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「やってみたいことがあれば、まずはやってみたらいい。ここにはそんな土壌があると思うんです」たびたび登場したこの言葉が、何より印象的な取材でした。
ホールアース自然学校は、自然を切り口にさまざまな活動をしている団体です。

今回募集するのは、こちらで働く実習生。
約8ヶ月間、インタープリテーションを中心に現場経験を積みます。本人と組織の双方が希望すれば、修了後も正社員として働くことができるそうです。
あわせて正社員として、環境・野外教育、ガイドなどの経験者も募集します。
この日の待ち合わせ場所は、新富士駅。
東京駅からは新幹線で1時間。駅を出ると、ホールアースの皆さんが迎えに来てくれていた。

車を降りると、そこは富士山麓。

そう案内してくれたのは、執行役員の角田(すみた)さん。よく通る声の持ち主で、話しやすい方だ。

原点は、1982年に創業者のご夫妻が開いた動物農場。
キャンプやトレッキングなどのアウトドア体験、里山保全や有機無農薬農業など、自然を切り口に活動の幅を広げてきた。
角田さんがホールアースにやってきたのは12年前のこと。
もとを辿ると、生まれ育った里山での体験に行き着く。裏山に基地をつくったり、化石を掘ったりと自然は小さなころから身近な存在だった。
「仕事も自然に関われるものがいいなと思っていました。でも、自然を仕事にするのは現実的じゃないよなって気持ちもあって」
ならばいっそお金や時間を自由に使える資格を取ろうと、法律系の事務所で働きはじめる。
「でも30歳を目前にして、このままだと自分の人生、すげえつまんないよなって思って。やっぱり自然に関わろうと、自然学校の研修に参加してみることにしたんです」
その研修のOJT先に選んだのがホールアースだった。
「同じ価値観で話せる人がたくさんいましたね。研修後も、やっぱりあの場所で働きたいなと思って。頼み込んで入社させてもらいました」

たとえばこの春に開催した、トレイルランニングとマインドフルネスのワークを組み合わせたプログラム。
「以前、マインドフルネスの講座に出てみたんです。呼吸に意識を置くマインドフルネスと、今この瞬間の目先や足元に集中するトレランってすごく似てると感じて」
「それなら、自然の中で一緒にできたら最高だなって思ったんですよね」
そうしてマインドフルネスを専門にする団体と共同開催が実現。参加者にも好評で、今秋の開催も決まったそう。

「そうですね。僕たちは、ホールアースを船に例えることがあるんですよ」
船、ですか?
「そう。ここに集まった人たちは同じ羅針盤のもと出港した仲間。向いている方角は同じだから、あとは各自やりたいことをどんどんやって、互いに背中を押し合う。そんな文化は、長い歴史の中でずっと残っているみたいです」
「それぞれがアンテナを立てて、いろんな分野を自然に掛け合わせたらもっと面白いことができそうな気がする。それがホールアースの新しい色にもなると思うんですよね」
再び車に戻り向かった先は、ホールアースの富士山本校。


ホールアースのインタープリターは、ほとんどが実習生を経て入社している。3年目の松尾さんも、その一人。

自問自答を繰り返すなか、ふと出てきたのが「自然」というキーワード。思い返すと、昔から生きものが大好きだった。
「じゃあ自然の中で働くってどんなものがあるのか調べたら、生きもののことを学べる専門学校や、自然を仕事にするホールアースの存在に行き当たりました」
自分の好きなものに関わりながら生きていけるかもしれない。
一念発起、仕事を辞めて専門学校へ。2年後、ホールアースに実習生としてやってきた。
実習期間はどうでしたか。
「まずとにかく実践の毎日でした。少し研修したらすぐに現場にポンと出されて。あれこれ教えてもらうというよりも、まずは先輩たちを見て学ぶという感じでしたね」

短い研修期間を終えると、午前・午後・夜と毎日繰り返しガイドをして、その都度先輩からフィードバックをもらう。その先でいよいよ独り立ちだ。
「自分と子どもたちだけで、大自然に飛び込んでいきます。最初のうちは不安で、やるべきことを全部書き出した紙を何度も読み返していました」
「でも、現場ではハプニングも多くて。子どもの関心がふいに現れたリスに向かったら、話の途中でもリスの話題に切り替えたり、残り時間なども見ながらできることを精一杯やるしかありません」
ホールアースの伝統は、「現場主義」。
現場にすべてがあり、そこで自分が体験したことこそ説得力を持って伝えられるという考え方だ。
「最初はただの知識だったこの言葉が、怒涛の実践を通して自分ごとになっていく感覚があって」
自分ごとになっていく。
「借りものの言葉じゃなくなったんです。緊張しいだった僕が、今は人前で好奇心全開で話している。不思議な感覚ですね(笑)」
一方で、実習中は予想外のことも多かった、と松尾さん。
「インタープリテーションの時間以外にも、山で間伐をしたり、その間伐材でウッドデッキを一からつくったり。うわっ、こんなことまでするの?って」

さらに夏には、ホールアースの敷地内で子どものキャンプもはじまる。事前のコース見回りや食材準備といった手配から後片付けまで、一切気は抜けない。
「自然の中で働くって、限界まで自分の感性と知性を使わないといけないのかって。正直面食らいましたね」
「でも、予想外のことが次々に起こるのは、必ずしも悪いことじゃなくて」
どういうことでしょう。
「いろんなことを経験するなかで、思ってもみなかった出会いがあったりするんです」
たとえば、と教えてもらったのが、今度松尾さんが開催するという「手づくりアロマ教室」。

「僕もやってみて、こんな植物の使い方があるのかって興味を持ったんです。すると周りから『それならアロマ教室やってみたら?』って言われて。あれよあれよという間に開催が決まりました」
松尾さんは主催者として、企画から広報、開催まですべて自分で手がけることに。
「まさか自分がアロマ教室を開いちゃうなんて思ってもみなかったですよ。でも、アロマを通して植物の有効活用を研究できるかもっていう好奇心がすごくあって」
興味を持った先に、実践の場がある。
裏を返せば、スタッフはそんな主体的な姿勢を求められているのかもしれません。
「そうですね。受け身では難しいと思います。まずやってみて、自分なりに反省して次につなげる。そうやって自分がアップデートされていく感覚が、僕は面白いです」
最後に話を聞いたのは、同じくインタープリターの壽榮松(すえまつ)さん。

「もちろん仕事も面白かったんです。でもそれはあくまでマネーゲームというか。だんだんと、自然の中で生活できたら本当に楽しいんやろうなと思うようになって」
登山のガイドをしながら、農山村での暮らしを学び、伝えられるような仕事はないだろうか。そう考えていたところでホールアースを知り、1年前に実習生になる。
ところが4ヶ月目を迎えたあたりで、行き詰まりを感じはじめたそう。
「うちは、社会的企業だとよく言われていて。僕も最初は『社会のためになるプログラムって?』とか、真面目に向き合っていたんです」
「でも僕はもともと、山が好きとか、自然の中での生活への興味でここに来たから。途中で自分はそんな高尚な人間じゃない気がして、社会のために動くことが本当に自分のやりたかったことなのかなって考えはじめちゃったんですよね」
社会のためってどういうことだろう。毎月提出するレポートに、その気持ちを正直に書いたそう。
「そしたら角田さんが、まずは肩の力を抜いて、自分のやりたいことをやればいいと思うよって言ってくれて。そんなこともあって、今の活動の主語は“社会”じゃなくて“自分”なんですよね」
主語が自分?
「うん。僕は純粋に、参加者と一緒に自然を体験して喜んでもらうのが楽しい。その副産物として、自然が好きになったり、環境のことも考えてもらえるのかもなって」

「僕が担当したプログラムに参加するために、遠方から馴染みの参加者さんが来てくれることになったんです。やっと取れた休みだから、娘と一生の思い出をつくりに行くよって」
「でも僕は正直、ちゃんと楽しんでもらえるか不安で仕方なくて」
もちろん準備から当日の運営まで精一杯取り組んだものの、不安は拭い去れなかった。
「プログラムが終わって、素直にそう伝えたんですよ。そしたらまずは楽しかったと。そして『もし失敗しても、自分たちのために一生懸命駆け回ってくれたことがうれしい』って言ってくれて」
すごい。そんな言葉をかけてもらえるなんて。
「その関係性がすごくうれしかったんですよね。やっぱり来てくれたからには全力で尽くしたい」
「今は仕事と遊びの距離がすごく近いんです。甘んじずに、思いっ切り真面目に遊ぼうっていう気持ち。もう、みなぎってますね」
最後に、角田さんの言葉を。
「エネルギーのある人に出会いたいです。うずうずしていて、とりあえずやります!って言えるようなね」
「きっとね、そういう隠しきれないものって、会ったらすぐに分かるんです」
(2018/09/14 取材 遠藤真利奈)