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私たちが着たいもの

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「evam evaでは、パタンナーをしているのではなく、ものをつくっているという感覚で仕事をしています。本当に私たちが着たいと思っているものを、自分たちの手でつくっている」

仕事の話を聞いているときに、噛みしめるようにつぶやかれた言葉。

この言葉に、evam eva の大切にしたい姿勢が表れているように思います。

evam evaは、近藤ニット株式会社が展開するファクトリーブランド。天然素材のニットや布帛を使った製品の企画・製造から販売までを一貫して行っています。

今回募集するのは、evam evaのものづくりの要となる、パタンナーと縫製担当者。

服飾の大学や専門学校で得た技術や知識を活かしながら働きたいと考えている人や、自分で責任を持って動いていきたい人に合っている職場だと思いました。

そして何よりも大切なのは、evam evaの想いに共感できること。

原点であり、生産の拠点でもある山梨を訪ねて、お話を聞いてきました。

新宿から特急電車に乗り、1時間半ほどで甲府駅に到着。身延線に乗り換え、市川本町駅で下車する。

緑豊かで、鳥や虫の声、土の匂いなど東京とはまた違った空気を感じる場所。

駅から10分ほど歩けば本社にたどり着く。

1階は裁断や縫製が行われる工場。2階に上がり、まずはデザイナーの近藤尚子さんにお話を伺った。

近藤ニットの創業は、昭和20年にさかのぼる。

尚子さんのお祖父さんが山梨で創業して以来、ニットのOEMを中心に経営。現在の代表である近藤和也さんと尚子さんが働きはじめたころ、会社は大きな転機を迎える。

「当時、多くのアパレル企業が生産コスト削減を理由に中国など海外へ生産拠点を移していました。下請けとして仕事をしていた私たちも、想像以上に厳しい状況に直面しました」

安さだけで比べたら、海外にはかなわない。日本国内でものづくりを続けていく難しさを痛感したという。

それでも尚子さんたちは、日本に残り、価格ではないところに価値を生み出していくものづくりを続けていくことを決めた。

そして2000年、山梨で立ち上げたのがオリジナルブランド「evam eva」だ。

ものづくりはできても売ることに関しては経験がない。販路開拓には苦労も多かったという。

「たくさんの人ではなく、自分たちが本当に買ってほしい人に届くように。そのために自社で展示会を企画開催するなど、あるべき姿や売り方を模索しながらつくってきました」

現在、直営店は日本に16店舗。この秋には神戸店もオープンする。

ではevam evaのものづくりとは一体何なのか。

「自分たちが本当に着たいと思うものをつくること」だと尚子さんは言う。

「ブランドを立ち上げるときに、普通はターゲットとなる層を決めて販売戦略をつくっていくと思います。たとえばどこに住んでいて、どのくらいの年代で…というように」

「けれど考えるほどに、自分からは離れてしまう。自分が着ないような服をつくることに、うしろめたさを感じました。きちんと自分が着たいものをつくれば、同じようにそれを求めてくださる方がいるはずだと思っています」

山梨の地で、自分たちだからこそできるものづくりをする。

たとえば移りゆく空の色や、土の色。evam evaのデザインには、尚子さんが山梨で生活するなかで目にする景色など等身大の暮らしが表現されている。

流行を追うことはしないし、セールをして値下げすることもない。

ニットは糸から自分たちで選ぶ。布帛を使った製品は生地を仕入れて裁断するところから。一点ずつ手作業で検品して、風合いをだす洗いまで自社工場で行うそうだ。

販売するときには、スタッフがものづくりの背景も含めて伝え、お客様からいただいた感想は、製造スタッフにも知らせる。

「シンプルなデザインだからこそ、着る人の個性や雰囲気が出るような気がして。購入してくださる層は20代から80代までと本当に幅広く、親子三代で着てくださる方もいます。それはとてもありがたいことだなと思います」

ものづくりと販売を自社で両立していることで、働く人の意識も少しずつ変化しているという。

「ただ言われた通りものをつくるのではなく、『ここはこうしたほうがいいのではないか』『evam evaならこうあるべきではないか』ということを現場のスタッフが考えるようになりました。つくる喜びや意味を、より強く感じられているのかなと思います」

実際に働いている人たちは、どんなふうに感じているのだろう。

パタンナーとして、布帛を使った商品を担当する福地さんにもお話を伺う。

一つひとつ言葉を選びながら、まっすぐに答えてくれる方です。

服飾の専門学校を卒業後、アパレル会社に就職。そこでもパタンナーとして服づくりに関わっていた。大きな会社ということもあり、社内での役割が明確に決まっていたという。

「服づくりの一部だけを担当していたので、ものをつくっているという実感がありませんでした。流行を追いかけるブランドでもあったので、売れなかったら安くする。売るためにつくっている感じも、私には腑に落ちなかったんです」

そんなときに、近藤ニットを見つけた。

「ここでは、日々ものをつくっているということを実感しています。それは幅広い役割を担っているからこそ感じるのかもしれません」

その言葉通り、パタンナーの仕事は本当に幅広い。

たとえば、生地を探すことも役割のひとつ。

全国にある生地屋さんからイメージに合う生地を探したり、生地屋さんと打ち合わせを重ね、一緒にオリジナルの生地をつくっていくこともあるのだとか。

生地探しを終えたら、商品の企画・デザインにも加わる。

基本的な方向性は尚子さんが決める。その後各々が探してきた素材をもとに、どんな商品にするか打ち合わせをする。

「尚子さんは私たちの意見を否定することはありません。evam evaらしくないデザインを提案しても、それを生かすにはどうしたらいいか、一緒に考えてくれる。自分の考えが伝えやすい環境です」

生地を選ぶことから関わっているので、その特性も理解しているしアイデアも膨らませやすい。

デザインが決まると、CADを使ってパターンを引き、縫製ができる形に落とし込んでいく。

たとえば、と見せてくれたのはガーゼ生地のローブ。デザインを形にするまで、かなり悩んだものだという。

「肩の位置をもう少し下げるのか、詰めるのか悩みました。もともとのイメージは詰まった感じでしたが、自分で着てみてもう少しゆるくしてもいいのかなと思って。結果的にはゆるめにして、OKをもらいました」

些細なことに感じるかもしれないけれど、シンプルなデザインだからこそ、ほんの少しの差がスタイルにも着心地にも大きく影響する。

細部までこだわりを持って向き合うことで、evam evaのデザインが形づくられている。

とはいえ、スピード感も忘れてはいけない。パターンは長くても1日、簡単なものなら1日に2型3型つくるときもあるのだとか。

デザインする人と縫製をする人。どちらもすぐ近くで働いているから、その狭間で葛藤することもあった。

「工場では私より経歴の長い社員も多く、効率を考えながら働いている。もちろん大切なことだけれど、ちょっとしたつくり方の違いでデザインや着心地は変わります。効率を優先するのか、時間がかかってもevam evaらしいものづくりを貫くのか、意見をぶつけ合ったこともありました」

「でもしっかり話せたからこそ、お互い目指すところが明確になったように感じていて。ここまで当事者として深く関わることは、自分のブランドを立ち上げない限り、なかなかできないことじゃないかなと思います」

だから楽しいですよ、と笑う福地さん。

決して楽ではないだろうし、一筋縄ではいかないことも多いと思う。それでも自分ごととして関わっているからこそ、迷いなく「楽しい」と言い切れるのだと感じた。

もう一人、福地さんと一緒に布帛製品のものづくりをしているのが縫製担当の宮川さん。

パターンを引く段階から関わり、効率や品質を良くするために話し合いながら商品をつくっている。展示会などに使うサンプル製品の縫製も宮川さんの主な役割。

これから入社する人も、将来は宮川さんのように働いてほしいとのこと。最初の仕事はパーツごとに縫う「部分縫い」を担当するところから。

部分縫いとは、どういう仕事ですか?

「きれいに縫うのは大前提。部分縫いで大切なことはチームプレーです」

チームプレー。

「たとえば襟を縫っているときなら、次の人に渡すときに置く向きも考えます。スムーズに縫いはじめられると、それだけで1秒、2秒は変わってくるんです」

1日中、同じ姿勢で作業を続けることもある。自分が手を止めてしまうと、ラインが止まりほかの人にも迷惑をかけてしまう、責任も大きい仕事だ。

「慣れるまでは、肉体的にも精神的にもつらいなと思うことがありました。でも、私もきちんと教えますし、縫うことやevam evaが好きという思いがあったから乗り越えることができました」

部分縫いができるようになったら、宮川さんのようにサンプルを担当する。部分縫いと違い、1着丸々を一人で仕上げることになるという。

どんなことに気を配りながら、縫製しているのでしょうか。

「やはりいかにしてきれいに仕立てられるかは意識します。だけどサンプルはつくって終わりではなく、その先のことまで考える必要があるんです」

つくった先のこと。

「このあとチームで量産するために、サンプルの段階から縫い方を考えます。デザインとしては良くても、縫うのに時間がかかってしまうなど、パタンナーであり企画デザインを担当している福地さんと仕様をすり合わせます」

現在は15名ほどの布帛縫製チーム。海外からの研修生も多いそう。

全員がきれいに早く縫いあげられて、かつ納得できるデザインを一緒に考えていく。

「縫う順番がひとつ違うだけで、うまく縫えなくなってしまうことや、スタイルが崩れることもあります。正解はないから、自分で試行錯誤して縫い方を考える。粘り強く取り組める人に向いている仕事かもしれません」

ものづくりの要として厳しさも目立つ仕事。それでも宮川さんが頑張れるのはなぜですか?

「そうですね… いい縫い方を見つけられたときはうれしいです。あとはやっぱり、好きという気持ちですね」

「evam evaが好きで、目指しているものに共感できるので。そのブランドのものづくりの、はじまりに関われることは、素敵なことだと思っています」

それぞれ、パタンナーや縫製と仕事は分かれているものの、evam eva のみなさんは全員でこのブランドをつくり上げている印象でした。

ものづくりのすべての工程が見えるこの場所で、本当に自分たちが着たいものを真摯につくり続ける。

それはとても清々しくて、かけがえのない仕事だと思います。

(2018/6/25 取材 並木仁美)