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朝、目が覚めて起き上がる前にもう一度、顔を埋めるシーツ。それぞれの色のランチョンマットが並ぶ、家族の食卓。
そんな何気ない日々の営みの連続が、自分の生活をかたちづくっていく。
今回紹介するのは、“暮らし”を今より少しだけ大切に過ごせるような提案をする仕事です。
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地下鉄の表参道駅から地上に出ると、あいにくの雨。路地に点在するギャラリーやショップを横目に、早足に歩いていく。
5分もかからずに到着したのが、麻平のショールーム兼ショップ。メゾネットのマンションのようなつくりになっている。
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中に入ると、1階にはテーブルセットやフレグランスなどの小物が、2階にはベッドルームのディスプレイがある。
大きな窓のある2階の一角で、まずは夏目さんに話を聞く。
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「ヨーロッパでは、おばあちゃんから、お母さん、娘、孫へとリネンの製品を代々受け継いで大切にしているんです。日本でいう着物の文化のようなものでしょうかね」
目の前のテーブルにかけてあるクロスは、春らしいミモザの柄。
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質の良いものがあると場が引きしまる感じがしますね。
「そうですね。でも、特別なときにしか使わないのはもったいないじゃない?リネンは洗濯機でどんどん洗えるし、それぞれの生活で楽しく活用してほしいんです」
「忙しくお仕事をして帰ってくる家が、自分のお気に入りの心地よい空間になるように。ただ、いい商品ですよっておすすめするよりは、そういう豊かなひとときのスタイル提案ができたらいいですよね」
たとえば、日々の食事。
親しい人と、おいしい料理を口にするだけでも十分幸せだけど、そこに手触りのいいナプキンが一枚あるだけでちょっと気分も変わる。色や模様が、会話のきっかけになるかもしれない。
「季節や気分で、色や柄を変えるのも楽しいですよ。グレーや朱色のナプキンを重ねると、日本のお正月に使うような塗り物にも合いますし、クリスマスだったらちょっと緑を添えて。小物から季節感を取り入れるっていうのも、おもてなしの楽しさですよね」
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話を聞いていると、楽しい食卓のイメージが湧いてくる。
「もちろん、忙しい生活のなかで、きちんとフルクロスを敷く余裕がない日もありますよね。たとえおかずがサラダだけだったとしても、小さな布を一枚添えるとなんだかわくわくする。そんな感性を大事にしたいですね」
忙しい日の食事も、みんなで集まる日の食事も。ただお腹を満たすだけでなく、そのひとときを大切にする意識の積み重ねが、生活そのものの質を変えていくのかもしれない。
リネンという素材や商品の知識だけでなく、そこから広がる人とのつながりや豊かな暮らしを提案していく仕事。
だからこそ、まずは働く人自身が人との出会いやおしゃべりを楽しんでほしいと、夏目さんは言う。
「私たちは年に1回、食器やインテリアなどいろんな分野のメーカーさんが集まる合同展示会に出展しています。そのときも、ちょっとお隣のブースの方とお話をしてワイングラスを見せていただいたり、一緒にお酒をいただいたり。そういうコミュニケーションも楽しいんですよ」
麻平では、製品の販売だけでなく、顧客向けにフラワーアレンジメントやカリグラフィなどのワークショップも開催している。
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そんなふうに、空間を整える楽しみを知ることで、ちょっと友人を招待してみようかなというきっかけになる。
「クロスやお皿を用意して、ワインやお惣菜はみんなで持ち寄って、そんなふうに家にお招きするゲストも一緒にテーブルをつくる楽しみを味わえたらいいですよね」
「人が好きで、集うことが好きで、それから食べることが好き。販売や営業の経験よりも、この仕事で大切なのは、そういうことかもしれませんね」
現在、東京の事務所で働いている営業担当は3人。
少人数なので、仕入れから卸営業、ショールームでの接客まで分担しながら運営している。
新しく入る人は、まず一度全部の業務を経験してから担当業務を決めることになる。
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「百貨店のような場所でポップアップをすることもあります。テーマを決めて、期間限定のお店を設えて。そこでは立案から施工、販売まで通して見られるので、自分の提案したものの評価をダイレクトに知ることができるんですよ」
「その時どきで、夏をテーマにしたメゾンのイメージにしましょうとか、テーブル周りを中心にしましょうとか、花のある空間をつくってみましょうみたいにね。もちろん一人で全部はできませんから、みんなで協力しながらやるんです」
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それは、海外の仕入先とのやり取り。発注などはメールがベースなので、電話で自然に会話できるほどの英語力はなくても、英文でのコミュニケーションができれば大丈夫とのこと。
「そんなに難しい単語は使わないと思います。ただ、メーカーの方が日本にいらっしゃることもあるので、そんなときは自分から簡単な挨拶ができたらいいですね。少しくらい英語を間違ってもいいから、積極的に。おしゃべりが好きなことは、本当に大切ですね」
「メーカーさんと直接話をして、つくり手の思いに触れれば、扱う商品にも愛着がわいて、自分の言葉でお客様におすすめすることができると思うんです」
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それでも会社をはじめたころは、売り先から注意を受けることも多かったそう。
「叱られたこともすべて学びになる。そんな経験も今の仕事につながっていると思います」
人の言葉を素直に受け入れたり、周りの人に関心や思いやりを持ったり。小さなチームだからこそ、そんな連携の意識が欠かせない。
実際に営業を担当しているスタッフの方は、どんな思いで仕事をしているんだろう。
話を聞かせてくれたのは、2016年に日本仕事百貨を通じて入社したというスタッフの阿部さん。
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「みんなが自分の仕事だけやっていたのでは仕事が進まない。お互いのことを気にかけながら、声をかけあうことが大事なのかもしれませんね」
小さいチームだからこそ、全体の仕事の流れを通して見られるよさもある。
阿部さんは昨年はじめて、フランスで開かれるメーカーの展示会に同行したのだそう。
「私は、もともと大学でフランス文学を専攻していて、フランスにすごく興味がありました。それが入社のきっかけのひとつにもなっているんです。今回は旅行じゃなくて、ちゃんとものづくりを見ようっていう意識で行ったので、いろいろな発見もありました」
「フランスの人はやっぱり伝統に新しいものを取り入れるのが上手だし、色彩感覚が素晴らしい。仕事をしながら、そういう魅力に少しずつ気づいていくんだなと思います」
麻平が仕入れをしているメーカーのひとつはフランスの老舗、アレクサンドル・チュルポー。
カットワークと呼ばれる上品な飾りレースは、熟練の職人がミシンの手作業で加工しているのだそう。
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そんなバランス感覚のなかで育まれ、受け継がれてきたリネンの文化。
実は、麻平で働く以前からリネンは身近な素材だったという阿部さん。
「私の母が昔からよくお洋服とかを自分で縫っていたんです。リネンの生地が特に好きで、『このリネンはいいわね』みたいに買ってくるのを見ていて、無意識に影響を受けていたんだと思います」
この仕事をはじめてから、実際にリネンのシーツを使ってみたのだそう。
「今まではリネンの何がいいとかあんまり意識したことがなかったんですけど、自分で使ってみると、やっぱりすごく気持ちいいし、ほかのものとは全然違うんです。入ってからますますリネンを好きになった感じですね」
高温多湿で四季の変化に富む日本では、麻というと夏の涼やかな素材というイメージが強いものの、実は保温性も高く、年間通して使うことができるそう。
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自分自身がまず生活のなかで体験してみて、実感として言葉で伝えられるようにしたいと阿部さんは言う。
「それに、お客さんから教わることも多いんです。こだわりを持って、いろんな国のリネンを試されている方もいて。テーブルクロスを壁にかけて使ってるよとか、意外な使い方を教えてもらうこともありますね」
「生地の知識に関してもそうですし、インテリアのコーディネートとか、商品の陳列とか、仕事のなかでもっと腕を磨きたいなと思うことはたくさんあります。日々いろんなものを見て、スタッフ同士でも話し合って、深めていきたいなと思っています」
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リネンのナプキンがあってもなくても、料理の味は変わらない。それでも、どんなテーブルにしようかと楽しみな気持ちで準備をする時間は、かけがえのないもの。
お腹を満たし、休養をとり、そして、人と関わること。
生きていくために繰り返す営みを、豊かにする工夫。それが、この仕事の楽しみなのだと思います。
(2019/3/7 取材 高橋佑香子)