※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
炭をあたためて、灰をかく。
小さな香木のかけらをそっと灰の山の上におく。
すると、やわらかな香りが漂ってくる。
伝統的なかたちで香を炷く機会は、少なくなってきているのではないかと思います。
お寺や仏事のときのお線香の香りは知っていても、敷居が高いように感じがちな日本の香文化。
意外にも、現代の生活に取り入れることができるようです。
そんな日本の香文化を伝えるのが株式会社香雅堂。今回は総合職の募集です。
古くも新しい、和の香りの世界についてお話を聞いてきました。
東京・麻布十番。
地下鉄の駅から出て、商店街を過ぎ、住宅や小さめのビルが並ぶ通りに「麻布 香雅堂」はあります。
自然によってつくり出された良い香りの木片『香木』をはじめ、香にまつわる様々なものを販売しています。
まずは、会長である山田眞裕(まさひろ)さんにお話を聞きました。
眞裕さんは京都で7代続くお香を扱うお店の次男として生まれ、34年前に東京でお店を開いた。
「自然遺産みたいな香木がごろごろ転がっているなかで、生まれ育ちました。だから、その不可思議な存在にはとても魅力を感じていて。この仕事をはじめたのは、ある意味自然な成り行きなんですよね」
眞裕さんが“自然遺産で不可思議”と形容する香木は、自然にしかつくり出せないもの。
特定の種類の木が何らかの理由で傷ついたときに、その部分を守ったり癒したりするために出した樹脂のようなものが集まってできる、木の一部分。独特な香りを持ち、香炉を使ってあたためることでその香りを発揮します。
「ものによっては1グラム数万円もする。その良さは、誰もが理解できるものではないと思うんです。資源は枯渇しつつありますし、香木の希少性はものすごく高まっています」
インドや東南アジアなど限られた地域でしか採集できず、人の手によってはつくることができない香木。
本物の価値を知る人は少なくなっている。そんななかで香雅堂は、本物を必要とする人へ大切に届けていかなければいけないと、眞裕さんは語ってくれました。
そして、その香木を用いて行う芸道が『香道』とよばれるもの。
室町時代の発祥で、茶道・華道と並ぶ日本三大芸道のひとつ。考え方や稽古の内容は、流派によって異なります。
香道では香木の匂いをかぐことを“聞く”といい、小さく切った香木を炷いて香りを聞き、深く味わうことを目的とします。
“香りを深く味わう”とは、どういうことなのか。簡単に言葉で言い表せるものではないようです。
「道のお稽古にゴールはないんですよ。お稽古を積めば、最終的には皆伝を伝えます。でも、それだけでは終わらないですよね。あくまで段階は踏んだということにしか過ぎない」
「初心者の方でも、物凄く深いところまで到達している人がいるかもしれない。一方で、長く通っていても中身が寂しい、という人がいることも十分あり得ると思います」
そのときに、その人が何を感じられるのかが全てとなる。
「感じることによって、自分の内面がどう変化するのか。それが何かほかの世界とつながるのか。それは自分にしかわからないものだと思います」
会長の眞裕さんの話を聞いていると、なんだか難しいことのように感じる。けれども2代目のおふたりの話を聞いてみると、見えてくるものがあると思います。
現代表の山田悠介さんと、奥さんであり副社長の真理子さんです。
もともと日本の伝統文化や、芸術が好きだったというおふたり。気張らない口調で、自然と和やかな雰囲気をつくってくれる。
普段からできるだけ自然光のなかでお稽古をするというので、今日も灯りをつけずにお話を聞くことに。
はじめは暗く感じたけれど、だんだん目が慣れきた。ふだん蛍光灯の下で暮らしている身からすると、なんだかハッとさせられるものがある。
「自然光のほうが、ものがよく見えるんですよ。逆光になると表情は見づらいんですけど、そこは勘というか、間を見るというか。感覚が研ぎ澄まされていくのがいいなと思うんです」
「こういったことをはじめ、80歳にもなる先生方から学ぶことはとても多くて。ひとつの物事に対して時間をかけて楽しむことの良さも教えていただきました。だから僕たちも自分たちの興味の持てる範囲でゆっくりできたらと。細く長くやれるのが、一番だと思っています」
現代的な感覚を持ちつつも、香道や和の精神の良いところを素直に感じて、それを自分たちの方法で表現しながら仕事をしているおふたり。
既存の商品を扱うほかにも、美術館やファッションブランドとのコラボ商品を企画したり、香雅堂オリジナルの香道具やお香をつくったりもしているそうです。
なかでも思い入れがあるというのは、『天の海シリーズ』とよばれるお香。
お父さまの眞裕さんがはじめたオリジナル商品で、スティックタイプのお香です。
「お香の本場は京都で、千年の歴史があります。私たちもとても尊敬していますし、勝負しようとは思っていなくて。東京だからできることを、結構意識しているんです」
「みなさんがイメージする古き良きお線香の香りっていうのは、香木に香料を混ぜてつくりあげた香り。それが京都風の香りだとすると、東京風ってどんなものだろう。そう考えたとき、香木そのものの香りを感じられて、ほかを削ぎ落としたものが、ひとつのカラーになるんじゃないかなって」
スティックタイプのお香でも、混ぜ物を一切しない香木の香りそのものを楽しめる、天の海シリーズ。
香木の価値を深く理解している香雅堂だから、そして、東京という新しいことに挑戦しやすい環境だからこそ、たどり着いた考えなのかもしれない。
ところが一時、原料の確保が難しくてつくれない時期が4、5年間続いてしまった。
その間はお客さまからのお問い合わせも多く、天の海シリーズの大切さを感じていたそう。
「最高品質の材料だけを使った、お店の象徴となるような商品だったんです。それはとても素晴らしい商品なので、僕たちがなんとか復活させたいと思って」
東南アジアの現地まで赴き良質で安定供給が見込める香木を探し、悠介さん自ら40種類以上の試作品を手づくりして、やっと満足のいくものができたという。
良質な香木は希少なため、今販売しているものと全く同じ香りのお香は、二度とつくることができないそうです。
ひとつひとつ丁寧に、自分たちがいいと思うものをつくってきた悠介さんと真理子さん。
これからはもう一歩進んで『聞香』という、香りを聞く文化をもっといろんな人に知ってもらうことを考えているといいます。
「伝統的に行われてきた文化って、健全に暇をつぶせるんじゃないかと思うんです」
健全に?
「ひとりでスマホを見るんじゃなくて、だれかとお茶を飲んで話してみたら、また違ったリラックスができるかもしれない。お香を炷くことも、そうだと思うんですよね」
炭をあたためて、灰をかいて。
その様子を、少しだけ再現してくれました。
自然光の心地よい光のなかで聞こえる、「サクッサクッ」と灰をかく静かな音を聞いていると、なんだか非日常に足を踏み入れたような気分になる。
難しいことを考えずにただ手を動かす時間は、心を落ち着けてくれるのだという。
「香りも一度聞いていただきたいですね。香木の香りは、日常生活で感じるどんな香りとも似ていないんですよ」
いつでもどこでも情報が入ってくるような今の世の中。無心になって手を動かし、あたたかさや香りを感じる時間が、ときには必要なのかもしれません。
悠介さんご夫婦がオーストラリアへ旅行に行ったときには、海外の友人と一緒に香を聞く体験をしてみたのだとか。
はじめての経験を楽しんでもらえたし、それが話すきっかけにもなって、とてもよい時間になったといいます。
リラックスのため、コミュニケーションをとるためなど、『聞香』することが日々をよりよくすることにもつながっている。
「美術館に行ったときに道具の使い方がわかったり、お庭や和室を見たときには配置がよく考えられていることに気づけたり。日本で普通に生きていくことが、もっと楽しくなるんですよ」
日本の文化や芸術に興味がある人だと、さらに楽しい職場になりそうです。
香雅堂では、もっと香の文化を身近に感じてもらえるようにはじめての方に向けた香体験イベントを行っています。
今はまだ香の知識や経験がなくても、少しでも興味を持ったら、ぜひ一度体験してみてほしいです。
「香りが好きな方ならこれ以上ない職場ですし、毎日いい香りの中にいると、本当にストレスないですよ。ゴミ袋までいい香りなので、お掃除も楽しいんです」
最後にお話を聞いたのは、働きはじめて5年目の酒井さん。香雅堂での仕事を楽しんでいることが話の端々から伝わってくる方です。
お店での接客から商品の受注・発送、経理と言った裏方の業務まで、いろんな役割を担っています。
「以前は外資系銀行の事務の仕事をしていたので、販売の経験は全然なくて。全てが新鮮で、手探りでしたね」
「最初は難しいこともありましたけど、困っていると悠介さんが助け舟を出してくださったり、そのやりとりを聞いて学んだりして。自分のなかに引き出しが蓄積できると、だんだんパターンが読めるようになりますよ」
接客に加えて、お寺などのお得意先から注文を受けることや、商品の発送、請求書の発行など、裏方作業も大事な業務。
「いくつかタスクがあるので、それをひとつひとつ形にしていくと、達成感を感じますね。あとは100個、1000個と商品を包装することも日常茶飯事。そういうときは無我の境地に入って手を動かせるので、その時間もまた楽しいかな」
実は香雅堂、残業を全くしない職場だといいます。
そのぶん、限られた時間のなかでよりよい仕事をするために、日頃からたくさんの工夫を重ねている。
今回募集する人は、まずは酒井さんがやっている業務を少しずつ覚えることからはじまります。そして、ゆくゆくは悠介さんの営業をサポートしたり、商品や教室の企画をしたり、その人の力を活かした仕事をしてもらえたら。
「細く長くつづけたい」と言っていた悠介さん。だからこそ、仕事もゆるやかに変化していくように感じました。
伝統を重んじつつも、自分たちが感じた香の良いところを新しくかたちにして、より多くの人へ届けていく。
そんな香りと仕事の道を、ともに歩む方をお待ちしています。
(2017/10/18 黒澤奏恵)