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1ヶ月くらい休みをつくり、家族で海外にでもいってゆっくりすごしたい。休みは週に2日だし、有給を使える日数も限られているから、そんなことができるのは老後のたのしみにとっておこう。
仕事に追われているとき、ふとそんなことを考えたことがある人は少なくないんじゃないでしょうか。
今回訪れたのは栃木・日光。そんな人生を諦めないための道が、ここにあるかもしれません。

悠々自適な独立生活をしてみたい。そんなふうに思ったことのある人はぜひ読んでみてください。
車を走らせ、日光の霧降高原にあるペンションに向かう。街中よりも5分ほど進んだところで、別荘らしき建物が並んでいる地区に入った。
青と白がさわやかな洋館の中、ダイニングにあたるスペースで代表の山口さんにお話を伺うことにした。

けれどそんな話は夢のまた夢。旅館をやるほどお金があったわけでもないし、自分とは程遠いものだと思っていた。
「地元は茨城の日立市です。日立グループの本拠地で、当時は日立製作所に入って一生を終えるっていうのが定石通りの道だったんです。僕もエンジニアとして入社しました」
ものをつくる仕事はおもしろかった。けれど働くなかで「先が見えてしまった」そう。
「なんていうのかな。配属された部署や気に入られた上司によって、どこまで出世するかが決まっているように見えてしまって」

「1ヶ月40万円で日光のペンション貸しますって。設備や準備のことを考えても、300万あればはじめられることがわかったんです」
当時、ペンションとして使える物件が賃貸に出ているのは珍しかった。
同じように定石通り、順調な道を進んでいたお父さんからも「普通にやっていれば部長クラスまではいくのに」と言われたけれど、山口さんの心は決まっていた。
「自然豊かなところで悠々自適に、自分の考えでやってみたいという思いが強くなって。試しに泊まりにきた近くのペンションを見ていても、これなら俺もできる!と思い、この道に踏み込みました」

それがこのリゾートインユミィ。1年目の経験を活かして、より使いやすいペンションになるよう、設計にも積極的に関わったそう。
「こちらも順調でした。土日はいそがしいけど平日はのんきにしていて。でも、慣れてくると頑張りたいなって思ってくるものなんですよ」
当時山口さんは31歳。夢の悠々自適生活を手に入れたと思いきや、なんだか物足りなさを感じることもあった。
そんなふうに考えていたころに、1軒目に借りていた物件も運営してくれないかと連絡があった。
「ペンションって人を雇ってまでするものなのかな、とも思ったんですが、試しにやってみたんです。そしたらまたうまくいっちゃって。経営するのがおもしろくなってきました」
その後は1年に1軒のペースで伊豆、那須などの観光地で、中古物件を買ってはペンションやプチホテルとして運営をはじめていった。そんなペースでやるつもりはなかったけれど、なんだかいいタイミングで話がやってくるそう。

「これまで20組くらいは独立していっていると思います。促しているわけじゃないんですが、慣れてくるとみんな自分ではじめるんですよね」
どうしてそんなに独立をしていくことになるんだろう。
「その辺のペンションを見ていてもわかりますが、週末や年末年始、ゴールデンウイーク、夏休み。繁忙期さえがんばれば食っていけるんですよ。2月はお客さんこないから、1ヶ月まるまるハワイで過ごすなんて人もいます」
夢の生活をしている人がいるんですね。
「うちにいる間はそういうわけにいかないですよ。個人ではなくて会社としてやっているので」
「うちの会社は黒字になっていますけど、こうやって従業員制でペンションをやってるところってほとんどないと思いますね。大変だけど、うちにいるのはそんな長い期間じゃないですから。銀行から融資を得て自分で物件を買ってはじめるために、ノウハウを学びながら実績を積むにはいいと思います」
最初から自分で宿をはじめようと思ったら、物件を借りて、改修をして、備品を揃えて。ちゃんとやろうとしたら、数百万円のお金が必要になってくる。集客も自分たちでゼロからやらなくてはいけない。
けれどここでなら、資金がなくても設備が揃ったところからはじめることができる。経験も必要ないから、まずやってみるにはとてもいい機会だと思う。実績を積みながら実力をたくわえ、銀行融資を引き出せば、夢の悠々自適な独立生活が待っているという。
横で話を聞いていたのが三村夫妻。ここにやってきたのは半年前です。今まさにリゾートインユミィで修行をしている2人にも話を聞いてみる。
なんだかかわいらしい雰囲気の2人です。

「週1回しかなかった休みを無駄にしないよう、よく遠出をしていました。でもずっとこのままなのかなって考えたときに、独立することが浮かんだんです」
最初は料理が得意なことをいかして、移動販売車でもはじめようかと考えていた。
「いろいろな人に相談をするうちに『2人にはもっと深くお客さんと時間を過ごすほうが向いてるんじゃないか』ってアドバイスをもらったんです。それがとてもしっくりきて、宿をやることにしました」
「自分たちでやりたいという想いが強かったので、迷いはありませんでした。イメージはのんびりした感じだったんですけど、案外体力勝負でしたね」

チェックインは3時から。夕食は6時からはじまるので、それまでに仕込みをすませる。
8時くらいまでゆっくりとコース料理をたのしんでもらいつつ、平行してお皿を洗ったり朝食の準備にもとりかかる。
食材の発注や宿泊予約をまとめ、10時半には消灯。ようやく自分たちの時間がやってくる。
翌日は8時からの朝食に備え準備をして、10時までにはチェックアウト。それぞれ観光に向かうお客さんを見送りつつ、空いた部屋から次に備えてメンテナンスをはじめる。
これが1番の繁忙期の流れ。それ以外の時期、とくに平日は客数も多くないので時間にゆとりを持って働けるそうだ。
「いそがしいときは、泣きそうになりました(笑)」
「半年して、やっとって感じですね」

「最初はなにをどうしたらいいのかまったくわからなくて。どうお皿をわけておくといいとか、片付ける順番とか。細かいところまで教えてもらいました。少し工夫するだけで、効率がものすごく変わったんです」
入社するとまずは2週間、研修期間がある。ノウハウがなくても、その間に料理なども教えてもらえるそう。
「ベットメイクのときには、いかに歩く歩数を少なくするかコツがある。自分でやっていたら一生気がつかない人もいます。それを知るだけでも、うちにくる利点になるんじゃないかと思いますね」

「効率を上げることで無駄が省かれ、自分たちの時間がうまれて余力ができる。その余力の中でお客様との交流時間を増やしていくわけです」
「せっかく来てくれるんだから、お客さんにも楽しんでもらいたい。あたたかみのある宿を増やしていきたいと思っています」
三村夫妻があるエピソードを話してくれた。
必死で運営をしていたある日、「結婚記念日なので泊まりたい」という予約が入った。会社ではケーキや花束のオプションも用意しているのだけれど、とくに頼まれないまま宿泊日を迎えた。
「相談して、デザートのお皿に“おめでとうございます”って言葉を添えたんです。そしたらとても喜んでくださって。直接その姿を見られることは、とても嬉しかったですね」
「少しずつ余裕も出てきて、ときどき将来どんな宿をやりたいか話をするようになりました。まだまだこれからですけどね(笑)」

どんな人が向いているか、山口さんに聞いてみる。
「奥さんがキーパーソンです」
奥さん、ですか?
「うん。男性のほうが独立心が高いことが多いのでがんばるけれど、奥さんが嫌になっちゃうんです。旦那さんと24時間すごすし、一緒に仕事をすることになる。仲が良くて同じ方向を向いていればいいけど、喧嘩が耐えなくなってしまう人もいますよ」
スペースはわかれているけれど、ペンションに住むことになる。働くことと暮らすことがかなり近くなるぶん、プライベートが気になる人も少なくない。

取材を終えたころ、1本の電話がかかってきた。
ユミィが運営する他のペンションで、水道管が詰まって水が出なくなってしまったそう。そろそろお客さんがチェックインにやってくる時間だ。
山口さんや本部の方が相談し、今日は予約が入っていなかったリゾートインユミィで受け入れをすることが決まった。
三村さんたちが大慌てで準備をはじめる。
こんな対応ができるのも、心強いと思う。

「安全な施設で、安心して過ごしてもらえる場所をやっていますから」
泊まりにくる人にとっては、大切な人と過ごすかけがえのない時間。山口さんのその言葉を聞いて、心地良い時間を過ごしてもらうための場所はこれからも必要とされるように感じた。
資金やノウハウがなくてもかまいません。近い将来の悠々自適な独立生活に向けて、気になった人は話を聞きに行ってみてください。
(2016/11/10 中嶋希実)