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しなやかで、艶やか。きっと誰もが美しいと感じるであろう、この姿。竹にはまだまだ知られざる可能性があると思います。

竹は古くから日本人の暮らしに寄り添い、時代を越えて愛される素材だと思います。
そんな竹の可能性を追求しながら、時代ごとに合わせた製品をつくっているのが公長齋小菅(こうちょうさいこすが)です。
創業は1898年。今は30代半ばの若い5代目のもと、新たな動きが次々と生まれています。
営業や企画を通じて、竹の新たな可能性を探っていく人を募集します。
京都駅から15分ほど。
趣のある京町家や老舗企業が立ち並ぶ油小路通(あぶらのこうじどおり)の一角にある「竹巧居」という文字が掲げられた公長齋小菅のオフィスにたどり着く。

最初に話を伺ったのが、常務取締役の小菅達之さん。

初代が創業したきっかけを伺うと、なんとトーマス・エジソンの発明だったそう。
「エジソンの白熱電球には京都の八幡の竹が使われていて、日本の竹が世界へ伝わるきっかけになったんですね。創業当時についての記録ははっきりと残っていないのですが、そんな日本の竹の素晴らしさをもっと広めたいという想いから、初代は事業をはじめたと聞いています」
ただ、それからずっとつくっていたのは、茶道具をはじめ、籠や笊(ざる)といった日用品など、他所もつくっているような製品ばかり。新しい価値を生んでいるとは言えなかった。
「そこで、現社長の4代目の小菅八郎は竹工芸の創意工夫を試みようと、自らデザインをし、全国の腕の良い作家さんともコラボレーションをはじめたんです」

竹を切り出してつくる箸などの製品とは違い、竹を編んでつくる籠には竹工芸の醍醐味が詰まっている。
一方で花籠の世界は、室町時代や江戸時代などに考案されたデザインが大きな変化もなくずっと使われている状態で、あまり目新しいものがなかったそう。
そこで小菅八郎さんは“古典と現代の融合”という考えのもと、竹工芸のモダンな表現として「黒」を思いつく。
竹を黒く染める方法を研究し、もともとあった花籠の形をベースに現代のライフスタイルに合う繊細でモダンな花籠をつくり出した。

考案したのは50年も前だというけれど、古さを感じさせない。海外展示会などでの反応も良好で、日本を訪れる海外のお客さんが購入したり、イタリアを代表する高級家具ブランドで扱われたこともあるそう。
この花籠は、公長齋小菅の創作理念を表す商品として、売れるかどうかに関係なく、将来もずっとつくり続けていくのだという。
「このころから続く商品はほかにもあって、『みやこ箸』はうちのロングセラー商品です」

試しに使わせてもらうと、先が細くとても軽いため、木の箸よりもずっと使いやすく感じる。そういえば「箸」の字には竹冠が付いているから、もともと竹のほうが馴染みやすいのかもしれない。
「うちは基本的に設備を持たない、いわゆるファブレスメーカーです。全国にいる職人さんたちとのコラボで、花籠や箸、籠バッグなどの商品をつくってきました。だけど、この10年くらいで状況がガラッと変わっちゃって。職人さんは本当に少なくなりました」
少なくなった?
「安価な輸入品などに押されて日本の竹産業は縮小し続けていて、どの工房も縮小を余儀なくされました。とくに高度な手仕事が求められ、高価格になりがちな編組品(編んでつくるもの)を手がける工房は仕事がどんどん減って、食べていくためにも弟子をとれなくなってしまったところも沢山あります」
「仕事も弟子との分業で反復生産をするようなものから、自らが全行程を手がける単価の高い一点物の作品づくりにシフトしていったんですね」
仕方のないことだけれど、このままでは後進が育たず、技術も潰えてしまう。業界全体を脅かす深刻な問題だ。
そこで公長齋小菅は大分・別府の工房と提携し、今や同社の製造部門として運営。竹籠を分業で反復生産できる体制を構築した。
ゆくゆくは完全なグループ化を目指し、若い職人が安心して働けるような職場環境も整えていきたいという。
「今は竹を切る人も全国的に減っているんです。最近は当工房の職人さんたちが竹林の管理をはじめて、将来は材料から一貫生産をやりたいなと。それが軌道に乗ったら、よその竹屋さんにも販売できたらと考えています」

公長齋小菅の後継者には「竹の仕事の価値を高める」という言葉が大切に語り継がれている。
5代目の達之さんもその言葉通りに、今までにない竹製品を打ち出し、新たな竹の可能性を切り開いてきた。
そのひとつが「minotake」というシリーズ商品。家具デザイナーの小泉誠さんとコラボしてつくったものだ。

たしかに写真の商品を見ると、スプーンというよりは「何かをすくうもの」と表現したほうが正しいかもしれない。
「そうなんです。解釈は人それぞれでよくて、スプーンやしゃもじと言ってしまわずに、自分の生活に合わせて自由に使ってくれたらいいなって。新感覚のテーブルウェアですね」
実は達之さん、minotakeを企画したときに社内からは反対を受けたのだそう。
「代々、商品の企画からデザインまで自ら行っていたため、強い抵抗感があったのかもしれません」
けど、結果的にminotakeは大きな反響を呼び、竹の新たな加工方法を見出すこともできた。
次に達之さんが考えたのは、竹を編んだもの、つまり編組(へんそ)を素材として扱えないかということだった。
「たとえば花籠は高いものだと一つ10万円以上するものも多いんですが、ほとんどが人件費なんですね。外国製の安いものにどんどん追いやられてるけど、編組品こそ竹工芸ならではと言えるものだから、なくすわけにはいかない」
「編組の技術をどう変換して現代の需要に合わせていくかを考えたときに、籠の編組自体を素材として考えたらどうかなって。手間暇かけた最高の素材だっていう自負があるので、組み合わせるなら最高の革だろうと。それでイタリアへ行ったんですよ」
イタリアの革職人たちははじめて見る緻密で艶やかな竹工芸に驚き、ノリノリで話に乗ってくれたという。
そうして完成したのが、竹工芸と革のシリーズ商品。不思議な組み合わせに、思わず触れてみたくなる。

商品開発以外にも、達之さんは竹の魅力を伝える方法を探っている。
たとえば華道家とコラボして百貨店のエントランスで展示されるインスタレーションをつくることも。

「最近は海外へのチャンスも広がっていますし、ここ10年くらいで日本のものづくりや文化にも、国内外の人の意識が向いてきています。けれど、伝統産業ってまだまだマイナーだと思うんです。まだ表現しきれていないこともたくさんあるし」
追い風は吹いている。新しいことをはじめるには絶好のタイミングかもしれない。
「可能性や兆しが見えたときはすごく楽しいんです。そこに至るまでにはすごく大変だし泥臭いこともあるけど、もっと挑戦したいなっていう意欲が湧いてきます」
「私と同じように面白いなって思ってくれる人。ただものを売るだけじゃなく、新たな価値を生み出したい人。そういう人に来てほしいです」
社員は全部で約20名とまだまだ小さい会社。
また、営業を担当しているのは50代のベテランの方と達之さんの2人だけなので、積極的に企画などにも携わってほしいとのこと。英語ができると活躍の場が広がるという。
「お伝えしておくと、私は厳しいと思いますよ。仕事には成果を求めます。主体性を持って自分で切り開いていく気概を持つようでないと、これからの時代は企業も個人も生き残っていけないと、みんなによく言っています。一緒に働いていてワクワクさせてくれるような人だとうれしいですね」
自分から動き出せる人なら、この会社は心地よく働けると思う。
主に商品管理を担当している内之倉慎治さんも、同じようなことを話していた。

入社した時期がちょうど、社内のコンピューターシステムを一新したタイミングで、システム移行に伴う新しい仕事をどんどん引き受けていったのだそう。
今も社内整備を進めていて、よりみんなが働きやすい仕組みづくりを進めているという。
「常務がこれからどんどん新しいことをやるのに、いろんなところでストレスがあって力が発揮できなかったらすごくもったいない。もっと動きやすくなってもらえるように、いい環境をつくっていけたらと思っているんです」
これまで飲食業や生活用品の会社で働いたり、海外で生活をしてみたりと、様々な経験の持ち主の内之倉さん。
この会社のどんなところがいいですか?
「そもそも自分は竹という天然素材が好きだったり、公長齋小菅の商品にすごく魅力を感じています。けれど、常務の存在が一番大きいかもしれないですね」
「熱を帯びながら未来の話をしたり、もっと面白いことがしたいと先を行って頑張っている様子を見ていたら、やっぱりまわりの人間は盛り上がりますし、こういう人がいるからこそ働くのが面白いんだと思います」
静かに熱く、気持ちを込めて語る達之さんと内之倉さん。
会って話せば、ものづくりだけでないこの会社のよさが分かると思う。
伝統の上に、新しい価値を生み出す。とてもクリエイティブな仕事だと思います。
(2017/6/2 取材 森田曜光)