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「建物の中をぱっと見たときに、どの人が入居者で、どの人が介護職かわからないみたいな。そういう状況を目指したいと思っているんだよね」こう話してくれたのは、シルバーウッド代表の下河原さん。
もともと建築業からはじまり、サービス付き高齢者向け住宅やグループホーム運営の高齢者住宅事業にも取り組んでいる株式会社シルバーウッド。最近は、VRを使い認知症や発達障害などをより身近に、自分ごととして体験する新しい事業も始めています。
大事にしているのは、社会のあたりまえを疑い、当事者の視点に立って考えること。
今回はサービス付き高齢者向け住宅やグループホームで管理職として働く人と、VRを用いた体験会の実施やコンテンツ制作に関わるスタッフを募集します。
介護業界などでの経験を活かせる場面もあるけれど、むしろ業界の常識にとらわれず、新しいことにチャレンジする気持ちが大切。
まずはここで働く人たちがどんな思いで向き合っているのか、知ってほしいです。
千葉県船橋市。今年の5月にオープンしたばかりのサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀(ぎんもくせい)<船橋夏見>」を訪ねる。
都内を中心に、全部で12箇所に拠点を構える銀木犀。サービス付き高齢者向け住宅やグループホームとして高齢者の暮らしを支えている。
新船橋駅から歩いて15分、まず目に入ってきたのは「だがしや」と書かれたポップな看板。
高齢者向け住宅に駄菓子屋?と気になりながら進んでみると、鍵の開いた入り口に到着。誰でも気軽に出入りできるようになっているようだ。
屋内にはガムやスナックが並んでいて、本物の駄菓子屋のよう。少し足を進めると、無垢のフローリングと白い壁のすっきりとしたリビングのような空間に。置いてある椅子や机も木製で、あたたかみがある。
高齢者住宅というよりも、普通の家のようですごく居心地が良い。
迎えてくれたのは、シルバーウッド代表の下河原忠道さん。熱のある言葉を話しながらも、どこか人懐っこい雰囲気がある人。つられて話しているこちらも笑顔になってしまう。
駄菓子屋があったり、木の質感を感じられたり、ここは一般的な高齢者住宅のイメージとちょっと違いますね。
「銀木犀に入居する人の多くは、軽度の認知症状のある人です。体は元気だし、心と時間を持て余しているんですよね。それだったら仕事ができるようにしちゃえばいいと思って、駄菓子屋をつくったんです」
業界の常識にとらわれず、自由な発想やアイデアを持っていたい。
5月にオープンした船橋夏見ではさらに一歩踏み込み、“仕事付きサービス付き高齢者向け住宅”として、レストラン「恋する豚研究所 LUNCH TABLE 船橋夏見店」を併設した。
お店は日本仕事百貨でも紹介したことのある、社会福祉法人「福祉楽団」が運営する「恋する豚研究所」からのれん分けさせてもらったそう。
現在は銀木犀のスタッフが運営しているけれど、今後は希望する入居者に、パートのような形で働いてもらいたいという。
「ビジネスの仕組みのなかに、福祉的要素を乗せる。そうすることで、社会保障をなるべく使わず継続性を担保していける仕組みをつくっていこうとチャレンジしているところです」
「認知症の人が働いているから笑顔あつまるみたいな、そういうことではなくて。純粋においしいものを提供するという、この場所を訪れたい理由をつくって成功させたいんです。本当においしいランチなんで、ぜひ帰りに食べていってくださいよ」
もともとは建築が専門だったシルバーウッド。高齢者住宅事業という新しい分野にチャレンジしはじめたのは8年前のこと。
当初はうまくいかないことも多かったという。
「最初は業界のあたりまえに倣って、玄関の鍵を閉めていたんだよね。そうしたら、認知症のある入居者が2階から飛び降りようとしちゃったの。外に出たくて出たくて」
事故のリスクを考えると、さらに2階の窓の鍵も締めるという発想もあるけれど、下河原さんは玄関を開けるという方法を選んだ。
「固定概念を打ち破るためには一歩行動しないといけなくて、僕らにとって玄関の鍵を開けることはその一歩だったんです」
開けてみると今度は、認知症のある人たちが出て行ってしまいみんなで探し回る、ということが続いたそう。
「それって、ここにはいたくないっていう意識の表れなんだよね。だから、『入居者さんも働く人も自然体で、みんなが居心地のいい場所にしようぜ』って、いろんなことを変えて」
ユニフォームを廃止し、話し方もより自然にしようと決めた。また、入居者本人のできる力を奪わないことを目指して、掃除の手伝いや食事の準備・後片付け、さらには駄菓子屋の店番など、できることは本人にやってもらうスタンスを浸透させていった。
たしかに、すぐそばで入居者者さんとのやりとりを見ていると、介護する側とされる側という感じとは違う印象を受ける。なんというか、仲のいいご近所さんみたいな感じ。
当事者の気持ちになって、居場所をつくってきた下河原さん。その感覚をもっと一般の人にも知ってもらいたいとはじめたのが、VR事業。
「多くの認知症の当事者へのヒアリングをもとに、どんな世界が見えているか、どう感じているかを体験できる一人称コンテンツをつくったんです」
混乱や妄想といった認知症の行動心理症状は、知っているはずの日常の見え方を変えてしまう。
当事者が感じている困りごとを、一人称視点で体験してみる。医療介護業界に限らず、いろいろな企業から体験会のニーズが高まっているのだそう。
「認知症もそうですが、我が子からある日突然性的マイノリティであることを告白される両親の感覚とか気持ちって、本やセミナーなどで情報として受け取るのと、一人称で体験してから考えるのとでは全然違うんですよ」
当事者の視点はもちろん、それを取り巻く家族の視点など、さまざまな見方を体験することで、認知症や社会的マイノリティの人たちが置かれている現状への理解を深めることができる。そう下河原さんは考えている。
「この取り組みを続けていくためにも、継続性を担保しないといけない。だからビジネスとしてしっかり回っていくように、今はコンテンツの充実と一般企業への導入を進めているところです」
建築、高齢者住宅、レストラン、VR…。シルバーウッドの取り組みは本当に幅広い。
どれもビジネスとして成立させている一方で、下河原さんが持つ高齢者やマイノリティの人たちへのまなざしは、どこか人懐っこく、あたたかい。
「いろんな仕事がある会社だよね。豚しゃぶレストランの店長は介護職だけど、そういうホスピタリティのある人の力っていろんなところで生かせると思っていて」
「僕自身が、介護の仕事に飛び込んでみて、すごくいい経験をいただいたから。いろんな人にぜひ味わってほしいという思いはどこかにあるのかもね」
次に話を聞いた大下誠人さんは、そんな下河原さんの人柄に惹かれて入社した人。2010年に入社し、現在は船橋夏見と鎌ヶ谷富岡の銀木犀で所長を務めている。
もともとは建築業界で仕事をしていたという大下さん。シルバーウッドの建築現場を担当したときに、はじめて下河原さんと出会った。
「はじめて会ってから5年後くらいに、高齢者住宅に参入していきたいんだけど興味あるかって誘われて。介護のことなんて知らなかったんですけど、なぜかそこで『はい』って即答しちゃったんですよね(笑)」
「異業種だったけど、この人と一緒に仕事をさせてもらったら、多分楽しいだろうなと思ったんです。人としての魅力を感じたというか」
最初は泊まり込みで現場に入りながら勉強し、資格も徐々に取得していったそう。
朝礼や掃除で入居者さんと一緒に体を動かしたり、介護保険の請求などの事務作業をしたり、入居希望者への見学対応も含めて仕事は多岐にわたる。
「一番の仕事は人と関わることです。僕が朝から晩までいそがしくしているようだと現場の職員さんも苦しくなっちゃうので、自然体で、所長暇そうだなって思われるのを目指しています(笑)」
銀木犀では、まだまだ元気な人もいれば、身体的に少し不自由な人、最期へと向かっている人まで、さまざまな人が入居している。
「ここは施設じゃなくて、みなさんのおうちなんですよ。だからこそ、最期まで一人の人間として関わっていきたいし、できることはご本人にやってもらう。そういう関わり方なんです」
「介護職員と入居者というより、一緒に生活をしているみたいな感覚。マニュアル通りではなくて、いろんなことを受け入れて対応できる人がいいかもしれないですね」
最後に話を聞いた麓(ふもと)さんは、もともと別の高齢者福祉施設で働いていた経験を持つ方。銀木犀で働き始めた当初は、驚くことが多かったという。
「銀木犀みたいな高齢者住宅って、他にないんですよ。多くの施設では、ころばせちゃいけないとか、怪我させちゃいけないとか、どうしてもリスクから考えてしまう」
「でもここで働いて、リスクを理由に自由を奪わないことの大事さに気づかされました」
自由を奪わない?
「今までは、もしかしたらころんでしまうかもしれないという人には『私が行くまで座って待っててね』と言っていたんです」
「それって、自分で歩きたいと思っている人にとっては、言葉を使って拘束されているようなものですよね。良かれと思って発している言葉が人を苦しめているということに、ここに来て気づかされました」
銀木犀では、できることはなるべく自分でやってもらう。多少のリスクがあっても、自由に歩きたいという思いを大切にする。
「自由さや住む人の生きがいにつながることを銀木犀では大事にしているんです。そこが徹底されていることが大きな魅力なのかなと」
所長をはじめとする職員は、その暮らしを自然な形で支えていく。介護職を経験してきた人にとっては驚くことが多いかもしれないけど、それがひとつの銀木犀らしさなのだと思う。
「ほかの施設で介護の仕事を経験してきた人でも、まず銀木犀での日々を体感してもらいたいって思います。この仕事のやりがいとか良さってこれだったんだなって、実感できるはずだから」
「私は少なくともそうだったので。それを知らずに介護の世界を離れてしまうのは、もったいないような気がしちゃいます」
取材を終えて、下河原さんに勧められた豚しゃぶランチを食べて帰ることに。
びっくりするくらいおいしいお肉に、シャキシャキの野菜。思わず頬が緩む。
レストランの窓越しに、入居者のおばあちゃんが職員の人と楽しそうに話している姿が見える。
福祉という世界には、もちろん真剣に考えなければならないことも多いけど、一度力を抜いて自然体に戻ってみると、心地いい関わり方が見えてくるのかもしれません。
(2019/7/4 取材 稲本琢仙)