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地方への移住を考えたとき、多くの人にとってネックになるのが仕事のことだと思う。たとえカフェやゲストハウスなどの夢があったとしても、具体的にどう打ち出したらいいのか、きちんと生活の糧を得られるのか、様々なことが頭をよぎると思います。
そんなふうに一歩踏み出せずにいる人にこそ来てほしい、と話してくれたのは長野県塩尻市の方々です。
長野県中部、松本市の南隣に位置する塩尻市。
とっても美味しいブドウとワインの産地として有名で、最近では元ナンパ師の塩尻市職員・山田さんを通じて塩尻のことを知っている人がいるかもしれません。
そんな塩尻市の中でも、日本最長の宿場町『奈良井宿』や漆工町『木曽平沢』のある楢川地区で地域おこし協力隊として活動する人を募集します。
具体的な活動内容は、空き家の情報を集めて発信をしたり、物件と借りたい人をマッチングしたり。そのほかにも、地域を盛り上げるためのイベントや空き家の利活用を、外部から協力してくれるプロのアドバイザーと一緒に企画・実行します。
週の19時間はそうして働き、ほかの時間は3年後の独立のために自分の時間として使うことができます。
木曽平沢でDIY可能な古民家を借りることもできるので、プロと一緒に働いて得た経験やノウハウをそのまま自分の生業づくりに活かせるかもしれません。
経験はないけど地域資源を活かしたコミュニティづくりや空間運営を地方ではじめたい、と思っている人にとってはいい機会だと思います。
新宿駅から特急列車に乗って約2時間半。
乗り換えが必要ないので、塩尻は思っていたよりも近くに感じる。
今回の舞台となる楢川地区は、塩尻駅前から車で約30分のところにある。
古くは江戸時代、江戸と京都を結ぶ街道『中山道』が通っていた楢川地区。
中山道のおかげで奈良井宿が大きく成長し、「奈良井千軒」といわれるほど酒屋や旅籠が軒を連ねていたのだとか。
その町並みは代々地元の人たちによって守られ、今もなお約1kmにわたって江戸時代や明治時代の建築物が立ち並ぶ景色を眺めることができる。
川下の木曽平沢にも漆器をつくる職人の工房がひしめき合い、奈良井とともに重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)に選定されている。
「奈良井では重伝建になる前から『売らない・貸さない・壊さない』の三原則を地元の人たちがつくって、ずっと守ってきました。これだけ長く古い建物が続いている宿場町は日本全国でもここくらい。毎年50万人くらいの観光客が来ているんですよ」
そう話すのは、塩尻市振興公社の藤森さん。
塩尻市振興公社は市の活性化に向けて様々な取り組みをしている、いわば第三セクター。移住定住や空き家利活用などの促進事業も行っていて、その部門を藤森さんが担当している。
ほかの人から話を聞くと、藤森さんは市内のいろんな地域に精通している方なのだそう。
藤森さん、奈良井の三原則の決まりっていつ頃からあったのでしょう?
「ええと、確か30年以上前ですかね。けど、それって不動産を動かせないということですから、実は困っている大家さんがいっぱいいたんですよ」
「タダでもいいから買ってほしいとか、もう限界なんだとか。調査のために大家さんたちへアンケートを配ると、そういう声がどっと溢れてきたわけです」
歴史ある建物というのは、住まい手や所有者にとってはいいことばかりではないのかもしれない。
現代の家と比べたら機能的にはよくないだろうし、修繕のための費用はかさむ。重伝建の指定をうけているためとり壊すこともできないし、観光客が来ているとはいえ山奥の地域で新しい活用法を見出すのも難しい。
それでも町並みを守るという責任感や、代々受け継いできた建物を壊したくないという思いから、ずっと改修され続けてきたそう。
ただ、それも外観だけで、蓋を開けてみれば屋内が雨漏りしていたり、柱が大きく曲がっているような物件がいくつも見つかった。
「地元の人たちもびっくりだったみたいです。こんなに中が壊れていたんだって」
「けど、そうなっちゃうのも当然というか。大家さんの多くは中心市街地とか都会に移り住んでいますから。なかには親戚が物件を所有していたってことで、奈良井に来たことすらないっていう大家さんもいるんです」
それは奈良井のお隣、木曽平沢もまったく同じような状態だった。
そこで藤森さんたちは大家さんと掛け合い、空き家物件を整理。情報を公開すると、県内外から問い合わせがやってくるようになった。
「そのとき、物件のいい伝え方を教えてくれたのが彼女なんですよ。古い物件でもいいところがいっぱいあるんだってね」
藤森さんのいう“彼女”とは、今井さんのこと。
昨年に塩尻市の地域おこし協力隊に着任し、空き家コーディネーターとして藤森さんと一緒に活動している。
「私が担当している北小野地区では、築何十年も経った物件がよく出てくるんです。地元の人とか不動産屋さんは、家が古いならもう取り壊して更地にするしかないって話にすぐなるんですけど、私は、いやまだ使えません?って」
「古いのも趣があっていいと思いますし、細工の綺麗な建て具とか、周りの風景とか、そういうのも含めた良さがあると思う。良いところも悪いところも全部お伝えすると、ちゃんと分かってくれる人からお問い合わせをいただけたりするんです」
今井さんはもともと北九州市の出身。塩尻へやって来る前は、東京の外資系法律事務所で働いていた。
自給自足の暮らしに憧れ自然農塾に通うようになってから、縁が繋がって塩尻で暮らすように。それで協力隊でも働くことになったのだけど、最初から空き家対策に強い関心を持っていたわけではなかったという。
「やることはけっこう地道な作業なんですよ。けど、不動産を見る目がついてきて、新たに見えるようになったものが面白いというか。家の歴史を聞けたり、どの物件にもそれぞれに物語があるのがすごく楽しいです」
空き家コーディネーターは空き家の情報を集めるために、日々やってくる大家さんの問い合わせに対応していく。
それはまるで不動産業者のようだけれど、右から左へ流すようなことは決してしないという。
「そもそもどうしたらいいのか分からないから、とりあえず相談に乗ってほしいという大家さんが多いです。それで、まずはお話を聞くんですけど、子どもの頃そこで育ったとか、ご両親が住んでいたとか、どれも思い入れのある家ばかりで」
「それに空き家っていろんな事情があっての今ですから。大家さんの心の整理がついていないままにどんどん話を進めていっちゃうと、後々問題になってしまうんです」
物件を動かす準備が整えば、情報を公開し、市内外の希望者からの問い合わせに対応したり、内見案内したりする。
奈良井では見学ツアーを行い、5軒のうち2軒が決まった。つい最近もゲストハウスをやりたいという人から連絡が来ているそうだ。
そんな話を聞いていると、塩尻市の空き家対策はとても順調に思える。
けど、振興公社の藤森さんがいうには、「これ以上の知恵が出ないから問題」なのだという。
どういうことだろう?
「奈良井では冬になると完全に閉めちゃうお店が多くて、ほとんど人が通らなくなります。だから観光客がたくさん来るといっても、単にゲストハウスや飲食店をやるには難しいかもしれない」
「我々は物件を掘り起こして希望者へつなぐことはできるけど、どうやったらうまく飲食店ができるのか、というところまではアドバイスできないんですね」
また木曽平沢は奈良井とは違って観光地化していないため、たとえ十分な量の物件情報を公開したとしても難しいことが容易に想像できる。
そのため、そもそも木曽平沢の物件はどんなふうに活用できるのか、マッチング以前の根本的なところから設計・提案していかなければならない。
「楢川地区は塩尻の中でも特殊な地域です。そのなかでどんな仕掛けができるのか、その知恵が我々にはなくて。これからはコトラボの岡部さんにアドバイザーとして入っていただくので、これから来ていただく方は楢川地区の担当者として、岡部さんと一緒にいろんなアイディアを出してほしいと思っています」
今度は、アドバイザーの岡部さんにも話を伺ってみた。
この日は飛行機で移動していたとのことで、空港からインターネットを繋いでもらうことに。
岡部さんは神奈川県横浜市を拠点とするコトラボ合同会社の代表。
日雇い労働者の町として知られる横浜市寿町で、簡易宿泊施設の空き部屋で困っているオーナーさんと連携してバックパッカーが集まるホステルをつくったり、住民の生活環境を改善するようなシェアカフェを開いたり。
単にモノをつくるだけでない“コトづくり”という視点から、地域で埋もれている資源を発掘し活用するまちづくりを、全国の様々な地域で行っている。
そんな岡部さんが塩尻市のアドバイザーになったのは、つい最近のこと。
「だから、まだ僕は楢川地区へ一度しかお伺いできていないんですけどね。ただ、そのとき海外の観光客が漆器を買いに来ていたんです。ちゃんとアプローチすれば本物を知っている人や海外の人にも届く可能性が十二分にあるんじゃないかなって感じています」
それでも楢川地区には難しい問題はあるけれど、岡部さんがいうには、地域で何かをはじめるのに大事なのは、予算やお金の話ではないのだという。それよりも、地元の方々や周りの人たちが協力してくれる体制をいかに現場で構築できるか。
そういう意味では、今回募集する人は重要な役割を担うことになるのかもしれない。
「すごく愛嬌があったり、人たらしの人に来てくれるといいなって。それに、やっぱりこういう仕事って本人が楽しくなかったらできない気がするので、地域をどうにかしなきゃ!ってカタくなるよりは、楽しんでもらえるといいかなって思いますね」
それと、今回募集する人は木曽平沢地区の空き家を借りることができる。
大家さんによって綺麗にリノベーションされていて、一部まだ何もできていないスペースがある。そのスペースは自由にできるから、たとえば空間を使って何かをはじめたいという人にはもってこいの場所だと思う。
協力隊としての活動時間は基本的に週に19時間なので、それ以外の時間を3年後の独立に向けて使うことができる。
どんな生業をつくることができるのか。それは岡部さんと一緒に働くことで見えてくることもあるだろうし、ここで培った経験が活きてくることもあると思う。
途中、迷うようなことがあれば、きっと岡部さんは相談にも乗ってくれると思う。
「もちろんです。スキルとかは後付けでどうにかなると思うので。チャレンジしたいとか、自分もこんなことがしたいとか。そういう気持ちのある人だと、もっといいかもしれないですね」
振興公社の藤森さんは、「何がいいのか、やってみないと分からない」と話していた。だから「遠慮なくチャレンジしてほしい」と。
たしかに、いきなり結果を出してくれと言われても、なかなか難しいものです。
けど、ここなら100回バットを振って1回当たるような。そんなふうに挑戦できる環境があると思う。
0から1を生み出したように見える仕事や取り組みも、実はそんなトライ&エラーの繰り返しから生まれているのかもしれません。
(2017/11/8 森田曜光)