自然と聞くと、広大な海や森を思い浮かべる人が多いかもしれません。
身のまわりに目を向けてみると、街路樹の根元にも、公園の草むらにも、ビルの屋上にも、生きものの世界は広がっています。
ただ、自然に目を向けるだけでは環境保全はできない。
自然と人の関係を丁寧に育てながら、身近な自然から社会を少しずつ変えていく人たちがいます。

特定非営利活動法人 NPO birthは、都市部の公園を拠点に、人と自然、人と人とのよりよい関係づくりを続けてきた団体です。
都立公園や市立公園の指定管理のほか、自然環境調査や環境教育、みどりのコミュニティづくりなどを行い、近年は企業緑地での生物多様性の取り組みにも力を入れています。
今回は、3つのチームで新しい仲間を募集します。
1つ目は、「自然環境マネジメント部」。公園や緑地内の生きものの状態を把握し、生物多様性を守るための計画や管理をおこなう部門です。
2つ目は、公園や緑地でのガイドや自然体験プログラムなどを行う「レンジャー・環境教育部」。利用者の安全を守り、子どもから大人まで、自然の面白さや大切さを伝えます。
そして3つ目は、公園や緑地でイベントやボランティア活動などを通して、地域の人たちがつながる場をつくる「協働コーディネート部」。
どの部署にも共通しているのは、自然だけでなく、人と向き合う姿勢が求められること。
自然に対する想いは、一人ひとり異なる。ときには意見のすれ違いが生まれることもあるなかで、その間に入り、場を整えていくコミュニケーションは欠かせません。
NPO birthの事務所があるのは、西東京市の田無(たなし)。
駅の北口を出て、通りをまっすぐ。Googleマップを見ると、この先には公園や寺院などの小さなみどりのスポットがあるみたい。
歩いて10分ほどで、事務所へ到着。右の通り沿いには小さなビオトープがある。

中に入ると、木の温もりがあってあたたかみを感じる空間が。
迎えてくれたのは、自然環境マネジメント部の部長の久保田さん。NPO birthに勤めて13年目になる。

再来年で30周年を迎えるNPO birth。
「環境問題って、自分ごとにしづらいと思うんです。1人で頑張っても解決できないし、そもそも何をしていいかわからないこともある。ならば、身近な自然を守ることから始めようと立ち上がったのがbirthです」
公園の管理・運営を軸に、生物多様性の保全や環境教育、協働プログラムの企画運営など、幅広いフィールドで自然と人が共生する社会を支えるNPO birth。
その根幹を支えているのが、自然環境マネジメント部、レンジャー・環境教育部、協働コーディネート部の3部署。そのほかの役割も含め、40名ほどの常勤スタッフが在籍している。
そのなかでも自然の力を引き出す役割なのが、久保田さんの所属する自然環境マネジメント部。
生きものの様子を調べ、生物多様性を守るための管理や計画から、自治体や企業に環境づくりのアドバイスをすることも。

「私たちは地域性種苗(しゅびょう)をすごく大事にしています。生物多様性の非常に重要な要素なんですよね」
地域性種苗は、その地域に自然分布している在来植物から採取・育成される種子や苗木のこと。
たとえば同じ種類の動植物でも、生息地が西日本と東日本では遺伝子が異なることがあるため、混在して繁殖させるのはよくないと言われている。
「自然豊かな場所にしたいからといって、たくさん植樹すればいいわけではありません。まずはここにどんな生きものを呼びたいのかという目標種を決めて、そこから計画を立てるんです」
目標種を決めるために、過去の文献を調べたり、近隣の緑地にどんな生きものがいるのかを調査したり。そうすることで、その場所に必要な環境条件が見えてくる。

環境を整えたら、あとは生きものが訪れるのを待つだけ。
秋冬につくったビオトープなら、翌春には水草が芽吹き、1〜2か月後にはトンボが飛んでくる。翌年には、何種類もの生きものが定着しているという。
驚くのは、絶滅危惧種が戻ってくること。
「土の中には、多くの植物の種が眠っている。種の寿命は長く、とくに湿地性の植物や水生植物は、40年ほど生きていると言われていて。絶滅種も土の中で種が生き残っている可能性があるんです」

生物多様性の保全活動にチャレンジしている企業の敷地にビオトープをつくるときも、地域の土を使うよう徹底しているのだそう。
久保田さんはどんな人に応募してほしいですか。
「腐らず、粘り強く、1ミリでも、1㎡でも多く自然を残すために、自然と人の両方に向き合い続けられる人。そんな人に加わってほしいと思っています」
「自然に向き合ううえで大事なのは、解像度を高めることだと思うんです。よく『みどりがある=自然が豊か』と言うけれど、花壇に植えられたチューリップだって“みどり”。そして外来種ともいえます。そう考えると、本当に自然と言える場所は少ない。その違いを見極めることが大切だと思います」
同時に、現実に即した考え方も必要。
「たとえば最近増えているクマの出没。クマを殺すな、という声もあるけれど、実際に生活圏に現れている地域では、そんな極端なことは言っていられなくて。大切なのは、現場ごとに最適な落としどころを探し続ける姿勢だと思います」
同じく、人と向き合う姿勢が大事と話すのが、入職3年目でパークレンジャーの堀内さん。東京と埼玉の都県境、狭山丘陵にある都立公園を担当している。

大学では生物学を専攻。趣味だったカメラの販売職を経て、栃木県の日光自然博物館でガイドの仕事に携わるようになった。
「林間学校や修学旅行で東京から来た小学生をガイドするなかで、子どもたちと自然の間には心の距離があるなと感じたんです」
心の距離?
「東京には自然がないと思っている子が多いんです。本や教科書で見たり、田舎で体験したりする自然だけが本物だと感じがちなんだなって。でも、身近に自然はたくさんあるし、そのことをもっと知ってほしいなと思ったんです」
身近な自然を伝えたい。そんな想いからNPO birthへ入職。
パークレンジャーとして、子どもや大人、シニア向けに公園内をガイドしたり、自然体験プログラムを実施したり。環境教育に取り組んでいる。
「自然を伝えると言っても、どんな風に誰に向けて話をすれば伝わるのか。むずかしいし、勉強し続けることが大切だなと思います」

「たとえばエゴノキを紹介するときも、花や実の特徴だけでは伝わらなくて。実を食べて、貯食で発芽を助けるヤマガラの存在や、洗濯や漁に使われてきた人との関わりを知ると、一本の木が持つ世界がぐっと広がる」
伝えていくことで、発見がある。
「私の解説だけじゃなくて、子どもたちからこれはどうなの?って質問してくれたり、関心を持ってくれたときはうれしいですね」
ほかにも、パークレンジャーの役割は2つある。
ひとつは園内に危険な場所がないかチェックしたり、壊れた柵や掲示物の修繕を依頼したりする公園のパトロール。
もうひとつは、公園の生きものを把握するモニタリング。生きものの種類を記録しつつ、希少な植物の状態チェックや、外来植物の増減の確認をおこなう。
巡回する日は、一日4、5時間歩くこともある。狭山丘陵の都立野山北・六道山公園の全ルートを回るには1週間かかるんだとか。

「公園内では希少な生きものが見つかることもあるのですが、持ち帰ろうとする人もいるので、利用者への注意喚起や声かけも必要で」
「ただ『ダメ』と言うのではなく、まずは挨拶や世間話から。相手が受け入れやすい雰囲気をつくるところは意識していますね。そのあとで、『これはこういった理由でダメなんですよ』と伝えています」
自然と同じくらい、人とどう向き合うかが問われる仕事。
「自然の知識は、仕事をしながら学んでアップデートし続けていくもの。でも知識があるだけでは足りなくて、人が好きじゃないとうまく回らない仕事だと思います」
「自然の面白さ、素晴らしさ、大切さを伝えていく人は、この先ずっと必要だと思うんですよ。憧れの仕事、なりたい仕事のひとつになればうれしいですね」
最後に話を聞いたのは、入職5年目の最首(さいしゅ)さん。
協働コーディネート部に所属し、現在は武蔵野の公園グループのエリアマネージャーとして活躍している。

「出身は東京ですが、身近に大きな公園があって、よく遊んでいたんです。なので幼いころから自然が好きで」
「大学でウェルビーイングについて研究していたときに、自然環境が身近にあると、人も社会も良い状態になっていくことを知って。自然と人をつなげる仕事がしたいと思うようになりました」
それならば、と大学のゼミの先生が紹介してくれたのがNPO birth。
入職後は、都立野川公園、武蔵野公園のパークコーディネーターを担当。ずっと同じ担当エリアや公園に配属される人もいれば、最首さんのように異なるフィールドで経験を積む人もいる。
パークコーディネーターの仕事は、自然を守り、育て、楽しめるように、地域住民を巻き込んでいくこと。
「公園や緑地ってさまざまなポテンシャルがあるところだと思うんです。景観や生きものなどみどりの存在を楽しんだり、イベントやボランティア活動を通して生きがいを得たり、子育てや研究などに活かせる場所でもある」
「そんな公園や緑地の素晴らしさに気づいてもらうきっかけとして、産官学民さまざまな立場の方とコラボレーションした企画をたくさん実施しています」
たとえば、都立六仙公園で開催した「麦の収穫祭」。「畑を耕し育てる人・作る人・食べる人を結ぶ」をコンセプトに掲げたイベントだ。

「『柳久保(やなぎくぼ)小麦』っていう、この地域で生まれた小麦の品種があるんです。それを育てている農家さんや、柳久保小麦を使っている地元パン屋さん、そして地域住民の方を巻き込んで、つながりをつくりたいとはじまったイベントです」
柳久保小麦を使ったパンのマルシェのほか、地元食材を使った飲食、麦文化を紹介する展示などを通して、「東久留米の食と農」を知ると同時に、地域の人たちがつながる場となっている。
「イベントに来てくれた方が後日、公園の花壇ボランティアに参加してくれたり、イベント運営メンバーの情報交換がより盛んにもなりました」

自然と人、人と人がつながることで安心感が生まれて、生活も豊かになる。これからNPO birthに加わる人にも、そんな場づくりを現場の一員として支えてほしい。
「birthがいなくても地域でコミュニティが自立して、環境保全の取り組みが続いていくのが理想。私たちが最終的に目指してるのは、豊かな暮らしでもあると思うんです」

「birthのスタッフとして働くとき、柔軟性は大事だと思います。『ほかの部署の業務だからやらない』ってことはなくて」
「コーディネーターがレンジャーみたいに生きものの説明をすることもあるし、レンジャーが環境保全の計画づくりに関わることもある。それぞれがシームレスにつながっているのが、birthなんです」
みなさん話すときの主語が「私たち」。
環境問題は、大きなテーマだからこそ、ひとりではなくみんなで協働する。
生きものも人もつながることで、生まれていく多様性があるんだと思います。
(2025/11/13 取材 大津恵理子)


