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村の幹をつくる

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“地域おこし”という言葉を、各地で耳にするようになりました。

雑誌やインターネットでも多くの特集を見かけるし、全国でも地域おこしの名の下、日々新たなプロジェクトや施設が立ち上がっています。

一方で、立派な箱ものをつくったり、目新しいプロジェクトを立ち上げるだけでは、本当の成功とは言えないような気もする。

結局、いちばん大切なのは人なのかもしれません。その地域を語れる人がいると、自然と魅力的になっていくように思います。

福岡県・東峰村

ここには、そんな地域を語れる人をつくる“村おこしのためのテレビ局”がありました。

今回募集するのは、ケーブルテレビ局に出向して、村民と一緒に番組をつくりあげていく「ケーブルテレビ運営スタッフ」。あわせて、村の情報発信を担う「地域情報発信スタッフ」も募集します。

やってみようという思いさえあれば、経験は問いません。

村にとけこみ、魅力を発掘して伝えていくことが、新たな地域おこしになっていく。そんな新しい仕事になると思います。




東峰村へのアクセスはいくつかあって、この日は福岡空港からバスを乗り継いで向かうことに。

にぎやかな福岡市内を経って1時間半ほどすると、村に到着したことを告げるアナウンス。バスを降りると、あたたかな陽の光が差し込んできた。

じっと耳をすませると、鳥の声や小川のせせらぎが聞こえてくる。はじめて訪れるのにどこか懐かしさを感じるこの村は、まるで昔話の舞台のようだ。

東峰村は、12年前に合併して誕生した村。

村の北側の旧・小石原(こいしわら)村は焼き物の村として、南側の旧・宝珠山(ほうしゅやま)村は、農業の村としてそれぞれ栄えてきた。東峰村がしばしば「半農半陶」と評されるのも、そのためだ。

この日は、まずケーブルテレビ局の「東峰テレビ」に向かうことに。ケーブルテレビ運営スタッフは、ここを拠点に働くことになる。

以前は診療所だったというテレビ局内で待っていると、にぎやかな笑い声とともに中に入ってくる人影が。

「今日は撮影がちょっと押しちゃって、遅れてしまいました。はじめまして、東峰テレビプロデューサーの岸本です」

やわらかい笑顔が印象的な岸本さんは、7年前の立ち上げから東峰テレビをつくってきた方。

もともとは民放局のディレクターとして、番組制作を通して数多くの市町村を回っていた。

「まちを撮影して、編集して、テレビ番組として発信する。その膨大な作業なかで、この村にはこんなきれいな景色や意外な歴史があると、どんどん新たな発見をしていくのが面白かった」

番組を制作していると、自分たちプロだけではなく、地域の人たちもテレビ番組をつくれないだろうかと考えるようになる。

「地域の人たちが、自分たちの手で地域を発信する。そのプロセスで発見したことが地域のアイデンティティになるんじゃないかなって思ったんです」

「住民自身がディレクターとして、楽しみながら地域を伝えていくことで地域おこしができる。そんなテレビをつくりたいと思うようになりました」

この発想を“住民ディレクター”と名付け、局内に提案した岸本さん。ところが、効率の悪い余計なものと一蹴されてしまう。

ならば自分一人でもやってみようと、退職を決意。全国各地を回りながら、住民ディレクターによるテレビ番組づくりをサポートしてきた。

東峰村からケーブルテレビの担当者として声をかけられたのも、そんなときだった。

「僕たちのテレビを知ってもらうには、まずは番組を見てもらうのがいちばんですね」

画面に映し出されたのは、村の人たちの顔。「今日はどうしたの」という岸本さんの声と、それに答える住民たちの会話も聞こえてくる。

ごく日常の、ありふれた光景だ。

「東峰テレビでは、農家さんや散髪屋さんといったごく普通の地域の人たちで番組を制作しているんです。村民みんなでつくるテレビを目指しているんですよ」

テレビ局には、村中からいろんな人たちが集まる。80歳の元大工さんはカメラマンとして、農家の奥さんは優秀なスイッチャーとして、番組制作に欠かせない一員だ。

なかには、番組制作に直接関わらなくても「今日はここで番組つくっていると思って」と、お花や手料理を持って訪れるおばあちゃんや子どもたちもいるという。

テレビ局そのものが、世代を超えたコミュニティの場となっている。

そんな東峰テレビは、番組制作のプロセスも独特。

「これは以前もやったからボツ」ということはせず、どんな企画もまず実現のためにみんなで知恵を出し合う。そうして音声や撮影、取材や編集など、それぞれの得意なことを活かしながら、番組をつくっていく。

あるときは、農家のお母さんが知事に取材をしたり、おじいちゃんが村内の名所を訪ねてレポートしたり。携帯電話が鳴るハプニングもそのまま取り込んで、それぞれのペースで、撮りたいものや伝えたいものを発信していく。

「そうして自分たちの手で村を見つめ、テレビ番組として伝えていくうちに、地域の人たち自身が村の未来や課題、魅力を発見していくんです。7月に発生した豪雨では、まさにそんな力が発揮されたと思う」

記録的な豪雨に見舞われ、道路や橋も崩れ落ち、多くの集落が孤立した東峰村。そんな状況下でも、住民ディレクターの多くが、リーダーとして集落を引っ張っていったという。

「日頃からいろんなところを回っているから、『あそこが崩れよるね』『あそこの一人暮らしのおばあちゃんが腰悪いから行かないと』と体でわかるんです。もう、体がハザードマップになっていたんですね」

「『東峰テレビがあったおかげだね』と言ってくれる人もいて、すごくありがたかったです。番組制作が復興へのチームワークづくりにもつながると思う」

番組制作のプロセスを通して、村の人たちが村のことを考えて行動していく。そこで生まれる気づきとコミュニケーションこそ、何よりも大切な地域おこしだと岸本さんは繰り返す。

そのため、完成したテレビ番組はあくまで“おまけ”。きれいにまとまっていなくても構わないし、楽しくつくれたのであれば過度な演出も必要ない。

大事なのは、村の人がどのように制作に関わるかというプロセス。これは、ドキュメンタリーでもドラマでも同じことだそう。

新しく入る人は、そんな住民ディレクターたちの番組制作をサポートしながら、いずれはプロデューサーとして番組をつくっていくことになる。

企画段階でもアドバイスするだろうし、村の人が撮影した映像の編集や放送も担っていく。技術経験はあるに越したことはないけれど、もし未経験でも岸本さんや東峰テレビのスタッフが教えてくれるという。

経験よりも大切なのは、村に溶け込み、同じ生活を営もうという気持ちかもしれない。

「僕は民放のディレクターをしていたころ、寂しかったんです。どれだけ親しくなっても、放送が終わると『さようなら、がんばってくださいね』と関係が終わってしまう」

「だから、僕は放送によって関係がはじまるテレビ局をつくりたかった。東峰テレビは『じゃあまた明日もよろしくね』と別れられる。ここははじまりのテレビ局なんですよ」




東峰テレビをあとにして、ここからは村役場・企画政策課の池田さんに村の中を案内してもらうことに。

「九州なのに寒くて驚いたでしょう。この村は、見てのとおり山に囲まれて標高も高い。だから冬はほかよりも冷えるし、雪も降るんですよ」

東峰村で生まれ育った池田さん。大学進学を機に村を出て、7年前に戻ってからは村職員として勤めている。

田んぼを横目に歩を進めると、静かな清流に出る。先の大雨で流されてしまったけれど、この辺りは夏になるとホタルが飛び交う名所なのだそう。

「いい村だと思うんです。山も水もあるし、人も柔らかい。ただ、村の外に向けて自分たちをPRするのはまだどこか苦手なんです」

聞けば、村役場にも広報専門の部署がなく、複数の課で分担しているのだという。広報紙も発行しているし、ホームページも更新している。それでも、村外のテレビ局や新聞記者に「どうしてもっと外へ発信していかないのか」と尋ねられることもあるそう。

だからこそ、まだ伝えきれていない地域資源はたくさんある。新しく入る人は、外の視点を持ってどんどん村を発信していってほしい。

それこそ、東峰テレビの住民ディレクターように村内の魅力を掘り起こすのが得意な人たちはこの村にはたくさんいるし、良い相談相手にもなってくれると思う。

村の情報発信を担う人は、紙媒体の広報紙やSNSで発信することになる。まずは伝えることが得意な“先輩”たちと一緒に村の魅力を見つけていくのもいいかもしれない。

それに、池田さんも以前広報を担当していたこともあるというから、困ったことがあればいつでも相談してほしいという。

「パソコンやカメラはもちろんありますし、ドローンも新たに購入します。せっかく来ていただくからには、文章力や編集といったスキルを磨いていただきたい。夢は大きく、広報紙の全国コンクールでの受賞も一緒に目指していきたいですね」

まずは、自分から動かないことにははじまらない仕事だと思う。物怖じせず村に飛び込んでいって、そこで見知ったことを伝えていくことが第一歩になるはず。

「村の人たちは若い人や外から来た人が気になるようで、『調子はどう?』なんてよく野菜やお米を分けている姿を見ますね。そうそう、東峰テレビのおかげでカメラ慣れもしています(笑)」

ただ、小さな村だからこそ一人ひとりとの付き合いを大切になってくる。都会では馴染みのない地域の集まりごとに参加することもあるはず。きっと、仕事と暮らしを連続して考えられる人だといいかもしれない。

「普段から関係を築いていければ『あなたが言うのなら手伝うよ』と言ってくれる方々です。はじめの一歩を踏み出せれば、きっと心強い味方になってくれると思いますよ」



最後に、印象的だった東峰テレビの岸本さんの言葉を。

「幹になるのは、やっぱり人なんです。地域のふつうの人たちが、地域のありのままの姿も、こうありたいという未来も語れる。その幹があってこその地域おこしだと思う。この仕事は、そんな土壌をつくることにつながるんじゃないかな」

この小さな村では、そんな新しい形の地域おこしがはじまっていました。

(2017/11/15 取材 遠藤真利奈)

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