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雑誌を問う

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忙しい日々を送っていると、つい目の前のことで一杯一杯になりがち。

ときには立ち止まって自分の仕事を問い直す時間も大切だと思います。

株式会社ミディアムは雑誌として、そして出版社として何ができるかを常に問い続けてきました。

今は“販売”について考えています。

自分たちの価値観をきちんと伝えたり、文化や出版業界の発展に寄与するために、雑誌を直接届ける“販売”にはどんなやり方があるのか。日々問い続け、型にはまらない形で実行していく人を求めています。

今回は雑誌の新しい販売のあり方を考える人を募集します。合わせて雑誌の編集者も募集するので、気になる人は続けて読んでください。


東京・西麻布。

表参道駅から根津美術館方面へ10分ほど歩くと、住宅街の中にミディアムのオフィスが見えてくる。

ミディアムは『Ollie』『PERK』『GRIND』といったストリートのファッションや文化を伝える雑誌を数多く出版している会社。
3年前からは、それまでとは雰囲気の異なる雑誌『nice things.』を刊行し、取材先のアーティストや作家を招いたイベントを催したり、今年からは大阪・北浜で『TOMODACHI ノ IE』という空間の運営をはじめるなど、出版社の域を超えて多様な取り組みをしている。
今、ミディムは自社の雑誌を自らの手で販売しようとしている。

出版社でつくられた雑誌や書籍は、取次会社を介して、全国の本屋に配本されていくのが一般的だ。つまり取次会社は、卸会社のような役割。

そんな中で、どうして出版社が直接販売しようと考えたのだろう。

はじめに代表の谷合(たにあい)さんに聞いてみると、話はミディアムが創業したころにさかのぼった。

谷合さんは今から30年前、東京の小さな出版社を経て、25歳という若さで独立。

五島列島の出身ということから、当時は“海を越える”つながりで海外取材の雑誌をつくっていた。

「日本人がこぞって海外旅行へ行くようになった時代でした。すでに観光名所やその国の文化風習を紹介するガイドブック的な雑誌はあったのですが、私がやろうとしたのはテーマを持ってその国のことを深堀していくことでした」

たとえばアメリカでは『音楽の旅』をテーマに、アメリカ音楽のルーツでもあるジャズ発祥の地ニューオリンズからスタートし、ミシシッピ川を北上しながらプレスリーのメンフィス、ブルースのシカゴ、最後はニューヨークと、自身も旅するように取材した。

そんなある日、別件でアメリカの西海岸を訪れ、たまたま地元学校の学園祭を見に行くことがあった。

その風景は日本とあまり変わらないものの、スケードボードのランページがあったことが、谷合さんの心に強く残ったという。

「学園祭ですから、学生がそれぞれに好きなことを好きにやっているわけですけれども、そこにスケードボードというものが加わったときに、これって何かなって。帰国してからも、あれは一体何だったのか、ということが自分の中にずっとあったんです」

明日への期待、大人への反発心、素直な自己主張…

誰もが若いときに持つ力強いエネルギーを、アメリカで出会ったストリートカルチャーは表していた。

ちょうど、谷合さんは若い世代に向けて雑誌をつくりたいと考えていたころだった。

「日本人が流行の影響を強く受けていた時代でもありました。でも、大人の考えを押し付けられるのではなく、たとえ大人の一般常識から外れても、自分たちがやりたいことをやって、なおかつ自己主張していく。その生き方みたいなものを日本の若い世代に発信していけたら、いいかなと思ったんです」

そうして誕生したOllieは単にストリートのファッションや音楽などの情報を載せるだけではない。
有名人や大手ブランドではなく、若きスケーター集団や業界の先駆けとなったお店に取材し、“人”にフォーカスを当て、そのスタイルや生き方、カルチャーを読者に近い感覚で伝えている。

当時こうした視点で取り上げる雑誌は少なく、後からOllieを真似た雑誌がつくられたそう。そのほとんどが次第に休刊となった一方で、Ollieは今でも続いている。
「雑誌は基本的に広告収入と販売収入で成り立ちます。そのため多くの雑誌はいかに広告を取るか、数を売るかということに向かい、流行りに沿った企画や編集がされます。けれども、そういったものはトレンドが去った瞬間に読まれなくなってしまいます」

だからミディアムは、自分たちがなぜ雑誌をつくるのか、というところから考える。

雑誌をつくることでどうなるのか。雑誌の存在意義とは。

「我々は、雑誌は社会に対して良い影響をつくっていかなければならないと考えています。Ollieであれば、ストリート業界が落ち込んでいるときに、どんな役割を担うことで元気を取り戻せるのか。そう考え続けてきたからこそ、Ollieは継続してこれたと思っています」
谷合さんいわく、文化とは一過性のムーブメントではなく、受け継がれていくことではじめて文化となり得る。そして、それはやがて伝統となり、社会の中で役割を果たすものになっていく。

そのためにも、雑誌を継続することには意味があるという。

ただ、時代は刻々と変化していく。インターネットの台頭により情報を得る手段としての雑誌の魅力は大きく低下。マーケットもどんどん縮小していくなか、伝え方は今のままでいいのか、ほかにもやり方があるのではないか、常に考えていく必要がある。

nice things.は、そう問い続けることで生まれた雑誌とも言える。
ものが溢れ、ものを大事にしないことが増えている今の世の中、一方で自分が大切にしたいことに気づきはじめた人たちがいる。

その人たちのつくるものの背景や想いを汲み取り、情報ではなく感覚として伝えることで、読者も大切にしたいことや生きることに考えられるように。

nice things.は、単なる情報ではなくその人の生き方そのものを伝えている。
それはOllieから変わらず続けてきたことでもある。
さらにnice things.では、出版社だからこそできるイベントや空間運営をしていく。
また、今年からは書籍もつくっていく。nice things.の取材で出会った人たちに寄り添いながらつくる本になる予定だ。
いずれも、出版という文化が続いていくために、出版社としてやれることを考えた結果。

これからは雑誌をつくるだけでなく、その販売についても考えていきたい。

「駅前に必ずあった小さな書店はいつのまにかどんどん減って、大型書店に取って代わられています。そうした状況下で出版社が雑誌や本をつくるだけではダメで」

「暇つぶしではなく、書店そのものに魅力を感じて積極的に足を運んでもらうには。5年後や10年後に書店はどうなるのか。そういったところまで見ていかなければ、当然持続可能なものにはなりません。だからこそ自分たちが販売を手がけ、考えることがすごく重要なんです」

谷合さんは、出版や出版業界のことを一緒に考えてくれる人に来てほしいという。そこから出版社として、どんなことをやれるか話し合いたい。

今年からはじめる書籍もnice things.でお付き合いのあるお店さんに置いてもらってもいいかもしれないし、従来型の書店でなくてもいいのかもしれない。
「そういうこともひっくるめて、枠にとらわれない発想で一緒に考えられるといいですね」


続いて話を伺ったのは、販売部ディレクターの森下さん。

森下さんは主に総務を務めていたが、発売元を自社に変更した2015年から新たに販売部を設立し兼務している。

現在、販売を担当しているのは森下さんただひとり。販売に関してはまったくの素人だったため、最初は苦労したそうだ。

「取次って何?ってくらい知識がなかったので、わからないことを調べることからはじめました。各取次店さんを訪ねて、どうすれば自分たちで販売できるんですかって聞いて周ったりしながら、納品から清算までの一連の流れを教えていただきました」

取次の方に聞いたのですか?

「そうなんです。またこの人…って顔をされたこともありましたよ(笑) でも逆に覚えてもらえることができましたね」

納品から清算までを管理する仕組みもなかったので、エクセルを用いて一から組み立てたという。

「一通りの流れが分かるようになってから、出版業界の状況をよりリアルに感じられるようになったんです。どうすれば数字を上げていけるかを考える。でも、これがなかなか一筋縄ではいかないんです」

森下さんは地道なことの積み重ねが大事だという。

たとえばnice things.では、取材先のものづくりをされている方がつくるプロダクトを本誌のテーマに合わせて併売するフェアを企画。代官山蔦屋書店を皮切りに、営業をしていくことで全国の様々な書店でフェアを展開することができた。本誌をきっかけに新しい発見や、つながりが生まれることが大事だという。
また、書店に限らず本誌の方向性や考え方を共有されているお店に毎号手づくりのPOPをつくっている。デザイン号ごとのテーマでイラストレーターに依頼し、森下さんが印刷した紙を切り貼りして、各店舗へ届けている。

「そのとき、僕らがどんな思いで雑誌をつくっているのかっていうことを手紙にメッセージを添えて一緒に送るんです」

手紙を?

「いろんな書店の方々とお会いして思うのが、何をするにしても、人にかかっているんだなって。気持ちを伝えなきゃなにも伝わらない」

「どんなに聞こえのいい言葉を並べても、僕自身に思いや考えがないと伝わらないんですよ。ただ愛想良くするのではなく、自分がどうしたいのか、何をもってお願いするのかをしっかり伝えないと。うちは売れるための雑誌をつくってる会社ではないですって言うこともあります」

そのやり取りには営業力もトーク力も必要ないという。

たとえ喋るのが苦手でも、これからの出版について日々一生懸命に考えることができれば、自然と言葉は出てきて、それを分かってくれる人が必ずいる。

それは後々、数字にもしっかり表れるという。

「そういう方々と、長いお付き合いをしていきたいですよね。些細なお願いをしても本当に一生懸命に聞いてもらえるし。そういう関係づくりっていうのが、今は必要不可欠だなって思っています」

これから新しい人が入ってくれたら、ミディアムと雑誌の未来についての価値観を共有できるような魅力的なお店への営業や、これからはじまる書籍の販路開拓など、やりたいことはたくさんあるという。

単純に数字を上げるだけでなく、ミディアムでつくる雑誌がどんな影響を業界や社会に与えられるのかを常に考えながら。

やり方に決まった答えはないのかもしれない。

だから森下さんは、「発信していくことが大事」と話していた。

絶えず考え、実行する。それは一方で、とても根気や体力のいることだと思う。

森下さんはどうしてこの仕事を続けるのだろう。

「極端な話かもしれないですけど、売れるための雑誌だけだと世の中から雑誌が本当になくなってしまうかもしれません。誰も雑誌なんて買わなくなってしまう」

「ミディアムの雑誌が各誌それぞれのカルチャーになくてはならない存在であれるように。雑誌の使命、役割を考えながら今後も貫いてやっていかなきゃなって思っています」

(2017/12/22 取材 森田曜光)

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