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「工場って、毎日同じ時間に来て、同じ作業の繰り返し。そんなイメージがあるでしょう。でもうちは、つくるものが毎日全然違うんです」
「依頼を受けて、その都度どうやったら形にできるかを考える。だから飽きないし、面白いんですよね」
ミューテック35は、精密板金を中心に部品の試作を手がける会社。半導体や医療、食品などの様々な業界の大手企業から依頼を受け、1ヶ月に約2000種類もの試作部品をつくっています。
さらには、自社の技術を活かしたステンレス製のブローチや、社員の発案で生まれた自社製品も販売。メーカーとしてのものづくりにも力を入れています。
今回は、精密板金、切削、溶接のいずれかに関わる加工職人を募集します。
経験のある方は歓迎ですが、ものづくりや機械いじりに興味がある人なら未経験でも大丈夫。
与えられた仕事を淡々とこなすのではなく、自分で考えてものづくりをしたい。技術を活かして自分の商品をつくってみたい。ものづくり好きな職人たちが、のびのびと働いている環境です。
東京都のほぼ中央に位置していることから、東京の「へそ」とも呼ばれる日野市。
日野駅から西に15分ほど歩くと、ミューテック35の工場が見えてくる。
真っ白な3階建ての工場からは、カンカンカンと金属を叩く小気味いい音が響いてくる。
外付けの階段を登り、3階の事務所へ。
「あら、いらっしゃい。遠くまでありがとうございます」
笑顔で出迎えてくれたのは代表の谷口さん。その場にいるだけで、周りがパッと明るくなるような雰囲気を持つ方。
「私はもともと、専業主婦だったの。図面も読めないし、経営者の器じゃないと思ってた。でも、弟一人に会社を任せるのが可哀想で、一緒に会社を継ぐことにしたんです」
ミューテック35は1961年に谷口さんのお父さんが立ち上げた会社。電光掲示板の設計、施工からはじまり、プレス事業、板金加工などの下請けをしていた。
その会社を、2007年に谷口さんと弟さんが事業継承。その翌年にリーマンショックが起きた。
「これまでの仕事が一気になくなったのよ。もう、こっちも必死よね。何度もお客さんに電話して『仕事ないですか?』って聞いてたの。そしたら、お客さんから『ごめんね、谷口さん。本当にないんですわ』って言われて」
「そのときの声が、今も耳に染み付いてる。相手だって大変なのに。申し訳ないし、情けなかった。それで工場のみんなに、自立しましょうって言ったの。私も明日から営業に行きますって」
社員の前で宣言したものの、営業の経験も板金の知識もない。手あたり次第にいろんな会社に足を運んだ。
「ある会社に行ったら、お偉いさんから図面の束を渡されてね。『そこに書いてある額でできるなら仕事やるよ』って」
仕事がもらえたと喜び、大量の図面を工場に持って帰った谷口さん。
資料を見た工場長は、ただ一言。「この価格じゃ材料費にもなりませんよ」
「私が馬鹿だとこんな扱いしかされないんだって思ってね。自分が馬鹿にされるのはいいけど、私のせいで会社が価格競争に巻き込まれるのが悔しくて。一生懸命働いている社員さんにお給料を払ってあげられないのが本当に辛かった」
試行錯誤を重ねながら、価格競争に巻き込まれない方法、会社のあるべき姿を寝る間も惜しんで考えた。
そして、見つけたのが「試作屋」という道。
製品の開発をする際、機能性や製造工程を確認するために使われる試作部品をつくる試作屋の役割。
すでに製造工程が確立されたものを量産する工場とは異なり、つくり方から考える必要があるため、高い技術が求められる。
「経営者になったとき、一番に思ったのは小さい会社でも大企業なみのお給料を社員さんに払いたいってことだったの。価格競争に巻き込まれないためにも、誰でもつくれるものじゃなくって、うちでしかつくれない高い技術が必要な試作品をつくれば良いんだって」
試作品を必要とする人たちに会社の存在を知ってもらうため、開発者が集まるフォーラムに参加。そのときに役立ったのが、社員がつくったセミの置物。
薄い金属板1枚をつかったセミは、溶接をせず、切る、曲げるといったシンプルな工程だけでできている。まさにミューテック35の技術力を示す名刺のようなもの。
これがきっかけで、大手企業からの依頼も増えていった。
30社だった取引先も200社まで増え、今では年間4億3000万円を売り上げるまでに。
「最近ようやく、リーマンショックがあってよかったなって思えるようになった。変化せざるを得ない環境だったから、こうして今があるんだなと思ってね」
試作と並行して、挑戦し続けているのが自社製品の開発。
「受注生産だけだと、またリーマンショックみたいなことがあったら、待つことしかできない。打つ手がないのは嫌だったから、自分たちもメーカーになりたいと思って」
そこで2015年にTHE BLOSSOというブランドを立ち上げた。
花をモチーフにしたステンレス製のブローチやイヤリングなどを一つひとつ手作業で制作。月1000万円を売り上げるまでに成長した。
さらに、バイク好きの社員の希望で、旧車のエンジンや部品の生産も手がける。
「メーカーで生産中止になった部品をつくっていて。うちの商品のおかげでまたこのバイクに乗れるって、すごく喜んでくれるお客さんもいるんです」
利益の8%は担当者に還元。担当する社員も、自分たちで考えたものが商品になることにやりがいを感じているそう。
「図面通りつくるのも素晴らしいけれど、さらに人を喜ばせるものづくりができるって素晴らしいと思うんです。でも、彼に話を聞くと、『前の会社で使えないヤツだって言われてました』って言うのよ。驚いたけど、前の職場は彼が活躍できる工場じゃなかったんだって思ってね」
「量産工場だと、言われたことをそのままできる人のほうが評価されるのかもしれない。だから彼らみたいに、こんなものをつくってみたいとか、そういう考えは活かせない。うちでは、自分のものづくりの技術を活かしたい、こういうものをつくりたいって思う人がいるんだったら、つくっちゃっていい。私がそれを売るから!って思っています」
谷口さんの言葉からは、ものづくりをする社員への尊敬と、愛情が伝わってくる。実際に、働いているのは、どんな人たちなんだろう。
「うちの社長、面白いでしょ。社長だけど、全然机に座ってない。自分で動いて、いろんなところに飛び回ってます」と笑うのが、工場長の前田さん。
「明るい会社なんで、楽しいと思いますよ。工場って暗くて、汚いイメージがあるかもしれないけど、一度うちに来てこの雰囲気を見てもらいたいです」
前田さんは12年前、下請け会社から転職してきた。
「自分は、金属板から部品のパーツを切り抜く作業を担当しています。あとは、お客さんから受注前の見積もりもしています」
現場の仕事をしながら、見積もりもするんですか?
「これは社長のアイディアで。現場のほうが素早く判断ができるし、作業の難しさに合わせて自分たちで金額を決められるから納得感もある。営業やお客さんの気持ちもわかるし、勉強にもなります」
ミューテック35では、働く社員一人ひとりの裁量が大きい。
見積もり以外にも、何の仕事をどの順番でやるか、試作部品のつくりかたも個々人が判断している。
「うちは試作屋なので、そもそもつくり方から考えないといけないものが多いんです。簡単なものなら、誰がつくっても同じ方法になると思う。でも、うちでつくるものは複雑なので、人によってやり方も変わってくる」
「それぞれが、どうやったら早く、正確につくれるかを考えてやっている。自分の工夫次第で結果が変わるのは面白いですね」
毎日違った仕事ができるのは、刺激的。その一方で、試作品の多くは短期納品が求められるし、急な依頼も多いから、スケジュール通りに物事が進まない難しさもある。
新しく働く人は、臨機応変に対応したり、自分で考えることが好きな人が向いているんだろうな。
「うちには、ほかの工場ではつくれないと断られた依頼が回ってくることも多いんです」と、前田さん。
「普通の工場だと、依頼通りの図面でつくろうとするので、できないと判断されてしまう。でも、うちでは『ここを変えればつくれますよ』って、お客さまに逆提案するようにしています」
たとえば、部品の一部のかたちを変えたり、厚みを変えたり。商品に影響がない範囲を見極めながら、どうすればつくれるかを考えて、お客さんに代替案を提案する。
「どうにかしてつくろうっていう気持ちが染みついているんだと思います。みんなが前向きで、そっぽ向いてる人が1人もいないのは、この会社のすごいところだと思いますね」
「彼は溶接の天才!なんでもできちゃう」と、前田さんが太鼓判を押すのが井上さん。
「この会社にいると、強制されることが全然ないんです。自由だから、楽しいしやる気になる」
「普通の工場だと、改善提案を月に何件出せとか、整理整頓をしなきゃとか、いろんな指示があると思うんですけど、ここはそういうことが一切ないです」
もともとは航空関係の会社で溶接をしていた井上さん。コロナ禍をきっかけに2年前に転職した。
今は自分の技術を活かして、通常業務以外にもいろいろな挑戦をしているそう。
「溶接の技術を見せるために、会社でインスタをやらせてもらっていて。業務は定時で終わるんですけど、インスタに載せる作品づくりのために午後8時くらいまでは会社にいることが多いですね」
インスタグラムでは、溶接技術を使って金属の板に文字を書いたアート作品や、お寿司を載せるための皿などを自作して紹介。
インスタグラムがきっかけで、仕事につながるケースもあるそう。
「この間、インスタを見てくれたアーティストの方から、ゴルフクラブを使った一輪挿しをつくれないかって依頼がありました。こういうふうに、今後も新しい仕事につなげていけたらいいなって思います」
「前の会社にいたら、自分からインスタやらせてくださいなんて絶対言わなかっただろうなと思って。会社のために何かしたいって思える場所って、なかなかないんじゃないかなと思うんです」
決められた仕事以外にも、自分で仕事をつくり出している井上さん。ほかにも、溶接の模様を活かしたアクセサリーをつくるなど意欲的に活動している。
会社のために何かしたい、と思えるのはどうしてでしょう。
「やっぱり、社長のキャラクターですかね(笑)。常に前向きだし、現場に任せてくれる。やりたいことはやらせてもらえるのがいいなって思います」
井上さんは、どんな人に来てほしいですか?
「できれば器用な人。でも一番は、前向きな人ですかね。自分からいろいろ工夫してくれる人のほうが楽しめるかなと思います」
信頼して任せる。
代表の谷口さんをはじめ、そんな風土が根付いている会社だと感じました。
任されているからこそ、自分で考えて、工夫できる。
ものづくり本来の面白みが感じられる環境で、自分の能力を最大限に活かしてください。
(2024/3/22 取材 高井瞳 )