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「まちに新しい施設ができるって、地方では一大事なんですよ。だからこそ応援してもらえるように、丁寧に時間をかけて地域の人たちと関係を築きながらつくっていく。そうすることで本当に愛される施設になるし、私にとってもそのまちが第二の故郷のようになるんです」
そう話すのは、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(ARG)の代表・岡本さん。
ARGは図書館などの公共施設づくりのプロデュースや、研究機関と企業の協働をサポートする産学連携事業など、アカデミックな分野でのビジネスを展開している会社です。
今回募集するのは、図書館をはじめとする公共施設をプロデュースする人。
全国の自治体に出向いて、地域住民へのヒアリングやコンセプト・デザインの決定、完成後のイベント企画まで、設計会社や自治体と連携して広く長くプロジェクトに関わっていきます。
ひとつの施設を形にするのに、数年かかるのは当たり前。じっくりと腰を据えて、深く地域に関わりながら場づくりをしてみたいという人に知ってほしい仕事です。
品川駅から東海道線と京浜東北線を乗り継いで、30分の関内駅。
すぐ近くに横浜市役所や横浜スタジアムがあったり、赤レンガ倉庫や中華街にも歩いて行けたりと便利な立地で、平日の昼間でも多くの人たちで賑わっている。
ARGのオフィスが入るのは、駅から歩いて5分ほどの小さなビル。
4階の一室におじゃますると、ちょうどミーティングが終わるところだった。
ワンルームの中心に置かれたデスクの一角に座らせてもらう。スタッフの皆さんに囲まれるかたちで、少し緊張しながら取材がはじまった。
最初に話を聞くのは、代表の岡本さん。今年でARGを立ち上げてちょうど10年を迎える。
「今日は月に1回の定例会議なんです。普段はみんな出張に出ているので、こんなに事務所に人がいることはめずらしいんですよ」
もともとは、ヤフーでプロデューサーとして働いていた岡本さん。創成期から会社の成長を支え、ヒットサービスもつくりあげた。
「約10年間働いて、自分のつくったサービスも軌道に乗ってきたころに、このままインターネット業界だけに留まっていていいのかなと思いはじめて」
「今度は実際の空間で、多くの人が集まるサービスをつくってみたくなりました。自分が得てきた情報技術のノウハウを、リアルな空間で活用することにもチャレンジしたかったんです」
その後立ち上げたARGでは、図書館のプロデュースをしたり、産学連携のための場をつくったり。書籍やメールマガジンで、学術関連の情報発信も行っている。
IT企業での経験を活かせる業界はたくさんあるなかで、どうして岡本さんはアカデミックに関わる分野を選んだのだろう。
「日本において、ビジネスと研究は切り離して考えがちです。でも実はインターネットって、そもそも研究用途でつくられたもの。あまり知られていませんが、ヤフーもGoogleもアメリカの大学の研究プロジェクトからビジネスの世界にスピンアウトしてきたんです」
え! それは知りませんでした。
「ほかの事例を見ても、きちんとした研究をバックグラウンドに持つ事業は成功している。その考えがあったから、前職時代も産学連携事業に取り組んでいたし、学説に基づいて新規サービスを設計したこともありました」
「だからこそ、自分の会社を立ち上げるときにも、学問を社会のなかで生かすことの重要さをもっと伝えていきたいと思ったんです」
学問を社会のなかで生かす。
それは決して「学問が尊いから」ではないという。
「単純に学問を活用したほうが効率的なんです。自分の疑問や課題を長年研究している人がいるなら、その知識を活用したほうが確実に成功に近づくことができるでしょう?」
ARGの柱となる事業のひとつが、産官学民連携事業。
行政、市民、企業、大学などの研究機関。それぞれの領域が交わることで、発展的な研究や新規事業の創出を目指している。
岡本さんたちは産官学民連携のコーディネートの一貫として、大学教授を招いた企業勉強会を開催したり、企業の持つ顧客データを研究に活用するための橋渡し役を担ったりもしている。
そしてARGのもうひとつの柱であり、社会のなかで学問を生かすために大きな役割を果たすのが、公共施設のプロデュース。
今回新しく入る人は、図書館をはじめとする公共施設のプロデュースを主に担当する。
全国には3200館もの図書館があり、そのうち年間30館ほどが建て替わっているという。ARGは自治体や建築設計事務所と連携し、地域住民の声を生かした施設づくりを行ってきた。
「ARGでは、今までに30以上の施設整備に関わってきました。今僕は10件以上、スタッフもそれぞれ4〜10件ほど新たなプロジェクトに携わっています。そのなかには数年単位の計画で関わっている案件も多いです」
長いものでは、構想からオープンまで8年かかった施設もある。
それほど長い時間がかかる理由のひとつは、綿密な調査研究。
「プロジェクトを進めるなかで『市民にも図書館の運営に関わってほしい』と考えたら、行政と市民の協働についてとことん調べます。本やインターネットで過去の事例を探すだけでなく、その道の研究者に話を聞きに行ったり、実際に協働がうまくいっている現場を見に行ったり」
徹底的にリサーチしたことを、自分たちのプロジェクトに落とし込んでいく。
何度も現場に足を運び、地域の雰囲気を感じ取る。ワークショップやインタビューを通じて、どんな施設があったらいいか、住民の声を直接拾い上げる。
「徹底したフィールドワークというか。なるべく泊まりで地域を訪れて、長い時間をそこで過ごします。仕事以外の時間もまちを歩いたり、飲み会にも参加したり。自分の足で歩いて地域を理解するようにしています」
「泥臭いかもしれないけれど、地域の人たちと腹を割って話せるようになるためには大事なプロセスなんです」
ゆっくりと噛みしめるような口調で、話を続ける岡本さん。
「我々はずっと地域で暮らしていくわけじゃないし、どうせ翌日には都会に帰ります。でも繰り返し訪れては地域のなかに入って、そこの生活の一端でも知ろうと努力する。それは我々のこだわりであり、誇りなんです」
「だから、たとえ仕事の縁が切れたとしても、ずっと通い続けるんだろうなと思います。そういう地域が日本中にたくさんできるんですよ」
新しく入る人も、まずは岡本さんたちと一緒に地域を訪れることからはじめる。
「出張はすごく多いです。毎週のようにどこかに行くことを楽しめるような人がいいと思います」
「それと、できれば長く働いてほしい。修行で3年働きたいとかでは困りますね。建物も何もない状態から施設をプロデュースして、利用者で賑わうところまでを見届けて、はじめてやり遂げた実感が湧く仕事だと思います」
ひとつの施設をつくるために、地域のことをとことん考える。その熱意には圧倒される。
地域とどんなふうに関わっているのか、一緒に働く李さんも教えてくれた。
「もちろん簡単に信頼してもらえるわけではありません。関わりが深くなるぶん、ワークショップをはじめとした対話の場で厳しい意見をいただくこともありますよ。でもそれも含めてコミュニケーションを継続することが大事です」
「時間がかかっても乗り越えられたときは信頼も強くなるし、施設整備に否定的だった人たちが逆にすごく応援してくれることもあります。僕らは、地域の複雑さに対して、複雑なまま向き合います」
複雑なまま向き合う?
「地域社会では、住民はもちろん、建物や制度などの人工物、地域を取り巻く環境など、さまざまな因子が複雑に重なり合っているんです。それらを単純化してきれいにまとめるようなことはせず、包括的に考えることで、地域と正面から向き合うことができると思っています」
李さんの専門は空間デザイン。ハード面のデザインに限らず、ミュージアムのキュレーション、イベントの企画やサービスデザインなど、横断的に取り組んでいる。
「図書館をつくると言っても、単に箱をつくるだけじゃありません。そのなかにはサービスも情報システムもあるし、それぞれを分けて考えていてはいい場は生まれない」
「行政の担当者と司書、学芸員、建築とシステム、サービスなど、プロジェクトに関わる全領域と連携して、施設を含む地域全体を包括的にデザインしていくのが僕らの仕事だと思っています」
ARGのスタッフは全部で8人。さまざまなプロフェッショナルと連携しながら、プロジェクトに応じて柔軟に動いている。
図書館のトータルコーディネート、というイメージですか?
「トータルコーディネートっていうと、トップダウンなイメージですよね。そうではなくて、縦割りや断絶といったさまざまな“あいだ”をつないでいく」
「ボトムアップ的に編み上げていくことで、結果的に全体のデザイン、つまりプロデュースにつながっていくようなイメージだと思います」
李さんが5年以上かけて取り組み、今年の1月に開館したのが、福島県須賀川市の市民交流センター“tette(テッテ)”。
図書館や公民館、子育て支援センター、ミュージアムなどの機能が融合した5階建ての施設は、震災復興の文化的シンボルとして整備された。
施設全体に本棚を設置して学びのきっかけを広げたり、広場のようなホールやカフェ、ショップ、怪獣のモニュメントなどが並ぶ通りをつくったりと、新しい試みも多い。
自分の住むまちにこんな施設があったらきっと楽しいだろうな。
「最初は設計事務所から図書館のコンサルタントとして依頼を受けました。でもプロジェクトに関わるなかで、ミュージアム設置の起案を行いそのキュレーションをやることになったり、カフェ導入のプロセスデザインをしたり」
ほかにも、市民によるパートナーズクラブの立ち上げを支援するなど、いろんなコンテンツやサービスに関わっている。
「単なる施設の復旧はなく、より良いまちづくりにつなげる『創造的復興』を目指したいという市長の強い願いが込められたプロジェクトでした」
「たくさんの市民が思い思いに過ごしているのを見たり、『こんな施設ができてよかった!』っていう声を聞けたりすると、すごくうれしいんです」
施設が完成してからも関わりは続いている。李さんは、施設のコンテンツとしてイベントの企画運営やドキュメンタリー映像の制作のために、1月にオープンしてからも何十回と通っているそう。
「須賀川に行くたびに、『ああ帰ってきた』って思うんです。顔見知りの市民の方とすれ違えば『李さん、今回はいつまでいるの?』って声をかけてくれるし」
「故郷とはまた違った地元ができる感覚は、うちのような仕事でこそ味わえるのかなと思います」
大きなプロジェクトだからこそ、長い時間もかかるし、覚悟と熱意が必要になる。
まちの誰もが関わる公共施設は、地域にとって大きな意味を持つ存在です。0からつくりあげた施設が地域に良い変化をもたらしたとき、この仕事にしかないやりがいを感じられるように思いました。
(2019/5/13取材 増田早紀)