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「いつか地域に根ざして自分のお店を持ちたい」料理が好きな人なら、夢見たことがあるかもしれません。
でも自分で一からはじめるのは、ハードルが高くて難しい。そう感じる人に、知ってほしい場所があります。
奈良県吉野郡、天川村。
山の中腹にある人口1400人ほどのこの村は、数多くの観光資源に恵まれています。

今回募集するのは、洞川温泉街に村がオープンした「シェアオフィス西友(にしとも)」で、地域の食材をメインに使った料理を考え、提供する人。
すでに2名の地域おこし協力隊が、カフェとコワーキングスペースを運営しています。
今回募集する人にも、地域おこし協力隊として加わり、任期後も村に住み続けてほしいと考えています。

この場所で経験を積んで、任期が終わったら、村のどこかで自分のお店を出すのもいいかもしれない。
そんな夢を抱きながら、チャレンジできる場所だと思います。
京都駅から近鉄を乗り継いで、奈良県・吉野方面へ1時間半ほど。その後、さらにバスに乗り換え1時間。峠を越え、いくつものトンネルを抜けて、天川村の入り口にあるバス停に到着する。

車で迎えに来てくれていた天川村役場の元井さんと合流し、シェアオフィス西友のある洞川地区へ向かう。

元井さんは、天川村で生まれ育った。村外の高校・大学に進学し、就職を機に戻ってきたんだそう。
「子どものときは何にもない村やなあと思っていたんですけど、大人になったからわかる魅力ってあるんですよね。天川には、天然の自然林が残っている山があります。その目の前に集落があるのは、全国でもめずらしいんですよ」
いろんな話を聞いていたら、車は15分ほどでシェアオフィス西友に到着した。

「今は静かですけど、夏の間はずっと観光客の方が来てくださって。この道も車が長い列をつくるし、飲食店の数が少なくてランチ難民が出たり、駐車場がキャパオーバーになってしまうくらい。逆に冬は寒すぎて、全然人が来てくれないのも悩みなんですけどね」
そんな課題の解決に貢献できたら、と村がこの場所をつくった。訪れる人に休んでもらうお店を増やすとともに、すでにあるお店と競合にならない分野で地域全体を盛り上げる起点となるような場所にしたいと考えている。
ここで働く人も地域とうまく関わってほしい。
「面接で話をさせてもらうときには、地域に馴染むことのできる人か、っていうのを重要視しています」
村には、消防団に清掃活動、お祭りやお葬式の手伝いなどの行事がたくさん。そういうところにも積極的に参加できる人なら、村の人と親しくなっていけると思う。
「今、合計で6人の協力隊の方がいて、そのうち2人は家族連れで来てくれています。まだ任期が終わった方はいないんですけど、皆さん住み続ける予定で活動してくれています」
カフェを運営する幸家(こうけ)さんもその1人。3年前に、家族で大阪から移住してきた。

幸家さんは、特産品開発の分野で採用になった。
「自分で野菜を育てるところからはじめて、何か天川の特産品がつくれたらなあと思って。今はカフェの仕事と並行してやっています」
実はこの場所、過去には別の協力隊の人が料理を提供していたこともあったそう。ただ、その人が農業分野での採用だったため、そちらに専念するために閉店。建物が空いているのを見て、手を挙げたのが幸家さんだった。
「料理は出せないけど、カフェならできるかなって。大阪にいるときから、いつかは自分のお店をやってみたいと思っていたんです」
喫茶店のアルバイト経験はあっても、飲食店を一からつくるのは初めて。メニューを考えるところから仕入れまで試行錯誤しながら進め、今年の6月にカフェをオープンさせた。

「料理をつくってくれる人も、この地域のものを使ってくれたらうれしいですね。特に、天川でつくられた野菜ってすごくおいしいんですよ。普通の野菜なのに、どれも甘みがあって味が濃くて、みずみずしい。その味を活かしたら、きっとおいしい料理になると思います」
他にも、湧き水で仕込まれた豆腐や、天然の川魚も村の自慢。料理の幅は広がりそうだ。
料理人として働く人は、幸家さんと二人三脚で進めていくことになる。
「それぞれ私はカフェ、新しい方は食事がメインの担当として、メニューや食材はお互い自由に考えていければなって。一緒に店に立つことになるので、キッチンも共同で使いますし、調理の手伝いや接客はサポートし合いながらやっていきたいなと思っています」
幸家さんは、知り合いがいないころから行事に参加するなど、地域に馴染む努力は欠かさなかったそう。今では顔なじみの人も増えて、農業をはじめるときにはいろいろとアドバイスをもらったんだとか。

「ここで生まれ育った人は、密な関係がしんどい部分はあるかもしれないですけど、私たちは良くも悪くも途中から入って来た人間。だから強く干渉されることはなくて、むしろ困ったときはすぐに助けてくれるんです」
観光資源のある村だから、村の人たちも協力隊に頼るという感覚ではない。まだまだ自分たちでやっていけると考える人が多い印象なんだそう。
この村の協力隊には、すでにある資源に加えて、より地域が賑わっていくためのアイデアを考えていく必要があるんだと思う。

「どれくらい混雑するのかまだわからないけれど、忙しくなったらうれしいです。今はまだ村の人たちも様子を見ている感じ。この場所が、観光客の方はもちろん、地元の方にも来てもらって、ほっと一息ついてもらえるような場所になったらいいなと思います」
この場所は村営だから、運営はまた次の協力隊が続けていく。幸家さんは、任期後には念願だった自分のお店をオープンする予定なんだそう。
料理人として働く人も、3年後の仕事は自分で探す必要がある。本格的にお店を持つのか、どこかで働く道を見つけるのかも自分次第。
覚悟はいるかもしれないけれど、この場所で結果を出すことができれば、きっと将来につながっていくと思う。
次にお話を聞くのは、2階のコワーキングスペースの運営を担当している安大(あんだい)さん。昨年の12月に2人で天川村に移住して来た。

もともと天川村にはよく訪れていた。移住先の候補として考えていたときに、協力隊の募集を見つけたんだそう。
現在は、この場所を多くの人に知ってもらうための情報発信や、カフェのメニューなどをデザインしている。
「村として、この場所を流行らせたいということは決まっていても、その方法は自由で。来たときは、『箱ができました、お願いします』みたいな感じでした(笑)」
ひとまずHPをつくろうと試みたけれど、建物自体のコンセプトや、コワーキングスペースのターゲットが、きちんと定まっていない状態だったそう。
ほかの地域のシェアオフィスやコワーキングスペースを訪問して、情報収集や人脈づくりを行いながら、0から考えて場所をつくり上げてきた。「成長を目指し集える場所」をコンセプトに掲げ、シェアオフィス西友のHPも先日ついに公開されたそう。
「役場の方は必要なものは買い揃えてくれるし、可能な限りアイデアを実現させようとしてくれます。料理をつくる人も、仕入れ先とか数量とか、自分で決められる範囲は広いと思います」
現在、まだコワーキングスペースの利用はほとんどない状況。まずは個人単位の利用から、いずれは企業の利用につなげられればと考えている。
「僕も含めて誰もプロじゃないですし、経験もない。ペースが遅いのは仕方がないし、東京や大阪でもコワーキングスペースが広まったのは最近だし。それを田舎で、しかも行政でやるわけですから、ハードルは高いと思います」

コワーキングスペースの苦労に比べて、需要が見込めるカフェでは、結果が目に見えるのは早いように思う。
それに、この場所だからこその強みはある。
「ここは田舎でも、観光客の方がたくさん来ます。全然人の来ない場所でカフェをやるのは、どんなに自信があっても心が折れると思うんですよ。でもここは、そういうさみしさは少ないんじゃないかな」
「温泉街の一等地に場所を借りるなんて、自分じゃできないことだし。どう捉えるかは人それぞれですけど、腕を試すにはいいチャンスだと僕は思いますね」

何より、自分の料理に集中して取り組むことができて、それに対してすぐに反応がもらえる環境が整っているのは、一番の魅力に感じます。
普通なら難しいチャレンジも、ここならできるかもしれない。
天川村、ぜひ一度訪れてみてください。自然が豊かで素敵な村ですよ。
(2018/06/29取材 増田早紀)