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黙々と一人で作業する。もっとよくするにはどうすればよいか、考えて、誰かと話し合う。
その地道な繰り返しこそ、ものづくりの精度を高める正攻法なのだと思います。
小野キャストは、ロストワックス精密鋳造の専門工場です。
鋳造とは、ドロドロになった金属を型に流し込み、冷やし固める加工法。
とくにロストワックス精密鋳造は、蝋(ワックス)でつくりたい形をつくり、それを型に入れて焼き固める方法です。熱でワックスはロスト、つまり溶けてなくなることで金属を流しこむ空洞をつくるため、ロストワックスと呼びます。
小野キャストでは、この技術を用いて、主にアクセサリーや宝飾品を製造しています。とくに、扱いが難しいとされているステンレスの鋳造加工を得意としているそう。
今回募集するのは、製造に携わるスタッフ。経験は問いません。
作業は一人ずつの分業体制。けれどものづくりにおいては、それぞれがたすきを渡すようにつながっている。まさにチームスポーツのようだと思いました。
池袋から東武東上線で約30分。小野キャストの最寄りであるみずほ台駅に着く。
西口を出て、まっすぐ延びるすずかけ通りを歩いて10分少々。畑が広がるのんびりした場所に、小野キャストの事務所兼工場がある。
工房へ入ると、たくさんの見慣れない機械。スタッフのみなさんは長袖のTシャツを着ている。鉄を溶かしたときの熱風から、肌を守るためだろうか。
2階へ上がると、それぞれの作業机が並び、程よい音量でラジオが流れている。集中している方もいれば、和気あいあいと話している方々も。それぞれのペースで働いている。
奥から、代表の小野さんが迎えてくれた。
前職で歯科技工士をしていた小野さんが、小野キャストを創業したのは2006年のこと。鋳物のなかでも、とくにアクセサリー・宝飾品を専門に扱っている。
「鋳造に関しての経験はほとんどありませんでしたから、最初はお客さんの要望をお断りせず、なるべく対応するようにしていました」
「うまくいけばノウハウを残して、失敗すればみんなで考えて解決する。次第に技術や知識が蓄えられて、また新たなお客さんの要望に応えられる。それを地道に続けてきましたね」
得意としているのが、ロストワックス精密鋳造。どういうものなのか、実際の工程を教えてもらう。
最初にお客さんから指輪などの原型を預かり、それを柔らかいシリコンで挟み込む。しばらくすると固まってゴム型となるので、そこへワックスを注入して指輪の形にする。
ワックスでできた指輪を必要数つくり、金属を流し込む部分となるワックスの棒に溶かして溶着。まるで木のような形になるので「ツリー」と呼ばれている。
ツリーを丸い筒に入れて、まわりを石膏のような真っ白の粉と水を混ぜたもので埋める。それを窯で焼き上げると、熱で粉は固まり、中のワックスが溶けてなくなる。固まった粉が、型となる。
ワックスがなくなって生まれた空洞に金属を流し込む。しばらくすると金属が冷えて固まるので、最後に指輪部分だけニッパーで切り落とす。
磨いたり、石を留めたり。仕上げの工程は、別の会社が担当して指輪が完成する。
前回の取材から4年ほどが経った今。なにか変化はありましたか。
「アクセサリーや宝飾業界は変わらず、現状維持が精一杯といった厳しい状態が続いています」
「ただ、仕事百貨の記事から入ってきた人たちのおかげもあり、会社としてもできることを増やしてきた自負がある。アクセサリー以外にも仕事は無限に広がっているんですよね」
広がっている、というと?
「ロストワックス精密鋳造って、複雑な形状をつくれることに強みがあるんです。アクセサリーのように小さくて細やかなつくりが必要なものを、うちは非常に得意としている」
「たとえば、カメラのパーツ。コンパクトで軽量、新機能の搭載など、日々刷新する世界ですよね。新しい型をつくるってことは、製品を成り立たせる新しいパーツをつくる必要があるわけです。そのニーズに、僕らの技術力は対応できるんです」
ほかにも、鉄道模型やモデルガンのパーツ、釣りで使うルアーやジグなど。
最近では造形機を取り入れ、自社でデータ作成をして原型から作成できるようになった。より幅広い依頼にも対応できるようになっているそう。
ものづくりそのものの発展とあわせて、ロストワックスの可能性も広がっている。
「先日、埼玉県が主催している中小企業のビジネスマッチングイベントへ初めて出展しました。そうしたら、興味を持っていただいた会社さんがいくつかいらっしゃって」
「ほかの会社さんをお手伝いできる技術力があるんだっていうことを再認識できたんです」
営業がいないという小野キャスト。商品とそれを支える技術が名刺がわりになり、人づてに評判が広まって、依頼が舞い込む。健全な状態が続いているそう。
経験が浅かったからこそ、従来の方法や考え方に囚われない柔軟さがあるように思う。
「これまで培ってきた技術を生かしつつ、アクセサリー以外にも仕事の幅を広げていきたいと考えています。ものづくりが好きだっていう想いがある人でしたら、非常に楽しめる場所だと思いますよ」
技術や知識は入社して身につけられるから心配しなくていい、と小野さん。
今働いている人も未経験の人がほとんどで、研修期間中に仕事を覚えていったそう。
次に話を聞いた城臺(じょうだい)さんは、日本仕事百貨の記事を読み、新卒で入社した方。働きはじめておよそ1年になる。
城臺さんがものづくりへ興味を持ったのは、お母さんの影響だった。
「私が小さいころ、好きな漫画やアニメのイラストを模写してくれて。部屋に大切に飾っていました」
「木彫りでたい焼きをつくってくれたこともあったんです。鱗も再現するほど凝ったつくりをしていて」
次第に手を動かすことの楽しさを知り、美大へと進学。就職先を考えていたときに、キャリアセンターへ相談して紹介されたのが日本仕事百貨だった。
「ジュエリーについて専攻して学んでいる子が身近にいて。小野キャストでアクセサリーづくりの仕事をイメージするのは難しくなかったですね」
「入社前に工場見学をさせていただいて。実際の作業を目にして、すごくワクワクしたんです。そのときに入社を決めました」
大阪出身の城臺さん。移住に不安はなかったか聞くと、「場所にこだわりはなくて。とりあえず実家を出るのが目標でしたね」とのこと。
日々の業務内容は、ローテーションで数日おきに変わるそう。
「発注が来た際の製品管理や、完成後の製品の検品など、事務作業もすることもあります。製作した型にワックスを流し込むところから、最近ではツリーを組み立てるところまでできるようになりました」
「溶けた地金を型に流す『キャスト』と呼ばれる作業では、窯の温度も最高950度くらいになります。本当に怖いですよ」
未経験で入社されたとのことですが。
「まったくわからなかった私にもできたことなので、どんな方でも大丈夫だと思います(笑)。8ヶ月ほど働いて、少しずつ慣れていきましたね」
「作業をローテーションするぶん、成長スピードはゆっくりですが、一歩一歩丁寧に進んでいる実感があります。前できなかったことが『あれ?できるようになってる!』と思えた瞬間はうれしいですね」
新しく入る人は、まずは製品基準を覚えるために検品作業から入る。
「少ない人数だからこそ、力になりたいと思う」と話してくれる城臺さんは、先輩として頼りになってくれると思う。
「検品作業のとき、不良が見つかるたびに、原因は自分かもと不安になることもあります。自分のミスではなくても心配になることが多くて、『ミス泥棒』ってあだ名がつくこともありました(笑)」
「まだ原因はわからないわけだし、城臺さんが悪く思う必要はないよってみなさん言ってくださるんです。小野キャストで働いていて、不良が起きたときには、“人ではなくまずは仕組みを疑うこと”が徹底されているなと感じます」
不良が起きれば、それぞれの工程を担当した人が話し合って、どこで問題が起きたかを突き止める。ミスが起きた場所がわかれば、どう改善すればいいかをきちんと話し合う。
みんなで考えながら解決していく姿勢は、小野キャストの強みなのだろうな。
「ものづくりが好きな人は向いていると思います。そのうえで、自分の作業のあとに次の人の作業が続いていることもちゃんと考えられる。チームワークも重要だなと思いますね」
次に話を聞いたのが、入社3年目の瀬木さん。瀬木さんも日本仕事百貨の記事をきっかけに入社した。
瀬木さんはジョブローテーションには入っておらず、ワックスツリーを組み立てる作業を専任している。ジョブローテーションの仕組みは、城臺さんの入社以後できた仕組みのようだ。
瀬木さんはデザインの専門学校を卒業し、新卒で入社した。
「ものづくりへの興味はあったので、記事を読んでコツコツと作業できる環境に惹かれました。入社の決め手は、工場見学をしたときの雰囲気でしたね」
「おだやかな雰囲気の人が多いなって印象を受けて。安心できるというか、居心地良く働けそうだなって思いました」
実際に働いてみて、どうでしたか。
「ギャップはなかったですね。納期に追われて、プレッシャーを感じるみたいな窮屈さはほとんどなくて」
残業もクリスマス商品に向けた10月ごろの繁忙期を除けば、一ヶ月に10時間もないくらい。
社長の小野さんの印象は、どうでしょう。
「定期的に個人面談の時間をとってくれていて、なんでも相談できる雰囲気はあります」
「新しく来られる方も、気になることはちゃんと発言して、意見を言ってくれる人だとうれしいですね」
技術の広がりとともに、小野キャストが現在取り組もうとしているのが、自社ブランドをつくること。製品としては、リングやイヤリングを思案中とのこと。
その事業リーダーを任されている瀬木さん。
「今は顧客の人物像を考えている段階で、今度メンバーで集まって話す機会を設けるつもりです。リングとイヤリングのデザインを仮で考えているところで。形になるまでに携われるのは楽しいです」
「社長の小野さんからも、通常業務優先で大丈夫、と気遣ってくださっているので、自分のペースで進められています」
社員やパートの方のなかには、小野キャストで学んだことを活かして個人のアクセサリーブランドをつくった人もいる。
美大を卒業している人や、撮影事務所でカメラマンとして働いていた人など、クリエイティブ系の人が集まっている印象だ。
この仕事のおもしろさって、どんなことでしょう。
「一つひとつ仕事終わらせていく実感があることですね。注文書に各工程が完了した目印としてマルつけをするんです。注文書にマルが全部ついて、出荷を待つだけの商品が並んでいるのを見ると、ついうれしい気持ちになりますね」
コツコツと技術を学んで、ときにみんなで考える。その積み重ねが、小野キャストの高い技術と働きやすさをつくっています。
ものづくりが好きな人は、ぜひ足を運んでみてください。
現場の雰囲気や、働く人たちに触れた直感を信じてみてもいいかもしれません。
(2024/02/19 取材 田辺宏太)
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