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国土の2/3は森林だと言われている日本。私たちの暮らしの道具に使われる素材として、木はとても身近なもの。
「木が嫌い」だという人は少ないけれど、木の何が好きかと言われると、言葉で説明するのは難しい。
「安さや簡便さを優先すれば、樹脂や金属など優れた素材はたくさんある。一方で、100人に1人くらいは必ず『木のものでないとダメだ』っていう人がいると思う。大量に売らなくても、1万人に1人が製品を購入してくれれば、僕らはものづくりを続けていけるんです」
オークヴィレッジ株式会社の佐々木さんは、そんなふうに話してくれました。
豊かな森林資源に恵まれた岐阜県飛騨高山で、ナラ材を主にした注文家具工房としてスタートしたオークヴィレッジ。創業から40年以上経った今でも、国産の無垢材と伝統的な“木組み”を駆使し、玩具や家具、木造建築まで暮らしに関わるものづくりを続けています。
近年は、長年培ってきた国産材を用いた木製品をつくる技術で、自治体などと協力し合い日本の森を元気にするため林業の6次産業化に取り組むなど、環境との共生を目指した持続可能な独自のものづくりを推し進めています。
今回は、ECサイトやコーポレートサイトの運営を通じて、オークヴィレッジのものづくりを伝えるWeb担当と、工房で家具や小物の制作を担当する職人を募集します。あわせて営業担当も募集しています。
東京から新幹線と特急を乗り継いで4時間ほどで、高山駅に到着。
市街地には城下町の風情が残る。駅から世界遺産の白川郷方面へ車で20分ほど走ったところにオークヴィレッジのショールームと工房、オフィスがある。
このあたりはもともと別荘地として分譲されていたらしく、敷地内には清流が流れていて眺めもいい。
周辺には、葉の形や幹の姿が異なるたくさんの樹木が生えている。
「日本には、1000種類以上の木があるんですよ」と教えてくれたのは、オークヴィレッジの佐々木さん。
ブナやナラのような広葉樹と、スギやヒノキのような針葉樹。いろんな種類の木が混ざり合い生育していることが日本の豊かな森の特徴。
「うちで扱う木材も、30種類以上はあるんじゃないかと思います」
「たとえば、ひとつの椅子でも材料を使い分ける。脚は粘り強く折れにくいもの、背もたれや座面は軽く肌触りの良いもの、と。そんなふうに、複数の種類の木を使ってできる製品が多いんです。“適材適所”っていうのは、木工のためにあるような言葉ですよね」
硬さや、色、手触り、木目など、多種多様な木のことを知るためにちょうどいいのが、子ども用のおもちゃ。
口に入れてもいいように塗装されていないので、滑らかな木肌は手に気持ちいい。音の鳴るおもちゃで種類ごとの音の違いを感じたり、文字が読めるようになったら、それぞれの木の名前を覚えたり。
積み木のモチーフになっているのはウサギやイノシシなど、“日本の森にいる動物”たち。木が育まれた森のことを、遊びながら身近に感じられるような仕掛けになっている。
ショールームをさらに奥に進んでいくと、オークヴィレッジのルーツともいえる、家具が展示されたスペースに。
「ちょっと、その椅子に座ってみてください」
佐々木さんに勧められたのは、ゆるやかにカーブした三日月型の背もたれのある椅子。
椅子を引くために手をかけると、木の曲線が手になじみ、座ってみるとそのカーブが腰のところを支えてくれて、落ち着きがいい。
「これは“2時間座っても疲れない”ことを目指してつくった椅子なんです。姿勢を固定してしまうような大きな背もたれよりもむしろ、ヘソのちょうど後ろの部分を支えるくらいの低い背もたれのほうが、疲れにくいんですよ」
「身長150〜180cmくらいの人なら、たいていはこの背もたれの高さの範囲に体の重心とも言えるポイントが収まる。さらに座面にも工夫があり、長時間座ることで生じるストレスを軽減しています」
なんとなく「いいな」と感じていたことには、全部理由がある。それを言葉で説明してもらうことで「なるほど」と納得感が増す。
「飛騨の小さい会社だから、日本じゅうどこでも実物を試してもらうということはできません。だからこそ、実際に座らなくても座った実感が持てるように、情報を伝えていかなければいけないと思います」
木の家具というと、漠然と「ぬくもり」「優しさ」という曖昧なイメージで表現されがちだけど、オークヴィレッジの製品には、素材にも、技術にも、デザインにも、具体的な言葉で説明できるよさがある。
「それに今は、製品以外にも伝えたいコンテンツがたくさんあって。スターバックスコーヒーさんと一緒にオリジナルの漆のカップを開発したり、ここでコーヒーセミナーを開いてもらったり。ほかにも群馬県のみなかみ町と一緒に始める森林保全の取り組みなど、どんどん新しい挑戦をしようとしています」
「そういう情報を、もっとみなさんに届けるためにも、新しいWeb担当者の力が必要なんです」
現在ECサイトを担当しているのは、石井さん。普段はECなどの業務のかたわら、ショールームに立ったり、特注家具の問い合わせ対応をしたりと、業務は多岐にわたる。
関東出身で、大学時代に木の研究をしていたことがきっかけでここに来たのだそう。
「ここで働いている人は、ほとんどがオークヴィレッジの考え方に共感して、他の地域から移住してきた人たちなんです。そのせいか、わたしが入ったときも、仕事のことだけじゃなくて『雪大丈夫?』とか、生活のことまで気にかけてもらって。本当に親切な方が多い会社だと思います」
にこにこと、穏やかに話をしてくれる石井さん。ショールームやECサイト運営など、いつもお客さんの窓口として働いてきた。
「メールのやりとりがほとんどなので、機械的なコミュニケーションでも用は足りるんですが、注文内容から、『お子さまへのクリスマスプレゼントなんだな』ってわかったりして、すごく身近に感じられることもありますよ」
もともと、お客さんへ手紙を書くのが好きだったという石井さん。メールもなるべく会話するような感じを意識しながら送っているのだそう。
「仕事を始めたころは、若かったし積極的にお客さまをご案内する自信がなくて。少しでも信頼してもらえるようにと、手紙を書くようになりました。DMや図面を送るときに一言添えると、実際に会ったときも話しやすいし、お客さまとの距離が近く感じるんです」
手紙では、どんなことを書いていたんですか?
「ここは本当に制作現場との距離が近いので、職人やデザイナーが何をつくっているとか、どんな工夫をしているとか、自分が肌で感じたことや日々の会話に出たことも少し入れながら、お送りしていましたね」
伝統的な製法のこと、素材のこと、デザインのこと。
つくり手がすぐそばにいるから、話もしやすい。実際の商品企画も、各部署の担当者が顔を合わせてみんなでつくっているのだそう。
最初は専門的なことがわからなくても、その「わからない」「知りたい」という視点でものづくりに関わっていくことが、ユーザー目線の発信には必要なことなのかもしれない。
「オークヴィレッジの製品は、値段だけ見ると高いと感じてしまうかもしれないけれど、やっぱりそれだけの価値のあるものだという自信があるんです。だから私たちは、職人さんの誇りも背負って、お客さまに伝えられたらいいなと思います」
実際に素材に向き合い、ものづくりをしている職人さんにも話を聞かせてもらうことに。
ショールームから歩いて5分ほどのところにある、工房へ。
オークヴィレッジの製品のベースにあるのは、釘や金物を使わず木材に切り込みを入れ、はめ合わせる“木組み”という製法。
パズルのように組み立てていくので、加工する順序を考えたり、細かい穴を加工するためのガイドをつけたり、表立って見えない工夫も多い。
機械の音が響く工房を案内してくれたのは、ここで働き始めて20年になるという澤岡さん。
「僕を含め制作部の半分くらいは、高山市にある“森林たくみ塾”っていう木工の学校の卒業生ですね。そういう職業訓練校などで勉強した経験がない人でも、ここで一からじっくり向き合うこともできると思います。ただ木工って、続けないと面白さがわからない。やればやるほど面白いし、自信がなくなってくるんですよ」
自信がなくなる。
「木は自然の素材だから思わぬところでフシが出たりして、思い通りに切れるようになるまでに時間がかかる。それで今度は経験を積んでいろんなことがわかってくると、この切れ肌でいいのかなとか、使っているうちに椅子の脚が抜けたりしないかとか、一つひとつ気になるようになって、どんどん自信がなくなります(笑)」
時間をかけて向き合う必要があるから、飽きることなく続けていける仕事。
そんな時間に対する意識は、オークヴィレッジが大切にしている理念にも共通している。
「うちには『100年かかって育った木は100年使えるものに』という理念があって。そのおかげで僕たちは、すごく真っ当なことができているという実感があるんです」
「メーカーなので、もちろんコストや時間の制限はあります。ただ、価格のためにクオリティを妥協するっていうことはなくて、なんとか技術で工夫して乗り越えていこうっていう気運のようなものがある会社だと思います」
オークヴィレッジの工房では、ほとんどの製品は分業ではなく、一人の職人が最初から最後まで仕上げることになっている。
責任もある分、いいものをつくりたいというこだわりにつながっているのかもしれない。
「たとえば『パーツごとに木目の向きを揃える』というのは職人がみんなやっていることなんですが、別にデザインで決まっているとか、お客さんに約束したことではないんです。いいものって、そういう細かいことの積み重ねでできているものだと思います」
「この会社のいいところは、何か工夫してみようっていうときに、『そんなことやるな』っていう人なんか一人もいないこと。伝統的なつくり方だけじゃなくて、“曲げ木”の技法を取り入れるとか。僕もいろんな挑戦をさせてもらいました」
特注やOEMなど、規格外の難しい依頼を受けることもあるのだそう。
最近では、コンマ数ミリまで削った木に漆で仕上げたイヤホンが製品化されたばかり。
「最初は『やってみないとわかりません』って言ってたんですが、今まで誰もつくったことのないものに挑戦してみたくて、結局徹夜しながらつくりました」
それだけ夢中になっていたんですね。
「まあ仕事なので大変な部分もあるんですが、僕は木や木工そのものが嫌になったことはないですね」
時間をかけて木と向き合う。日本の豊かな森があるこの場所だからできる働き方があるのだと思います。
(2018/12/18 取材 高橋佑香子)