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岡山県の県北、鳥取と兵庫の県境にある西粟倉村。東西を山に挟まれた、小さな集落があります。
一見ごく普通の田舎なのですが、実は1500人の村人のうち約180人が、ローカルベンチャーに関わる仕事をしているエネルギッシュな村。
在来産業である林業や木材加工をはじめ、食やファッション、医療まで。様々な業種の起業家たちが、ここでそれぞれの想いを仕事にしています。
今回募集するのは、そんな西粟倉村の魅力を伝えるためにツアーを企画したり、情報発信を担当する広報の仕事。

所属することになるエーゼロ株式会社は、この村の起業家たちをサポートするハブのような役割を担っています。
代表の牧大介さんはローカルベンチャーに携わるプロジェクトに長年取り組んできた人。
地域で働いてみたいという人には、一緒に働くことで得られるものがたくさんあると思います。
広報の経験は問いません。むしろ、ここから成長できる伸びしろのある人を探しています。
姫路から電車を乗り継いで1時間ほどで、あわくら温泉駅に到着。
駅から歩いてさらに5分。エーゼロやほかの起業家たちが仕事場として使っている、旧影石小学校に到着した。

少し校内を散策すると、食堂や帽子屋さん、木材加工の作業所もあれば、なんと、体育館ではウナギを養殖しているのだとか。
教室を改装した応接室で代表の牧さんと会い、西粟倉がローカルベンチャーの村になった経緯を伺う。

全国的に平成の大合併が進むなか、あえて村として自立していく道を選んだ西粟倉は、村をあげて林業の再興に取り組むことに。
先人の残してくれた森を生かし、森林の育成から木材の加工流通まで「6次産業化」を目指した「百年の森林構想」がスタートする。
「あるとき、森林組合で働いていた人が家具づくりの会社を立ち上げたんです」
「せっかく挑戦する人が現れたんだから、それだけで終わらせたくない。『地域で起業っていうのもアリなんだよ』っていうことをここから発信できるように、移住者の受け入れと起業支援に取り組みはじめたんです」
人材育成を見据え、地域づくりのハブとして立ち上がったのが、「株式会社 西粟倉・森の学校」。
牧さんが代表を務め、オリジナルの木工製品の生産販売と、西粟倉で起業する人のサポートをはじめる。

「起業と言ってもいろいろで、都市でいうフリーランスみたいな働き方をしている人もいますし、従業員を抱える企業として運営している人もいます」
旧影石小学校の1階にお店を構える日本酒専門店・酒うららは、はじめ地域おこし協力隊として村に来た人が開いたお店。
学校の中にある店舗で販売するだけでなく、出張日本酒バーとしていろんなところに出向いたり、遠方の飲食店に卸したり。その活動は都市部のいわゆる酒屋さんとは少し違う。
牧さんは、そんなふうに起業を目指す人たちと関わりながら、それぞれの仕事をサポートしてきた。

そこで新たに発足したのがエーゼロ株式会社。
地域に必要な人材を育てるために、研修制度などを整え、起業家たちの活動を支援をしてきた。
今回の募集で入る人も、村の自然やそこで奮闘している起業家たちのことを伝え、地域のことを知るきっかけをつくっていく。
「広報って、つまりは村のお客さんやファンを増やすための活動なんです。だから、ときには営業的な役割も担ってもらうかもしれない。最初は僕の直下で働きながらノウハウを吸収してもらえたらと思います」
「僕と各チームの間に入って整理してもらう仕事とか、場合によってはみんなの名刺の手配みたいな、総務っぽい仕事もあるかもしれないです」
日々忙しく飛び回る牧さんのもとで働くのは、少しハードかもしれない。
ただ20年以上、地域の中に入って活動してきたノウハウを吸収できる恵まれた環境でもある。
「これから成長していきたいっていう気持ちがあれば、僕がしっかり鍛えます。ちゃんと、誰に何を伝えたいのかっていうことを真剣に考えられる人ならば、広報の技術や経験はなくてもいいんです」
今までは、牧さんや各部署の人がそれぞれに広報をしてきたけれど、今後はもう少しきめ細かく村のことを発信していきたい。
「遠くに住んでいる人にも、西粟倉を身近に感じてもらえるように、この村の何気ない情報を届けたい。稲刈りが終わったとか、そこに赤とんぼがいっぱい飛んできて産卵してるとか」

それらの更新や、メディアの取材対応は広報が主体的に担っていくことになる。
加えて期待されているのは、村を実際に見て感じてもらうためのツアーの企画。
これまでに牧さんや、森の学校の先輩たちが企画から運営まで回を重ねているので、ノウハウを教えてもらいつつ、覚えていけるはず。
「当初はとにかく村へ来てもらいたくて、寝ずにツアーをやっていたんです。日中は森を歩いて、夜はお客さんと11時くらいまで話した後に『今からうなぎ割くぞ!』とか言って、次の日のお昼ごはんのうなぎを割く。今はもう体力なくてできないですけど(笑)」

「いや、ツアーってね、食事の手配をどれだけ丁寧にするかが重要なんです。だから、広報担当も食べるのが好きで、その季節ごとに一番おいしいものを食べさせたいっていうことに執着できる人がいいんですよ」
「たとえば9月末なら脂の乗った夏鹿を熟成させて出せるし、オオスズメバチの蜂の子もいいのがある。10月ならおばあちゃんに頼んで鯖寿司をつくってもらおう。11月なら自然薯掘り体験をしてもいいし、後半になるとジビエ系もイケる、みたいな」
もはや、細かい日程のセッティングは食材の都合ありき。そういう季節感は、現場で暮らしているからこそわかることかもしれない。
「あと鳥取からお嫁に来ているおばあちゃんのいる家だと、柿の葉寿司をつくる習慣があったり、隣県の食文化も混じっていて。地元の人にヒアリングをして、民俗学的なことを探ってもおもしろいですね」
おばあちゃんと仲良くなって、レシピを教えてもらったり、思い出話を聞いたりすると、そこからまた発信できるコンテンツが増えていきそう。
村のあちこちに、まだ磨かれていないコンテンツがたくさんある。

食堂ですか。
「僕たち、ベンチャー企業だから、ある程度軌道にのるまでは本当に忙しい。田舎にいても全然のんびりしてなくて、家事とかやる余裕もないから移住者たちが集まって、ごはんを食べられるような食堂があったらいいなって思って」
「本当に生活も自然もゴッチャゴチャの中でみんな生きているんですけど、いつかは『田舎で新しいビジネスをやるなら、西粟倉ほど環境が整っているところはない』って言ってもらえる村にしていきたいんです」
成長していく村だからこそ、魅力だけでなく、足りない部分に気づくこともきっとある。
さすがに広報が全部を一人で実現するのは難しいけど、「こんなものがあったらいいな」という気づきを共有することが、村の新しい魅力やコンテンツにつながっていく気がする。
「ここにいれば企画から実施までプロジェクトの流れを仕事として経験できるので、『いつか故郷で何かやりたい』と思っている人には、学ぶことが多い環境だと思います。できれば、学んで後継者を育てるところまで、5年くらいは働いてくれたらベストですけど」
いつかは故郷で。
まさにそんな想いで西粟倉にやってきたのが、沖縄出身の金城さん。

「大学を出て、まずは奨学金を返そうと、地元でコンサルの営業職に仕事に就きました。けど、やっぱり田舎や地域の中にいたいという想いが捨てきれなくて」
新卒で入社した会社を辞め、西粟倉へ。大学時代を岡山で過ごしたものの、山陰に近いこの村での生活は新鮮だったという。
「冬は本当に寒いんですけど、雪景色はきれいですよ。雪が積もったら、後ろからどうどうどうどうって雪が出てくる、小型の除雪機を自分で動かすんです。薪ストーブを焚いたりするのも楽しいし。雪に飛び込んだ写真を親に送ってみたり(笑)」
自然や季節の移り変わりだけでなく、人との関わりも、金城さんの生活には欠かせないものだという。
「こないだも、稲刈りが終わった田んぼを眺めながら、道を歩いてたおばあちゃんと3時間くらい話し込んでました。『新米の季節ですね』からはじまって、鯖寿司を仕込む話とか、お友達の話とか。やっぱり食べものの話題は距離が縮まりやすいですね」

「ここは街道で、もともといろんな人が行き来する村だったせいか、程よい距離感で見守ってくれます」
「なかには移住者に対して少し壁を感じている人もいますけど、そういうコミュニティ意識がはっきりしている人ほど、『よそから来てわからないことないか?』みたいに気にかけてくれることも多いんです。だからある程度鈍感に、いろんなところに行ってみるといいですよ」
地域の人と話をしたり、行事を手伝ったり。日頃の関係が仕事に生きてくることも。
「去年、起業家さんたちを取材する仕事をしたんですけど、普段何気なく聞いていたエピソードが活かせることも多かったです」
「たとえば、トラックに乗りたくて林業をはじめた方がいて。誰もやってないことをやるっていうことにやりがいを感じているから、山主さんからの難しい要求にもちゃんと応える。そこに、すごくこだわっているんです」

木々がまっすぐ伸びた景色は眺めているだけでもきれいだけど、そこで働いている人の想いを知ると見方が変わってくる気がする。
これから、ますます多様化しそうな西粟倉のローカルベンチャー。
この村の新しい住人になる広報担当がどんなニュースを届けてくれるのか、今から楽しみです。
(2018/9/29 取材 高橋佑香子)