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「まちづくり」や「コミュニティづくり」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるだろう。
たとえば企業やNPO法人が主催するイベントや、自治体による公共施設の整備などがそれにあたるかもしれません。
たなべ物産株式会社は、「指定管理者制度」を活用して多摩地区のまちづくりに関わる会社です。
指定管理者制度とは、美術館や公園などの公共施設の管理・運営を、企業やNPOが受託する仕組み。これによって、民間のノウハウと自治体の資源を互いに活かすことができます。
今回募集するのは、たなべ物産が管理・運営する「高尾駒木野庭園」の園長となる人。
日々の仕事は、10人ほどのスタッフのマネジメントや、庭園に人を呼び込むためのイベント企画やPR活動、市役所に提出する報告書の作成など。
スタッフや市役所の職員、地域の人と関係を築きながら、どうすればもっとこの場所が活きるのかを考えていく仕事です。
園長となる人は、庭園の仕事を通して指定管理者のノウハウを学びながら、将来的には新規事業の開拓・推進の役割も担うことになります。
JR中央線の高尾駅で降りて、北口に出る。
訪れたのは昨年の11月半ば。周囲の山では紅葉もはじまっていて、秋の空気を感じる。
静かな住宅街のなかを15分ほど歩いて、立派な門構えの「高尾駒木野庭園」に到着。
庭園での取材と聞いて、周囲から区切られた空間を想像していたけれど、ここは住宅街の一角に自然に存在している感じがする。
中に入って写真を撮っていると、話しかけてくれたのが、たなべ物産の社長・田辺裕康さん。
「紅葉もはじまって、今が一番いい季節だと思いますよ。癒されるし、働くにはいい環境でしょう」
たなべ物産は、八王子で長年建築・不動産関連の仕事を通じ、地域に根差してきた会社。
造園業と飲食業を行う2社と共同で、7年前から高尾駒木野庭園の運営を受託している。
「ここは、八王子市の持ちものなんです。一般の方から寄贈を受けた古いお屋敷と庭を改修して新たな観光資源になるように、庭園として運営しはじめました」
この辺りで一番の観光地といえば、高尾山。
年間300万人近くが訪れるものの、登山客を市内に呼び込むことができていなかった。
「高尾山への玄関口は、京王電鉄の高尾山口駅。ほとんどの人がそっちを利用するから、JR高尾駅から続くこちらは“裏高尾”って言われるくらいで」
たしかに駅から歩いてくる道は、車通りはあっても静かな印象だった。
「八王子は市として、高尾山だけじゃなく、この辺りにもたくさんの人が訪れるようにしたいと考えているんです」
ところで、建築や不動産の仕事をしてきたたなべ物産が、どうしてこの事業に立候補したのだろう。
「それはやっぱり、『地域と共に歩む』っていうキーワードを、うちの会社が長年大切にしてきたからなんです」
地域と共に歩む。
「八王子はもともと織物産地で。昭和8年に祖父が創業したときは、機織り屋さん向けに生糸の卸をする会社でした。当時から地域の発展に貢献したいという思いがあったんです」
高度経済成長期に入ると、だんだんと織物産業は下火に。一方、都心へ通勤する人たちのベッドタウンとして、住宅需要が高まっていった。
その流れに応じて、たなべ物産は建築・不動産の仕事に事業を切り替えた。
「事業が変わっても、都心に支店をつくったりはせず、多摩地域の仕事をずっとやってきました。地域をベースとした仕事を続けていきたいという思いは、今も変わりません」
ただ、建築業界も今や右肩下がりの時代になってきている。そんななかで出会ったのが、指定管理者の仕事だった。
「今まで培った建築や不動産のノウハウが生かせて、地域の発展につながる領域の仕事を探していました。長年地域でやってきた我々だからこそ、できることがあるんじゃないかと思ったんです」
庭園での仕事は、具体的にはどのようなものなのだろう。
「まずは、いわゆる役所仕事的なことをやってもらう必要があります。スタッフからの日報をもとに、四半期ごとに市役所に提出する報告書を不備なくつくってもらう。園長の仕事全体の、3分の1ほどは事務所内での書類仕事になると思います」
報告書や市役所からの監査対応も、継続して指定管理者を任されるためには大切なこと。
役所の仕事というと複雑に感じるかもれないけれど、前任の園長の引き継ぎ通りに進められれば、そこまで難しいことではないそう。
「あとは、ここに人の流れを生み出すための仕事です」
「すでに地元の町会や団体さんには、ここを集会で使ってもらうこともあって、公民館のような立ち位置にもなっています。そういう人たちと関係性を築くのはもちろん、新たな人も呼び込んでほしいと思っていて」
登山者が利用する駅や、高尾山付近の施設にパンフレットを置いてもらったり、市内のコミュニティセンターでPRしたり。営業のような側面もある仕事かもしれない。
そのほかに、自らイベントを企画することもできる。
今まで開催してきたのは、ジャズバンドのライブやお月見の会、施設内の竹を使った門松づくりなど。毎年実施している人気のイベントもある。
地域の人たちが気軽に集まる、ゆるやかなコミュニティが生まれつつあるようだ。
「市が所有する公共施設なので、お酒が出せない、夜間の利用に申請が必要、などの一定の基準はあります。その基準の範囲内で工夫を凝らして、できることを見つけていってほしいと思います」
やるべき仕事は幅広いし、考慮することも多いかもしれない。
とはいえ、「庭園の園長」という響きには、なんだかまったり働けそうなイメージがある。実際のところはどうなのだろう。
「もちろん、庭園の仕事だけを見たら、そういう捉え方もあるのかもしれません。ただそれだけではなくて、これから指定管理の事業をほかにも広げていこうと考えています。園長になる人には、その中心としても動いてほしいんです」
たなべ物産の社内で指定管理の事業に関わっているのは、社長である田辺さんのみ。これから入る人には、右腕として新たな業務領域を一緒に広げていってほしい。
「たとえば、日野市にある築50年の団地を再生する事業にも、2009年から取り組んできました」
空き家になっていた団地を、独立行政法人のUR都市機構からたなべ物産が借り受け、リノベーション。
若い世代に受け入れられやすいように間取りを変更したり、家庭菜園ができるようにしたり。
もう一度コミュニティをつくりだすため、住民同士の交流イベントを仕掛けるなど、運営面にも積極的に関わっている。
「子どものころに、そこで人が生活しているのを見ていたので、入居者がいないのはやっぱり寂しいなと。このプロジェクトの話を聞いたときに、何かできることがあるのではと思って手を挙げました」
「地域が発展するためには、そこに住んでいて『楽しい』とか『心地いい』と思える状態が大切。住むところに働くところ、学ぶところ、憩うところ…、まちのなかに『いいよね』って思える場所をつくっていくのが大事なんです」
創業からずっと、地域とともに歩んできた会社。今後も多摩地区に根を張り、会社の幹を太くしていきたいと田辺さんは考えている。
「これからは、新しいものを一からつくるのではなく、元からそこにあるものをどう活かすかという考え方が大切になると思います。それは、庭園の仕事とも共通する部分だと思います」
園長となる人が、多くの時間を過ごすことになる高尾駒木野庭園。
どんな雰囲気の場所なのか、教えてくれたのは副園長の大塚さん。庭園の指定管理がはじまったときから7年間働いているので、庭園のことをいろいろ教えてもらえると思う。
「私は長年植木に関わる仕事をしていたので、ここでも外の仕事が中心です。園内をきれいに保ちたいので、毎日の掃除や水やり、簡単な剪定をやっています」
休みの日がずれるため、大塚さんと園長が顔を合わせるのは週に4日。シフトで交代する受付のスタッフも含め、基本的には常時2、3人が庭園にいることになる。
訪れるのは、どのような人が多いですか?
「たとえばデイサービスの方が週に一度ここに来られて、外を散歩したり喫茶の利用をしたり。顔見知りのご近所さんや、情報誌を見て来られる方もいますね。やっぱり多いのは、ハイカー。高尾山から降りてきて、ここを解散場所にしてくれるグループもあります」
大塚さんは、どんな人が園長になったらいいと思いますか。
「そうですね…、地域の人やスタッフと親しくなれる人、市役所の方とうまく付き合える人…。やっぱりいろいろ含めて、人間力のある人っていうのかな」
人間力?
「スタッフは40〜50代の女性が多いし、新しく入ってきた園長さんが勢いでいろいろと進めても、付いてきてもらえなくなってしまうかもしれません」
「もちろんこれから、新しいことを進めていくのも大切になるとは思います。そのときに自分の考えを押し付けることなく、きちんと周囲の話を聞くことができる人。そういう人間力のある方ならいいなと思うんですよね」
仕事を続けていると、だんだんと愛着が生まれてくるという大塚さん。
「この場所をずっと整えてきて、少しずつ良くなってきた実感はあります。毎日当たり前の仕事をしているだけなんですけどね、その当たり前をやるには大変な部分もあるんです。冬はすごく寒いし、いまの時期は落ち葉がすごい。大変だからこそ、やりがいがあるんです」
「園長になる人も、そんなふうにやりがいや愛着を感じてくれたらいいですね。勤めるうちに『この場所いいな』と思っていただければ最高なんじゃないかなと思います」
日々の庭園の仕事と、田辺さんの目指す新しい事業がどのように結びつくのか。話を聞くまでは、正直掴みきれていませんでした。
取材を終えて感じたのは、地域の人はもちろん、一緒に働くスタッフや市役所の人など、周囲の声に耳を傾けながら、小さなことでも工夫して取り組んでいくことの大切さ。
そうやって地域に馴染む場所をつくっていくことが、まちを活かすことにつながっていくのかもしれません。
(2018/11/16取材 増田早紀)