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隣人であるために

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

お店の扉を開けると、スタッフが商品を手に取りながらお客さまと話している。隣で聞いていると、どうやらあの洋服をつくったのはネパールのお母さんで、スタッフとも顔見知りみたい。

奥では、お客さまが互いに洋服を合わせて楽しんでいる。聞くと、スタッフの紹介で知り合ったという。

日々、そんな風景が生まれるお店。それがシサム工房です。

シサム工房は、フェアトレード事業を中心にショップ運営から卸事業、ノベルティ事業、商品企画・開発をおこなっている会社。直営店では、インドやネパールなどの国々でつくられた服や雑貨などをフェアトレードで扱っています。

今回は、そんな直営店の販売スタッフと被服デザイナーを募集します。

仕事を通して、目の前の人とも、出会ったことのない地球の裏側に住む人とも、いい関係を紡いでいく。

そんな働き方が、ここにはあると思います。

訪れたのは、京都裏寺通り店。

多くの人でにぎわう河原町駅を降り一本裏道に入ると、静かな通りに出る。古くからのお寺や商店が立ち並ぶ道を進むと、お店が見えてきた。

早速中に入ると、広い店内にはアンティークの机やランプが置かれ、落ち着いた色合いの洋服が一つひとつ丁寧に並べられている。

小さく音楽もかかり、気持ちのいい空間。

店内を眺めていると「こんにちは」という声が。振り返ると、代表の水野さんが笑顔で立っていた。

優しい眼差しと語り口で、心をほぐしてくれるような人だ。

そんな水野さんの転機は、大学時代にさかのぼる。

アパルトヘイトや人権問題を知ったことをきっかけに、途上国や貧困について考えるように。自分の目で世界を見ようとバックパッカーとして訪れたアジアやアフリカの国々で、想像とは異なる世界を目にする。

「それまでの僕は、彼らに対してどこか弱い立場の人、守らないといけない人という意識があったんです。けれど、旅をするなかで、それは違うのかもしれないと思うようになって」

「荒んだスラムでも子供たちは転げ回って笑うし、音楽に熱中する若者がいる。日常の暮らしがあったんです。そんな風景を目にしたとき、彼らをかわいそうな存在としてではなく、対等な人間としてつながりを感じながら生きていきたいと強く思いました」

大学卒業後は、エスニック雑貨店のバイヤーとしてアジア各国を飛び回った水野さん。

そのなかで、自分の店を日本に持ち、そこを基点にアジアやアフリカの人々とのつながりを築いていくことを考えるようになる。

そうして18年前に設立したのがシサム工房だ。

シサムとは、『隣人』という意味を持つアイヌ語。場所や距離に関係なく、世界中の人たちと付き合いっていくという思いを込めた。

当初は家具やフェアトレードのインテリアを取り扱っていたものの、次第に生産から販売まで、より多くの人が関われる服へとシフト。そのほとんどが、自社デザインのオリジナル商品だ。

シサム工房の服づくりは、まず生産者を訪ねることからはじまる。作業の様子から普段の生活までを間近で見聞きするためだ。

「どういう人たちがどういった機材を使い、どのような工程で仕事をしているのか。素材や技術はもちろん、どういう考えで働いているのかも聞きます。そうして少しずつ、人や文化を知っていくんです」

フェアトレードは、商品が売れることで成立する事業。文化や歴史を尊重しながらも、日本のマーケットでも認められる質の商品を効率的に生産することが求められる。

デザイン面でも、過度に技巧を凝らしてしまっては生産者が限られてしまう。極力シンプルに、生産者にとって馴染み深い伝統的な服に似せるなどの工夫を重ねて仕上げていく。

「商品として世に出す以上、『ちょっとしたほつれも味です』とは言えないし、『向こうの文化はこうだから仕方ないよね』と思考停止してしまってはいけません。ときには効率化のための助言もするし、改善案も提案します」

そのためには、信頼関係が欠かせない。シサム工房では提携する生産者たちは簡単には変えず、できるだけ長く深い付き合い方をするのだとか。

そうしてつくられた服は、全国の卸先、そして直営店へと届けられる。

オンラインでも買い物を済ませられる昨今、シサム工房が直営店を大切にするのには理由がある。

「ただ売るのではなくて、商品が手元に届くまでのストーリーも伝えたいんです。そのために必要なのは、やはりお客さまとの信頼関係だと思う」

「お客さま一人ひとりに合った形で、商品と一緒にストーリーも届ける。決して押し付けずに伝えることは、人だからこそできることだと思うんです」

直営店ではどんな人たちが働いているのだろう。まず紹介してもらったのは、店長の鷲野さん。

「今日をずっと楽しみにしていたんです。何を話したらシサムのことが伝わるかなって考えていて」

よく通る明るい声で、快活に話す姿が印象的だ。

服と人が好きという理由から、新卒で選んだのはアパレルの販売職。自他ともに認める天職で、入社2ヶ月でトップ販売員にもなった。

ところが、次第に仕事に罪悪感を感じるようになったという。

「偶然テレビで見た途上国のゴミ山の映像が頭から離れなくて。なんて不平等なんだろうってショックを受けたんです。世界には劣悪な環境で暮らす人がいる一方で、私は日本で娯楽品を売っている。もしかすると、私もそんな社会に加担しているのかもしれないって」

商品にも販売する自分にも自信が持てなくなり、悩み抜いた末に退職。フェアトレードとシサム工房を知ったのは、そんなときだった。

「シサムのお店でストラップを眺めていたら、スタッフが『一つひとつ柄が違うんです』とキラキラした目で教えてくれて。店内を見渡すと、商品は一生着られるほど質が高くて、しかもフェアトレード。必ずスタッフとしてここに帰ってくるんだって決めました」

鷲野さんのお店への思いは、所作の一つひとつから伝わってくる。

服は一枚ずつ丁寧にたたみ、商品の原料や背景をさりげなく添える。鏡も丁寧に拭き上げ、隅々まで掃除する。

店内に流れる爽やかな空気は、スタッフのそんなさりげない行動から生まれているのかもしれない。

さらに、接客にもこだわりがある。それは、最初からフェアトレードであることを説明しないこと。

「私もはじめは『この商品はネパールで、こんな女性たちがつくっていて』と前のめりになって伝えていたんです。けれど、この関係って一方通行だなって思うようになって」

一方通行。

「そう、押しつけてしまっていたのかもしれないって。そこからはスタッフとしてではなく、同じ空間にいる人として、気持ちのいい関係をつくりたいと思うようになりました」

そのため鷲野さんは、世間話などの挨拶から接客をはじめるようにしているのだそう。お客さまが商品を手に取っても、「お似合いですよ」という声かけはしない。ときには購買をせかすようにも聞こえるからだ。

そうしてお店やスタッフの雰囲気を知ってもらってから、少しずつ商品にまつわる情報を伝えていく。

「私たちも現地を訪れたり、商品開発スタッフから聞いたりして、どんな人がつくっているかを知っています。できるだけ顔を思い浮かべながら『以前この村を訪ねたとき、私のスカーフに花の刺繍をしてくれたお母さんたちがつくった服なんですよ』なんて話すんです」

「そのなかでフェアトレードの話が出なければ、レジやお渡しの最後に、商品一つひとつについている背景を書いたタグを見せながら『フェアトレードってご存知ですか』と必ず伝えます。何か意識が変わるきっかけをつくれたら、と思って」

買い物が終わっても、お客さまとの繋がりは続く。特別なイベント時に郵送するDMには手書きで、通り一遍な文章にならないよう一人ひとりに合ったメッセージを添える。

こうした取り組みを続けることで、つながりが深まっていくのだと思う。

「目指している関係は、お客さまとスタッフではなくて。お店の中にいても、お互いに名前で呼び合える両想いな関係。それが目標なんです」

そばで話を聞いていた村田さんも、こう話す。

「ここは、お客さまに顔を覚えてもらえるお店なんです。お洋服の好みだけじゃなくてその人自身を知っていける。すごくいいなって思います」

未経験で入社した村田さん。働きはじめた頃は、ギャップに悩むこともあったという。

「それまでは、スタッフはお客さまが分からないことを答えられさえすれば大丈夫だと思っていました。けれど覚えるべき知識が本当に多くて。どこの国や地域でどんな人がつくった服か、こだわりは何か。最初の頃は、指にタコができるほどノートに繰り返し書いて必死に覚えました」

「それに実際に働いてみると、商品に関係ない会話のほうがずっと多くて。打ち解けてもらいたいと思うあまり、焦って空回りしてしまうこともありました。まだまだ勉強中ですね」

近すぎず、遠すぎず。一人ひとりに合った距離感を掴むことが最初の一歩になりそうだ。

ここで村田さんが、印象的だったエピソードを教えてくれた。

「お客さまのなかに、大学教授の方がいらっしゃって。話すうちに私が通っていた大学でも講義をされていたことが分かって、すごく盛り上がったんです」

すると次に来店されたときに、フェアトレードや仕事についての講義を依頼されたのだという。

「話を聞いて、本当に驚いて。私より代表の水野さんのほうがずっと適任だからと遠慮したら、『私はあなたに話してほしい』と言ってもらって。私でいいのかなとは思ったけれど、その言葉がすごくありがたくてお受けしました」

さらに最近では、お店をきっかけにしてお客さま同士も親しくなり、「このニット、とても似合うね」「どっちの色がいいかな」と楽しむ光景もよく目にするという。

スタッフだけでなく、お店にいる全員が緩やかにつながっていく。

こういう時間が生まれるのは、もちろん商品が魅力的というのもあるけれど、スタッフの日々の接客の積み重ねでもあるのかもしれない。

最後に、代表の水野さんから。

「僕は『途上国に暮らす人たちと繋がりたい』という素朴な思いでシサムをつくりました。言ってしまえば、ここで初めてフェアトレードを知ったという方でもいいんです」

「いちばん大切なのは、思いを馳せられること。自分のことだけではなくて、相手にも興味を持って関わりをつくれること。僕たちは、そんな方と一緒に働きたいと思います」

シサムで働くことは、目の前の人や、地球の裏側に暮らす人の隣人となることだと思います。

(2017/11/22 遠藤真利奈)

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