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町といっしょに“おがる”
地域コミュニティの
トータルデザイン

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「既成の概念に囚われずに、町のなかで最大限できることをしたいんです。だからこそ地域にも出て行くし、私たちがハブになって人や場所をつないでいければ、何か道が開けるんじゃないかなと思っています」

これは、紫波(しわ)町図書館で働く手塚さんの言葉です。

自らが編集・発信した情報で人と人がつながるきっかけを生み出す。そうして暮らす人たちや地域そのものが、少しずつ楽しく豊かになっていく。

今回募集するのは、そんなことを実感できる仕事だと思います。

訪ねたのは、岩手県紫波町。

紫波中央駅前にある複合施設「オガール」を中心に、町と住民とが一緒になって独自のまちづくりを進めている地域です。

この町で地域おこし協力隊を募集します。

地域を飛び回って情報を発掘し、自分なりに編集して届けていく。表現方法は、スキルに合わせて自由に考えていいそう。

編集だけでなく、まちづくりや人が集う場づくりに興味がある人にも、広く門戸は開かれていると思います。


東京から新幹線で盛岡へ。そこから在来線に乗り換えて、20分ほど。紫波中央駅を出て、一つ目の交差点を越えたら、すぐにオガールが見えてくる。

10.7haの広大な土地に、図書館や役場庁舎、飲食店、バレーボール専用体育館やビジネスホテル、保育所などの施設が一体的に整備されている。

最初にお話を伺うのは、役場職員の鎌田さん。まだ企画段階だったころから、オガールに関わり続けてきた一人だ。

まずは、現在のオガールの状況について教えてもらう。

「紫波町の人口は約3万3000人ですが、オガールには年間96万人の方が来場してくれています。中央にある広場を使った大きなイベントが去年は27回、BBQが145回ありました。土日になるとお肉の良い匂いが漂うんです(笑)」

「何かしたいと思ったとき、のんびりしたいとき、ここに来れば誰かとつながって活動できるし、自己実現できる。そういう場になったらと思っています」

たとえば、幼稚園の親御さんたちが洋服をリメイクして、広場でファッションショーを開催したり、この町で農業を新たにはじめた人が仲間と一緒にマルシェを開催したり。ヨガ教室が開かれることもある。

今でこそ、人が集いさまざまな出会いやきっかけが生まれる場になっているオガール。実はこの場所は、10年ほど前まで“雪捨て場”として放置されていた町有地だった。

その土地を民間主導による公民連携で整備し、オガールへ。この取り組みが、ありふれた地方自治体だった紫波町の印象を大きく変えることになる。

たとえば、国から補助金を確保できたら、稼働後の見積もりも甘いままフルに使って、立派な施設を建設する。それがこれまでの公共事業によく見られる失敗だった。

けれどもオガールは、まずテナントを固めてから、建物の規模や建設費用を算出。徹底的なコストカットの上、民間企業が建物を建設し、その後公共施設部分を紫波町に売却した。さらにオガールで生まれる利益が再投資される仕組みもつくられている。

こうして補助金ありきではなく、自力で稼げる施設として運営されるオガールには、全国から絶えず視察団がやってくるまでになった。

とはいえ、まだまだ地域への情報発信は足りていない。そしてオガールだけでなく、もっと町全体の人やモノ、コトをつなげたいと鎌田さんたちは考えている。

「発信の仕方は、今回応募してくる人のスキルに合わせて、どんな方法でも構いません。たとえば写真と文章で冊子にまとめてもいいし、動画でものづくりの様子を伝えてもいいかもしれない」

「紫波では田舎町とは思えないことばかり起きるので、刺激に事欠かないと思います。自分なりの切り口を見つけてもらいたいですね」


まずはどこに行き、誰に会うことからはじめればいいだろう?

そんなとき、紫波のまちづくりの中心にある図書館と、そこで働く人たちの存在はとても大きな力になるはず。

お話を伺ったのは主任司書の手塚さんです。「図書館をつくりたい」という夢を持って、紫波町にやってきた方。

「私は秋田県の過疎の村で生まれ育ちました。思春期になると好きなものがいっぱい出てくるんですよね。音楽や漫画、映画も」

好きなアーティストができれば、その人が好きなもの、影響を受けたものを知りたくなった。けれども自分の世界を広げるためのさまざまな情報は、村の中では得難い状況だったという。

「村が大好きだけど、その状況が苦しくてここにはいられないと思った。それなら、村に情報が集まる発信基地をつくればいいんじゃないかと思って。誰にも頼まれていないんだけど(笑)」

「図書館には本もCDも映画もあるし、無料で借りられて、老若男女が集まれる。そういう場があれば、過疎でも豊かに暮らせるんじゃないかって思ったんです」

そんな経験を経て、秋田で司書として働いていた手塚さんに、当時の上司から「紫波町図書館の立ち上げに参加しないか」と声がかかったのは、約8年前のこと。悩んだ末、縁もゆかりもない紫波町へと飛び込んだ。

目指すのは、地域のセーフティネットとなれるような図書館だという。

「たとえば、自分が一人では遠くに行けない小さな子どもでも、何か病気をして生きていくのがつらいときや、仕事を失って絶望しているときも。まだ私はこれからも前向きに生きていける、チャンスがあると思える。誰がどんな状況でも、可能性を閉じないでいられる場所」

そのためには、図書館はただ本と人をつなげるだけが役割ではない。さまざまな情報が集まるからこそ、ハブとなって人と人、人と機関など多様なつなげ方ができるはずだ。

紫波町図書館では、通常禁止されがちな館内での会話を全面的に許可。手塚さんたち司書は、図書館を飛び出して地域の中に入っていき、イベントや企画展示を積極的に開催している。

なかでも、紫波にやってきたばかりのころに手塚さんが取り組んだのは、農業支援サービスだった。

「紫波の農業も後継者が不足していて。もしも農業が失われれば、田畑のある景観や地域の防災、伝統芸能など、農業に紐づいていたものまでなくなってしまいます」

そこで農に関する書籍を出版する農山漁村文化協会とタッグを組み、農業について知り、学ぶ機会をつくる「出張としょかん」を定期的に開催。公民館で野菜づくりに関するDVDを上映し、農家さん同士で語り合える場をつくった。

県外から新規就農を目指してやってくる人や、農業を続けていくことに悩んでいる人たちにも好評なのだとか。

こういったアイデアはどんなふうに生まれるのでしょうか?

「そうですね。町でどんなことが起こってほしいか、みんなで考えることからはじめます」

町でどんなことが起こってほしいか。

「たとえば、私たちは図書館の利用者さんたちといつもお話ししていますが、本好きの人同士が語り合える場所がないと感じていて。そういう場所があったら面白いし、いろんな出会いが生まれるんじゃないかなと思って、book barというイベントが生まれたんです」

book barでは、ブックバーテンダーがとびきりの一冊をご案内。お酒と本を片手に、夜の図書館で特別な時間を過ごすことができる。

「紫波は酒蔵やワイナリーがあるので、紫波の魅力も発信できる。人に勧められると、自分が普段読まない本との出会いがあって、また会話も弾む。そうやってアイデアが重なってきて」

図書館だけでなく、いずれは酒蔵やオガール広場など、紫波のあちこちでこのイベントが展開されていけばいいと手塚さんたちは考えている。

「ここでしか出会えない人、ここでしかできない楽しみ方ってあると思うんです。それぞれが紫波で暮らしてよかったな、幸せだなと思える経験ができて、みんなが許容しあえる地域になればいいなと思っています」

今回募集する人に求められている役割も、ただ情報を発信するだけではない。その先に、人と人がつながるきっかけを生み出す、地域コミュニティのデザインを担ってほしいと考えている。

こうして文字にすると難しそうだけど、手塚さんたちが行っているように、どんなことが起きたらこの町がもっと楽しくなるか想像しながら、地域の人たちに話を聞いて、一つひとつ形にしていくことになると思う。

「地域に出かけていって話を聞くと、その過程で想像していなかったことを知ることもできます。出会いやきっかけになるような場をつくっていければ、何かが起こっていく。そういうことを一緒にやっていけたら嬉しいです」


もう一人、最後に紹介したいのがオガール企画合同会社で働く望さん。望さんと地域との関わり方は、参考になる部分も多いと思う。

やわらかな笑顔が印象的で、美味しいものが大好き。2児のお母さんでもある。

「私にとって紫波町は、祖父母と過ごした思い出の町なんです。家に帰ると、祖父母がいつも日が暮れるまで畑仕事をしていて、夕ごはんのときにはたわいもない学校の話をしたり、戦争の話を聞いたりして。そこで受けたものがずっと自分の中に残っていて」

「だからこの町が好きで、食べることが好きで、人と会うのが好きで。この町を後世に残そうとか大層なことは考えていなくて。自分に近いものを選んでいったら今に至る、という感じです」

望さんは、オガールができた当初から5年間、広報担当としてブログを書き続けてきた。ブログを書くために町を歩き回り取材に飛び込んだことは、本当に良い経験になったと振り返る。

「すべてが私にとって初めてのことで。たとえば仕込みの時期に酒蔵に伺ったときには、つくっている様子を間近で見ていると、その方の情熱に触れている感じがして。作業に集中しているときにぴんと張りつめた空気を感じたのも、実際に訪ねたからこその体験でした」

「ほかにも農家さんでは、行くたびに手料理や自家製の紫蘇ジュースを出してもらって。本当に温かい人ばかりだったし、大切にものをつくっている方々の存在を知ったことで、優しさや温かさ、そして仕事に向き合う姿勢を学ぶ機会になりました」

望さんが経験してきたことは、たわいもない日常の一コマかもしれない。でも聞いていると、なんだか町を身近に感じられる。

地域に入っていくときに必要なのは、アウトプットのスキルよりも、目の前の人と会話のキャッチボールをする力や、自分が全身で感じたことを素直に言葉にしてみることなのかもしれません。


取材のなかで、紫波町はどんな町ですか?と聞いてみたら「ちゃんと考えている町」という言葉が出てきました。

町の未来のことを、みんなが自分ごととして楽しみながら、考えようとしている。そんな印象が私にもありました。

オガールの語源にもなっている“おがる”とは、この地方の方言で「成長する」という意味。

この場所で町と一緒に成長しながら、人とつながって生きていくのもいいのかも。そう思えたら、紫波を訪れてみてください。

(2018/12/10 取材 並木仁美)

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