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82人の個性を生かす
これからの里山に
アイデアを

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

広い青空に、緑色のじゅうたんのような棚田。瓦屋根の家の周りをのんびりと猫が歩いて、鳥の鳴き声がこだまする。

ひとつ呼吸をするだけで、日本の昔話の世界にやってきたような気持ちになる。

福岡県・東峰村。

この小さな村には、31世帯82人が暮らす竹(たけ)という地区があります。

自然と歴史、人の縁が息づくこぢんまりとしたこの地区に、宿泊施設とキャンプ場、カフェを併設したお土産品などの販売所がオープンします。

建物はこの春から順に完成していくものの、どんな場にするかはまさに今企画中。そこで今回、キャンプ場とカフェを企画運営していくスタッフを募集することになりました。

具体的には、イベントを企画したり、お土産品やカフェメニューを考えたり。オープンに向けてすでに準備を進めているコーディネーター、そして地域の人たちと一緒にアイデアを形にしていきます。

のどかな田舎、とあなどるなかれ。個性豊かな人たちが暮らすユニークな村だと感じました。



羽田空港から福岡空港までは、およそ1時間半。

空港で大分行きの高速バスに乗り込むと、景色は高層ビル街から緑へと変わっていく。

空港をたって1時間ほどで、東峰村のお隣、朝倉市に着いた。

待っていてくれたのは阿南(あなん)さん。竹地区のコーディネーターとして、施設のオープンに向けて準備を進めている方。

「さっきまで雨が降っていたんだけど、今ちょうど上がったんですよ。いい写真が撮れそうですね」

こちらが1つ質問すると10答えてくれるような方で、車内はたちまちにぎやかな雰囲気に。

昨年の6月に着任するまでは、音楽や映画を扱う仕事や、スタートアップ企業のサポートなどさまざまな仕事をしていたそう。

「漠然と、若者からお年寄りまでいろんな人が集まって働けるような場をつくりたいって思っていて。そんなときに知り合いが『東峰村の竹地区っていうところで、新しくコーディネーターを募集するみたいだよ』と教えてくれました」

土地も雰囲気もわからずに調べてみると、竹地区はかなり高齢化率が高いとわかった。

「でも実際に行ってみると、数字では測れないくらいすごく元気な人たちがいて。みなさん本当によく団結して、よく笑って、よく働く」

「その姿を見て、ここなら何か面白いことをできそうだって思ったんです」

「話したいことはもっとあるんですよ」と、村役場へと急ぐ阿南さん。

案内された部屋には、びっしりと文字で埋まったホワイトボードが4枚。

聞くと、阿南さんが今回のプロジェクトについて考えていることや、アイデアをまとめるために書いたそう。

腰を下ろして、一つひとつ話を聞いてみる。

「まず竹地区の里山の風景を守らなければいけない、という出発点があって。そうだ、里山ってどんなイメージを持っていますか?」

えっと…まんが日本昔ばなしに出てくるような風景でしょうか。

「そうそう。詳しくいうと、人間が手をほどこして自然や生き物を守っている山や集落のことなんですよ。人工のものだから、放っておくと朽ちてしまうんです」

竹地区の自慢は、およそ20年前に国の「棚田百選」にも選ばれた美しい棚田。400枚もある棚田は、古いものだと400年以上の歴史があるそう。

百選に選ばれてからは、全戸で棚田を守るための組織をつくり、自分たちの手で景観を守りつづけてきた。

「ただ、竹地区は今5割近くが65歳以上。どんどん人がいなくなって、技術を受け継ぐことが難しくなっているんです。ここで潰えてしまうとこの里山の景色は二度と戻りません」

少しでも多くの人に竹地区の魅力を知ってもらい、何らかの形で関わってほしい。

そんな思いから、村は今回のプロジェクトを立ち上げることにした。

棚田を一望できるところに建つ古民家を改修して、宿泊施設に。その近くには、野菜やお米を売ったり、軽食をとれたりするようなカフェを併設した販売所をつくる。すでにあるキャンプ場も、リノベーション工事がはじまっている。

来年にはすべての施設が完成する予定で、その後は行政のサポートも受けながら運営していく。

一昨年の豪雨で宿泊施設が流されてしまった村にとって、もう一度人を呼ぶための大きなきっかけになるはず。

阿南さんはその場づくりを担うべく、半年前から参加している。

「実際に来てみたら、ソフト面がほぼ何も決まっていない状態でした。まず竹地区を知ろうと、キャンプ場に暮らしているんですよ。そこですごく感じたのは、ただ来るだけじゃここの本当の魅力が伝わらないな、ってこと」

「竹地区にはコンビニやスーパーはもちろん、自動販売機すらない。でも都市にないものがすべてあるんですよ」

どういうことでしょう?

「たとえば秋の奉納祭では、自分たちで祭りに必要なしめ縄や料理をつくる。ほかにも休みの日に集まって炭焼き窯をつくったり、山に入って雑木を整備したりしているんですよ」

「それにみなさん、土地の風土や歴史をよく知っている。味噌と米と水さえあればいくらでも生きていけるって真面目に言うんです。コンロや電気がなくても、ちょっとした道具とライターひとつあれば何でもできる人たちなんだなって」

新たにできる施設は、そうした竹地区の人たちのたくましさに触れたり、生活を体験できたりするような場にしたいと阿南さんは考えている。

改修後のキャンプ場のテーマは『山と友達になろう』。イベントを開くのはもちろん、新たにつくる図書スペースには、図鑑から漫画まで山や森、里山に関する本を広く集める予定。

カフェでは料理上手なお母さんたちに得意料理を提供してもらったり、新たに竹ならではのお土産を企画したり。

阿南さんからは、案が次々と飛び出してくる。

新しく入る人の仕事は、こんなふうにどんどんアイデアを出して、竹の人たちと二人三脚で実行していくこと。

「とくに僕とはバディのような関係になるはずです。せっかくの施設をただのハコモノにしないために、何かしら興味を持ってもらえるようなことを常にやらないといけません」

「一度に1000人を呼ぶんじゃなくて、毎週10人が来るような仕組みをつくりたいです」

とはいえ、まだ生まれていない場を舞台に0から1を生み出す仕事。

どんな人が来るのか、どんなニーズがあるのか。手探りでアイデアを形にするのは、なかなかハードルが高そうです。

「そこを楽しめるような人に来てほしいんです。僕の指示待ちじゃなくて、もっとこうしたら面白いんじゃないかって、アイデアをどんどん上書きしてくれるような人がいいな」

「できるかできないかは関係なくて、思いついたことを言ってくれていい。それを一緒に組み立てていくのが楽しいじゃないですか。前例のない仕事なのでめげそうになるときもあると思いますけど、楽しみながら頑張りましょう」

3月にはキャンプ場が完成予定。初夏には実際に稼働してみて、トライアンドエラーを繰り返しながら少しずつよいものにしていく。

アイデアを聞いていると、大変そうだけど面白そう。竹地区に暮らす人はどう感じているんだろう。

「それは直接聞いたほうがいいかもしれないね。今から実際に行ってみますか」



役場から車を走らせて、竹地区へと向かう。

鳥のさえずりや風の音以外に、人工的な音がまったく聞こえない。

すると、「こんにちは!」と阿南さん。

見れば、車の窓を開けて対向車に話しかけていた。

会話を終えて窓を閉めたあと、「今の方は炭焼き窯を一緒につくっている仲間のリーダーです」と教えてくれた。

「急に『明日来れる?』って呼ばれたら何か外作業があるときで。作業着と長靴を持っていって、泥だらけになって働いて。終わったらお酒を飲んで、酔っ払ったみんなで横になって星空を眺めるんですよ」

この日、ばったり会った人たちに阿南さんが声をかける場面を何度か見た。

阿南さんがどういうふうに関係をつくっているのか、少し見えた気がします。

「いや、そんな大層なことじゃなくて、一緒に酒を飲んでるだけですよ(笑)仕事とプライベートのはっきりとした境界はないから、仕事終わりや土日も行事や集まりにどんどん出て行きます」

「こういう繋がりがあるからこそ楽しいんだよね。逆に、自分の時間をきっぱりと持ちたい人はやっていけませんよ。なんて言うのか…自分を隠さなくていいと言うか、さらけ出す心地よさがあるって感じかな」



到着したのは、竹地区を見渡せる展望台。

実は、竹地区は国定公園にも指定されているのだそう。

約束の時間から30分ほど経って、ゆっくりと坂道を登ってくる車が一台。

「いやあ、遅れてすみません」と登場したのは熊谷(くまがえ)さん。竹地区の区長を務めている方で、にこにこと優しく話してくれる。

「竹生まれ竹育ちで、2年前から区長を務めています。竹は…そうですねえ。よその人からも『竹はいいね、まとまっているね』ってよく言われるような地区です」

「とくに60、70代のおっちゃんたちが元気で。口は悪いんですけど根はよくて、何か一つ決まればすぐに集まって何でもやります」

今回のプロジェクトを聞いたときは、どう思いましたか?

「正直、失敗するんじゃないかなと。阿南さんが来たときも、ちょっと心配したんですよね。はっきりものを言う人やから、竹の人も言い返すんじゃないかって。でも一緒に酒を飲んでくれるし、こっちに合わせてくれる。今は心強いです」

「僕らも今何かせんと、田んぼも家も人も、なんもかんもなくなっちゃうっていう危機感があって。地区としてやるって決めてからは、みんな好きに案を出したり、突拍子もないことを言ったりしていますよ(笑)」

最近では『棚田まもり隊』として、村の20代から50代までが集まる有志のグループも生まれた。

竹地区の伝統となっている田植えや稲刈り体験のほかにも、棚田のライトアップイベントや、農産物を売ったり音楽を演奏したりもしたそう。

「みんな、自分の仕事をそっちのけでやりよります。ただ、竹の人はイベントで商売しよってもすぐに値引きするし、かわいいけんタダでええって言うし。商売に興味がないわけじゃないけど、田舎もんの知恵だけじゃやり方がわからんのです」

アイデアの種はたくさんあると思う。

阿南さんと三人で話すなかでも、カフェでは手摘みした山菜を天ぷらにしたり、各家庭の栗の渋皮煮を味比べセットにしたりしてみたらどうだろう、動物をさばくイベントも面白そうだと、いろんな案が出てきた。

「みんな口では『そんなんできん』って言うけど、絶対にやりたいですよ。知って遊んで、学んで帰ってもらえるような場所になればいい。何より、そのためにみんなで集まれるのが僕はうれしいです」

「ずっと住んでいる身からすれば大きな変化です。竹がちょっとでも良くなれば万々歳ですよ」



帰りの車の中で、阿南さんはこう言っていました。

「竹地区、いいでしょう。もっと多くの人にこんな面白いところがあるんだぞって知ってもらいたいです。よければまた来てくださいよ」

ここで仕事をすることは、地域に根ざして生きていくことだと思います。暮らしも仕事も、自分次第でいくらでも面白くしていけるはず。

次に竹地区を訪れたとき、どんな場ができているか楽しみです。

(2018/12/21 取材 遠藤真利奈)

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