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いつかは田舎で暮らしたい。自分のお店や宿を運営してみたい。その「いつか」が、「今」じゃない理由は何だろう。
もし、一人で挑戦することに躊躇しているなら、同じように都会から田舎へ踏み出した先輩のもとを訪ねてみるといいかもしれない。

株式会社フォークロアの代表・熊谷洋さんは、東京の大手企業で働いたあと地域おこし協力隊として南木曽へ赴任。空き家だった古民家を改修して、現在2軒の宿を経営しています。
募集するのは、これらの宿の運営に横断的に関わりながら働く人。
さらに今、3軒目、4軒目のプロジェクトも進行中なので、いつか自分で宿やお店を運営してみたい人は、その目標に近づける環境かもしれません。
長野・南木曽(なぎそ)の駅へは、名古屋から特急で1時間ほど。
南木曽は旧中山道沿いの町で、かつては旅人の行きかう宿場町が栄えていた。そのうちのひとつである妻籠宿(つまごじゅく)には、今でも伝統的な町並みが残り、多くの観光客が訪れている。
新しく入る人の職場のひとつ「ホステル結い庵(ゆいあん)」は、その妻籠宿から車で15分ほどのところにある。稲穂の実った田んぼ、大きな木曽川の流れ、のどかな景色を眺めながら、車は進んでいく。
しばらく行くと、木々の茂った山道にさしかかる。その先に大きな古民家が見えてきた。

トイレや水回りは現代ふうに整えられていて、海外のゲストも使いやすそう。
キッチンカウンター、ベンチ、テーブル、ローチェア。本棚には、雑誌や漫画などいろんな本が並んでいる。外の葉音を聞きながら柱にもたれて本を読む、ぼんやりそんな時間を過ごしてみたいな…。
この古民家を自らリノベーションし、ホステルとしてオープンさせた、オーナーの熊谷洋さんに話を聞かせてもらう。

世界中の国々からゲストを迎える結い庵は、熊谷さんと妻の理絵さん、もうすぐ3歳になる娘さんが暮らすお家でもある。
自宅に、いろんな人が泊まりに来るってどんな感じですか。
「私は本来、内向的な性格なんですけど、海外から来た方といろんな話ができるのは楽しくて。私みたいに“人間があまり得意じゃない”ゲストハウスオーナーが、日本に一人くらいいてもいいのかなって思ってます」
イベントなどで積極的に交流を促すよりも、それぞれが心地よく過ごせるように。
おもてなしのマニュアルはないので、これから入るスタッフもゲストが何を必要としているか、その都度考えて動いてほしいと熊谷さんは言う。
「ゲストを対等なひとりの人間として理解しようとする姿勢があれば、過剰なサービスは必要ないと思うんです。私はいつも自然体で普段着なスタイルですけど、それって、ゲストに対して『君も自然体でいいよ』って伝えることにもなると思うから」

毎日夕方4時に駅までゲストを迎えに行き、そこからチェックイン対応。空き時間には問合せのメールを返したり、予約状況を管理したり。朝食の準備からベッドメイクや掃除、夕食の調理補助、さらに経理やSNSへの投稿など、業務は多岐にわたる。
「これから少しずつ、ガイドツアーのようなコンテンツもつくりたいと思っていて。旧中山道沿いをハイキングしたり、伝統的な町並みの日常を覗いてみたり。本当にきれいなところなんですよ。私がここに移住したのも、妻籠宿の冬景色を見て、見惚れたのがきっかけでした」

転機になったのは2011年の東日本大震災。都市生活の価値に疑問を感じ、自然の中で生き抜く力を持ちたいと考えるようになった。
「移住してみて一番よくわかったのは、自分の弱さです。会社にいるときは“世界中どこでも勝負できる”という自信があったんですけど、それって私の力じゃなくて、組織の力だったなと。すべてが自分の判断に委ねられ、ゼロから自分でつくっていくしかないというのは、なかなかしんどかったですね」
「ショックだったのは、自分が農業に向いてないとわかったことですよ(笑)。最初は宿も畑もやるつもりだったんですけど、毎日、手間暇を惜しまず、植物の世話をする根気は、私にはなかった。今は農作業が得意なスタッフが入ったことで彼に任せて、次は何をつくろう?なんて話をしています」
すべてが想像どおりとはいかないけれど、できることを精一杯やって、できないことはチームに頼る。
自分の弱さやキャパの限界が分かったからこそ、それぞれの強みを活かし合うチームづくりができるのかもしれない。
そんな日々を一緒に過ごしてきたのが、妻の理絵さん。今は8人のスタッフと一緒に結い庵を切り盛りしている。

接客のための会話というよりも、隣にいる人に何気なく声をかける感じ。
人が一番リラックスできる「家」のような宿だからこそ、自然な会話が生まれるのかもしれない。
キッチンを担当している理絵さん。ベジタリアンやムスリムのゲストのために、特別なメニューを用意することもある。

普通の対応、特別な対応という考え方で分けるのではなく、どうすればゲストを受け入れられるか考える。
ノウハウのないところからスタートしたこの結い庵が、高い評価を得られるのはそういう心遣いがあるからだと思う。
「ほんの数日間でも一緒に過ごすと、お互いちょっと家族、みたいな気持ちになるんです。情が湧いちゃって…。最初のころはお見送りが辛かったんですけど、今はまた新しい人との出会いのためにワクワクする気持ちでいようって思えるようになりました」

結い庵から、車で10分ほど。三留野(みどの)宿というエリアに、熊谷さんたちのもう一つの宿「柏屋」がある。
今回募集する人は、ここの運営にも携わることになる。
中を案内してくれたのは、昨年の日本仕事百貨の記事がきっかけとなって入社した川村さん。

30年ほど前から空き家になっていたこの家を、熊谷さんたちはDIYで直してきた。

キッチンやトイレは使いやすく整えられている一方、古い新聞紙で補修した天井裏など、かつてこの家に暮らした人たちの痕跡も随所に見つけることができる。改修のときには、大家さんから、昔ここに住んでいた人たちの話を聞かせてもらったのだそう。
自分たちの手で整えて、人を迎える。だからこそ伝えられるストーリーもある。
「ここは一棟貸しで夜は自由に過ごしてもらうので、なるべくチェックインのときにしっかりお話をします。夏は冷凍庫にチューペットアイスを用意しておいて、海外のゲストが来たときに『こうやって折って食べるんだよ』って見せたら、すごくよろこんでくれました」
チューペット…! ああ、でもそれってすごくリアルな日本の夏かもしれない。
演出された「和」の体験ではなく、ごく普通の季節の感じ方、そのまちの日常を感じられるのも旅の醍醐味だと思う。

「自分が旅をしてお世話になった人に何かお礼がしたいってずっと思っていて。私が日本のゲストハウスで働いているのは、同じようにゲストを温かく迎えることで、直接ではないけど、“お返し”ができるような気がしたからなんです」
実は川村さんは、この冬にオープンする“3軒目”のゲストハウスの運営を任されている。
駅の真向かいにある築40年のタバコ屋兼住宅だった建物。

一方で、どんなサービスを提供するか、オペレーションなどは川村さんが主体的に考えていく、まさに「自分のゲストハウス」。
現在はDIYで内装工事中。川村さんも一緒に現場で作業に加わっているのだそう。
「結い庵の仕事をしながら新しい宿の準備も進めていて、忙しいけどワクワクする気持ちのほうが強いですね。まだ入って5ヶ月なのに、いろんなことを任せてもらえてありがたいなあと思います」
結い庵に柏屋、そして川村さんの新しい宿。
数年前までは縁のなかった南木曽という新しいフィールドを見つけて、場づくりを進めていく代表の熊谷さんに、あらためてこれからの話を聞かせてもらう。
「私がこれからやりたいのは、川村みたいに自分の目標を持った子が、地方で活動できるための拠点をつくっていくこと。新しく入る人にも『何かしたいことある?』って聞いてみたいですね。私が思う事業をつくって人を探すより、スタッフのやりたいことをチームで実現させるほうが楽しいし、うまくいくと思うんです」
熊谷さんのもとには今、地元の人から空き家の活用についての相談が増えている。今後は宿づくりで培ったノウハウを活かしながら、カフェやコミュニティスペースなど、いろんな可能性を試したいと考えているところ。
「自分の居場所は、自分でつくるしかない。南木曽に来るって大きな決断かもしれないけど、違和感を感じ続けながら都市部で働き続けるくらいなら、考えてみる価値はあるんじゃないかなと思います」

華やかに活躍しているように見える人たちも、100%思い通りに進めてきたわけじゃない。一歩踏み出さなければずっと形にはならない。
まずは、今思っていることを話しに南木曽を訪ねてみてください。
(2019/9/16 取材 高橋佑香子)