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いい靴ってどういう靴のことを言うのでしょう。
素材にこだわった靴、デザイン性の高い靴…、きっと答えは人それぞれなのだと思います。
取材したのは、独自のセレクトで世界中の靴を集めるTHE NATURAL SHOE STORE。この場所もまた、多くの人にとっていい靴との出会いがきっとあるはずです。
今回は、全国に展開するTHE NATURAL SHOE STOREの神宮前店、吉祥寺店、みなとみらい店、神戸店で、靴を販売するスタッフを募集します。
原宿駅から竹下通りを抜けて、5分ほど歩くと見えてくるのがTHE NATURAL SHOE STORE 神宮前店。
大きな木の扉を開けて店内に入ると、無垢の床や石壁が目に飛び込んでくる。暖かくて居心地のいい空間が広がっていた。
壁に沿って、きれいに並べられた靴のなかには、ビルケンシュトックやダックフィートといった、街なかでよく目にするブランドのものも。どれも履き心地の良さそうな、個性的なデザインのものばかり。
「ビルケンシュトック社には、より履き心地にこだわったTATAMIというブランドがあって。その輸入事業からうちの会社ははじまっているんです」
そう話してくれたのは、株式会社シードコーポレーション代表の種本さん。今日はわざわざ静岡にある本社から駆けつけてくれた。
シードコーポレーションは、1997年の創業から、海外の靴を輸入し全国の小売店に卸してきた会社。THE NATURAL SHOE STOREでの直営店販売をはじめたのは、ちょうど10年ほど前からなのだそう。
種本さんの実家は静岡で、代々履物づくりに関わる仕事をしていた。そんな環境にいたせいか、自然と靴好きの少年に育って、大学卒業後は商社に入社。靴や服の輸入販売をする部署を経験した。
「商社に入社して数年したころ、サンダルメーカーの代表をしていた父親が病気で倒れてしまったんです。それをきっかけに、僕も履物の仕事をすることを決意して。どうせやるなら自分のやりたいことをしようと、靴の輸入をする会社をはじめました」
当時の種本さんは20代半ば。父親がつくってくれていたコネクションを頼りに、まずはドイツのビルケンシュトック社との取引をはじめた。
正直そのころは目の前の仕事に精一杯で、会社の方向性は何も決まっていなかったそうだ。
「当時は2ヶ月に1回くらいヨーロッパに行って、自分が売りたいと思える靴を探す旅をしていました」
靴を通して、自分は世の中に何ができるのだろう。そんなことを考えながら、まちの靴屋さんをまわる日々。
あるとき、種本さんはドイツの靴屋さんで1足の靴と出会う。
「このダックフィートというデンマークの靴。これをお店で見つけたとき、すごく惹かれたのを覚えています」
「この靴は、ベジタブル染料で染められていて、靴ひもはオーガニックコットン。ソールは100%天然のゴム底で、土に還る素材でできてるんです。履き心地もすごくいいし、つくり手の想いが込められていると感じました」
すぐにメーカーにアポイントを取って、デンマークへと向かった。そこで迎えてくれたのは、優しいお爺さんとお婆さん。昔から変わらない靴づくりをしてきた2人は、日本から興味を持ってやってきた若い種本さんを温かくもてなしてくれた。
バブル時代の日本で、靴の生産背景を目の当たりにしてきた種本さんにとって、この靴と老夫婦との出会いは、あらためて靴のあり方を考えるきっかけとなった。
「靴ってすごく奥深いものだと思うんです」
奥深い?
「毎日僕達は靴を履いてどこかへ行くわけです。つまり、いろんな人やものに出会う接点になってくれる」
「それに、靴はつくり手の想いを込めることができるものであり、履く人の気持ちも込められるもの」
履く人の気持ち、と言われて自分のことを思い返してみる。
今日はあの人に会うからこの靴を履いていこう。一日元気でいたいときにはこの靴にしよう。たしかにその日履く靴を、いつも自分の体調や気持ちに合わせて選んできたように思う。
足が痛くなるような靴を履いてしまった日は、どんなにすてきな場所を訪れても帰りたくてたまらなくなってしまう、なんてこともあったなぁ。
「その日、自分がどういう気持ちでいられるかは、靴そのものとつながってると思いませんか。だから、履く人のことを想って丁寧につくられた靴は、履く人の生活を豊かにすることができるんじゃないかなって」
以来、世界中をまわって自分が本当によいと思えた靴を輸入してきた。現在、扱っているブランドは15種類ほど。どれも履き心地や、ものづくりへのこだわりが感じられるものをセレクトしている。
「直営店をはじめた理由は、いい靴がもたらしてくれるものをお客さまに直接伝えたかったからなんです」
そんな種本さんがつくってきたお店では、いったいどんなことが起こっているのだろう。神宮前店で店長をしている沖田さんがこんな話をしてくれた。
「うちの靴には、履くと何か感じてもらえるものがあると思うんですよ。だから、まずは履いてもらうようにしていて。感じてもらった後に、バックボーンやつくりの話をするようにしています」
お店には、性別年代を問わずさまざまな人が訪れる。なかには、身体の不調に長年悩んでいるという方も。
「足の裏の痛みをお持ちだったお客さまが来たことがあって。その方はここで2、3時間ためし履きをされていきました」
そのお客さんは、インソールをどんなに変えても痛みが解消しないと、沖田さんに相談してきた。
そのときはどう案内したのですか?
「とにかく試着をしてもらいました。痛くなる箇所を探りながら、靴を選んでいきましたね」
そうしてお客さんが選んだのは、かかとの痛みには逆効果のようにも思えるソールのダックフィート。
どうしてその靴を選んだのでしょう。
「このソールは天然ゴムを使用しているので、ずっと履いていると熱が伝わってなんとも言えない柔らかさになるんです」
天然ゴムならではのクッション性、ちょうどいい硬さで、履き心地がいい。
ためし履きを続けたことで、お客さんは自分でそのことに気づいたそうだ。
「やっぱり、つくり手の想いがつまっている靴には、いろんな部分に意味がある。つくり手の想いが、お客さまに伝わった瞬間だったと思います」
同じように、色やデザインの悩みにも時間をかけてとことん寄りそう。だから、接客には時間をかけることが多いそうだ。
THE NATURAL SHOE STOREは、目の前のお客さんそれぞれにとっていい靴をスタッフも一緒になって探していく、そんな場所なのだと思う。
「その日の調子って、自分のモチベーションで決まるところもあるじゃないですか。うちの靴を履いてもらうことで『よし今日も頑張ろう』ってポジティブになってくれたらうれしいし、そこを目指していきたいと思っています」
心身の健やかさは、豊かな人生を運び育んでくれる。その大事なキーが靴というわけだ。
だから、スタッフ一人ひとりが心身ともに健やかであることをとても大切にしている。
「『なんで靴屋なのにこんなことするの!?』って思いましたよ」
こちらは神宮前店のスタッフの小泉さん。
入社後に参加したというコンディショニング研修の話をしてくれた。
「食事や運動から心身のトータルコンディションをしていく研修なんです。丸1日かかるもので、それを5回も受けるんです。大人になって反復横跳びをすることになるとは夢にも思わなかったですよ(笑)」
この研修は雇用形態に関係なく受けることになるそう。靴を販売するのにここまでやるとは。ただのモノを売るという意識ではないことがよくわかる。
「こういう仕事って売ることが大事なように思うんですけど、ここではお客さまの心と身体が本当に満足する靴を探すことを一番大切にしています」
だから、お客さんが履いてみたいと言う靴以外にも、スタッフのほうから合いそうな靴を提案することもよくある。「こんなに靴屋さんで試着させてもらったことはない」と驚かれることもあったそう。
「よく女性の方でデザインと履き心地は両立できないと思ってらっしゃる方がいるのですが、そんなことはありません。両立できるものもあるということを、試着しながら発見してもらえたらと思っています」
小泉さんはまだ入社して3ヶ月。入ったらまずは何をすることになるのでしょうか。
「最初は静岡の本社に行って、会社や靴についての研修を受けました。それが終わったらもう店頭に立って。接客しながら仕事を覚えていきます」
接客方法はマニュアル化されていないから、先輩の姿を見ながら覚えていく。そのほかに、商品のディスプレイや、シーズンごとのラインナップの提案も自分たちで考えながら行っているそうだ。
「すごく自由にさせてもらっています。店舗の改善提案をすることもできるし、社長に直接意見することもできる」
あれこれと指示を出してもらえるわけではないから、自分たちで考えないといけない。行動や意見を求められるぶん、ぶつかることもあるけれど、それぞれの個性を活かしながら働いていってほしい。
ここで再び、隣で話を聞いていた店長の沖田さんが加わります。
「トップダウンではなくて、社長は自分たちがこうしたいと思ったことは聞いてくれるし、実行できることはやらせてくれる」
本社が置いてほしいと言ってきた靴でも、現場のスタッフが「ブランドの想いがぶれる」と判断したら店頭に置かない、ということもある。
新しく入る人も、自分なりにTHE NATURAL SHOE STOREがやりたいことを理解して、仕事に前向きに関わってほしいと思う。
最後に、種本さんがこんなことを話してくれました。
「今やりたいことが見つかっていなくても、ここで働くことでそれを発見できるかもしれない。健やかに働くことで自分らしい生き方を見つけて、ここで働くみんなも心豊かに生きてもらいたいなって思っています」
(2017/11/21 取材、2019/7/5 再掲載 遠藤沙紀)