も販売するようにしたり、近くにスーパーマーケットがないのでお豆腐や卵、納豆などを販売したり。そうやって、その場所でできることに寄っていくと、喜ばれてまたお客さんは来てくれる。
六浦さんは、We are here!を実践されている方だと思う。
「石見銀山から帰ってきて、変化したことが1つあって。わたしは、今は都内に住んでいるんですけど、今もお店に家の近くの草花を活けているんですよ。団地なので、そんなに立派なものが生えているわけじゃないですけど。」
「今、住んでる街を大事にしないといけない。以前は東京に住んでいるくせに『東京は疲れる』って言ってたけど、そうじゃなくて安らぐところもたくさんあるってことも、やっぱり伝えていかなきゃいけないなと思って。」
フランスの街を夢見ていた六浦さん。今はちゃんと『ここ』にいるのかもしれない。そんなスタンスが、お店をよくしていく。
となりで話を聞いていた松場さんは、六浦さんの話を聞いてこんなことを話してくれた。
松場さんはもともと靴をつくる仕事をしていた方だ。婿入りしてしばらくしてから、群言堂で働くことになった。今はGungendo Laboratoryというブランドの責任者だ。
「今はお店がたくさんありますけど、同じような場所をつくるというよりも、その場所に合わせることが大切だと思うんです。それは働く人も同じ。馴染まないといけない。」
「写真家の藤井保さんという方がいらっしゃって。うちによく来てくれるお客さんなんです。僕もまだここに立ってた頃なんですけど、藤井さんが『君たちもここのインテリアだよね』っていう話があったんですよ。風景に馴染むのが一番よくて。」
たしかに「こんなふうにしたらおしゃれでしょ」とか「こういうのが流行っているでしょ」というようにお店づくりをしていくと、それなりにお店には人が集まるのかもしれない。
でも群言堂の店づくりは、いかに場所に馴染むか。
「最終的にはオーナーがやっているお店が一番強いんですよ。だからその店にいる人が、みんなオーナーの感覚でやってもらうのがうれしいですね。そうすると『またこの人に会いに来たい』って思ってもらえると思います。」
オーナーが強いのは、自分の頭で考えて、試行錯誤しながらつくりあげていくからなんでしょうね。
「そうですね。群言堂は最適化し続けてきた結果なんだと思います。隣町に廃校になった小学校があって倉庫になっているんですけど、今までの什器が詰め込まれているんです。」
「あれが、うちの失敗の積み重ねだと思うんですよね。はじめからセンスがよかったわけではなくて、毎回試してみて、また変えていく。それをお店でもやってもらいたいと思います。」
なるほどなあ。そしたらもうすぐ湘南に新しくできるお店にも、その場所らしさがあるんでしょうね。
「そうですね。そこで働くスタッフが、その場所を感じて、群言堂を最適化していく感じでしょうね。すべて本部任せにしちゃうと味気ないお店になっていきます。」
「Re:gendoがオープンするときも、登美さんが3日間くらいいたんですけど、道ばたに生えている苔をはがしてもってきたんですよ。『あんた、いい苔いっぱい落ちてたわよ』って(笑)よく見つけたなあ、って思って、次の日気をつけて見ていたらたしかに苔がポコポコあるんですよね。ぼくは気がつかなかったですけどね。」
そんな松場さんも、群言堂で働きはじめて最初に任された高尾のお店では、店づくりから関わったそうだ。
「高尾がオープンする2ヶ月前に入社したんです。それで高尾の店長になって。『もういろいろ決まっているんだろうな』って思ったら、まったく決まっていなくて(笑)」
「うちの会社でもはじめての飲食店だったので、何聞いても誰もわからない。結局自分たちでほとんどやったような感じでしたね。コーヒーショップでアルバイトしたことがあったのでよかったです。」
今まで積み上げてきたものを受け入れつつも、その場所にいる人が考えて、形にしていくからこそ、いいお店になっていくのだと思う。
松場さんに、どうやってバランスをとっていくのか聞いてみる。
「分解することだと思いますよ。」
分解?
「まずは受け入れて、受け入れたものを分解していく。そうすると、これが膨らみやすいところだ、っていうのがわかってくるんですよ。そしたらそこを強くしていけばいい。」
「そういう思いでつくったのが『Gungendo Laboratory』というブランドなので。都会では供給しきれない里山の植物を材料と見立てて、それで染めることで、うちにしかできないものになっていくと思うんです。今は手探りなんですけど、ゆくゆくはほかには真似できないものになるのかなって思います。」
群言堂のお店は、いつもそこに人がいるように感じます。それは言われたことだけをやったり、マニュアル頼みの仕事では実現することはきっと難しい。
ぜひいくつかお店を訪ねてみてください。それぞれの風景があると思います。
最後に松場登美さんの言葉を紹介します。
「どういう心持ちで人がそこに関わるかによって、その場のパワーってものすごく引き出されてくるんです。そして私はいつも足下の宝を活かして暮らしを楽しむって言うんですけど。なにも離れたところに行かなくても、足下に宝がいっぱいあるんですよ。」
(2014/10/31 ナカムラケンタ)