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“ふつう”より、
“楽しい”を目指して
福祉はもっと自由にできる

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湯気の上がる、柔らかい食パン。

これから朝を迎えるたびに、大きな公園のそばの住宅街にはパンの焼けるいい匂いが漂うだろう。

公園で遊んだ帰りに、ゆったり親子でランチをして、お土産にチョコレートを選んで…。

西新井大師のそばにある「OUCHI(おうち)」の、大きな窓から外を眺めながら、これからはじまる新しい日常のことを想像してみる。

OUCHIは、統合失調症やうつ病などの精神疾患を経験した人たちが社会生活を取り戻すためのグループホームであり、製菓やカフェの仕事を通じた就労支援を行う場所。

運営しているのは、東京や大阪、徳島などに多くの病院や施設を持つ、平成医療福祉グループです。

今回は、法人の介護福祉事業部のスタッフとして、高齢者や障がい者のための施設運営や事業企画に携わる人を募集します。

新しい事業の立ち上げや既存の施設の見直しなど、いろんなプロジェクトに幅広く関わっていく仕事。

事業部の取り組みの一例でもあるOUCHI。4月にオープンを控えた施設を見学しながら、話を聞いてきました。


最寄りは、足立区・西新井大師の門前にある「大師前」という駅。参道を抜けて住宅街を15分ほど歩いていくと、開放的な窓のある木造の建物が見えてきた。

靴を脱いで2階に上がると、風に揺れるカーテンの鮮やかな緑色が目に飛び込んでくる。竣工したばかりの建物は、新しい木の香りもする。

福祉施設というより、なんだかゲストハウスみたい。ちょっと泊まってみたいな。

「医療や福祉の施設で、木造の建築物って珍しいんですよ。今回は、建築家の坂東幸輔さんが特殊な柱を設計してくれて、防災などの基準をクリアできたんです」

そう教えてくれたのは、法人の副代表で医師でもある武久敬洋さん。

武久さんも、ほかのスタッフの方も、みんなカジュアルな服装なんですね。

「病院や高齢者の介護施設にはユニフォームがあるんですけど、ここでは障害のある人もそうでない人も、それぞれが自分らしく働ける環境をつくっていきたくて、服装も自由にしているんです」

従来の常識にとらわれずに精神障がい者のための新しい施設をつくりたいと、このOUCHIプロジェクトがはじまったのは2年前のこと。

まずは、発足の背景になった精神科医療の現状について教えてもらう。

「統合失調症をはじめとして、認知症やうつ病、依存症まで、精神科疾患にもいろいろありますが、なかでも統合失調症は、若くして発症して何十年も病院で過ごすという人も珍しくなくて。今までは社会と切り離された生活を送ることが多かったんです」

日本の精神科病棟のベッド数は、世界全体の2割を占めるほど多い。

必要以上に入院が長引くケースも多く、その背景にはベッドが空くと病院経営に影響が出るという運営サイドの事情もあったと武久さんは言う。

そんな状況が問題視される一方で、退院したとしても、障がい者を受け入れる地域の体制が整っておらず、社会生活に挫折して症状を悪化させてしまうことも。

入院に頼らない精神科医療を実現するためは、まずは安心して生活できる環境づくりに取り組む必要がある。

その意味でも、OUCHIでの生活と就労の支援は、新しいモデルケースになっていく。

精神病院を退院した人はまず2階の居住スペースで生活を送りながら、1階のキッチンやカフェで働いて自立を目指す。

「カフェには、就労以外にもうひとつ役割があるんです。ここのグループホームを卒業して社会に出た人が、寂しいと思ったときにいつでもご飯を食べに帰ってこられる。ここがOUCHIという名前なのは、実家のような場所にしたいという思いがあったからなんです」

大きな窓に囲まれたカフェスペースは、外からでも中の様子がよく見える。

ふらっと訪れたお客さんや公園で遊ぶ子どもたち。直接言葉を交わすことがあってもなくても、同じ時間と空間を共有しあえることが、大きな一歩になる気がする。

ゆるやかに社会とつながりながら、少しずつ社会に戻るための自信をつけていくためのOUCHI。カフェのメニューなどのコンテンツや居住空間などの設計においても、福祉や医療に関わるスタッフのアイデアが多く取り入れられてきた。

商品として販売するチョコレートは、普段は作業療法士として働くスタッフが興味を持って、ゼロからつくり方を学んだのだそう。

福祉を専門としてきたスタッフも、ほかの分野の業務に新しく挑戦できる職場。むしろ今回の採用では、福祉以外の分野からの挑戦を積極的に受け入れたいと武久さんは話す。

「医療や福祉にはその業界特有の常識のようなものがありますが、それは利用者のためではなくスタッフに都合よくできているものも多いと思います。公的制度の枠内で運営しているからか、自由な発想できないというイメージもありますが、本当はもっといろんな可能性があると思うんです」

「だからこそ、業界の常識や雰囲気に染まっていない異業種の視点を大事にしたいんです。福祉の仕事は未経験でも、発想力や企画力を持って問題を解決したいという、意欲ある人が来てくれたらいいですね」

新しい企画づくりや施設のマネジメントに関わる仕事。

たとえば、OUCHIにはキッチンやカフェなどの設備があるので、飲食の経験を生かして新しいメニューをつくることができる。

製品を売るためには営業や販売のノウハウが活かせるし、インテリアや建築の経験者であれば、今後新しい施設をつくるときの空間設計から携われる。

デザインや企画ができれば、アウトプットの工夫で施設でつくられるものの価値を最適化できる。

「指示を出す本部ではなく、現場の仲間という意識で動いていけたらいいですね。施設のスタッフも、利用者さんのためにという思いは一緒なので、新しいアイデアでも耳を傾けてくれると思います」

渋谷のオフィスを本部とする介護福祉事業部には、東京だけでなく、大阪、徳島などいろんな地域で働くスタッフが所属している。

「どこに籍を置くかは、住んでいる場所によって選んでもいい。渋谷のオフィスでもいいし、まずはこのOUCHIで現場の仕事をしながら、企画にも関わるという形でもいいですよ。関西なら大阪や徳島を拠点にすることもできるし」

遠隔でのテレビ会議システムが整っているので、異なる拠点からも事業に関わっていくことができる。


介護福祉事業部長の前川さんも、今は徳島と東京を行き来しながら、OUCHIのほか、板橋区の高齢者介護施設などの事業企画に関わっている。

「大学では障がい者福祉を学んでいたんですが、社会に出てからはずっと高齢者の施設で働いていました。副代表からプロジェクトの話を聞いて、ぜひやりたい!やってみたい!と思って」

現場で一人のスタッフとして働くのではなく、仕組みづくりの面から関わる仕事。

発足から携わってきたこのOUCHIでは、現場で日々感じていた「もっとこうしたらいいのに」という違和感や疑問を、空間設計や企画に活かすことができたという。

たとえば、2階の居住スペース。

落ち着いた個室と、キッチンや洗濯機などが置かれた人と交われる空間、さらに屋上やテラスへとつながるホール。それぞれの気持ちやコンディションによって心地よい過ごし方を選べる。

カーテンの素材や色までこだわって、デザイナーと一緒に空間づくりに取り組んだ。

「私たちが決めたレールに乗せた生活ではなくて、自分からそこに“いたい”と思えるような空間をつくりたかったんです。同じ空間にいろんな価値観を持つ人がいて、それぞれが心地よく過ごせるような」

集団生活のルールや効率を重視しすぎると、その人がもともと持っている可能性を削いでしまうこともある。

「すべてを私たちの物差しで計ろうとすると、障がいを持った方はますます生きづらくなってしまう。私たちが“その人らしさ”に寄り添って視点を合わせていくと、逆に、ほかの人にはない力に気づくことができるんです」

「ものづくりをしているときは特にそう感じますね。独特の発想力があったり、器用に調理ができたり。私たちが勝手に、『障がいがあるからこれができない』っていう限界をつくってしまっていたんじゃないかと思います」

この仕事に必要なのは「優しさ」だという前川さん。

シンプルな言葉だけど、人に寄り添う気持ちがなければ、本当に必要とされるアイデアには結びつかないのかもしれない。


平成医療福祉グループは、OUCHI以外にも同じようにいくつかの就労支援施設を運営している。

淡路島にある「ココロネ」という施設で所長を務める平田さんにも話を聞いてみた。

平田さんはもともと、病院でリハビリの仕事をしていたものの、障がい者福祉についてはよく知らなかったという。医療の知識があるだけに「何かしてあげないと」という意識が強かった。

その価値観が変わったのは、北海道の施設に研修に行ったときのこと。

「作業をしている利用者の方が、『これは自分の仕事だ』って思いはじめてくれる瞬間があって。役割を自覚することで、“できること”が自然と増えていくんですよ。私のほうが仕事を教えてもらったりして、福祉って想像していたより楽しいことに気づいたんです」

研修から戻り、昨年5月にオープンした「ココロネ」。

淡路島特産の花を生かしてドライフラワーをつくるなど、地域とのつながりを大切にしている。

「施設を運営していくためのコンセプトを“つながる”に決めるまでは、いろいろ迷うこともあって、介護福祉事業部のみなさんからもアドバイスをもらいました」

「ただ、いつも最後は『利用者のためになる企画なら、やってみたら?』って、背中を押してもらえることが多かったですね。比較的自由にやらせてもらえる環境だからこそ、責任も感じています」

平田さんが新しい事業としてはじめようとしているのは、コーヒーの販売。

品質やパッケージにもこだわって、扱う商品を決めていく。

障がいを持つ人が「かわいそうだから」ではなくて、本当にその商品に魅力を感じて買ってくれる人が増えなければ、障がい者の生活基盤となる工賃も上がらない。

「コーヒーって、何かちょっとほっとするというか、人と話すきっかけをつくってくれるものだと思うんです。事業を通じて、施設の中だけじゃなく地域や社会で人との関わりができて、障がいを意識せずにつながれる関係ができたらいいなと思って」

「これからが大変なんですけど」と言いつつ、新しい企画をあたためている平田さんは、とても楽しそう。

自分の仕事で、喜んでくれる人がいる。それをうれしく感じるのは、スタッフも利用者も同じこと。

いつか私が歳をとって、今と同じような生活はできなくなったとしても、そういう喜びを感じながら過ごせたらいいなと思う。

“ふつう”の社会生活を送るためではなく、楽しい時間を共有するために。

そんな発想から、新しい福祉のかたちは広がっていくのだと思います。

(2019/3/27 取材 高橋佑香子)
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