求人 NEW

おばちゃんと炊いたご飯、
おっちゃんと見た古墳
“家族”と出会う修学旅行

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日本史の問題です。645年は何の年でしょう。

学生時代に暗記したことはほとんど忘れてしまいましたが、繰り返し唱えた語呂合わせだけはなぜか頭の片隅に残っています。

今回紹介するのは飛鳥時代、大化の改新の舞台となった奈良県・明日香村での仕事です。

かつては日本のまつりごとの中心であったこの村。今は、景観保全の法律によって、里山の景色を感じられる数少ない村のひとつになりました。

募集するのは、飛鳥地域で教育旅行のコーディネーターとして働く人。

古墳などの史跡も多く残るこの地域ですが、旅行の目的は歴史学習だけではありません。

地域のお宅でホームステイしながら、家族と一緒に田舎暮らしを体験する。いわゆる“民家ステイ”の提案をしています。

出会ったばかりの人と協力して家事をこなし、寝食をともにする。

十代の子どもにとっては、普段の授業より難しいことかもしれません。

実際に体験するからこそ、心に残る。他人と関わる経験が、社会に出たときの自信になる。そんな、子どもたちの将来につながる学びをサポートする仕事だと思います。


東京から新幹線で京都へ、そこから近鉄に乗り換えて1時間弱。橿原(かしはら)神宮前駅で下車。

時刻は朝8:00。この日は、ちょうど、一泊の滞在を終えた台湾の学校の出発前のセレモニー「離村式」があるということで、駅から車で10分ほどのところにある国営公園に向かう。

屋外に設置されたステージに集まった生徒とホストファミリー。それぞれの代表が挨拶を交わしていた。

壇上から、ホストファミリーのお父さんに名前を呼ばれて、はにかむ中学生の男の子。彼に教わったという台湾の言葉を披露するお父さん。

通訳もいない、文化も違う、はじめて会う家族と生徒。昨日の夜は、手探りながらもお互いを知ろうとするコミュニケーションがあったのかな。

なんとなくこちらまで温かい気持ちで、ホストファミリーと一緒にバスを見送った。


そこから、車で5分ほどのところにある村の商工会館に移動。この事業の代表を務める下田さんに、この教育旅行がはじまった経緯を伺う。

「明日香村は、もともと日本で一番景観の規制が厳しい村でね。隣の橿原市から来ると、こっちに入った時点でなんか空気が変わるでしょ」

たしかに、普通の田舎とは違う、整然とした独特の雰囲気がある気がする。

京都や鎌倉などは地域の一部分が“古都保存法”によって規制されているのに対して、明日香村の場合は村全域がこの規制の対象範囲。

さらに昭和55年、通称“明日香法”というこの村独自の法律ができたことで、規制は一層厳しくなった。

「コンビニも瓦屋根やったでしょ。住宅はもちろん、銀行やガソリンスタンドなどの店舗も、屋根から壁の色まで厳しいルールがあるんです」

新しい建物をつくるには、まず発掘調査。歴史的な資料が出土すれば、計画中止にもなりかねない。

だからスーパーなどの商業施設は参入しにくいし、ビルやマンションも建てられず、若年層人口は減少し続けている。

日本古代史の舞台という誇りとともに、明日香村はそんな課題を抱えていた。

「こんな法律、なかったらええのにと思ったこともありますね。せやけど、それを逆手にとってでも、この村の魅力を伝えていかないかん」

8年前、商工会の指導員をしていた下田さんが、地域活性事業としてはじめたのがこの教育旅行。

村には高松塚古墳やキトラ古墳など、教科書に出てくるような史跡がたくさんある。通常の歴史学習ではなく、民家ステイによる教育旅行を選んだのはどうしてだったのだろう。

「この辺、春や秋には学校の遠足でいっぱい人が来るんですけど、20〜30人でぞろぞろ歩いて、遠くから説明聞いてるだけやったら、全然印象に残らないと思います。同じ古墳を見るんでも、民家ステイでお世話になってるおばちゃんに説明してもらったら、生徒も一応は聞きますやん」

たしかに(笑)。

体験を重視したプログラムは、日本の歴史に馴染みのない海外の学生でもフラットに楽しめることから、徐々に実施件数を伸ばしてきた。

やがて業況の拡大にともない、この事業は商工会から独立。今年の9月には一般社団法人として新しいスタートを切った。近隣の市町村のみならず、今後、さらに広域化を目指して事業を展開していく。

「京都や大阪からも1時間くらいで来られるっていう便利さもあって、ありがたいことに引き合いも増えてきています。インバウンドは、利用した学校の先生の口コミから広がったところもありますね」

好評なんですね。

「とはいえ、自然に件数が伸びたわけじゃない。僕らも営業努力してるし、もっと差別化もせなあかん。だから歴史の知識とか旅行業の経験はなくても、何ができるか一緒に考えて、行動してくれる人が応募してくれたらええなと思います」


今でこそ、地域に定着してきた民家ステイ。当初はホストファミリーの協力を得ることも難しかった。

そんな初期からこの事業を支えてきたのが、チーフコーディネーターの山中さん。

「僕、実は年末で退職するんですけど、辞めてもこの辺ウロウロしてますから。なんかあったら言うてください」

相手を緊張させないにこやかな雰囲気で話をしてくれる山中さん。もともと、村の工務店に勤めながら、民宿の立ち上げや観光物産の開発など、まちづくりに取り組んでいた。

「民家ステイは事業のために新しい大きな建物を建てなくてもいいわけやから。これやろ、って思いましたね」

ところが、担い手となる村内のホストファミリー探しは、出だしから難航した。

経験者もなく、知らない子どもを自分の家で預かることに抵抗を感じる人も多かった。

最初は知り合いの家庭に頼み込んで、なんとかスタートを切った。

事業を続けていくうちに、親から子へ代替わりして受け入れを続ける家庭や、若い移住者家庭も活動に参加してくれるようになった。

とはいえ、言葉の通じない海外の生徒を受け入れるのにハードルはなかったのだろうか。

「子どもが家にいてたら、一緒に遊んでるうちに打ち解けられるみたいで。こないだもミャンマーの生徒が子どもとパズルしながら、片言で『もっかいしょうか、もっかいしょうか』って言うてね」

「公園で集まってるときも、ホストファミリーのおっちゃんが『集合時間言うてくるわ』って生徒のとこ行って。英語もしゃべられへんのにどうするんかな、って見てたら『あのなー!』って日本語で言うてるんですよ。そしたら子供らも、ふんふん頷いてね(笑)」

家族構成が違えば、過ごす時間やふれあいの形もそれぞれ。リラックスした普段の表情で人と出会えることが、「民家ステイ」の醍醐味なのかもしれない。

受け入れる地元の人も、生徒たちが村の暮らしや歴史に興味を持ってくれることで、自分たちの住む地域の良さを、再確認できる。

教えてあげるだけじゃなく、世代や国籍を超えてお互いに学び合う。事業を続けるうちにそんな関係性が生まれるようになった。

そんなホストファミリーが安心して受け入れができるようにサポートするのもコーディネーターの仕事。

救急など緊急事態に備えるため、交代で宿直にも当たる。

「僕らは工業製品じゃなくて人と関わるのが仕事なんで、スキルよりも信頼関係です。僕も、おっちゃんらが自分の親と重なって見えたりして、他人と思われへん」

「今回入る人が、まだこの村のことを知らんでも、風景が自分のばあちゃんの住んでた田舎と似てるなとか、なんか愛着もって地域に関わってもらえたらええと思うんです」


次に話を聞いたのは、取材のアテンドをしてくれたコーディネーターの辻野さん。

取材前の調整から、宿泊先の気遣いまで。辻野さんの連絡はとても丁寧で、はじめての土地を訪れるのにとても安心感があった。

「私たちの仕事って、ほとんどは調整や確認なんです。旅行会社や学校、ホストファミリーとの調整から、滞在中の行事進行や会場の手配まで。何かひとつでも抜けると、大きな影響が出てしまうので、何か足りないことはないかって、いつも気を配っています」

生徒一人ひとりの情報の管理のように細かいことから、関東をはじめ他府県での営業など、広域にわたる出張まで、日々の仕事は多岐にわたる。

事業を安定的に運営するためには、外へ広げる仕事だけでなく、地域の人と密にコミュニケーションをとることも大切。

「ホストファミリーの声を聞くことで、はじめて受入れの本質的な課題や強みがわかります。ホストファミリーあってこその“民家ステイ”なので、その気持ちに向き合えるよう、みんなで心がけています。」

万が一トラブルがあっても、すぐに相談してもらえるように。温かい気持ちで各家庭に寄り添う。

その一方で、この旅行が商品として学校や生徒に満足してもらえるように、お願いや注意をきちんと伝える必要もある。

「民家ステイの特徴は、3つあって。日本の家庭料理を一緒につくること、多世代で一緒に生活をしてコミュニケーションを学ぶこと、もうひとつは手付かずで残された本物の歴史を体感することです」

「先生も親御さんも、この学びを期待して生徒を預けてくださっているので、ただの宿代わりではダメなんです。それを、各家庭に丁寧にお伝えして、そのお宅で何ができるか一緒に考えていきます」

はじめはどうしても、生徒に対して“お客さん”という意識があり、うまく距離を縮められないこともあった。

ここ数年は、ホストファミリーに集まってもらって郷土料理や手芸の勉強会を開き、生徒と一緒にできる活動のアイデアを共有する場を設けている。

障子貼りや薪割りのような古民家ならではの仕事から、カードゲームや折り紙など家庭の遊びまで。家庭によって活動は少しずつ違うけれど、徐々に時間の過ごし方への理解が深まってきたという。

「特別なことができなくてもいいんです。一緒にしていることを通して、はじめて会った人とどういうふうにコミュニケーションをとるか。そういうことを学ぶ時間であってほしいから」

特に、食事づくりは生徒にとっても印象深い体験になることが多いのだそう。


「カマドでご飯を炊いた生徒が『ご飯が炊けてくると、釜の中のブクブクっていう音が変わってきた!』ってすごく喜んでいたみたいです」

部活や塾で忙しい生活を送る現代の中高生。共働き家庭も増え、毎日ゆっくり食卓を囲むことが難しい場合もある。

日常と切り離された旅行だからこそ、生徒自身が、家族の時間を見直すきっかけになるのかもしれない。

「生徒たちがここを第二の故郷だと思って戻ってきてくれたら、地域の未来をつくることにもつながると思うんです。今はその種を蒔いているところなので、地味な仕事も多いんですが、やりがいはありますよ」

飛鳥から、日本全国、海外まで。自分の家に戻った生徒たちは、家族にどんな土産話をするだろう。

(2018/11/13 取材 高橋佑香子)
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