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農村リデザイン

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これから田舎はどうなっていくのでしょう。

今、地方移住がブームとして盛り上がる一方で、実際に訪れてみるとやっぱりお年寄りの多さを実感します。

あと何年もすれば、畑をする人はいなくなり、祭りもできなくなっていく。代々と守り継いできた文化や風土が、全国各地で失われつつあります。

そんな地域の現状を何とかしたい、と考える人がいたら。

その“何とかする力”を、ここで身につけませんか。

新潟県見附市にある一般社団法人『農村振興センターみつけ』

見附市は、農村の維持・保全のために国がはじめた画期的な制度『多面的機能支払交付金』を活用する先進地として知られ、その運営組織である農村振興センターみつけには全国から視察やコンサルティングの依頼がやってきています。

掲げているのは、「持続可能な農村をデザインする」こと。

県と共同で廃村に息を吹き返す社会実験事業を行うなど、日本初の取り組みにもチャレンジしています。

きっと田舎は人口減から逃れることはできない。そんな現実を見据えながら、農村の文化や魅力をいつまでも残すために、今できることを模索しています。


東京駅から上越新幹線に乗って長岡駅へ。電車に乗り換えて、12分ほどで見附駅に到着する。

見附市は新潟県の真ん中あたりに位置し、県内でも一番面積が小さい。

平成の大合併を見送った過去があり、それから独自路線のまちづくりを貫いてきたそう。

たとえば、コミュニティ銭湯や市民交流センターなど、公共施設のいたるところに「健幸」という文字が掲げられている。お年寄りにも住み良いまちを目指して設備やサービスの充実を図っているようだ。

農村振興センターみつけ事務局長の椿さんは、このまちの市役所で25年以上働いていた。

市役所の中では「イベントといえば椿さん」と言われるほど、観光やまちづくりに携わっていた。

今の仕事をすることになったのは、2007年に農業の担当になったことがきっかけだったそう。

「正直、農業はイヤだったんだよね(笑)それまでイベントが多い活発な部署に長くいたものだから、それに比べて農業って非常に地味だなって」

そんなふうに思っていたら、ちょうどその年に、農業に大きな影響を与える今までにない画期的な制度が誕生した。

それが、現在では『多面的機能支払制度』といわれている、国がつくった農村集落への交付金制度。

どこが画期的なのかというと、まずは田舎でよく行われている草刈りを想像してほしい。

昔から農村では、草刈りや川の掃除、農道の整備といった地域の保全維持活動を住民たちでやるのが当たり前。また、多くの人は農業を営んでいる。

保全維持活動によって水がきれいに安全に保たれたり、農業の田畑が自然災害を防ぐ役割を果たしたり。地域のみんなで整備した自然が、動植物の生息地になったり、CO2を吸収してくれるなど、実はものすごくたくさんの重要な効果を生み出している。

けれども、その機能をフルに発揮するためには、日頃から草刈りなどの管理が必要になる。これまでは農村の若者や農家がその役割を担ってきたものの、農家の兼業化や村の過疎化によって、このままでは立ち行かなくなることが予想されている。

そこで『多面的機能支払制度』は、そういった農村や農業の多面的な機能をきちんと評価し、助成金を出そうという仕組み。

この助成金を使って、たとえば草刈りに時給を払うようにすれば、負担だったボランティア活動が“地域の仕事”に生まれ変わる。また、保全維持のための様々な活動予算にあてることができるなど、一見地味だが非常に画期的な制度なのだ。

ところが、きちんとした仕組みづくりができなかったり、隣同士の集落で連携が取れなかったりするなど、自治体によっては多面的機能支払制度をうまく活用できていないところもあるという。

そんななか、見附市は市内にある66集落すべてと連携し、全国で初めて市全域参加による組織を立ち上げ、1組織として制度を活用した事業をはじめた。

その立役者となったのが、椿さんだ。

ほかの自治体にできなかったことが、どうして見附市ではできたのだろう。

「いろんなところでうまく進んでいないのは、行政が農家さんに気を使いすぎているからなのさ。みんなから平等に話を聞こうとするけど、そんなこといちいちやってたらあっという間に半年や1年が過ぎちゃう。それに行政の人たちは最初っからすごくうまくつくろうとするから、時間もかかるし、あとからアレンジも利かない」

「だから仕組みと仕掛けをつくって、あとはそこに入ってくださいっていうほうが手っ取り早いし、うまくいくんだよね。最低限のことだけ決めて、あとからどんどんアップデートしていけばいいかて」

日本初のこの取り組みに、椿さんのもとには多面的機能支払制度に関するアドバイザーやコンサルティングの依頼が全国各地からやってきている。

椿さんは、さらにそこから市全域参加というメリットをもっと活かせないかと考えているという。

「農業っていうのは、農道とか水路を整備する『維持管理』と、商売として農業する『営農』の2つで成り立ってるのさ。それなのに制度を使って維持管理だけやったって、見附の農業はよくなるわけでもなくて」

「それに、せっかく全集落が加盟している全国でも有数の組織を、ただの維持管理のためだけに機能させてはもったいない。そのスケールメリットをもっと営農に活かそうと。それで農村振興センターみつけを立ち上げたのさ」

農村振興センターみつけは、多面的機能支払制度による事業の運営をサポートするのが主な仕事。

そのほかに、全地域と連携できるメリットを活かして、見附の農業や農村の発展のために様々な取り組みを行っている。

たとえば、農村振興センターみつけの活動に賛同してくれた寄付者に対し、金額の大きさに応じて見附産のお米や手づくりの味噌をお返しするという、地元版ふるさと納税のような仕組みをつくった。

また、農業に関する情報を一般の人たちにも伝えてPRすべく『NOSONタイムズみつけ』という情報紙を刊行している。

さらに栃窪(とちくぼ)という集落で、2017年から県と共同の社会実験事業がスタートした。

栃窪は集団移転により廃村になった山奥の集落。今でも通い農業をしている人がいるけれど、耕作している人の平均年齢は75歳と、もうあと数年で完全な放棄地になることが予想されている地域だ。

「農業ってどこも担い手不足なんだよね。でも、そう言いはじめて何年経ってるのって話。担い手の確保は大事なことだけど、いないんだからそこばかり考えてもしょうがないんだよね。だから、違うことを考えなきゃいけない」

「そこで私が考えたのは、平野部や都市部の一般の人たちに栃窪で米をつくってもらおうと。山の中での米づくりそのものに楽しみとかやりがいを感じてもらいながら、コミュニティを形成して維持管理もしてもらう。つまり新しいライフワークとして米づくりを提案しながら、農村の保全をしようってことをテーマにはじめるわけさ」

地元の人たちにも協力を仰ぎ、農機具を貸してもらったり、一般の参加者へ農業指導をしてもらう。

ゆくゆくは参加メンバーを中心に『市民楽農ファーム』という農業法人を設立する予定だ。

「人って欲が出るからさ、つくった米を売りたいねって話になると思うんだ。ただ、農業で食うってモチベーションじゃなくて、農業で楽しむ『楽農』っていう新しいスタイルの農業法人にしたいわけ。これも全国的にはじめての事例になると思う」

参加者を募集したところ、現在8組13名から応募があったそう。

これがうまく仕組み化できれば、失われつつある農村の新たなモデルとして、全国へ発信できるかもしれない。

「我々は農業だけじゃなくて、農村を保全していきたい。農村の文化と魅力をいつまでも後世に残すためにいろんな事業をやっていきたいと思っているのさ」

「ただ、やっぱりマンパワーが足りない。ここは私と事務員の女性2人だけで、なかなか忙しくて。それで地域おこし協力隊という形で、興味ある人に来てもらいたいんです」

まずは椿さんに付いて回っていろいろな仕事を見ながら、興味のあることを担当してほしいという。

栃窪の事業を担当して市民ファームの立ち上げをやってもらってもいいし、SNSや情報誌で広報を担当してもらってもいい。ゆくゆくは椿さんの後継者としてコンサルティングまでできるようになるかもしれない。

「自分のやりたいことを3年間の中で見つけてほしいです。その後はここで経験したことを活かしてもらってもいいし、そのままうちに就職する選択肢もあります」

椿さんは、どんな人に来てほしいですか?

「農業のことなんて何も知らなくてもよくて。経験はこれから積んでいけばいい。やっぱり人と信頼関係を築ける人だね」

「こういう地域で何かをやるには、人が協力してくれる関係をつくることが一番大事。信頼関係さえできてしまえば、仕事内容はあとからでもどんどんアップデートして変えていけばいいのさ」

ふと、栃窪集落の社会実験事業への参加募集記事を見てみると、そこには田植えをしている椿さんの姿があった。

こうして地元の人たちからの信頼を得るのが、地道ながらとても大切なことなのだと思います。きっと飲んで打ち解け合うシーンも多いだろうから、お酒が好きな人だともっといいかもしれません。

「最初は農業ってイヤだなと思ってたけど、こうやって一緒にやらせていただいていると、農家さんってすごく純粋でいい人たちばかりで。人間的に魅力のある人がすごく多いんです」

一見、やっていることはとても地味に感じるかもしれません。でも、椿さんの話を聞けば聞くほど、日本の農村の新たな可能性を見つけてくれるんじゃないかと、とてもワクワクしました。

理想論ではなく、現実的な方法で形にしていく力を身につけるには、ここはとてもいい経験ができると思います。

(2018/1/25 取材 森田曜光)

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