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こだわりの多い調理道具店

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

良いものには、それを裏付ける理由がある。

そのことに気づかせてくれるお店があります。

業務用のキッチン用品を専門とするファブレスメーカー・東興株式会社が運営する、「Flying Saucer(フライングソーサー)」。

もともと、料理人たちに向けて調理道具や食器を企画・開発してきた東興は、培った経験から良いと思う道具を国内外から取り揃え、また、自分たちが“あったらいいな”と思うオリジナル商品をつくっています。

ここには、一つひとつの仕事にこだわりを持って取り組む人たちがいました。

今回は、フライングソーサーのWEBショップと実店舗を運営する人を募集します。

 

平日の昼さがり。

新江古田駅からフライングソーサー中野本店までの道程は、車の通りも少なく、のんびりとした空気が流れている。

15分ほどすると、クリーム色の建物が見えてきた。

1階が店舗で、2階が倉庫。3階は事務所になっている。

お店に入ると、調理道具や食器がずらりと一列に並ぶ。

「ここにある商品は、実際に自分たちが使ってみて『これが良い!』と思って選んだものです」

そう教えてくれたのは、代表の清水三樹さん。

自然光が差し込む窓辺で、話を伺う。

1961年に創業した東興は、飲食店の料理人たちに向けて、業務用の食器や調理道具を販売してきた。

今から37年前に清水さんが2代目として後を継ぎ、企業のオリジナル食器やノベルティなどの企画・製造も手がけるようになる。

「当時、取引先の新規開拓をしようと売り込みに行っても、すでにOEMで製造しているところばかり。入り込む余地はほとんどなかったです。それでも、コツコツお客さんの要望を承っていきました」

「たとえば」と見せてくれたのは、グラタン皿。

「一般的なグラタン皿って、底の部分には釉薬を塗っていません。でも、そういう状態で飲食店のように、使い終えたら洗浄機に入れて、乾燥させてまたオーブンで焼いて…と、1日に何回も使うとどうなるか。底の部分に染み込んだ水分が膨張して割れてしまうんです」

割れを防ぐために窯で一度焼いた後、底に釉薬を塗ってもう一度焼く“二度焼き”という方法をヒントに、国内メーカーと開発。底の部分は欠けないように厚くしつつ、お皿を重ねやすいように工夫もされている。

ほかにも、鉄器やガラス製品など様々な素材を使って、料理人たちの期待に応えてきた東興。

では、どうして家庭向け調理道具の専門店をつくることになったんだろう。

清水さんに尋ねると、幼少期までさかのぼって話してくれた。

「ひと昔前の日本には、それぞれの家に代々伝わる、生活の知恵のようなものがあったと思うんです」

生活の知恵?

「はい。僕が子どものころは、まだ冷蔵庫が一般家庭に広く普及していない時代で。母は炊いたご飯が余ると、風通しのいい軒下にザルを吊るし、そこにご飯をのせて腐らないようにしていたんですよ。それでも食べられなくなってしまったときは、洗濯糊として使っていた」

今でもそのことを鮮明に覚えているという清水さん。

ものの力を引き出しながら生活に生かすことは、豊かなことだと思う。

30歳になりアメリカを訪れたとき、キッチン用品専門店『ウィリアムズソノマ』に出会う。そこで目にしたのは、世界中から取り揃えられた良質な業務用キッチン用品だった。

「業務用のものって、機能を優先して無駄を削ぎ落としてつくられています。なおかつ値段は良心的で長持ちする。家庭で美味しい料理をつくる脇役として、もってこいの存在なんです」

家庭に合うサイズのものを選んで、きちんと発信すれば、日本にも業務用の調理道具を使いたいと思う人はたくさんいるはずだ。

何より、長持ちする業務用の調理道具は、“ものを大事に使いたい”という清水さんの気持ちにも合うものだった。

「バブル経済が拡大するにつれて“大量生産・大量消費が当たり前”という考え方が蔓延してきて。第二次オイルショックのときには、トイレットペーパーが競うように買い占められて店頭からなくなっちゃった。おかしいなと思いましたもんね。ものが大事にされなくなった」

「それって、本来あるべき姿ではない。道理にかなっていないじゃないですか。日々のなかで、理にかなったものを大事にする。そういう生活をしなきゃいけないと思うんです」

調理道具から、人々の生活のなかで受け継がれてきたことを伝えていきたい。

そんな想いで、清水さんはフライングソーサーを立ち上げる。

それまでの経験を活かしながら、家庭でも使える業務用の調理道具を国内外から選び、販売していった。

「ところが、だんだん売っているうちに、我々が物足りなくなって」

物足りない。

「自分たちが“あったらいいよね”と思うものをつくりたくなったんです」

 

そんな清水さんの言葉を受けて、隣で話を聞いていた奥さまの智寿子さんも会話に加わる。智寿子さんは中野本店の店長で、オリジナル商品の企画も担当している方だ。

最初のオリジナル商品となったクッキングスパチュラについて話してくれた。

スパチュラとは、食材を混ぜたり炒めたりする役目を1本でこなす、ヘラ状の道具。

「当初私たちが取り扱っていたのはフランス製のもので、持ち手とヘラの部分が取り外せるようになっていました。ただ、接続部分がどうしても乾燥しにくく、不衛生でもあるのが難点だったんです」

そこで、持ち手とヘラの部分が一体になったスパチュラをつくろうと考えた智寿子さん。

「既存のものでは、熱したフライパンで炒め物をしたりするのに使うと、ヘラの部分が変形してしまう。もっといろんな場面で使えるスパチュラにしようと話し合って。当時の日本では製造規制があったので、中国で提携工場を見つけてつくることにしました」

一般的な家庭用のスパチュラの多くは耐熱温度が240℃なのに対して、300℃まで耐えられるよう、素材や製造方法にも工夫を凝らす。

さらに、そのこだわりは色にも。

「大人の雰囲気にしたくて。赤は赤でも色味を抑えたもの、黒ならグレーがかっていない真っ黒なものをつくりました」

ほかにも、“IHで使える中華鍋”という発想からつくった深型フライパンなど、今では350点ものオリジナル商品を展開している。

「どうせ使うなら、自分が気に入ったものがいい。これまで培ってきたものづくりの経験を活かして、つくりたいものをつくっちゃおうよ!って」

「これから一緒に働く人も、単純に作業をこなすのではなくて、好奇心を持って取り組める人だとこの仕事を楽しめるんじゃないかなと思います」

今回募集するWEBショップの運営スタッフは、受発注を行ったり、商品ページの作成・更新業務を担っていく。

まずは受発注の業務がメインになるそう。

「WEBか実店舗かの違いだけで、接客販売には変わりありません。メールだと顔が見えないからこそ、細かなところまで、より気を配るようにしています」

たとえば手づくりの商品の場合、お客さんの手元に届くまで数ヶ月時間がかかることも。そのことが、メールの文面を見てすぐにわかるような見え方を意識している。

「それから商品ページをつくるときも、どこに特徴があるのかをお客さまにわかりやすく伝えようと、想像しないといけないかな」

商品ページをつくるときは、メーカーのパンフレットなどを参考にしながら商品の紹介文を書いたり、商品写真を撮ることもあるそう。

「自分たちにとって当たり前のことが、お客さんにとってはまったく知らないことだったりもします。なので、WEBに載せる文章はみんなでチェックしているんです」

はじめは調理道具に関する知識がなくてもいい。むしろ、知らないからこそのメリットがあるという。

たとえば、親子丼をつくるときにどんな鍋を使うか?

「実は、アルミの鍋より銅の鍋でつくったほうが、卵がふんわりとして美味しくできるんです。というのは、銅はアルミよりも熱伝導率が程よく、熱がじんわりと均等に伝わるから」

そうなんですね。知りませんでした。

「長く専門に扱ってきた私たちにとっては当たり前になっていることも、はじめて知る人にとっては『買いたい』と思ってもらえるポイントかもしれない。私たちがすでに見落としていることもあると思います。経験がないからこそ知識を吸収しながら、新しい視点で商品の良さを伝えていってほしいんです」

 

最後に話を伺ったのは、入社4年目の高萩さん。

あまり表に出たくないとのことで写真は載せられないのだけど、ホームページやWEBの更新業務は彼女の担当なので、WEBスタッフとして入る人は高荻さんと一緒に働くことになる。

一つひとつの質問に丁寧に応えてくれる姿勢が印象的だ。

「まずはミスがないように一つひとつ集中して仕事を仕上げていくこと。そのうえで、特に新規の商品ページをつくる場合は、セールスポイントが伝わりやすいように心がけています」

そう言って紹介してくれたのが、『鍛金工房WESTSIDE33』のアルミ製ワインクーラー。

「職人の寺内茂さんがつくったものです。私は大学で少しだけ鍛金を経験したことがあって。鍛金って、金属をハンマーで叩くのにすごく力がいるし、力の入れ具合や角度で槌目(つちめ)が歪んでしまうんですね」

「この商品は100%手づくりで、一つひとつ丹念に槌目を打ってつくられています。それだけつくり手の想いがこもっている、良いものです。そういった魅力が伝わるように、きれいに撮影しようと意識しています」

一つひとつ丁寧な仕事をしていくことは、フライングソーサーでも同じこと。

高萩さんが入社して最初に感じたのは、お店の手入れが行き届いていることだったそう。

「短い時間ですけど、毎朝かならずお店の清掃をするんです。そうやって丁寧にお店を手入れするという感覚が、大切にされているところだなと感じました」

商品を入荷して検品するときも、一つひとつ手で触って、小さな欠けがないか見逃さないように確認していくそう。

「社長と店長はそういうところにはきびしい方です。細かなことと思うかもしれないけれど、そこに気がつく、マメな方がいいのかなと思います」

 

フライングソーサーの皆さんが持つこだわりは、“頑な”ということではなくて、お客さんにも自分たちにとっても良いものとは何かを柔軟に考えていくなかで、生まれているんだと思います。

興味を持った方は、ぜひ一度、お店を訪ねてみてください。

何かピンときたら、そこには理由があると思います。

(2017/01/16 取材 後藤響子)

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