求人 NEW

数万回、数十万回
ガラスを切る、磨く、曲げる
手先に魂が宿る

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「機械化が進むガラスの世界で、手作業でしかつくれないものを残すために僕らがいるんです。それは、絶対に簡単なものじゃない。努力して身につけた人間の手でしかできないものだと思っていて。そんなガラス職人の道を、突き詰めていきたい」

株式会社山口硝子製作所の4代目代表取締役、山口信乃介さんの言葉です。

職人の手仕事にでしか実現できない、理化学用のガラス製品をつくっているのが、山口硝子製作所。

場所は京都・三条京阪。京都駅からも電車で20分もかからず、市役所や御所にも近い中心地です。

今回募集するのは、ガラス加工に携わる職人。

経験は必要ありません。基礎的な技術を学ぶためのマニュアルが備わっていて、育成環境も整っています。

手先の器用さに自信がある人。仕事とプライベートのメリハリをつけて、京都での暮らしを楽しみたい人にも、ぴったりだと思います。

 

品川駅から、東海道新幹線に乗る。修学旅行シーズンなのか、隣の車両は高校生で埋まっている。

2時間ほどで京都駅に到着。さまざまな言語が飛び交っていて、活気がある。

市営烏丸線に乗り、1度乗り換えを経て到着したのが、三条京阪駅。出口を出るとすぐに鴨川が流れている。

川沿いの川端通を一本東に入った通りに、山口硝子製作所はある。

看板がなければ素通りしてしまうほどのさりげない雰囲気。おそるおそる呼び鈴を押すと、社長の山口信乃介さんが迎えてくれた。

「一見わかりづらいですよね(笑)。はるばるありがとうございます」

話していて安心する、やわらかい印象のある方。作業場のとなりに併設されている休憩所で話を聞く。

山口硝子製作所の創業は1925年。京都の分析機器メーカーで使われる理化学用ガラス器具の製造下請け工場として、京都三条で始まった。

ほかにも、学校の理科の実験で使われるガラス器具や医療用の機器など、約500種類の加工製品を扱っている。

その多くが、手作業だけでつくられているという。

山口さんは大学を卒業してから、工業製品を扱う会社で4年ほど営業職を経験した。

「工場に打ち合わせに行った際など、工場の方と、製品について話す機会が多くて。すみずみまで考えられている日本のものづくりに、素直に尊敬したんですよね」

すみずみまで考えられている、とは?

「『品質を絶対にばらつかせない』っていう、工場のみなさんの力強い意志によってものづくりが成り立っている。そのために、ミスを防ぐ仕組みや工夫を何重にもしていて」

「現場の人の、真面目にやってはる姿勢があってこそ、かつて日本の製造業が世界一と言われるようになれたんやろうなと思って。その一端を私も担いたいと思いました」

新たな視点でものづくりを見て、家業を継ぐことを決意。2012年に入社した。

ガラスの加工技術を磨きながら、企業での勤務経験を活かし、仕組みを改善していった。

その一つが、外観検査基準書。

「ガラス加工の世界では、どういうものが良、もしくは不良なのか、検査基準を定めるのが難しいんです」

「品質は会社の信頼に直結します。そこで、過去の不良例を分析して『これは不良です』といえる基準を、独自でつくりました。“カケ”とか“クラック”というように、それぞれに名称をつけて、不良の理由を説明できるようにしたんです」

経験に頼る部分がある職人の世界。最初は反対する声もあった。

「熟練の職人さんほど、これまでの自分の判断を崩すことに抵抗感を持っていましたね」

「でも品質を保てば、必ず会社の信頼につながるはずだと、諦めませんでした」

あるとき、出荷待ちの部品に不良が見つかり、担当した職人さんにつくり直すように促すと、強く反対されたという。

「『基準なんて知らん!そのまま出せ』って言うてはるから、一度出荷したんです。ほんなら、お客さんが不良と判断して返却されたんです」

「事前にちゃんと不良を判断できたほうがいいんじゃないですかって、職人さんと何回もやりとりを繰り返して。少しずつ、社内に定着させました」

結果、継続して付き合いのある会社からの信頼も厚くなり、新規での受注も増えたそう。

「世界の科学をリードする最先端の分析装置など、さまざまなところで私たちのガラス製品は使われています。多くの注文に応えながら、難しい製品をつくるためには、みんなで力を合わせなければいけません」

「技術力を100年近く維持してきた自分たちがさらに進化するために、常に新しいやり方を取り入れているんです」

話がひと段落したところで、「現場の雰囲気を感じてもらえたら」と、工場を案内してもらう。

ガスバーナーを使う作業場に入ると、一人ひとりの作業台が並んでいて、職人さんがガラス管にガスバーナーの火を当てて加工している。

一番奥では、山口さんのお父さんで、会長である山口誠さんが作業中。今年で勤続43年を迎える大ベテラン。

細いガラス管を折り曲げて、小判型に重ね合わせている。

一筆書きのように流れる手先の動き。はみ出していたり歪んだりしている箇所なく、完璧に形がそろっている。

「ただの円状なら機械でもできるんですが、細長く小判型に巻いていくのは、人間の手でしかできません。あの技術を得るには… 最低でも10年は必要です」

山口さんの言葉が少し詰まる。数字では表せないくらい、長く続けていくことが大切な仕事なんだろうな。

 

次に話を聞いたのは、坂部さん。穏やかな笑顔で、じっくりと言葉を選びながら話す方。今年で5年目になる。

高校を卒業して、30歳まで同業他社でガラス加工の職人として働いていた。

「テレビで山口硝子製作所が紹介されていたのをたまたま見たのがきっかけで。自分と年代の近い、若い人がいることに惹かれましたね」

現在山口硝子製作所は、職人が11名。20代と30代が半分を占める。

毎日の業務はどう決まるのか聞くと、iPadの画面を見せてくれた。スタッフには一人一台iPadが支給され、業務の確認をするそう。

スケジュールには、色分けされた作業内容と納期が示されている。

「生産管理システムと言って、社長が外観検査基準書とともに導入してくださった自社開発のシステムです」

「注文が入るたびに、社員の状況を見て代表が作業を振り分けてくれるんですよ」

下には、どの製品を何個つくるのかが一覧でわかるようになっていて、それぞれの作業で開始から完了までの業務時間を計測し、データを蓄積する。

次に同じ作業をする際、前回までに自分が計測したデータから、完成目標の時間が自動的に算出される仕組みになっている。

「取り掛かる作業によって、完成目標が一目でわかるんです。納期に間に合うよう、忙しそうやったら誰かに手伝ってもらったり、作業を入れ替えたりしながら、計画的に仕事を進めています」

「ガラス加工の工場で、ここまでデジタル機器を活用している会社はないと思いますね」

業務量を自分でコントロールできるので、有給も取りやすいという。

「社長もお子さんがいて。僕の子どもより少し大きいくらいなんですけど、その辺りもわかってくれはるんで。急な早退の対応とかも相談しやすいんです」

デジタル化がほかの場面でも役に立ったのは、最年長の職人さんが突然辞めてしまったとき。

「突然だったので、作業を教わる機会がなくて。どうしようかと悩んでいたんです」

「そのときに社長が、職人さんの作業をiPadで撮影をした動画を見せてくれたんですよ。過去に、作業を覚えるために撮影したものを残していたみたいで。動画を見ながら練習することができたので、なんとか覚えることができました」

今でも、新しい作業を覚えるときは、教わりながらあわせて動画を撮影する。繰り返し見返しながら実践して、技術を身につけていく。

iPad上にはマニュアルも用意されていて、わからないことはすぐに参照できる。技術が必要な高度なものも、これから整えていくそう。

 

坂部さんたち先輩の背中を見ながら、技術を磨く女性の職人の方にも話を聞いた。本人のご希望で、顔と名前は出せないとのこと。作業中の姿を撮らせていただいた。

作業中の手先を見ると、細いガラス管を定規と目印のついた作業台に添えて、回転する刃で切っている。

「入社して最初に身につける加工技術は、切断と研磨です。今は1.5メートルのガラス管を95ミリずつ切り揃えていく作業をしています」

「誤差は、94.5ミリから95ミリまでの0.5ミリしか許されなくて。100分の1ミリまで調べられるデジタルのノギスがあるので、切断後はそれを使って測ります」

定規があっても、最初は適正な長さに合わせるのは難しい。何百回、何千回と繰り返し、定規ではわからない感覚を養う。

近くでは、ゴーっと音を立てる回転盤の前で別の職人さんが研磨をしている。ガラスの縁を回転板に押し当てて、ミクロン単位で加工を行う。

もともと医療関連サービスの仕事をしていたという女性の方。

マネジメントをする立場だったけれど、業務量が多く、ハードな毎日を変えたいと転職を決意。

昔から手先が器用なことに自信があり、ものづくりの会社を調べるなかで見つけたのが、山口硝子製作所。出身の関西に近いのもあり応募した。

現在2年目で、基礎である切断と研磨には慣れてきて、火を使う加工技術の習得に取り組んでいるそう。

「今は同じフロアで全員が働いているので、わからないことはすぐ聞くことができるのがありがたいです」

「月1回、社長との面談があって。普段思っていることとか、ここを改善できるんじゃないかって提案を直接お話しできる時間も確保されています」

働いているなかで、印象的なことはありましたか?

「最初に壁になりそうなことで言うと、検品ですね」

検品、ですか。

「すべての製品に対して、検査基準書を見ながら出荷前検査を行うんです。最初のうちは、自分でつくったものを検品します。たくさんの検査項目があって、一つひとつ、傷が無いか、適正な長さかを確かめて、品質を判断します」

「基準を満たす製品をつくるためにも、必ず通る作業です。ひとつのことを何回も続けられる力が必要ですね」

 

一人ひとりの力が発揮されるのは、いい環境があってこそ。

2023年の1月には、20代で未経験の方が入社。さらに9月には、同業他社から30代の男性が入社しました。技術をともに磨く若い仲間もいます。

デジタルを使って働く仕組みを整えながら、手仕事の技術を紡いでいく山口硝子製作所。少しでも惹かれた人は、挑戦してみてほしいです。

(2023/12/05 取材、2024/03/25更新 田辺宏太)

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