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ふと身の回りを見渡したとき、自分でつくったものってどれくらいあるだろう。
机、パソコン、靴、ライト。会社のデスクから見える範囲に、ぼくのつくったものはありませんでした。家に帰ればDIYでつくった本棚があるけれど、ほかにはパッと思いつきません。
何が言いたいかというと、身の回りのものは基本的に「買う」という選択を自分はしてきたんだな、ということ。これはきっとぼくだけでなく、多くの人に共通して言えることだと思います。
だからこそ、ao2(エーオーツー)という名の“ものづくり集団”のみなさんに出会ったとき、ハッとしました。
あの机もこの椅子も、「つくる」ことができるんだ。
店舗や住宅の設計・施工から、インテリアや雑貨などの小さなものづくりまで。なんでも形にしてしまうのがao2という会社です。
今回はものづくり部門のスタッフと家具製作アシスタントを募集します。経験はまったく問いません。
ものづくりが好きな人。なんでも解体してしまう、好奇心旺盛な人。今までの経験にとらわれず、1から学びたいという人にこの仕事を知ってほしいです。
ao2の事務所は、東京・墨田区の菊川駅から歩いて5分ほどのところにある。
偶然にも今住んでいる場所からかなり近かったため、今回は自転車で向かうことに。
自宅から3分であっという間に到着。玄関を入ってすぐのあたりで、代表の山崎竜太郎さんが招き入れてくれた。
「黙っていると怖く見られがちなんですよ」と山崎さん。せめて目元は怖く見えないようにと、奥さんに選んでもらったメガネをかけているそう。
実際に話してみれば、気さくでさっぱりした雰囲気の方だとすぐにわかる。
「ここはもともと古いビルで。雨漏りもするようなボロボロの物件だったんですけど、設計から施工まで全部自分たちでリノベーションしたんです」
1階が工房、2階はショールームと事務所。3階は山崎さん一家が暮らす住居スペース。
仕事の合間に手を動かすこと2年ほどで、築40年とは思えない気持ちのいい空間をつくりあげた。
額縁のような窓、空間を彩る照明、大きなテーブル。視界に入るほとんどのものを、自分たちでつくっているという。
ショールームを訪れたお客さんから「こんな空間をつくってほしい」という依頼をもらうこともあるのだそう。
「実際に古い倉庫を丸ごとリノベーションするような仕事も珍しくないですね。椅子も自分で鉄を曲げて溶接して、座面のシート張って」
店舗や住宅といった空間そのものから、インテリアや雑貨など小さなものまで、なんでもつくってしまう。
ao2という会社を一言で説明するとしたら、“ものづくり集団”という言葉が似合うと思う。
「言ってみればなんでも屋ですよね。ハコだけつくるんじゃなくて、中身も全部セットで提案するから、お客さんもこの雰囲気を丸ごと気に入って発注してくれるんです」
「基本的には自分のとこでまずつくってみて、よかったらお客さんに買ってもらうっていう。遊んでるわけじゃないけど、もうほんとに、とりあえずつくってみようみたいな軽いノリがあります」
山崎さんは簡単そうに言うけれど、空間や家具一つひとつのクオリティは決して「軽いノリ」じゃできないものに見える。
一体どうして、そんなものづくりができているのだろう。
そう思って尋ねると、山崎さんは自身の過去を振り返って話してくれた。
「若いころからバイクが好きで。アメリカでエンジンを安く買って、背負って帰ってきて。雑誌を見ながら、鉄パイプを曲げてフレームはこんな感じかな?とか、古いバイクのパーツを切ってくっつけてとか。見よう見まねでつくっては売っていたんです」
地元は東京・亀戸。小さなころから鉄工所が遊び場で、溶接は当たり前にみんながやるものだと思っていた。
身の回りにも手仕事に携わる人が多く、そのうち、友人とチームを組んでバイクに合わせたアクセサリーや革ジャン、財布などもつくるように。
さらに派生して、アクセサリーを飾る台をつくってほしいと依頼されることもあった。
「そのあたりから、インテリアとか建築にも幅が広がって。働きながら建築士の資格をとったり、知り合いに教わったりして、つくれるものを増やしていったっていう感じかな」
決してノーと言わず、引き受けてからどう形にできるか考える。
その連続で、いつしか空間のほとんどすべてをつくれるようになっていた。
「なんか今、全部が簡単すぎるじゃないですか」
簡単すぎる?
「インターネットで頼めば、次の日にはできあがったものが届くとか。家だって3ヶ月で建っちゃう時代ですよね。それってどうなのかなって」
「合理的すぎて、楽にはなったけど何も感覚が残らないというか。“買う”ことの前に“つくる”っていう選択肢があっていいはずなんですよ。ぼくは、自分で住む家くらい自分でつくろうよって思うけどね(笑)」
だからこそ、店舗や住宅をつくるときは、施主にも空間づくりに参加してもらうようにしている。
「壁を一緒に塗ってもらったり、『ここ一面に絵描きなよ』って言ってみたり。そうするとコストを下げられるのはもちろん、一番は大事にしてもらえるんですよね。手をかけた分、愛着が湧いて大切にしたくなる」
「現場に行けば、風が抜けたり、光が入ったり、図面だけじゃわからないその場の空気があるじゃないですか。“ライブ”っていう言い方は変だけど、そのときその場の状況に合わせて、お客さんとセッションするような感じでつくっていきます」
お客さんとのコミュニケーションを大事にしてきた山崎さん。過去に施工したお店のリニューアルや2店舗目の出店、スタッフが独立するタイミングで再び声をかけてもらえることも多いという。
その結果、これまでの20年間、営業をせずに会社を続けてくることができた。
「周りの職人も地元の先輩後輩で。クロス屋、塗装屋、大工、水道屋、みんないます。うちの会社は今4人と少人数で運営しているので、大きい店舗とか住宅の場合はチームを組んでやっていますね」
「もとから人付き合いの多い土地柄ではあると思います。近所に150年続く刃物屋さんがあるんですけど、そこのおじちゃんに組子の技術を教わったときは、『ありがとう』って大福持ってって。そんな街ですよ」
刃物屋さんのカンナを使い、つくった家具が地域のお店で使われる。その場ではお金のやりとりが発生しなくても、長い目で見れば人との関わりが技術の継承や仕事にもつながってゆく。
「お金は大切なものですけど、そのことばかり考えているとつくりたいものが見えなくなっちゃう」
「部品点数を減らそう、コストを削減しようって突き詰めていくなら、量販店で買ったほうがいいっていう話になってしまうから。ぼくら自身が楽しみながら、お客さんの気持ちを形にしていきたいな、って想いはすごくあります」
今回の募集では、そんな山崎さんの想いに共感できるものづくり部門のスタッフに来てほしい。
何か必要なスキルや経験はありますか。
「まったくなくていいですよ。今いるスタッフも前職は営業で、ものづくりの経験は全然なくて。最初は『丸ノコの使い方からかよ…』って思いましたけど、入って2年ぐらいでこういうのもつくっちゃいますからね」
そう言って山崎さんが指差した先にあったのは、立派なオーディオボックス。
まさか2年でこれをつくれるとは…。てっきり、山崎さんがつくったものかと思っていました。
「もとになる図面は別のスタッフが書いてますけどね。2〜3年一生懸命やれば、ある程度形になるんです」
「自分でつくれるものが増えてくると、仕事はどんどん楽しくなっていくと思いますよ。もしかしたら、なんでも没頭できる馬鹿正直さを持った人のほうが早く形になるかもしれませんね」
未経験からこれほど実践的に力をつけられる環境は珍しい。
さらに、工房の設備や材料の一部は自由に使っていいとのこと。
ものづくりが好きで、生業にしていきたい、身の回りのものを自分でつくっていきたいという人にとっては、かなり恵まれた環境だと思う。
1階の工房に降りていくと、先ほど話題にあがったばかりのスタッフ、長谷川弾さんが作業をしているところだった。
キリのよいところで手を止めてもらって、話を聞く。
半導体の分野で使う部品を輸入・販売する商社で働いていた長谷川さん。
「人のつくったものを売るのではなく、自分でものづくりをしてみたいなって気持ちがあって。そのなかでも家具をつくりたくて、ここにやってきました」
ただ実際には、店舗や住宅の設計施工・リフォームなど、仕事の幅は想像以上に広かった。
「ぼくが入ったころはちょうど社長が腰を悪くしていて、本当に人手が足りなくて。すぐに現場に行って、見よう見まねでとにかく手を動かしていましたね。壁を壊したり、天井を落としたり、毎日がはじめてのことばかりでした」
代表の山崎さんは、機械の基本的な扱い方やものづくりの考え方以外は、ほとんど教えてくれないそうだ。
言葉で教わるより、自分で考えて失敗したことのほうが何倍も身につくからだという。
「重い木や道具を扱うので、結構な体力仕事でもあります。来た当初は細かった体つきも、この2年でだいぶ変わったかなと」
体力面の厳しさで言えば、昼間の現場を終えて一服し、夜勤の現場へと向かうような日もある。また、真冬や真夏の現場は気候の影響を受けるため、体力が大きく削られる。
繁忙期と閑散期はとくに決まっていないものの、忙しい時期に立て続けに仕事の依頼が舞い込むことも多く、どうしても不規則になりがちとのこと。
空いた時間も暇というわけではなく、先ほどのオーディオボックスのような実験的なものづくりに挑戦して、ストックを蓄えておく。
当たり前だけど、楽しいばかりの仕事ではない。
「社長はよく『段取りと整理整頓が大事だ』って言うんです。この道具棚を見ても、よくわかりますよね」
いつも万全の準備を整えているからこそ、安全に楽しく作業ができる。
なんでも形にしてしまう軽やかさの背景には、ちゃんと入念な準備があった。
そんな話を聞いていた山崎さんが一言。
「何か気にしたり急いでたりするとケガするし、つまんねーと思ってやってると大体失敗するから。楽しいと思って集中しているときほど、いい流れがめぐってくるんでしょうね」
「やっぱり、新しいことに挑戦する好奇心が一番かな」
取材後に昼ごはんをご一緒することになり、カレーを食べました。
すると翌日、スタッフの方からこんな連絡が。
「山崎が、『根性がある』と言っていました(笑)。辛9!! だったようです。いたずら好きですみません…。ご近所さんということで許してください!」
どうりで辛いと思った…。
面接でカレーが出てきたときには、ご注意ください。テーブルの向こうで、山崎さんがニヤッと笑っているかもしれません。
(2019/4/2 取材 中川晃輔)