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ずらりと並ぶ、色とりどりのジャムの瓶。スタイリッシュなパッケージや、見慣れない外国の食材。誰かへのプレゼントなど、ちょっと特別なものを選びたくなるようなお店。
今まで私にとって、DEAN & DELUCAはそんな存在でした。
実際に話を聞いてみると、そんなスタイルよりもまず、思わずお腹がすいてくる。そんな食の本質に触れる取材でした。
DEAN & DELUCAの食の魅力を教えてくれたのは、商品の買い付けをしているバイヤーさんたち。
今回は、その新しいメンバーを募集します。
DEAN & DELUCAは1977年、N.Y.SoHoで生まれたブランド。世界中の食材を通じて、豊かな食の楽しさを提案しつづけています。
取材で訪ねたのは、日本のDEAN & DELUCAを運営する株式会社ウェルカム。
外苑前駅から10分ほどのところにあるホームオフィスに向かいます。
まずはバイヤーチームである商品企画部の統括部長、田中さんにDEAN & DELUCAで扱う商品のことを教えてもらいました。
「DEAN & DELUCAで扱う食材のメインは、創業者のルーツでもある地中海食材です。チーズやオリーブオイルって、日本人にとっては必需品ではないかもしれないけれど、イタリアの食卓では味噌や醤油のような存在なんですよ」
シチリアでは魚料理、トスカーナは肉や煮込み料理というように、その土地で採れる食材の違いによって、変化に富んだオイルやチーズが生み出されてきた。
そんな食のルーツも含めて消費者に届けたいと、田中さんたちは考えている。
「DEAN & DELUCAはおしゃれですよね、と言っていただけることもすごくありがたいんですが、僕たちはそれよりも、食の本質を伝えられるお店でありたい。だから余計な装飾はせずに、食材の美しさをしっかり見せることにこだわっていきたいんです」
日本の消費者に食の本質を届けるために。
商品を仕入れるときには、食材が生まれた場所の気候や風土を体感するだけでなく、つくり手の思いまできちんと理解することを大切にしている。
「イタリアは気候に恵まれているから、原料そのものがいい。それを収穫してすぐに現地で加工したいので、情熱を持った現地のつくり手さんの力が必要なんです」
農作物を生産者が加工して販売する“6次化”が、日本よりも一般的に行なわれてきたイタリア。
バイヤーは工房を訪ねて、品質やつくり手の思いを自分たちの目で確認していく。
「つくり手さんに話を聞くと『別に、たいしたことじゃないよ』みたいに言われるんですけど、実際はすごく丁寧に手間のかかる製法でつくっているんです。ワインの原料のブドウを手摘みで収穫したり、機械を使わず天日でドライトマトをつくったり。彼らにとっては当たり前のことなんですけどね」
ところが、バイヤーや生産者のこだわりが詰まった製品も、容器に収まって店頭に並ぶと、使い方さえ一目ではわかりにくい。
だから、DEAN & DELUCAでは料理の写真やレシピを紹介することで、より具体的に製品のイメージを伝える工夫をしている。
日本人の知らない場所で育まれた食文化だからこそ、きちんとリアリティをもって伝えたいと、田中さんは言う。
「リーフレットやPOPで使用するために食材の写真を撮るときは、きちんとその土地の食卓を表現するようにしています。たとえばトスカーナの写真を撮るときは、実際に現地で食されている料理を再現し、使われている食器に盛り付けてシーンとして表現する。そうすることで、自然とトスカーナの食文化を感じてもらえます」
トレンドやスタイル、フォトジェニックであるかではなく、食材のルーツを尊重する。
創業者から受け継がれたその考えは、DEAN & DELUCAの基本としてバイヤーの間で共有されてきた。
だから、バイヤーそれぞれの味覚や好みに個人差があったとしても、ブレることなくブランドのクオリティを維持することができている。
「今までは、店舗スタッフから公募や推薦でバイヤーを集めてきたので、スタンダードがかなり固まっているんです。ただ、そこだけに止まっていたら先には進めない。今年はDEAN & DELUCAが日本に入ってきて15周年でもあるので、少し新しい視点を持ったメンバーを加えたいと思っています」
新しい視点ですか。
「たとえば調理人のように、仕入れや販売以外でも食に関わった経験のある人とか。ただその場合も、最初は店舗で研修をしてもらいたいです。店舗スタッフはバイヤーになってからも協力しあう仲間だし、店舗で身につく経験はバイヤーとしても大切なので」
現在、バイヤーチームをまとめている宮嶋さんも、DEAN & DELUCAの入り口は店舗からだった。
宮嶋さんのご実家は牧場を経営していたこともあり、チーズに関わる仕事としてDEAN & DELUCAを選んだのだそう。
店舗で働いているうちに、チーズ以外の食材にも関心が広がっていった。
「料理長から『チーズは食卓の一部分なんだから、もっと広い視野を持たないと、お客さんに楽しんでもらえないよ』って言われて。ほかの食材のことも知りたいと思うようになったんです」
シェフや生産者など、バイヤーの仕事はいろんな人から教わることも多い。
宮嶋さんも、経験の浅いころは仕入れ先でよく怒られていたそう。
「僕は買い付けに行くと、つい前のめりになっちゃうんです(笑)。だから生産者さんに『味だけじゃねえだろ、もっとどういう流れでつくっているのかも考えろ!』って言われて。ほとんど学生あがりだったので、礼儀から教えてもらった師匠みたいなものですよ。今では、自分の結婚式にもお呼びするような関係です」
主観的な味のことだけでなく、ルーツやつくり手の専門性など、バイヤーとしての眼を養いながら経験を積んできた宮嶋さん。
現在は主力商品である地中海食材の買い付けのため、年に一回イタリアへ出張している。
シチリアでしかつくれないパキーノトマト、トリュフの収穫から加工まで全部自分たちでつくることにこだわっているつくり手。イタリアには、“そこでしかつくれないもの”がたくさんある。
展示会に行って商談をしたり、現地の工房でシェフと一緒に製品開発をしたり。言葉では伝わりにくいこともあるので、バイヤー自身の体験として食材をインプットしていく。
「生ハムの工房を訪ねたとき、職人さんにこだわりを聞いたら、『自分たちはたまたまラッキーだっただけだ』って言うんです」
生ハムは、生肉に塩を振って熟成させるという、とてもシンプルな製法でつくられる。
熟成に必要な乳酸菌や酵母が活発になる環境は、人工的につくれるものではないのだそう。
「同じような工房が並んでいる地域の中でも、たまたま地下水の流れがよくてマイナスイオンが出てるとか、本当に奇跡的な条件が揃うからおいしくなる。それってすごいことだと思うんですよ」
実物に触れて、体験して、人の思いを知る。
インプットするだけでなく、その感動を伝える工夫もバイヤーの大切な仕事。
「DEAN & DELUCAで扱う商品は、日本の食卓にとっての必需品ではないので、どんなにいいものでも瓶に詰めただけでは売れません。だからつくり手さんの思いとか、これを食べることでどれだけハッピーになれるかというストーリーを伝える必要があるんです」
店頭やウェブでの見せ方を考えるために、マーケティング担当と打ち合わせをしたり、営業担当のための勉強会を企画したり。
海外での仕入れという華やかなイメージの裏で、8割は地味な仕事をしていると宮嶋さんは言う。
食のことを、正しく、楽しく伝えるために。
「大変な部分もありますけど、探究心がある人なら楽しめると思いますよ」
宮嶋さんと同じくバイヤーとして、雑貨と紅茶・コーヒーの仕入れを担当している塚原さんがDEAN & DELUCAに入ったのも、そんなふうに時間をかけて取り組める仕事をしたいという思いからだった。
塚原さんは、店舗で販売のアルバイトをする前から、お客さんとしてDEAN & DELUCAを利用していた。
「以前はみんなが持っている“あのバッグ”のお店くらいの認識だったんですけど、入ったらバッグも含めて、すべての商品にちゃんとルーツや理由があることがわかりました」
たしかに、ロゴの入ったトートバッグをきっかけにDEAN & DELUCAのことを知る人も多い気がする。
バッグをはじめ、カトラリーやクロスなど雑貨類も扱っているけれど、お店の主役はあくまで食材。
「DEAN & DELUCAは、一周したら食卓がつくれるようなお店なんです。クロスを敷いて、お皿があって、グラスがあって、ナイフやフォークがあって。食材をさらにおいしく表現するために雑貨は存在しているんです」
バッグのデザインも、それを持ってカフェに行ったり、市場に買い物に行ったり、そういう食に関わる生活のシーンを考えてつくられている。
食材を引き立てるための道具だからこそ、バイヤーとしての視点は、食材と同じくルーツやつくり手の思いに向かう。
「アメリカのダイナーで使われるマグとか、イタリアで生ハムを盛るためのボードとか、日本人には馴染みがなくて、ちょっとおしゃれと捉えられてしまうこともあるんですが、もともとは合羽橋みたいなところで積み重ねて売られているものなんです」
「そういう飾らないものを扱うことが、DEAN & DELUCAらしさだと思います。だから私たち自身が、現地のリアルな食文化を知って、どういう雑貨があれば食材を楽しむことができるかを考えていく必要があるんです」
リサーチしたものを仕入れるだけでなく、職人と共同でオリジナルのものを製作することもある。
「トスカーナの職人さんにお願いして、アンティークの製品をモデルにお皿をつくってもらったことがあって。白地にターコイズブルーの模様がすごくきれいなんですが、日本と現地では色の見え方が違っていて、何度もやり直しをしました」
クオリティにこだわるだけでなく、店舗に並ぶ日程も逆算して、いろんな商品の納期を並行して管理していく。
「トラブルが発生することもあるので、ある程度は強い心が必要かもしれません。ただ、私たちは彼らに仕事を与えているわけじゃなくて、つくってもらっているんです。普段からそういう意識がないと、信頼関係は築けないと思います」
つくり手への敬意によって保たれてきた、DEAN & DELUCAの品質。
おいしい食事に欠かせないのは、そんなふうに、丁寧につくられたものをいただいているという実感なのかもしれません。
(2018/10/18 取材 高橋佑香子)