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北海道・厚真町。2018年9月に発生した地震の報道で、この町の名前を知ったという人もいるかもしれません。
地震発生から約2ヶ月後、厚真町はある決断をします。
それは、地震のために中止されていた「ローカルベンチャースクール」の募集再開。
ローカルベンチャースクールというのは、エーゼロ株式会社と自治体が共同で行っている移住起業支援の取り組み。起業の意思のある人を全国から募集し、地域での仕事づくりをサポートしています。
もともと岡山県西粟倉村ではじまったこの事業が、厚真町でスタートしたのは2016年。すでに、この町を拠点に新しい仕事に取り組んでいる人もいます。
地震が起きたのは、ちょうど3期目となる2018年度の募集が始まったころ。災害復興という最優先事項に直面して、今の厚真町で移住者を受け入れるのは難しいということから、発災直後は中止が決まっていました。
それが一転して再開されることになったのは、「こんなときだからこそ、まちづくりをしていくには、外から来る人の力も原動力にのひとつになる」という、役場の強い思いがあったから。
今回は、再始動したローカルベンチャースクールの運営や町の情報発信を通じて、厚真町の役場と一緒にまちづくりに取り組む人を募集します。
職場になるのは、株式会社エーゼロ厚真。西粟倉に本社のあるエーゼロの新しい拠点のひとつです。
厚真町へは、新千歳空港から車で40分ほど。
苫小牧や千歳からのアクセスも良く、気候も比較的温暖な土地。町の南側は海に面していて、北海道でサーフィンができる数少ないポイントのひとつでもある。
震災時に止まってしまった海沿いの火力発電所も、今は元どおり稼働している。
町に来るまでは、山側の被害を伝えるニュース映像のイメージが強かったけれど、被害の少なかった市街地は穏やかだ。
株式会社エーゼロ厚真は、町の中心部から近い場所にあり、もともと保育所だった場所を改装して事務所にしている。
現在、エーゼロ厚真で働いているのは、アルバイトも含めて4名。
真ん中に座っているのが、取締役の花屋さん。東京にも拠点を持ちつつ、北海道にも部屋を借りて仕事をしていて、今は月に3週間ほどは厚真にいる。
花屋さんは、取材のときも仕事仲間と話しているときも、言葉を濁さず、きっぱりと潔い。
「僕らは厚真町から業務を委託されて、ふるさと納税やローカルベンチャースクールの仕事をしています。形は違っても、どれも最終的には“厚真の持続可能性を高める”ということにつながるものなんです」
ふるさと納税は資本を、ローカルベンチャースクールは人や事業を、町の外から中へと循環させる取り組み。
人口減少の問題を短期的に解決することはできなくても、「外から中へ」という動きがあることで、町は停滞せずに営みを維持できる。
だからこそ、もっと町の外の人に厚真のことを知ってもらう必要がある。
今回入る人の大きな役割の一つは、そのための情報発信。
エーゼロには、西粟倉などほかの拠点と共同で運用しているThrough me という自社メディアがあるので、記事を書いて発信することもできる。
「それに今後は、町外への発信だけじゃなくて、厚真町の中のことを町の人に伝えるっていう活動もしていきたくて」
ローカルベンチャースクールに参加するために外から来た人、役場でまちづくりに取り組んでいる人、農業で新しい取り組みをしている人。
町の人がもっとお互いのことを知るきっかけをつくりたいと、花屋さんは言う。
「自分の住んでいる町で精力的に活動している人のことを知れば、町のことをポジティブに捉えられるし、外から来た人との付き合い方も変わってくる。そういうつながりが生まれることで町は元気になると思う。簡単に言うと、僕らの仕事は人間関係をつくることなんですよ」
今回募集する人も、まずは町を自分の足で歩いて、人間関係を築いていくことが大切だと思う。
花屋さんも厚真にいる間は、町のいろんなところに顔を出している。
役場の打ち合わせ用のスペースで仕事をしながら、いろんな担当の人と情報交換をしたり、プロジェクトの進捗を確認したり。
町の事業者さんを訪ねて、世間話をしながら仕事の相談を受けることもある。町内で養鶏をしている方が地震で被害を受けたときは、農場の移転作業を手伝いに行ったのだそう。
会社が役場から業務委託を受けているからではなく、スタッフ一人ひとりが、町の人から信頼される関係にならなければ意味がないと花屋さんは言う。
「僕らは、外からも中からも人間関係の循環を生み出すことを一緒に楽しめる人と働きたい。ここにいればいろんな人に会えるし、町の仕組みもわかる。これから地域で働いてみたいという人には、いろんな可能性があると思います」
「今後は、西粟倉でやっているような視察ツアーや、役場からの委託業務以外のプロジェクトも進めていきたい。入社していきなりプロジェクトを考えてほしいとは言わないけど、『どう思う?』っていう意見は聞きますね。自分の意思がないと、ここでは仕事ができないと思うから」
小さな町の中で、人と直接顔を合わせて関係を築いていく仕事。それに少人数で運営している事業だからこそ、自分で考えて動く局面も多いのかもしれない。
「都市とは違う不便さもあるけれど、人間関係を築く力を身につけられる。それは今後、どんなビジネスにも必要とされるスキルだと思います」
厚真で一緒に働くことになるほかのスタッフにも話を聞く。まずは、北海道・伊達市出身の小倉さん。
今は主にふるさと納税の業務を担当している。
「地震の影響もあって、今はふるさと納税の寄付者が増えています。返礼品として人気なのは、ジンギスカン。あとはお米や季節の野菜、ホッキのような海産物とか、食べ物が多いですね」
小倉さんはエーゼロで唯一、厚真に常駐しているスタッフ。
「私一人では、エーゼロのスタッフとして町の人に接する機会も限られていて。新しい人が入ったら、一緒に会社や取り組みのことを宣伝してほしいです。ローカルベンチャースクールやエーゼロのことについて、町でもっと知ってくれる人を増やしたいですね」
小倉さんは以前、長野で山村留学に関わる仕事をしていた。
地域の中で、子どもたちの未来を育む教育の仕事にやりがいを感じながらも、もう少し現実的なビジネスのことも考えながら地域や社会に向き合いたいと、今の仕事に就いた。
「今まで、お金や事業っていうのは都市部に集中するのが当たり前だと思い込んでいたんですけど、西粟倉や厚真のような小さな町でも起業している人が実際にいて。ああ、できないことってないんだなって思いました」
西粟倉のローカルベンチャースクールでは、林業や木工に関する仕事を中心に、服飾や飲食まで、さまざまな形で地域起業を実現している。
厚真でも、スクールをきっかけに農業や貿易などのビジネスが生まれた。
「スクールに参加して挑戦する人もそうだし、役場の人、地元厚真の農家さんも熱意のある方が多くて。まずは一度、厚真に来て雰囲気を感じてもらうのがいいかな。人や町に愛着を持っていたほうが、楽しく働けると思うから」
同じく同僚である道上さんは、普段は神戸から遠隔で厚真の仕事に関わっていて、月に2回ほどのペースで厚真に通う。
大手通販会社で働いていた経験を生かして、ふるさと納税サイトのページづくりや改善をメインに担当している。
「前職でも販売に携わる仕事をしていたんですが、ふるさと納税の場合は生産者さんと直接顔を見て話せる。地域の人と関わりながら販売に携われるのは楽しいですよね」
「ハロウィンにあわせて赤いカボチャを出してみようとか、ジャガイモは2種類セットにしたら好評だったとか、テストマーケティングのようなこともできるのがふるさと納税のメリットでもある。今後、一緒にオリジナル商品を企画するみたいなこともやってみたいです」
ふるさと納税のサイトは、町外の人との大切なタッチポイントでもある。
食材だけでなく、料理例や生産者の顔写真を載せるなど、道上さんは商品のストーリーが伝わる見せ方を工夫してきた。
「PRの成果が出ると、役場の人も生産者さんも喜んでくれる。喜んでくれる人を知っているということが、やりがいなのかもしれませんね」
「僕も厚真に来たら生産者さんの仕事場に足を運んで、『どんな感じですか』って話をしに行く。この町には、おおらかで前向きな人が多い気がしますね。僕らのように、よそから来た人でも受け入れてくれるというか。特に役場は本当に素敵な人が多いですよ」
厚真町役場は、エーゼロの事務所から車で10分ほどのところにある。
夕方、忙しい業務の合間を縫って話を聞かせてくれたのは、役場職員の宮さん。
「以前は札幌で働いていたんです。そのころ厚真町で林業職の募集があって。林業の専門で募集するのは珍しいし、『これは町として林業に力を入れているんだな』っていう期待があって、ここへ来ました」
この町でローカルベンチャースクールがはじまったのも、林業がきっかけだった。
「エーゼロの代表の牧さんに、林業アドバイザーとして厚真に来てもらって。そのときに、西粟倉でやっているローカルベンチャースクールって、厚真でもできますかっていう相談をしました」
国の政策としての地方創生も追い風となって、2016年から厚真町でもローカルベンチャースクールが開催されるようになった。
そして2018年、復興と並行して進められることになった第3期。厚真から新しい働き方のモデルが生まれていく。
「町はこれから変わっていくところだと思います。そんな厚真町のことを見てくれる、見つづけてくれる人が増えるように、情報発信をしていけたらいいですね」
宮さんは、厚真町のどんなことを伝えたいですか?
「町の風土文化って、そこに住んでいる人を通して伝わることだと思うんですよ。人の魅力を通じて、厚真町のいいところが伝わるといいのかな」
「たとえば…」と宮さんが紹介してくれたのは、隣に座っていた理事の大坪さん。
「以前、ヒッチハイクで旅行をしている大学生が『ハスカップが食べられるところを教えてくれませんか』って、役場に入ってきたことがあったんですよ。そのとき旬は終わってたんですけど、大坪さんは『うちに、冷凍のがあるよ』って、そのまま自宅に連れて行ってハスカップをふるまったらしくて」
「多分、その大学生は大坪さんに出会えたことが厚真町のよさだと思って帰っていった。そういうちょっとした“いいこと”を体験できる町にしていけたらいいなと思うんです」
情報を流すのではなく、体験をつなぐように。
町の内外へ循環を促す関係づくりが、これからの厚真を支えていくのだと思います。
(2018/12/20 取材 高橋佑香子)