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安政元年より160年
今に息づく
こだわりの香り

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

お焼香をひとつまみ。炭の上に落とすと、ふわっとした煙と一緒に香りが広がっていく。

日本文化と深くつながっているお香の世界。仏教では、お香は仏様の馳走と言われるほど大切にされています。

香りにこだわり抜いて、お香の文化を今に伝えているのが、長川仁三郎商店。大阪で160年以上にわたり、線香の原料販売や、焼香の製造・販売を行っている会社です。

今回募集するのは、会社の窓口となる事務と、製品づくりなどお香づくりの現場で働くスタッフ。

少人数の会社なので、事務の仕事をやりながらお香の現場を手伝ったり、興味があればお香の調合にもチャレンジしてみたり。職種に縛られず、いろんなことを経験できる環境です。

お香に関する知識や経験はなくても大丈夫とのこと。自分だけでなくみんなが喜んでくれることがうれしい、そんな人に知ってほしい仕事です。



新幹線で新大阪駅へ。電車を乗り継ぎ、大阪城近くの森ノ宮駅に向かう。長川仁三郎商店があるのは、駅から歩いて10分ほどの場所。

路地に入り、微かにお香の香りを感じながら歩いていると、長川仁三郎商店の看板を見つけた。

長川仁三郎商店は安政元年からお香をつくり続けてきた会社。線香の原料をメーカーに販売しつつ、焼香やお香製品を自社で製造している。

まずお話を聞いたのは、専務取締役の田中剛史さん。仏事などを除いて、日常生活ではあまり馴染みのないお香について教えてもらった。

「扱っているお線香の原料はほとんどが海外のもので、東南アジアが多いですね。それを仕入れて、メーカーさんにお出ししています」

線香も焼香も、原料となるのは香木と呼ばれるもの。特定の木に含まれる樹脂などが長い年月をかけて熟成し、香りを発するようになる。有名なものだと、沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)などがある。

香木以外にも、樹脂が固まったものや、漢方なども香原料として使われる。仕入れた原料を砕いて粉末状に加工したりして、線香メーカーなどに出荷しているそう。

自社で製造している焼香というのは、葬式や仏事で使われるお香。香木や漢方を刻んで調合することで、香木だけでは出ない独特の香りを発する。

田中さんは、社長である田中英次さんの長男にあたる方で、今は三人いる兄弟全員がこの会社で働いているそう。

小さいときからお香が身近にある生活をしていたけど、最初は会社をやっていくつもりはなかったという。

「3年くらい別の会社にいたんです。でもやっぱり育てられた恩というか、戻らなあかんなっていう気持ちが心の中にずっとあって。それでここで働くことを決めました」

仕事をするなかで、それまで他人事として感じていたお香の世界を、自分ごととして考えるようになった。

「お釈迦さんが好きやった香木をよりよい香りにする。そのために昔から伝わってきたやり方なんやということを教えられて。原料も単に粉末にするだけではなくて、線香メーカーさんが使いやすくて、香りを邪魔しないことを考えて粉砕するとか」

「ほんまにええ加減な思いがないんですよ。人に使ってもらって恥ずかしくない、そしてこだわりがあるものをつくる。ものづくりに関しては、そこは絶対に外されへんという思いを持ってやってます」

香りへのこだわりは、現代の人にも受け入れられるような新たな商品づくりにもつながっている。

たとえば、白檀オイルを配合したハンドクリームや、香原料を使ったせっけんなど。化粧品メーカーがつくると原料費で高価になってしまうものを、原料屋の強みを活かして安価に、そしてなにより香りにこだわって商品を届けている。

剛史さんが、特に思い入れのあるものとして話してくれたのが、『らくらく塗香』。

塗香(ずこう)とは体に直接つけるための粉末状のお香で、仏教では清め香とも呼ばれ、仏様に礼拝する前など身を清める為に使用されている。

通常は塗香入れという容器に入っていて、小さな穴から振り出す際、調節が難しくて意図せずたくさん出てしまうことが多かった。

「塗香は売っていたんですが、容器はそれまで扱っていなくて。たまたま化粧品屋さんでポンポンするパフがあるのを見つけたときに、塗香も細かい粉末やからパフを使ってつけれるんじゃないかと思いついたんです」

「名前も私が考えて、最初はポンポン塗香とか言うてたんです。でも社長にそれはあかんやろって言われて(笑)。それでらくらく塗香という名前になりました」

簡単につけられるし、量の調節もしやすい。すでに塗香を使っている人にとってはすごく画期的。そして使っていなかった人にとっては、手軽に香りを楽しんでもらえる商品に。

「ただ一つ欠点があったんですよ。僕らはすごくいいと思ったんですけど…持ちすぎるんです」

持ちすぎる?

「塗香って普通は15グラムで売っているんですが、これは2グラムしか入ってないんですよ。それで2千回くらいはポンポンできる。塗香ってどんだけ使うねんっていう話じゃないですか(笑)」

「毎日5回使うとしても、1年は持つ。中身はもちろんこだわり倒して最高やと思ってるんですが、お店から注文がくるサイクルが遅いので、継続してどう売っていこうかなと。使っていただいている人からの評判はすごくいいんですけどね」

もちろん消費者にとってより良いものを届けたい思いは大前提にある。でもそれと同じくらい、販売する側にとってもより良い売り方を探していくことを大切に考えているそう。

「自分らだけ儲かればいいとか、仕入れ先に必要以上に値切るとか、どこか一つを飛ばした商売は商売じゃないと思っていて。仕入れ先も、お客さんであるメーカーも、消費者も、みんなが喜んでくれる。それがつながってはじめて商売になるんですよ」

「そうやって誰もが喜んでくれる商売。それがうちの考え方だし、これからも大切にしていくことですね」



そんな剛史さんの思いを支えているのが、弟の俊行さん。現在は会社の窓口である事務として働いている。

「3年前まで別の仕事をしていたんですが、事務で働いていた人が辞められたのをきっかけにここに来ました。働く前はお香の業界とまったく関係ないところにいたので、知識もなかったですね」

当時は兄である剛史さんが会社に戻ってきて奮闘していたとき。俊行さんも兄弟の力で会社をよくしていきたいと思ったそう。

「普通に生きてきたら関わることがない仕事だと思うんです。お葬式とかでお焼香を焚く機会はあっても、それだけでは想像できないディープな世界なので」

「たとえば、沈香のなかでも特に貴重な伽羅(きゃら)という香木があって。普通の人が見たら少し形が変わった木なんですけど、金より遥かに高価なんですよ。でもそれを買う人がいるのですごいなと思いました」

事務として働く人は、まず電話で注文を聞くことからはじまる。新規のお客さんよりは、長く付き合っているお客さんとのやり取りが多いため、「いつもお世話になってます」という距離感で話すことが多いそう。

「お客さまの名前が『○○堂』っていうのが多くて、最初は覚えにくかったですね(笑)。あとは聞き慣れない名前の商品ばかりなので、最初はそれを覚えてもらうのが大変かな」

注文を受けたり、香原料の仕入れ先とやり取りをしたり。まさに会社の顔と言える仕事。電話越しであっても、お客さんの思いに共感できるように、寄り添う気持ちで耳を傾けることが大切だという。

「たとえば甘い香りの焼香がいいと言われたときがあって、シャム沈香というちょっと甘い香りの香木のなかから、これかなと思うものを提案したんです。それをぴったり納得してもらったときはうれしかったですね」

「お客さんは商品のことを聞いてきはるんで、知識は少しずつ覚えていってもらえればいいかなと。現場の人とコミュニケーションを取るなかでお香のことを教えてもらえるので、社内でのやり取りを積み重ねていくことも大切です」

ものづくりである以上、現場の仕事がすべてにつながっている。最初から知識がなくても、興味を持って少しずつでも関わってみるのがいいかもしれない。



最後にお話を聞いた土屋さんは、ものづくりの現場で働いている人。7年前から製品づくりスタッフとして働いており、包装などの作業をはじめ、今ではお焼香の調合にも関わっている。

「高校卒業してからずっとバンドで音楽の道を目指してたんです。でも20歳過ぎて夢もあきらめようかと考えはじめて…。やるなら現場の仕事がしたいと思っているときに、ここの求人募集を見つけたのが最初のきっかけでした」

現場作業スタッフとして働く人は、まず土屋さんについて仕事を覚えていくことになる。

最初は商品の箱詰めや贈答品の包装など、単純な手作業からはじまり、慣れてきたら焼香や香木を計って袋詰めしたり、多当紙という贈答品用の紙を折ったりする作業もしていく。

土屋さんはこうした作業をやりながら、お香の調合にもチャレンジしている。

「定期的にお香についての勉強会があって、社長が教えてくれるんです。最初に参加したとき匂い袋をつくったんですが、社長に『なんやこの香りは!』って言われてしまって(笑)」

「原料の配分って大体セオリーが決まってるんですけど、私が配合したものはバランスが悪かったみたいで。同世代の子が『ええやん』って言われていたのがめっちゃ悔しくて(笑)。もっといい香りをつくりたいと思いました」

今では決められた商品だけではなく、オリジナルの香りをつくる作業もしているそう。たとえば、お客さんから「旅館のイメージの香りをつくってください」と言われたことがあった。

「旅館っぽいって言われても、わかるようでわからないというか(笑)。写真をいただいたり、旅館に山桃が咲いていると聞いたので、その香りをイメージしたり。自分のなかで香りの感覚をつくって調合しました」

「自分のイメージと、お客さまのイメージが違うこともあるので、そこは難しいですね。つくったものをお客さまが共感してくれて、気に入ってもらえたときはすごくうれしいです」

イメージから香りをつくるって、想像する以上に難しいことだと思う。でも香りに興味を持ち続け、こだわり抜いたものをつくっていけば、お客さんにもきっと届く。



もちろん事務も製品づくりスタッフも、最初は地道な作業からはじめていきます。ステップアップできる環境ではあるけど、まずは一つひとつの仕事をしっかりと務め、奥深い香りの世界を知り、知識を深めていくことが大切。

その積み重ねが、みんなに喜んでもらえるお香づくりにつながっていくのだと思いました。

(2019/3/11 取材 稲本琢仙)

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