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ビーカーに試験管、フラスコに試薬瓶…きっと誰もが一度は触れたことのある、実験用のガラス製品。正式な名前を「理化学ガラス」と言います。
活躍の場は、主に学校や研究所。だからふだんの生活には、あまり馴染みがないかもしれません。
そんな理化学ガラスの可能性を広げようとしている人たちがいます。
関谷理化株式会社。理化学ガラスの製造・販売を手がける、老舗企業です。
大学や研究所など、使う人が限られてきた理化学ガラスを、広く一般の人たちにも使ってもらおうとさまざまな提案をしています。

また、リカシツのすぐそばにある「理科室蒸留所」では、本格的なアロマ蒸留器を見ながら、水出しのコーヒーや紅茶などを楽しむことができます。
「せっかくいいものだから、もっといろんな人が使えるようにしたいんです。そして減り続けるガラス職人の仕事につながればいいなって」
社長の関谷さんは、そう話します。
今回募集するのは、企画営業職。
まずはショップの店頭に立ったり、小売店をまわったり。そうしてすくい上げたお客さんの生の声を、暮らしにまつわる商品の企画や開発に生かしていきます。
東京・清澄白河。
関谷理化が運営する「リカシツ」と「理科室蒸留所」は、駅から歩いて5分ほどの場所にある。
この日は、まず理科室蒸留所を訪ねることに。

迎えてくれたのは、社長の関谷さん。
「カメラや取材は緊張しちゃって」と言いながらも、一つひとつの質問に丁寧に答えてくれる。

理化学ガラスの素材を職人に販売し、製品化したものを大学や研究所に卸すことで、日本のものづくりを陰から支えてきた。
3代目の関谷さんが入社したのは、理化学ガラスをとりまく環境が少しずつ変わりはじめたころ。
「少子化の流れで学校がなくなり、企業の統合で2つあった研究所が1つになる。我々の売り先も小さくなっていきました」
「でも何より大きな影響を受けたのが、職人さんで。家族ぐるみで親しくしていた方たちが、どんどん廃業していったんです」

先行きが見えないため、仕事を継ぐ人も減っていく。なんといまでは60歳で「若手職人」と呼ばれるような状況だそう。
「これはまずいなと。我々問屋は、職人さんがいなければ商売できない。祖父の代から、職人さんを大切にしろと言われてきました」
「幸いなことに、うちは職人さんにガラス素材を卸す会社としては関東一のシェアなので。困っている職人さんがいれば力になりたいんです」
それに、インターネットの発達とともに、買い手は問屋を通さなくても、直接買い物ができるようになった。
関谷さんは、職人の仕事をもっと増やし、担い手と技術を守ることがこれからの問屋の役割だと考えはじめる。
「理化学ガラスは、耐熱性があって匂いもつかない。ものとしてもすごくいいんですよ」
「その良さを一般の人にも広げていくことで、職人さんの技術を生かした新しい仕事をつくれるんじゃないかと思いました」
そんな思いから、3年半前にアンテナショップ「リカシツ」をオープンする。

プロの研究員が使う理化学製品を、生活に気軽に取り入れられるような提案が散りばめられている。
たとえばビーカーは、植物を育てる花器として。試験管は、ちょっとした小物入れとして。
本物の実験道具を使ったインテリアは話題を呼び、街でも人気のお店になってきている。

たとえば、「取手付きビーカー」というオリジナル商品。
実は、理化学ガラスは電子レンジやオーブンにも使えて、とくにビーカーは計量カップとしても便利だそう。
ところが実際に使ってみたお客さんからは「熱くて持てない」という声が出てきた。
「そこで職人さんに頼んで、取手をつけてもらったんです。するとだんだん人気が出て、今では研究員さんも使っているんですよ」
「お客さんの困っている声を聞いて、職人さんの力で解決する。そうしてできた商品を発信することで、新たに興味を持ってくれる人も増えると思っています」

「ディスプレイの蒸留器を見たお客さんが『家でもアロマをつくりたいから、手軽な蒸留器はない?』とおっしゃって。聞くと、一般的な蒸留器は細かな部品が多いので洗いにくく、使いづらいそうなんです」
これは職人の腕が活かされる仕事になるのではないか、とひらめいた関谷さん。
実験器具やアロマの専門家を加えたチームを立ち上げ、家庭用の蒸留器を開発することに。
こうして完成したのが、理化+アロマの「リカロマ」だ。
ポイントは、実験用の蒸留器をシンプルな構造に落とし込んだこと。氷とハーブを入れてIHヒーターにかければ、自家製アロマウォーターを簡単につくることができる。

また、家の外でも気軽に蒸留を試したいという声も多く聞かれるように。
そこで生まれたのがこの「理科室蒸留所」。
理化学ガラスで作った水出し装置でコーヒー、リカロマで蒸留した生姜の蒸留水を使ったジンジャーソーダを楽しめるほか、ハーブを持ち込んで蒸留を委託することができる。
理化学ガラスと職人を知る入り口として、新たな発信の場になっているそう。

ただ、その過程にはたくさんの試行錯誤があった。
「以前、理化学ガラスで食器をつくったことがあって。けれど理化学ガラス職人さんの腕を生かしきれず、理化学らしさも耐熱性しか残っていない。うちらしさがないものだったんです」
「理化学から離れすぎては元も子もなくて。取手付きビーカーもリカロマも、ビーカーや蒸留器という理化学の機能が背景にある。これからも、そうしたものをつくっていきたいですね」
目指しているのは、お客さんがほしいと思えて、職人も理化学ガラス製造の腕を生かせる商品。
新しく入る人も、まずはリカシツや蒸留所に立ちながらお客さんの生の声を聞いてほしい。そうして企画のタネを一緒に見つけていきたいという。
「見た目だけじゃなくて、理化学だからこその使い勝手や性能がちゃんとあるのがうちの商品の強みだと思っています」
「お客さんの楽しみをつくって、職人さんの仕事を増やす。その先で、若い人にも職人って面白いと思ってもらいたいんです」
話がひと段落したところで、リカシツに移動。
お会いしたのは、新しく入る人が所属するハウスウェア営業部の部長・猪野さんだ。

「ハウスウエアの仕事は、バラエティショップなどの卸先をまわったり、リカシツの運営サポートがメインです。それに加えて最近では、お客さんの要望を職人と一緒にかなえる仕事が増えていますね」
たとえば、と見せてくれたのがこちらの写真。

「そうそう。ティーショップを営むお客さんから、ガラスを使ったポットをつくりたいというご相談があってつくったものです」
このような相談は、SNSやワークショップなどをきっかけに舞い込んでくるそう。
まずはリカシツで実際の商品を見てもらいながら、アイデアを出し合う。
「取手付きビーカーを見てもらって『直接持つと熱いから、取手をつけましょう』『注ぎ口はどうしますか?』なんて、いろんな話をします」
お客さんの希望は、300ccから500ccのポット。ちょうどフラスコの容量と重なるため、首の部分をカットして、注ぎ口と取手をつけることを提案したそう。
アイデアがまとまったら、数十社の職人のなかから、専門性や経験などを踏まえて製造を依頼する。
「職人さんは、じゃあやってみようか、って手作業でつくってくれました。お客さんにも、一つひとつ表情が違うのがいいって喜んでもらえて。これからさらに改良を進めていく予定ですよ」
「お客さんの声を聞いて、アイデアを持ち寄る。夢があって楽しいし、競合も少ない。お客さんも満足してくれるから楽しいですよね」
一方で、難しさを感じることもあるという。
「ものづくりには限界があるわけだよね。予算と時間と人員があればいいけど、今のうちの力とお客さまの要望がかけ離れているときは当然ありますから。どこまで歩み寄れるか、という話です」
現在ハウスウエア部門に所属するのは、猪野さんお一人。新しく入る人は、猪野さんと二人三脚で働くことになる。
それにオリジナル商品の製造は、職人の手作業。大量生産や、寸分違わぬ精巧さを求める声には応えられない。
「要望とスケジュールをきちんと整理しながら、一つひとつの商品をつくっていく。そのためには、やっぱり丁寧なコミュニケーションがいちばん大切です」
「いまは知識がなくても覚えていけばいいですし。そうそう、うちは百科事典を100冊読めっていう会社ではないので(笑)そこは安心してほしいですね」
「うちのディスプレイは、ほとんどがお客さんのアイデアから生まれているんですよ」
そう話すのは、リカシツ店長の恵子さん。

お客さんのInstagramで発見したもので、コーヒーのドリッパーとして使えるのだとか。

そのため、お客さんからもらった意見を本社へ報告することもよくあるそう。
「お金や実現性などたくさんの要素があるから、すべての要望を叶えることは正直できないんです。その制約のなかで私は、当たり前を疑うことがすごく大事だと思っていて」
どういうことでしょう。
「私たちが知っている理化学ガラスの機能や使い方は、そのものが持つ可能性のすべてではないのかなって思っていて。安全にさえ配慮していれば、決まりはないと思うんです」
「いろんな組合せを想像して、新しい使い方を提案したり、採算さえ合えば商品だってつくれる。考えれば考えるほど、できることが広がっていくと思います」
お客さんと職人と手を取り合って、これまでにないものづくりをする。
自分だったら、どんなひらめきが浮かぶだろう。そんなふうにわくわくできる人には、たまらない仕事だと思います。
(2017/10/18 取材 遠藤真利奈)