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岩手県北部に位置する岩手町で、1993年に開館した「石神の丘美術館」。ここには屋内の展示室に加え、石神山という山の斜面を利用した屋外展示場がある。

道中には、国内外の作家の手によってつくられた彫刻作品が点在。芝生の広場があったり、ブルーベリーの木が植わっていたりもする。
登りきった先に広がるのは、およそ2万株のラベンダーが植えられたラベンダー園。
満開の時期には、一面に咲いたラベンダーを見ようと、全国からやってきた多くの観光客で賑わう。

ただ、訪れる人の多くが夏のラベンダーや館内の企画展を目的としていて、14haもの広大な屋外展示場を活かしきれていないのが現状だそう。
そこで岩手町では、2020年春を目標に、屋外展示場を芸術と花を融合させたアートガーデンにリニューアルする計画を進めています。
今回はこのプロジェクト全体をコーディネートしていく「石神の丘美術館グリーンマネージャー」の募集です。
これまで空間設計や造園の仕事を手がけてきた人にとっては、企画から関わることのできる良い機会になるはず。
地域の人たちと一緒につくっていく場であり、ここからまちが変わっていく可能性も秘めている。都市計画やまちづくりに興味がある人もいいかもしれません。
地域おこし協力隊としての活動のため、現時点で決まっている雇用期間は3年間。その後はフリーで関わっていくことも、町と契約を結べる可能性もあるそう。
ただ空間をつくるだけでなく、さまざまな人との関わり合いが大きな要素となる仕事です。
岩手町に行くには、東北新幹線のいわて沼宮内駅で降りるか、盛岡駅からも車で1時間ほど。
この日は盛岡駅から美術館を目指す。隣接する道の駅は、平日でも多くの人で賑わっていた。
岩手町では、夏でも涼しい気候を生かした高原野菜の栽培が盛ん。特にキャベツの生産量は東北一なのだそう。

さっそく屋外展示場を散策しながら、まずはこの美術館について教えてもらう。
「館内では、企画展で岩手にゆかりのある作家をご紹介していて、屋外には彫刻作品が置いてあります」

道路工事をしていたら、お墓などにも使われる黒御影石が出てきたそう。この石を使って何かできないかと、今でいうアートインレジデンスをはじめた。
2003年まで、毎年夏に国内外から彫刻家を町に招き、1ヶ月ほど滞在しながら岩手町の石で彫刻作品をつくってもらう。その成果のひとつとして、石神の丘美術館が開館した。
美術館の来場者数は年間2万人。岩手町の人口は1万4000人ほどなので、決して少ない数字ではない。齋藤さんたちは、館内の企画内容にかかわらず、四季を通して屋外展示場の利用者がさらに増えることを望んでいる。
「美術館ってやっぱり『静かにしないといけないよ』とか『触っちゃいけないよ』っていうルールがありますけれど、当館の屋外展示は彫刻に触るのもOKだし、近くでお弁当を食べてもらっても大丈夫です」

屋外展示場は、歩くと40分ほどで一周することができる。山の斜面を利用していることもあり、山の草花が育つエリアと、ラベンダーなど新たに植えたエリアとが混在しているそう。
それがこの屋外展示場の特徴でもある、と齋藤さん。
「山のお花ってあんまり派手じゃなかったり、すごく小さかったりするけれど、それが咲いているのを見て、楽しいとか、自然の中を歩いているという感覚が生まれると思うんです。だから大規模なラベンダー園も、山の雰囲気も、どちらも活かせるようなデザインになったらと期待しています」

もう一人、文化スポーツ推進室の室長である工藤さんにもお話を伺う。このプロジェクトの中心人物であり、今回募集する人の上司になる方。
「実はこの美術館の立ち上げを担当していました。それからいろんな部署をまわって昨年戻ってきたんですが、やはり思い入れがあるのでいい場所にしたいですね」

現在は外部の業者さんと一緒に、設計を進めているところ。とはいえ工藤さんも業者さんも、これまで環境芸術を手がけた経験はないので、どういう形にすればいいのか苦戦しているそう。
「規模も大きいですし、後々の管理がどの程度必要になるかということも考えないといけません。植物は生き物なので、試してみないとわからないことも多いです。役所のまわりで試験的に栽培してみたり、試行錯誤しているところですね」
現在、恒常的に訪れるのは、美術館の友の会に入っている60〜70代が中心。今後は若者世代や家族連れにももっと利用してもらいたい。
メインビジュアルとなる新たな彫刻の配置や、ヨガができるスペースをつくるなど、アイデアは集まってきている。
「ただ、ぽつぽつとあるアイデアをうまくまとめて、全体像を組み上げるところまではいけていないんです。新しく入る方には要となるガーデン全体のコンセプトや、空間づくりから参加してもらいたいと考えています」
予算の関係上、すべてを新しくつくり替えることはできない。場内に点在している彫刻作品の配置換えや、新たな花のゾーンの設置、鑑賞ルートの提案改築など、既存の資源も活用しながら、新たな見せ方を考える工夫が求められる。工事は、来年度から本格的に始まる予定だ。

「新しい花を植えるときや、普段の草むしりも町民の方からボランティアを募って一緒にやっていきたいんです。美術館に興味を持つきっかけにもなるし、自分が育てた庭だと思うと愛着もわきますよね」
思い描いた構想と、実際に運営していく人たちの意見に折り合いをつけて、最善のかたちに落とし込む。役場の人たちや地域の人たち、美術館の学芸員さんなど関わる人の数も多いので、調整が難航することもあるかもしれない。
なので、まずはじっくり話に耳を傾ける。一つひとつ積み重ねていくことで、その場所を使う人の感覚がより鮮明に浮かぶようになっていくのだろうな。
一緒に考えていくうちに、自分の中の引き出しも増えていくように思います。
アートガーデンの空間づくりだけでなく、人との関わりも。両方のコーディネートをしていく今回の仕事。
話を聞くほどに面白そうではあるものの、どんなふうに進めていけばいいのか不安に感じる人もいるかもしれない。
そんなときには、この二人の働き方からもヒントをもらえそうです。

二人とも東京に出て働いたのち、昨年岩手にUターンしてきた。主にSNSを活用した町の魅力発信や地域活性のためのイベント企画などを担当している。
なかでも、冬の美術館を使って開催したイルミネーションは、コンセプト決めから当日の運営まで、すべて自分たちで行ったという。

これまでターゲットにしていたカップルだけでなく、家族や小さなお子さん連れでも来やすいように間口を広げたそう。
たとえばお花のフォトブースを設置したり、子どもたちに楽しんでもらえるお絵描き体験を導入したり。
「ただ、例年はイルミネーションの設置などの作業をすべて役場の人たちがやっていたと聞いて。イベントを続けていくためには、そこも変えていく必要がある。住民の方にも参加していただくことが必要だと思ったんです」
そこで声をかけたのは、町の高校の美術部の生徒たち。一緒に空き缶を使ったランタンづくりのワークショップを開いた。
「私たちもやったことがないので、事前につくってみて。全部手づくりです。それでも当日の段取りがうまくいかなかったりとか、アクシデントもありましたね」

10日間の会期中、来場者数は4000人以上。大雪にもかかわらず前年を上回った。
「楽しかったっていうお客さんの声を直接聞けたことも励みになりましたし、町民の方や役場の方にこういう視点があったんだって気づいてもらえたのも、自分たちのやった意味があったと思います」

「役割は違っても、一緒に働くこともあると思いますし、地域のこととか活動のベースになることは共有もできます。移住してきた仲間でもあるから、一緒に頑張っていく同志みたいな感じでやれたらいいな」
「私たちは、だいぶウェルカムな体制で待っています(笑)」
二人は、この先も自分らしい働き方をつくっていこうとしている。小林さんは、アパレル業界で広報担当として働いていた経験を生かして、町全体のブランディングの必要性を町長に直接プレゼンしたんだとか。
「ホームページとか移住パンフレットみたいなものから見直していきたいんです。町長からは対等に話していいからと言ってもらっていて。応援してくださる方もいるので、今が変わりどきなんじゃないかなと感じています」
町全体が変わるきっかけとなる、良い風が吹きはじめているように感じました。
町のことや暮らしのこと、そして美術館で働くということも。
もうちょっと考えてみようという気になったら、ぜひ8/4(土)に開催されるしごとバー「岩手町リデザインナイト」に足を運んでみてください。

(2018/6/19 取材 並木仁美)