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文化祭の実行委員をしていたとき。
開祭式の演劇の台本を考えたり、役の振り分けをして練習したり、道具の準備をしたり。本番までに間に合うのかという不安や、周りとうまくコミュニーケーションがとれないもどかしさから、ときに涙することも。
それでも本番を迎え、無事終えたときの安堵と達成感は、一生忘れることのない思い出です。
今回紹介する仕事も、1/365日のために、みんなと力を合わせて進めていきます。
ランナーズ・ウェルネスは、数々のランニングイベントを手がけている会社。
「湘南国際マラソン」をはじめ、「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」など、企画から、競技運営、広報、記録計測、ボランティアの管理まで。ランニング大会をトータルでプロデュースしています。
ほかにも横浜マラソンの運営を受託したり、企業のランニングイベントで記録を計測したりなど、事業も幅広いです。
今回の募集は、イベントの企画・運営と、記録計測・参加者管理スタッフ。あわせてスポンサー営業の担当者も募集します。
参加者のほか、行政やボランティアなど、さまざまな人とコミュニケーションをとって、みんなでつくりあげていく仕事です。
東京駅からJR上野東京ラインに乗って50分ほどで、辻堂駅に着く。
駅直結の大型ショッピングモールがあり、まわりには住宅街。遠くには山も見える。ほどよく自然と都会が混ざったまち。
夕暮れ時だったので、帰宅する学生やビジネスマンで駅の人通りは多い。
5分ほど歩くと、ランナーズ・ウェルネスのオフィスが見えてくる。
階段で2階へ上り、オフィスの中へ。
ランナーズ・ウェルネスが企画・運営している「湘南国際マラソン」の開催が近づいていることもあり、スタッフ同士が声をかけて準備を進めているようだ。
目が合うと「こんにちは」、と声をかけてくれる。
運営しているマラソン大会は、年間9大会。そのほか、記録計測の委託業務を受けているランニングイベントが30大会ほどあるとのこと。
1993年の創業以来、一気通貫した大会運営を強みにしてきたランナーズ・ウェルネス。
特徴は個性のある大会づくり。
昨年の湘南国際マラソンでは、大会スポンサーのゴールドウイン社(ザ・ノース・フェイス)より、「ゴミを出さない大会をつくりたい」という相談を受け、使い捨てカップでの給水を廃止。
2万5千人が参加する大規模な大会で、世界初の「マイボトルマラソン」を成功させた。
代表の比企(ひき)さんが詳しく教えてくれる。
「給水のシステムが変わっても、ランナーが飲む水の量って変わんないわけですよ。フルマラソンを走り切るのに最低でも2ℓ。2万5千人分の量を用意するとなったら、50tですよ」
これまでは、2ℓの水やスポーツドリンクが6本入った段ボール箱を各給水所にセットして、ペットボトルから使い捨てカップに注いでいたという。
飲み終えた使い捨てカップはコースに散乱するため、それをボランティアの方が拾って回収し、分別して捨てていた。
「マイボトルを持ってきてもらっているので、僕らは20ℓ入るステンレスのジャグをテーブルの上にボンって置いたら終わり。前回まで給水所に1200人のボランティアを配置していたのに対して、昨年は300人でできたんです」
ごみの削減と運営の効率化に加え、完走率もこれまでとほとんど変わらず、ランナーからは、「コース上がきれいになった」という声も多くもらったという。
さらに、今後取り組んで行きたいと思っているのが、大会中の傷病者の数を減らすこと。
そこで、社内で相談し、給水所で提供するドリンクの成分に着目。ビタミンやミネラル、糖質といった必要な栄養素を緻密に計算して、距離ごとに濃度をコントロールすれば、傷病者の数を減らすことができるはず。
科学的な根拠が必要になるため、大学の研究機関と大手食品メーカーとともに、研究を進めていくという。
自治体が主導となるマラソン大会が多いなかで、ランナーズ・ウェルネスは、自社の営業がスポンサーを探して資金調達をし、大会を一からつくりあげていく。
今回募集するイベント企画・運営の担当スタッフは、大会の実現に向けて、ありとあらゆるタスクを洗い出し、関係機関と調整していく役割。
たとえば、駅や警察との調整や近隣住民への説明のほか、使い捨てカップを廃止した湘南国際マラソンで新しい給水システムを考えたのもこの部署のメンバー。
「スタート前の約45分間で、いっせいに42kmの交通規制がかかって。たったそれだけの限られた時間で、200か所すべての給水所にステンレスジャグ1600個と、ボトルを2000本」
「こういった準備は給水担当が知恵を絞って去年もやってくれていて。ほとんど僕は介入してないですよ。100パーセントやり遂げてくれるって信じているので」
これまでは、大会ごとにディレクターをつけて、トップダウン式で各メンバーに指示を出していたけれど、昨年から業務ごとにチームを編成。
給水、式典、コース設計などに分かれて、各大会を運営する仕組みに変更した。
分業制にすることで作業の効率化を目指し、一定の期間でローテーションすることで、仕事の全体像が見えるように設計している。
「マラソン大会の運営って全部裏方の仕事で。小さな積み重ねで成り立っているので、まわりのやっていることをちゃんと認めながら、自分のやることもコツコツ進めていける人が合っていると思います」
次に話を聞いたのは、今年で入社16年目の西田さん。
もともとシステムエンジニアとして働いていたけれど、デスクワークだけでなく、いろいろな仕事に挑戦したいと思い、ランナーズ・ウェルネスへ。
現在は、主に記録計測と参加者管理を担当している。
自社で企画・運営している大会は、参加者を募るところから始まる。行政と大会の要項をまとめてエントリー期間を決めたら、外部サイトでエントリーサイトを構築。
参加者のデータを集めたあとは、アクセスやエクセルを使って情報を管理し、その後、参加者データを記録計測のための専用ソフトに取り込んで作業していく。
「操作やつくり方は、だいたいの人が覚えられるんですけど、それを確実なデータにする作業が意外とむずかしくて。そこら辺の勘所を覚えていくのは大変なところなのかなと」
どういうミスが起こりやすいのでしょうか?
「一番怖いのが、ズレですね」
「ズレが起きる一番の原因は、新しいデータを入れるときで。ゼッケンナンバーやスタートブロックの記号、市町村や男女比といった今後の大会運営に活かすための情報を入れる際に、起きやすいです。データは担当者が一人で管理するので、かなり注意する必要があります」
大量のデータを扱った経験はなくても大丈夫。ただ、エクセルが使えて、関数に苦手意識がないほうがいいと思う。
大会が近づくにつれて、参加者の方にゼッケンを送付したり、どこの地点で計測するかを調整したり。そのうえで、機材の準備・積み込みをして現場に向かい計測。
「委託業務の大会も含めると、年間で40大会ぐらいの記録計測をしているので、毎週どこかしらの現場に行きます。体力的にもかなり大変ですね」
「自分の仕事はここまでだ、みたいに、自分で仕事の線引きをしない方が来てくれたらいいなと思います」
線引き?
「どうやったらお客さんが喜んでくれるのか、どういう計測をしたらお客さんに満足してもらえるのかっていうのは、一つの仕事だけをしていたらわからない部分もあって」
たとえば、大会では記録が記載された完走証を手渡していたけれど、コロナ禍を機にWebで発行できるように変えたそう。
「そうやってまわりの状況に合わせて工夫していかないと、いいものはつくっていけないと思うんです」
西田さんは大会運営のディレクターも担っているため、繁忙期は土日も含めて忙しい。
大変な仕事に思えるけれど、続けているのはどうしてでしょう?
「やっぱり、終えたあとの達成感ですよね。開催までに、地元の自治体とか警察とか、さまざまな人と関わり続けるんです。この日を楽しみにしていた何万人ものお客さんが満足してくれるように、1年を通して細かく調整していて」
「終わったあとにみんなで『よかったね』って言い合えるのはいいですよね。自分も第一回目の大会を立ち上げたことがありますけど、達成感はものすごいですよ」
同じように、大会への感動を言葉にしていたのが、ボランティアの管理を担当している金井さん。
「湘南国際マラソンは地元だったので、よく応援に行っていたんです。ひとつの大会をつくるのに、こんなに多くの人が関わっているなんて知らなくて。すごく感動しました」
もともと、環境教育施設でボランティアのコーディネーターをしていた。前回の日本仕事百貨の記事を読んで、ランナーズ・ウェルネスへ入社。
入社してみていかがですか?
「大会直前は社内の熱量がわっと上がって、忙しくなります。ただ、夏は大会も落ち着いて土日も休めるので、個人的に公私のバランスは取りやすいです」
「あとは入ったばかりですけど、大会の途中でも『もっとこうしたい』って思ったことは任せてもらっていて。実際に行動していい結果になると、すごくうれしいですね」
たとえば、それまでは管理されていなかったスタッフ用のお弁当を、名簿をつくって誰が持っていったか管理するように。
すると、休憩に入れていないチームがわかって、ほかのチームがフォローにまわることができるようになった。
細かいことでも、気づいて改善することが大会の成功につながっていくんだろうな。
「いろんな人の話をちゃんと聞ける方が向いていると思います。ほかの役割もそうなんですけど、本当にいろんな人と関わるので。ボランティアさんのなかには、ご高齢の方もいれば、普段はすごく上の役職で働いているような人もいて」
「経験も年齢もさまざまなので、自分の考えだけに固執せずに、まわりの意見もきちんと聞いたうえで、変えたほうがいいと思うところは柔軟に反映させていく。その姿勢がすごく大切だなと感じています」
取材のなかで、代表の比企さんが話してくれたことが印象に残っている。
「僕らがやっていることは、すごくトリッキーなことだと思っていて」
トリッキー。
「東京ドームだったら、何万人クラスの人が来ることを想定したインフラが整備されているけど、マラソン大会が開かれる場所って、そんな規模を受け入れる想定になっていないんです」
「そういうところに突然何万人も集めて、ランナーの荷物を預かって、スタートラインに並んでもらう。スタートするときは、42kmの道路ですべての車を止めてるわけですよ」
その後も、ランナーへドリンクを提供して記録も計測して、完走したらメダルをランナーに渡していく。
「なぜそこまでやるかと言ったら、2万5千人の一人ひとりが主役だから」
みんなを満足させる、しかもインフラ整備の整っていない環境で。2つの難題をクリアして、初めて大会が成功したと言うことができる。
ひとりじゃできない仕事。みんなで協力するから達成できる。
大人になってからこれだけ非日常を味わえる仕事は、ここにしかないと思います。
(2023/11/8 取材 杉本丞)