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「ここに来る人は一回溺れるような状態になると思うんです。息を吸おうと必死にもがいて、手を出したところにちゃんと引き上げてくれる人がいる。そんな関係性があるから、乗り越えたあとで息をしやすくなるんじゃないかな」新潟県三条市で「しただ塾」という取り組みがはじまっています。
座学や経営者講話、地域でのフィールドワークや企業実習など。さまざまなカリキュラムを通じて“地域で暮らし、働くこと”を体感する、4ヶ月の滞在型職業訓練プログラムです。
4ヶ月を経た塾生は、そのまま地域に残る人もいれば、地元に戻って新たな一歩を踏み出す人も。どうやら、地域への定着だけを目的としたプログラムではないようです。
しただ塾を運営するNPO法人ソーシャルファームさんじょう代表の柴山さんは、こう話します。
「しただ塾は、一人の労働者を育てるわけではないんですよ。参加してもらうことで、遠くにある光に向き合えるような人になってもらえればいいと考えているんです」
今回募集するのは、そんなしただ塾の二期生。
モヤモヤした気持ちを抱えながらも、現状を変えたいと思っている人。直感的に面白そうだから飛び込んでみたい人。
ぜひ続けて読んでほしいです。
新潟県三条市。
燕三条駅から車で30分ほどいくと、今は廃校となった旧荒沢小学校が見えてくる。
不思議なほどきれいな校舎に、青々としたグラウンドの芝生。
ここは、農業を核とした人財育成と場づくり事業を推進するNPO法人ソーシャルファームさんじょうの活動拠点になっている。現在地域おこし協力隊が常駐し、サッカー教室や整体施術、家庭科室での食イベント、学校を飛び出して棚田の再生プロジェクトに取り組んだりと、多様な活動を展開している。
今回募集するしただ塾二期生も、ここで4ヶ月を過ごすことになる。
テーマは「アウトドアと観光」。
もちろん、さまざまな体験を経て専門知識や技術を身につけることも大切なのだけど、柴山さんの「遠くにある光に向き合えるような人」という言葉は、もう少し先を見据えて言っているような気がする。
「最初にまず、さらけ出すというか。今の自分を知って、『わたし、全然何もできないや』というところから積み上げていくような4ヶ月になると思います」
そう振り返るのは、昨年10月にしただ塾一期生として参加した佐藤さん。
塾を卒業した現在は、地域おこし協力隊としてソーシャルファームさんじょうが目指す人づくりや、人と人を結ぶ活動に取り組んでいる。
横浜市出身で、ずっと地元のまちに住んでいたという佐藤さん。
なぜ、しただ塾へ?
「地元は好きだったんですけど、いつも見慣れた景色ばかり見ていると、何か違うなと思ってしまって。たまたま日本仕事百貨で募集を見つけて、応募したんです」
「たぶん変化を求めていたんだと思います。この下田地域はまったく知らない土地で、知り合いもいませんでした。そこでわたしはどんなふうに反応して、どう変わっていくのかな?それを楽しむような感覚で来ましたね」
一期生ということもあって、ほかの塾生も何かを明確にやりたいというより、模索しながらきっかけを求めてやってきた人が多かったそう。
「都会だと、ほとんどのことは誰かがすでにやっているから、どうしても埋もれてしまう。でもここならば、自分がコツコツやってきたことを誰かが見てくれていて、絶対に実を結ぶって思えるんです」
たとえば、前職で取得したアロマ検定の資格をきっかけに、山の香りを使った商品開発に携わることになったり。
整体を仕事にしている協力隊の方とコラボして、空間をアロマで演出したり。
今までやってきたことと、下田の自然環境や人との出会いが不思議とつながっていったという。
「自分の強みに気づけたことで、自信も少しずつついていきました」
授業の一環で、みひろ窯という工房を訪ねたときのこと。
工房を営む尾崎さんご夫婦の人柄とその場所の雰囲気に惚れ込んだ佐藤さんは、後日一人で再訪することに。
下田のこと、陶芸のこと。二人と話していると、いろいろ知りたいことが出てきた。
「その会話のなかで、『学校にある窯を使って何か企画できないかな』という話が出て。尾崎さんご夫婦を招いた陶芸教室を、学校の図工室でやることにしました」
もちろん仲間たちの協力はあったけれど、何も経験のないところから自力で企画を形にできたことが印象に残っているそうだ。
日々の仕事に追われていると、トライ&エラーできる機会が減る。気軽に挑戦できないから、失敗が怖くなって、より動けなくなる。
もしもそんなモヤモヤを抱えている人がいたら、しただ塾は小さな挑戦を重ねられるいい環境だと思う。
佐藤さんと同じくしただ塾一期生の須藤さんも、ここで小さなトライ&エラーを繰り返している。
「下田の人たちは、農作物を加工して売るのが苦手なんだなと感じていて。少しでもお役に立てればと思い、今は米粉でパンづくりに挑戦しています」
とはいえ、パンづくりは容易ではない。まだまだ試行錯誤の段階だが、焼けても固くておいしくないらしい。
それでも挑戦するのには、理由がある。
「地域の人たちとの飲み会で、何気なく言われた『外からお金を持ってくる仕組みがないんだよね』という言葉が、わたしはどうも引っかかっていて」
「たしかにいいものはつくっているんですよ。下田の農作物はおいしいけれど、知名度がない。その状況をどうにかしたいんですよね」
須藤さんの言葉からは、地域のために何かしたいという気持ちが滲み出る。
ただ、もともとの動機は自分探しだったそう。
「新卒でIT開発の仕事を1年半ほどしていました。自分に仕事がなくても、お給料は入ってくるような状況が続いて。一生懸命働いてる人からすればこれほど楽なことはないですけど、新卒で希望に満ちあふれて入ったのに、仕事がないという状況が嫌になっちゃって」
帰り道は日本仕事百貨をいつも読んでいた須藤さん。
しただ塾一期生の募集記事を目にしたとき、「君はまだそこにいるの?」という言葉にハッとした。
「4ヶ月だし、嫌になったら戻ればいいやと思って。次の日に会社を辞めてすぐ、説明会に参加しました。頭より足から先に出るタイプなんです」
いざ地域に飛び込んでみると、最初こそ距離を置いていた地域の人たちが、だんだん信頼して声をかけてくれるように。
今では「ご飯食べにこないか?」と当たり前のように連絡が来るという。
「わたし、しただ塾でひとつ見つけたことがあって」
「人が好きだなって。コンクリートジャングルで忘れてたことを思い出させてくれたような気がします。だからこそ、お世話になった地域の人たちや、一緒にやってきた仲間に恩を返すつもりで、今もここに残っているんだと思います」
佐藤さんや須藤さんのように、下田に残る選択をした人がいる一方で、ここでの学びを地元に還元しようと考えた人もいる。
同じく一期生の山本さんは、地元である神奈川県川崎市に戻って新たな挑戦をしようと決断した方。
この日はみなさんとも約2ヶ月ぶりの再会なのだそう。
「懐かしさとうれしい気持ちでいっぱいです。この曇り空も、やっぱり新潟に来たなって感じでいいですね(笑)」
建設業の会社で大工見習いをしていた山本さん。
当時の社長の奥さんが三条市の出身で、しただ塾を紹介してくれたそう。
「しただ塾では、とにかく多くの人に会いました。地方の後継者不足や生活面の生々しい話も、当事者の方から直接聞けたのがよかったです」
それまでニュース上の話だったことが、身近に感じられるようになったという。
しただ塾生と地域おこし協力隊が協働して取り組んだ山村プロジェクトでは、下田の農作物をPRするパンフレット「しただね」を作成。
地元の商店や農家さんにアポイントをとり、取材して記事を書いた。
自分自身が変わるきっかけを求めて参加したしただ塾で、みなさんは縁もゆかりもなかった下田地域を学び、いつのまにか地域のために活動しているように見える。
その意識の変化って、なぜ起きると思いますか。
「やっぱりそれは、地域の現状を目の当たりにしたり、いろいろな方から話を聞くなかで出てきた感覚だと思います。地域のため、社会のためっていう視点は、しただ塾に参加しなければ持てていなかったかもしれません」
どちらかというと、以前は自分軸が強かった?
「そうですね。もちろん今もあるんですけど、その先というか。最終的に、社会のなかでどういった影響を与えられるか。そこまで念頭に置きながら働きたいなという想いはありますね」
将来は空き家問題を解消したいと話す山本さん。
10年前に取得した宅地建物取引士の資格と建設業の経験から、まずは不動産業界で人脈を広げ、リノベーションの仕事にも携わっていきたいという。
「勇気を持って一歩踏み出せば、必ずどこかで報われる環境だと思いますので。協力隊や地域の方のサポートを信じて、安心して飛び込んでほしいです」
最後に紹介するのは、しただ塾一期生で地域おこし協力隊の濵本さん。
漠然とした移住への興味はあったものの、新潟については知らないことばかりだったそう。
「はじめての募集ということで、何が起きるか分からないし、面白そうだなと思って」
しかも、東京で開催された説明会の日がちょうど30歳の誕生日。何かの縁を感じて参加を決めた。
「ぼく、コピーライターを目指しているんです。しただ塾には『さがしものが見つかる塾』というキャッチコピーをつけてみたんですけど、全然誰も覚えてくれなくて(笑)」
「でも、しただ塾を通じてそれぞれの人が自分の道を見つけたことが一番の成果なのかなって、本当に思っているんです」
なるほど。ここまでのみなさんの話を聞くと、腑に落ちる感じがします。
ちなみに、濵本さん自身が見つけたものってなんだったんですか?
「ここに来て、全然興味のなかった地元について調べてみたら、意外と面白いかもっていう気づきがあって。埼玉県の川口市なんですけど」
「協力隊の期間はあと3年で終わってしまうので、それまでに何かしらの形で、下田と地元をうまくつなげた仕事ができたらいいなと思いますね」
ひとつの山を乗り越えたようで、実はまだまだ途上にいる。
話してくれた4名の一期生は、そんな姿を隠すことなく見せてくれたような気がします。
もしも迷っているなら、一度旧荒沢小学校を訪ねてみてください。
きっといい表情をした一期生たちが迎えてくれると思います。
(2017/10/7 中川晃輔)