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「美しい」という感覚は、どこから生まれるのだろう。雑然とした暮らしのなかで意識することは難しいし、繊細で見落としてしまうことも多いように思う。
曖昧なものだからこそ、日々のなかに美しさを感じられる人でありたい。
そんな気持ちにさせてくれる力が「noguchi」のジュエリーには宿っているように思います。
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恵比寿駅の西口を出て、歩くこと5分ほど。noguchi 恵比寿店は、通りに面した青いタイル張りのビルの2階に入っている。
階段を上がってガラスの扉を開けると、やわらかな自然光が差しこむ落ち着いた空間が広がった。
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「noguchiは、服づくりを学んでいた代表のノグチが、独学でアクセサリーをつくりはじめたのがきっかけで生まれたブランドなんですよ」
話してくれたのは佐藤さん。
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服の世界からはじまったnoguchiのジュエリーは、パーティーシーンで主張する宝飾品というよりは、その日のコーディネートを彩るアクセントになる。
きらびやかで浮いてしまいがちな質の高い本物の素材を、カジュアルな装いにも違和感なく取り入れられるようデザインは考え抜かれているという。
目指しているのは流行の最先端ではなく、長く世代を越えて使い続けられるもの。
今まで知らなかったという人も、機会があればnoguchiのジュエリーに触れてみてほしい。
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「今でも、ファーストサンプルはCADや職人に頼らず、すべてノグチが手作業でつくっているんです」
試作の際には、肌なじみやつけ心地がよくなるよう、肌色や髪型の違うスタッフに試着させる。形の調整や磨きといった作業を、ノグチさん自らの手で何度も繰り返す。
正面からは見えないピアスやネックレスチャームの裏側に至る細部まで、そのこだわりは貫かれているそうだ。
「ちょっと歪んでいたりするのも、美しいと感じられる程よい塩梅を狙っているんです」
「彼の美意識がそのまま手をつたってジュエリーに宿っているから、ほかにはない独特の表現ができるのだと思います」
とても感覚的なジュエリー。そして、繊細で手間がかかっている。
「たしかに、世の中では手間と言われることかもしれない。でもそうやって手間をかけることは、noguchiではふつうのことなんだと思います」
自分たちの「美しい」という感覚に正面から向き合い表現する。それは、noguchiの世界観を伝えるお店にも言えること。
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「ジュエリーケースを目線の高さにしたいと提案したのは、自分がお客さまだったらそうしたいと思ったから。せっかく目の前に美しいものがあるのに、前かがみで内臓がつぶれてしまう状態で見るのは嫌じゃないですか」
noguchiの美意識にじっくりと向き合ってもらうための場所だから、リラックスして居心地よく過ごしてほしい。
そんなお店に立つ販売スタッフは、ただモノを売るだけの存在ではないはず。見せ方や接し方を工夫しながらnoguchiの世界観を伝える、表現者のようにも思えてきた。
noguchiに勤めはじめて8年になるという、浜田さんにもお話をしてもらった。
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「ジュエリーって、頑張った自分へのご褒美にしようとか、大切な人に贈りたいと思って買う、とても心と近いもの。だから感情や感覚をフラットにして、ここではゆっくり選んでほしいと思っています」
直営店は、恵比寿と青山、新宿伊勢丹のなかにある。
決して求めやすい値段ではないアイテムが多いので、来店するお客さまの数はふつうのジュエリー屋さんに比べると少ないそうだ。平日の来店数は5人に満たないこともよくあるという。
訪れるお客さまは、20代から70代まで年齢、性別を問わず。もとよりnoguchiに興味を持ってくれている人も多い。
どのような接し方をしているのでしょうか。
「1人で考えたいから話しかけてほしくないという方も、すごくお話をしてくださる方もいらっしゃる。目の前のお客さまに合わせて、そのつど心地よい対応をするようにしています」
「お話好きなお客さまのお話をずっと聞いていて、結局ジュエリーの話をしそびれちゃった、みたいなこともありますね(笑)」
ジュエリーを前に考え続けて、ふと時計を見るといつのまにか数時間が経っていた。そんなことが自然と起こる雰囲気にしたいと考えているそう。
販売スタッフはお客さまと同じ空間にいながら、つかず離れず。居心地のよい距離感を大切にしている。
だからなのか、お店のなかはまるで図書館にいるような、集中できる雰囲気がある。
一緒に悩むときには、お客さまの雰囲気や装いを見て、ディスプレイのなかにない過去の商品を提案することもよくある。いっときの興奮で買おうとしている人には、一度落ち着いて考えてと伝えることも。
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だからこそ、働く上ではマニュアル化できない難しさも感じます。
「たしかに、何が気持ち良いかは言葉にできないもの。それは正解がないということでもあって。おっしゃるとおりすごく難しいです」
noguchiの販売スタッフは、ディスプレイや商品の発注もすべて自分たちで行う。どの仕事においても、noguchiらしさを細やかに考えるのは同じことだ。
「たとえば、今はブロックを積んだディスプレイをしているんです」そう言うと、ディスプレイの前に移動して説明をしてくれた。
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「このブロックを数ミリ動かすだけでも印象が変わるんです。モノによってはライトの真下ではなく、ちょっと影になるところのほうがきれいに見えたり。そういう細かなところも、もちろん探っています」
ブロックの組み合わせがつくる小さな空間はリズミカルで、照明がつくる陰影がアクセントになっている。ちょっとした建築物を見ているようでもある。
「こういったディスプレイの仕方も、最初は『ここを少しずらしたほうが美しく見えるでしょう?』って言われても『はい…』って曖昧に答えるような、わかるようなわからないような感じでした」
その感覚を得るのは、大変そうです。
「でも、やっているうちにここに高さを出してみようとか段々といいバランスが見えてくるんです。私は時間がかかって、3年経っても迷っていた感覚がありましたね(笑)」
ディスプレイは新作の販売とクリスマスに合わせて年に3回大きく変更する。什器に使う布地も毎回スタッフが考えるので、ノグチさんからのOKが出るまで何度も布屋さんに通うこともある。
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どうしたら美しいだろう。心地よいだろう。そんなふうに考え続けることを楽しめないと、途端につらくなってしまうと思う。
「正直私は、そういう感覚を見つけるのは苦手なほうなんです。でも、スタッフと話をしながら『こういう表現もあるんだな』と自分なりに考えて、飲み込むようにしてきました」
「好奇心や素直さがある人なら次につながっていく場所だと思います」
noguchiで働いていると、いつのまにか美しさや心地よさを感じる感覚に敏感になっていくそうだ。
スタッフ同士の会話のなかでも、気に入った映画や美術展、美味しいお店の感想が話題にあがることが多いという。自分の「好ましい」という感覚をきちんと持つ人が自然と集まっている気がする。
恵比寿店で働く山田さんも、noguchiらしく働くスタッフのひとり。
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それなのに、佐藤さんと浜田さんから「noguchiの世界観をいち早く理解できためずらしい人」と言われている。
山田さんが趣味の話をしてくれたとき、その理由がわかってきた。
「服を見たり、映画を観たり。みんながやってるふつうのことが趣味です」
「でも、ちょっと変わった見方をしてるかもしれない」
変わった見方?
「どうしてこういう表現をするんだろうって考えたりするんです。映画だったら、衣装がその役柄をどう表現しているのかなといったことを考えてグッときたり」
山田さんは自分の感覚に敏感で、美しくあるための自分なりの意見を持っているのだと思う。
ほとんど1人で行ったという今回のディスプレイにもその感覚は活きている。それまでのnoguchiでは使うことがなかったオレンジの布地の質感は、ぴったりとジュエリーを映えさせてほかのスタッフを驚かせた。
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こんなふうに、その人に向いている仕事をどんどん任せていくのも、noguchiの特徴なのだと教えてくれた。
「noguchiの美意識は本当にすばらしくて、学ぶことが多いです。視野を拡げたいなって思っている方には向いていると思います」
みなさんとお話をして、あらためてnoguchiが扱っているのは“モノ”ではないのだなと感じました。
noguchiのつくるジュエリーや空間には、言葉にできない繊細な美意識が詰め込まれている。
気になった方は、まずはお店を訪れてみてください。
(2018/2/16 取材 遠藤沙紀)