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もし今、手に職をつけようと思ったらなにをするだろう。ウェブや編集、ブランディングの技術を学ぶこともいいと思う。きっとどんな事業をやるにせよ、欠かせないことだから。

今回は地域ブランドの発信やウェブ技術を身につける人を募集することになりました。
4ヶ月の間、必要な知識をプロから学びながら働く。希望すれば、期間終了後はそのまま美波町で働くこともできるそうです。
地域で暮らすことや、自由に働くことに関心のある人はいい機会だと思います。
徳島空港から車で1時間ほど。山を越えて、今回のプロジェクトを運営する株式会社あわえに向かう。
港の近くまで行くと家が密集していて、車1台通るのがやっとなくらい。事務所を探し路地を進んでいくと、対向車が来てしまった。
すれ違うことはできないし、バックするのにも一苦労。どうしようかと思っていると、助手席に乗っていたお母さんがかけてきた。
「あなたどこ行くの?あわえ?じゃあついてきて!」
せめて道を教えてもらえる程度だと思っていたら、なんと連れて行ってくれるらしい。言われるがままに車を動かし、あっという間に銭湯をリノベーションしてつくったあわえの事務所「初音湯」の前に到着した。

美波町で暮らしながら、写真や動画、ライティング、編集などのスキルを学ぶことができた去年のクリエイターズスクール。やってみてどうでしたか。
「地域コンテンツが情報化されてないし、そもそも媒体もない。自分たちで取材して、コンテンツづくりをして、媒体をつくる。知恵を出し合ってやったんです。はじめての取り組みでしたが、やればできるようになるんだなって」

経験がない4名が集まって、山下さんのサポートを受けながら地域のコンテンツを発掘、発信していった。学びながら1年間をすごし、内2名はあわえのスタッフとして活躍するほどのスキルを身につけた。
1年を過ごしてみて、地域の人から求められる役割も見えてきた。
「一次産業や二次産業を仕事にしている人が多いんです。いいものを作っているけれど、価値を伝えたり交渉をする人材がいない。スクールの参加者が地域の人たちから『ものの価値を伝える人なんじゃないか』と期待してもらっていることも感じました」
例えば「寒茶(かんちゃ)」。12月の親葉が冬を超えるのに栄養を貯めている時期、寒い中摘み取りお茶にする。カフェインがないので、子どもや高齢の方でも飲みやすいそうだけれど、その価値に見合った値段で取引されていなかったし、そもそも売れていなかった。
それがちょっとテレビで紹介されたら、瞬く間に売れるようになった。
「自信をなくして、自分たちを過小評価しているところがあるんです。新しくやってくる若い人の力で火をつけることができれば、産業が復活する可能性がある。都会にいる人にもチャンスができるし、情報の価値化が理にかなった形で循環できる」

「この地域にあるものを発掘して、売ってもらいます。すぐには売れないだろうから、はじめは困ると思います。でもまずはやってみて、どうして売れないのかを経験してもらいたいんです」
スクールと言っても、手取り足取り教えてもらうのがスタートではない。まずはやってみることから。
「生産される背景、つくっている人の人生観を知れば伝えることができると思います。必要だと思った技術を僕らが教えていきます。そしてまた売ってみる」
4ヶ月という期間の中でどこまで行けるかは本人次第。けれど、これだけのことを教えてもらいながら試してみるチャンスはそうないと思う。

ここで暮らしながらやる、ということにはどんな意味があるんだろう。
「美波町って検索しても、出てくる情報ってほとんどないんです。海が有名だけれど、それだけじゃなくて食べ物もおいしい。僕が一番好きなのはここに住んでるおっちゃんとか、おばちゃんです。形にしづらいけれど、ここの土地の魅力は『季節』や『人』だと思っています」
季節や人、ですか。
「冬の大浜海岸に行っても寒いだけ。けれどお盆前の満月の夜にはウミガメが上がってくるシーンが見られるんです。いつもは怖いおっちゃんが、お酒を1杯のむと笑顔が可愛くなる。スイッチが入ったら、腹をかかえるくらいの笑い話になる」
「そういうのは一瞬なんです。いつ起こるかわからない」
この土地の魅力を伝えるためには、ここにいないとできないことがある。

頼まれたデザインだけをつくるのではなく、その会社の10年後のビジョンまで考えたデザインができるか。
ここでクリエイティブな仕事をするときには、0から100までのすべてに関わらざるを得なくなる。そうやって経験していったことは、分業化が進む都会に戻ってもきっと活きていく。
「地方の魅力を伝えることで、都会と田舎の差ってなくなるんじゃないかなって。都会にはトレンドがあって、人がたくさん集るという魅力があるけれど、この価値観に偏り過ぎている気がする。田舎には違う魅力があるんです」
「地域の魅力をたのしみながら働いてるのが、この色黒のおじさんです(笑)」と紹介してもらったのは、美波町にサテライトオフィスを構える鈴木商店・美雲屋の小林さん。
消防団などいろいろな組織に入っていて、週末は行事や会合という名の飲み会でいそがしいそうだ。

山下さんから「コバヤン」と呼ばれる小林さんは、もともとサーフィンが大好きで、大阪で働いているころからよく徳島には来ていたそう。
「技術は会社に入ってから教えてもらいました。徳島にオフィスをつくるのを任せたいって言ってもらって、3秒で行くのを決めましたね」
話を聞いた2ヶ月後には鈴木商店のメンバーとして、美波町にやってきたのが2年前。物件探しから集落への挨拶回りなど、すべてが手探りだった。ご挨拶を兼ねた開所式が終わったところで、なにかが動き出すような音が聞こえたという。
「感極まって泣くのを我慢してました。サーフィンができるこの場所で仕事できるのもうれしかったし、都会から抜け出したかったんです」

「めっちゃピーカンで海が穏やかだったら、それは飛び込んでしまいますよね(笑)」
今は3人のスタッフが美波町で働いている。大阪の本社と連携をとりながら、まだまだ働き方は模索中。けれどこんな実験ができるのも、場所を選ばずにできるプログラミングの技術があるからこそ。
「コバヤンはプログラミングを教えてもらったから、今ここで働いている。今度はそういうのを教える番だよね。技術というよりは、こういう生き方を学ぶ、というのが本質的な感じがします」

「カズみたいな人やな」
カズさん?
「パソコンの電源も入れたことがないのに、ここでサーフィンをしながら働きたいからってプログラマーに応募してきたやつがいて。『未経験活かして頑張ります!』っていうんです」
サーフボードと小さなカバンを片手に移住してきて1年半。怒られる回数は町一番だけれど、とても素直で愛されキャラとして町に馴染んでいるそうだ。
「都会では生きにくいはずなんですよ。けれどこっちでは仲間も、仕事も、家も、彼女まで手に入れた。ああいうポジティブなやつが来てくれたらおもしろいですね」
「実は去年の募集で、唯一履歴書だけで内定を出したのが小池です。履歴書が変わってるんです」
今までの話を横で聞いていたのが、去年の募集でクリエイターズスクールに参加し、今はあわえで広報として働いている小池さん。

「酪農もできた、生活したかった途上国でも暮らした。次はなにしようってなったときに、ほんのり頭の片隅にあったデザインの仕事をしてみたいと思ったんです」
そんなときに出会ったのが、日本仕事百貨の記事。受からない気がしなかったらしい。
美波町にやってきて、最初の仕事は壁のペンキを塗ることだった。
「その様子もどうやって撮ればかっこよく見えるか、いい記録になるかを教えてもらいながら。あとはこの地域をPRするための動画や冊子づくりをしてきました。やっているうちに撮りたいと思うものが増えてくるんです」
もちろんはじめてのことばかりなので、ハプニングも一通り経験した。
「技術だけじゃなくて、相手との関係がないといい写真が撮れないこともわかりました。場数を踏んでわかったことも多いです。使う目的をイメージしながら撮らないと、独りよがりな写真になってしまったり」

「たくさんの個性的な人に会ってきました。酪農ではいくらいいものをつくっても、安定した収入を得るためには大きな乳業社に納品し、ほかのものと同じパッケージで売られてしまう。自分のものは自分の名前で出したいと思うんです。何年先かわからないけれど、私が発信する力をつけて、写真や映像で役に立ちたいと思って」
「こんな考え方や働き方に出会えたのも、ここに来たからなんです。経験やバックグランドではなくて、来るか来ないか。迷ったら来てみたらいい。そんな言葉が書いてあったのを見て、応募した気がします。決して山下さんの写真に惹かれたのではなくて」
「それディスってるの?(笑)」

すれ違った小学生が「さようなら!」と言いながら下校をしていく。井戸端会議をしていたおばあちゃんから「どこから来た」と話しかけられ30分ほど混ぜてもらう。「都会は疲れるから会いにはいかん」と息子の話をしてくれた漁師さん。歩いてるだけなのに、なんだか受け入れてもらえた気分になった。
こんな風にすきな場所で生きていくことができるのも、手に職があるから。
たった4ヶ月かもしれない。けれど、可能性を広げる大切な時間になると思います。
(2015/10/16 中嶋希実)