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地域をプロデュースする。
これから、そんな仕事が増えていくと思います。
地域の魅力を見つけ、それを磨いて外に伝えたり、地域外のものと掛け合わせたり。人と人、人と場所をつないだり、地域ビジネスが継続的な事業として続いていく仕組みをつくったり。
地域に身を置きながら、俯瞰した視点をもって新たな価値を生み出す。決まった定義はないけれど、それは“地域プロデューサー”と呼ぶような仕事かもしれません。
今年2月、この地域プロデューサーを育て、全国に広めていく「Inter Local Partners(インターローカルパートナーズ)」という会社が誕生しました。
この会社の大きな強みは、全国各地ですでに活躍している地域プロデューサーたちとのネットワーク。10名のボードメンバーは、地域商社やエリアマネジメント、飲食業や一次産業など、業種や肩書きを超えて地域ビジネスと向き合ってきた方ばかりです。
そんなつながりを活かして、Inter Local Partners(以下、ILP)は“地域プロデューサーの卵”を募集し、ゆかりのある土地や本人の希望を聞いたうえで、各地で先立ってビジネスに取り組んでいる地域プロデューサーのもとへ送り込みます。
そして、現在進行形で進むプロジェクトに携わりながら、実践的に地域プロデュースを学ぶ「OPT(On the Project Training)」というプログラムを実施。1年間の活動期間中は、業務委託の形で月額最大30万円の活動費が支給されるというものです。
さらに1年間のプログラム終了後には、「プロデューサードラフト会議」を開催。各地域のプロデューサーとの間で雇用契約を結んだり、新たに事業を立ち上げたりと、プログラムで得た経験を特定の地域に根づいて還元していくことになります。
今回募集するのは、そんな“地域プロデューサーの卵”。5年以上の社会人経験が前提になりますが、これまでの業種や肩書きは関係ありません。
ビジネスを通じて地域をよりよくしていきたいと考える人に、この機会を活かしてほしいです。
東京・六本木。
地下鉄の出口からほど近い住宅街の中に、Peace Kitchen BASEというスペースがある。
日本の各地で食に携わるプロデューサーたちが、地域のお酒や食材を持ち寄って集う“非公開のアジト”で、ILPの東京拠点にもなっている。
もともとは「六本木農園」というレストランを営んでいた場所で、明るく広々としたキッチンスペースが象徴的な空間だ。
ここで話を聞いたのは、ILPの代表を務める山本桂司さん。
まずはこの会社を立ち上げるに至った経緯について聞いてみる。
「3.11をきっかけに、キリンビールさんの震災復興の取り組みがはじまったんです。それが『トレーニングセンタープロジェクト』というもので」
ハード面の整備だけでなく、東北の生産者や食に関わる人同士をつなぎ、「農業の復興」から「地域の創生」を目指すこの取り組み。食を通じたコミュニティづくりを推進する「コミュニティキッチンプロジェクト」や、岩手県の農家・製造業者・流通に関わる3社が立ち上げた「三ツ星ヴィレッジ」など、いくつかの活動がここから生まれた。
さらに2016年からは全国にそのネットワークを拡大し、各地で地域創生に関わるプレイヤーや地域プロデューサーが一堂に会する場となっていく。
たとえば、日本仕事百貨でも過去に何度か紹介している「日光珈琲」の風間さんは、兵庫県で「城崎スイーツ」というお店を展開する谷口さんと共同でローカル焙煎所をオープン。トレーニングセンタープロジェクトでの出会いがきっかけとなり、その後も新たな動きが生まれはじめている。
もともとは山口県長門市で地域商社の立ち上げや道の駅のプロデュース・運営に携わっていた山本さんも、このプロジェクトに参加していたひとり。
「地域には圧倒的にチャンスがあるし、濃い人間関係のなかで仕事する面白さもあります。一方で、地域でビジネスをやってきたからこそわかるしんどさもあって」
しんどさ、ですか。
「行政のお金が少しでも入ると周りからの視線も変わるし、分母の少ない市町村では、課題感や悩みを共有できる仲間も少ない。それに自分の取り組みが注目されるようになるほど、弱音も吐きづらくなっていくんですよね」
きっと、全国の地域プロデューサーも同じようなことを感じていたでしょうね。
「そうなんですよ。近しい体験や共通言語をもった仲間同士だからこそ話せる本音があったり、ほかの地域での取り組みからヒントをもらえたりする。ぼくは仲間がほしくてトレセンに参加したんです」
そうして互いの意見やビジョンを交わしあっていくと、地域ビジネスを進めていくうえで行き当たる課題は、どの地域にも共通して大きく2つあることが見えてきた。
ひとつはお金の課題。地域で何かはじめようと思っても、信用がなければ資金調達することも難しいし、クラウドファンディングなどを活用したところで、新たなソーシャルインパクトを生むような規模にはなりづらかった。
そしてもうひとつが、人の課題。全国で活躍している現役の地域プロデューサーたちの、次の世代をいかに育てていくか。属人的に「この地域には〇〇さんがいるから」と紐づけられてしまえば、その人がいなくなった途端に事業は途絶えてしまう。
「自分たちもいろんな人に支えられ、育てられて今がある。やっぱり未来をつくるには、人を育てるしかないよね、と。その想いに共感したメンバーでILPという会社を立ち上げたんです」
そんな彼らがこれからはじめる取り組みの土台となるのが、OJTならぬ「OPT(On the Project Training)」という考え方。“地域プロデューサーの卵”を募集し、全国各地の現役地域プロデューサーのもとで進行中のプロジェクトに関わりながら、実践的に地域ビジネスやプロデュースを体得していく1年間のプログラムを企画している。
「たとえば、ブルワリーを立ち上げたいAさんがいるとします。まずは数ヶ月、ひとつのブルワリーに飛び込んでもらう。そこへ別の地域でブルワリー立ち上げの話が入ってきたら、当然声がかかる。1年かけて3箇所ほどのブルワリーを回れば、その人はビールマイスターとして即戦力になれるわけです」
こんなふうに、各地を転々としながら経験を積む人もいれば、ひとつの地域に集中してじっくり関わる人もいていい。
あるいは、将来ゲストハウスを開業予定のメンバー数名で参加し、本気で学ぶ準備期間に充ててもいい。1年という時間の使い方は、本人の希望などを丁寧にヒアリングしたうえで柔軟に決めていけるという。
広島・尾道で古着屋からはじまり、居酒屋やゲストハウスなど十数店舗を経営している方、全国の遊休地で非日常を体験する“村”をつくっている方、香川・三豊でうどんづくりを通して地域を学ぶ宿を営む方など、受け入れ先の地域プロデューサーも多様だ。
今回募集する人は、そんな各地の地域プロデューサーのもとで月額最大30万円の活動費を得ながら働くことになる。
期間中の複業や兼業も可能で、住居探しなどは各地域のプロデューサーが全面的にサポートしてくれるという。
「1年間のプログラムが終わったら、今度は『ドラフト会議』をやります」
プロ野球で球団側が選手を指名していく、あのドラフト会議ですか?
「そうです、そうです。双方の合意に至れば就職という形で地域に参入することになるかもしれないし、新たな事業立ち上げをファイナンス面からサポートすることになるかもしれない。地域に入り込んでいく前提さえあれば、形は自由です」
熊本県合志市では、電力会社と組み、売電収益を地域に還元する活動を進めていたり、佐賀県唐津市では農業との連携でコスメティックの聖地をつくろうという動きもある。まだ公にできない情報も含め、プログラム期間中や期間後の進路にもいろんな選択肢があるみたいだ。
「安定して働きたい人は来てほしくない。本気で地域ビジネスをやりたいんだけど、どこからはじめていいかわからないっていう人にこそ来てほしいんです」
そう話すのは、ILP取締役の古田秘馬(ひま)さん。
「ぼく、課題解決って言葉があまり好きじゃなくて。肩の痛みをとるために湿布を貼っても、今度は腰が痛くなるとか、また同じことを繰り返すでしょ」
「そうじゃなくて、普段から体のバランスを整えていると、結果的に全体がよくなるように、根本的にまったく新しい考え方でつくっていったほうが何事もいいと思うんです」
プロジェクトデザイナーとして、食やまちづくりなどの分野でさまざまなプロジェクトを形にしてきた秘馬さん。
地域プロデュースにおいても、“こうあるべき”という思い込みや既存の領域をいかに抜け出せるかが重要だという。
「よくあるのは、コンサルティング会社や代理店がいろんな成功事例を引っ張ってきて、あとはまるっと下請けに投げてしまうケース。そうすると、だんだん血が通わなくなってくる。これが日本中で起きている、地域活性の行き詰まりの原因のひとつだと思っています」
「だから、今回の取り組みも現役の地域プロデューサーの真似をしてほしいわけじゃなくて。決して右肩上がりではない状況のなかで、どこに向かうの?どんなことをするの?というところから自分たちでつくっていけるのが、今の時代の面白さなんじゃないかな」
それに、ひとりで立ち向かうのは難しくても、ILPには山本さんや秘馬さんをはじめ、頼もしい地域プロデューサーのネットワークがある。
地域ビジネスの苦労や葛藤も、身をもって体験してきた人たちだから、ときに大きな壁として立ちはだかりつつ背中を押してくれると思う。
「ぼく自身のことで笑えるのが、大学行ってないのに『丸の内朝大学』とか、会社に勤めてないのに『丸の内ヘルスカンパニー』っていうようなプロジェクトをやってて(笑)。知らないからできることもあるんだよね」
これまで地域おこしや地方創生に関わった経験がなくても大丈夫。むしろ、一見無関係な分野で培った経験をどう地域のなかで活かせるか?という応用力や発想力が求められるような気がする。
そしてもうひとつ、秘馬さんが地域プロデューサーに欠かせない視点として語ってくれたのが、コンセプトとアイデアについて。
「人にやさしいまち、笑顔あふれるまちにしたいというのは、コンセプトです。ただ、わかるけど具体的に何をするんですか?という部分が、これだけだと見えてこない。そこにはアイデアが必要なんです」
「逆にアイデアしかないパターンもあります。ゆるキャラ、B級グルメ、世界遺産、マラソン大会…。これだけでも意味がない。つまり、一個一個の要素や現象がどうとかではなく、俯瞰したときにぼんやりと見えてくる世界が大事で。これを見通して方向を示すのが、地域プロデューサーの役割だと思います」
わかりやすく道筋が示されているわけでも、明確な定義があるわけでもない。
だからこそ面白いとも言えるし、これからより必要とされる仕事だと思います。
次世代の地域プロデューサー像をつくっていってください。
(2019/4/12 取材 中川晃輔)