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世界の舞台芸術が集う夏
天空の村、
演劇の聖地へ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

富山県南西部、標高700mほどの山の上に、演劇の聖地として注目を集める村があります。

利賀(とが)村は、かつては合掌造りの家屋が並ぶ伝統的な集落でした。

1970年代に、演出家の鈴木忠志氏がこの地に本拠地を移して以降、劇団SCOTの活動拠点として、世界の演劇人にとっての学びの場として、国内外を問わず交流が続いてきました。

ここ利賀と黒部を舞台にこの夏、世界的な舞台芸術の祭典「シアター・オリンピックス」が開かれます。

シアター・オリンピックスは1993年、ギリシャで創設された国際的な舞台芸術の祭典。

第一線で活躍する演出家による作品を上演するだけでなく、シンポジウムやワークショップなど、次世代の舞台芸術の糧になるようなプログラムを続けてきました。

第9回となる今年は、日本とロシアの共同開催。聖地として多くの演劇人を惹きつけてきたこの利賀が、いよいよその舞台になります。

今回は、利賀会場でイベントの運営を支えるアルバイトスタッフを募集します。学生さんも応募できるので、ぜひ読んでみてください。


富山駅から、車で利賀村へ。公共交通機関を使うなら、富山駅から在来線とバスを乗り継いで1時間半ほどだという。

晴天に映える立山連峰を眺めながら、市街地を走る。

山道へ差し掛かると人家は少なくなり、木々が茂る道は細くなっていく。このまま奥まっていくのかなと思っていたころ、小さな集落が現れた。

会場となる利賀芸術公園を案内してくれたのは、富山県の職員でシアター・オリンピックス2019実行委員会事務局の澤さん。自然あふれる芸術公園を楽しそうにめぐりながら、劇場を一つひとつ解説してくれた。敷地の細部にも詳しく、「ほら、ここにウドがありますよ!」とうれしそう。

芸術公園には、合掌造りを改装した利賀山房や、岩舞台など全部で6つの舞台がある。

なかでも特徴的なのは、池のなかに浮かびあがるような野外劇場。設計は建築家の磯崎新氏。

「野外劇場は、池も森も空もすべてが劇場の一部で、時間も空間も超えた不思議な感覚になっていくというか。ただ“観る”というより“体験する”というほうがしっくりくるかもしれません。言葉では説明しきれないので、ぜひ夏に、体験しに来てください」

雨天でも上演決行。観客も一体となって、その瞬間を共有していく。

最前列から舞台を見ると、背景には緑豊かな山々。近くを流れる清流や鳥の声、村そのものが、作品の一部になっていく。

「ある年の『世界の果てからこんにちは』という演目の本番公演中、雨がさっと降ってきたことがあって。それが舞台上のシーンにぴったりとはまって、ものすごく素敵でした」

「私自身ここでSCOTの舞台をはじめて観劇したときは、本当にびっくりしました。演出はもちろん、俳優さんの声の出し方や体の動かし方、これまで見たどんな舞台とも違っていて」

「ここを訪れるお客さんも舞台を見たあとで、『あの台詞はどういう意味だろう』とか『人間ってすごいね』みたいに、ゆっくり語り合いながら、観劇の余韻に浸れる場づくりができたらなと思っています」

豊かな自然に包まれた過疎の村でありながら、舞台を求めて、世界中から演劇人が行き来する。

2015年からは、夏に開催される演劇祭にあわせて「天空と星空のシアター・ヴィレッジ」という“おもてなし”の取り組みもスタート。

キャンプ場を活用して、来場者が大自然のなかで、食を楽しみながら交流ができるようになった。

村を訪れる人への「おもてなし」のノウハウは少しずつ培われてきたものの、今回のシアター・オリンピックスは規模も大きいので、本格的にアルバイトを募ることに。

スタッフは、出演者や来場者がよりよい時間を過ごせるように、縁の下の力持ちとしてこの祭典を支えていく。会場案内はもちろん、宿泊施設の清掃やベッドメイキングなども大切な仕事。

朝から夜にかけては、フードコートでの接客がメインになる。例えば、海外のシェフは日本語が話せない場合も多いので、スタッフが接客やレジ応対などを担当する。

「期間中、フードコートには中国や韓国、ミャンマーやイタリアからもシェフが来て、ワールドレストランの雰囲気もお楽しみいただけると思います。もちろん日本のメニューや南砺・利賀村の郷土料理、山菜やジビエ、この土地ならではのドリンクも企画中です」

「今回は演劇に加えて舞踊や振付師さんの舞台もあるので、これまで以上にいろんなお客様が来られるはず。お客様や舞台関係者はもちろん、今回来ていただけるスタッフの方にも『今年の夏、利賀村で過ごして良かったな』と感じていただけるように、工夫していきたいなと思います」

自然の他に何もない場所だからこそ、一人ひとりの力がとても大きい。

「村の若者や、春から移住してキャンプ場で働いているお兄さんや村のみなさんも、最近は会うたびに『夏、頑張りましょうね!』とか『協力できることある?』とか声をかけてくれたり、『忙しくなってきたね、体に気をつけて』と励ましてくださったり。新しいスタッフにも加わっていただきながら、みんなでつくりあげていけたら、本当にうれしい」


現場の実務を一緒に担っていくのは南砺(なんと)市で活動する一般社団法人ナントライフのメンバー。

その理事で、地方創生プロデューサーとして利賀に関わってきた石田さんにも話を聞いた。

自身も富山県出身だという石田さん。演劇の村・利賀を訪れる人がここでの滞在をもっと楽しめるように、フードコートやキャンプ場の整備を中心となって進めてきた。

東京の会社に所属しているものの、最近は富山で過ごす時間がかなり長くなってきたという。

「地方創生の仕事ってやっぱり、地元で動かないと何も変わらないっていうもどかしさがあって…。そしたら、いつの間にかこんなにどっぷり富山に(笑)」

この日も取材のあと、村のおばあちゃんの家を回って、イベントで提供する料理に使う山菜採りの相談をするのだとか。

「山菜採り名人のおばあちゃんがいて、すごい料理が上手なんですよ。こういう山の伝統的な料理の素晴らしさを伝えていくことも、大切な仕事だと思っています」

フードコートができる以前、利賀を訪れた人たちはキャンプをしながらカップラーメンを食べたり、各々民宿へ戻ったり。同じ観劇体験をした人同士が交流を持てる場がほとんどなかった。

「これだけ素晴らしい舞台芸術が生まれる村だから、もっと村の人と演劇人と来場者が一体的に楽しめるようにしたかったんですよね」

フードコートの目の前にはキャンプ場が広がる。天気のいい日には満天の星空が見られるのだそう。

夜にはテントを張って、ラウンジとしてお酒を飲んだり語り合ったりできる場になる。

都市部だと、劇場を出た瞬間に現実に引き戻されてしまうけど、ここでは余韻に浸り放題ですね。

「そうなんですよ。ここでの時間を一緒に盛り上げるスタッフも、シフトのあき時間で演劇を見てほしいですね」

「鈴木先生の『リア王』はね、5カ国の俳優がそれぞれの母国語でセリフを言うんです。英語で話した俳優に、中国語で返してみたいな。国籍を超えて一つの世界をつくっていく。自分は一体どこにいるのかわからなくなっていく感覚がおもしろいですよ」


楽しそうに話してくれる石田さんが、「演劇のことはこの人に教えてもらった」という方に会いに行くことに。

会場から車で少し走ったところにある、合掌造りを改装したお家。足を踏み入れると、ひんやりと涼しい。

迎えてくださったのは、利賀で建設のお仕事をされている河崎さん。出会う人みんなの心をほぐしてくれる持ち前の「おもてなし力」で、利賀を訪れた演劇人たちをつないできた方。

家の中には大きなテーブルがあって、いろんなお酒や楽器が並んでいる。なんだかお店みたいですねというと、河崎さんは朗らかに笑った。

「今演出家として活躍しているような人たちも、若いころはよくここへ泊まってたよ」

夜まで営業しているお店の少ないこの村。キャンプ場にフードコートをつくる以前から、河崎さんの自宅は、外から来た演劇人やお客さんが夜な夜な集う場になっていた。

「日本人だけじゃなくて、世界中からいろんな人が集まってパーティをする。こんな田舎にいながら、いろんな人に会えんねん」

すっかり地元の人として頼りにされている河崎さん。利賀へ来たのは今から20年ほど前、阪神淡路大震災に遭ったころだった。

「大阪で商売してるときから、田舎に住んでみたいっていう気持ちはあったね。街中に住んでると、緑が綺麗だなとか水が冷たいなとか、夕立降ったら風が吹くなとか、ごく当たり前のことが感じられないからね」

「贅沢な暮らしやと思うよ。冬が大変なぶん、春が待ち遠しいっていう気持ちがわかる。多分鈴木さんもそういうところが気に入ったんやろうね。金で買えない舞台というか」

河崎さんは演劇人たちと交わりながら、間近に舞台を見守ってきた人でもある。

「アルバイトに来る人も演劇をぜひ見てほしい。映画でもそうなんだけど、その時代だからこそ感じられるものがあるからね。さらに演劇っていうのは、生の空間、生の人間のものだから。役者は一回きりの本番に向けてコンディションを整えてくる。その緊張感がすごいよね」

さらに利賀が特別なのは、今まさに舞台で熱演していた俳優と、同じフードコートでご飯を食べるという環境。

すごい一体感。もしかしたら、演目について話ができるかもしれないですね。

「俺は、演劇人と演劇の話はしないけどね。そんなん、彼らと演劇の話したら大変や。どんどん深みにはまっていく。みんな演劇の話ができないと先生たちに話しかけられないと思っているけど、ごく普通の一個人として付き合えばいい」

「外国人でも一緒。日本人は真面目やから、言葉でしか伝えられないと思っているんだけど、音楽とか料理とかダンスとか、ストレートな気持ちが通じるものはいっぱいある。何とかして自分のことを伝えようじゃなくて、その人のことを何とかしてわかろう、っていうことやねん」

話を聞いているうちに、この場所特有の熱気を感じ、シアター・オリンピックスへの期待感が高まってきた。


取材の終わりに、利賀芸術公園・園長の金田さんにご挨拶。すると、こんなエールをくれました。

「ここは以前、利賀少年自然の家という宿泊施設でね。長い間ここで子どもを見ていても、やっぱり利賀の自然は人を変える力があるんやなって思います。川の水が冷たいとか、石が重たいとか、虫に刺されたら痒いとか。五感で学んでいるうちに、子どもの表情は変わってくるわ」

「自然のなかで観る演劇も、頭じゃなくて五感でしょう。若い人がここに来れば、生きていくうえで必要なもの、なんか見つかると思う。まずやってみるだけの価値が、利賀にはあるっていうことやね」

(2019/5/30 取材 高橋佑香子)
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