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華やかさを支える
裏方の誇り

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

毎日通うオフィスや、ほっとくつろぐ自分の部屋、お気に入りのお店…。

どんな空間でも、壁や天井はその雰囲気をつくる大切なもの。

今回紹介するのは、見えない下地から表面の特殊な意匠まで腕ひとつで仕上げる、塗装職人の仕事です。

株式会社ひかり塗装は、商業施設や店舗を中心とした内装塗装と、家具や什器などの木工塗装を専門に手がける会社。

専門的な仕事だけど、まったくの未経験でも大丈夫。ここで一から技術を身につければ、職人として生きていくことができると思います。



埼玉県川口市。東武スカイツリーラインの獨協大学前駅からバスに10分ほど乗り、戸建ての多い住宅街の近くで降りる。

静かな雰囲気のなかを5分ほど歩くと、ひかり塗装の本社に到着した。

代表の小渕さんがまず案内してくれたのは、事務所の1階にあるショールーム。カラフルな塗装の見本がたくさん置いてあって、にぎやかな空間が広がっている。

「ここは『塗装でこんなこともできますよ』っていうことを紹介するための場所で、実際にうちの職人が施した塗装が展示してあります。いろんな材料屋さんとコラボレーションしているので、変わった仕上げも結構多いですよ」

ショールームの壁には、さまざまな塗装が施されている。

ローラーで珪藻土を塗ったエリアや、アート作品のようにペイントされた箇所、レンガ調の凹凸がついて、壁の原型がまったくわからないような部分もある。

一口に塗装と言っても、いろいろな表現ができるんだなあ。

ひかり塗装は、木工塗装の職人だった小渕さんのお父さんがはじめた会社。

家具や什器などの木工塗装の仕事をするうちに、現場で内装の塗装をやってくれないかと声をかけられるようになっていった。今は木工塗装以上に、内装塗装の引き合いが多くなっているという。

「塗装といってもいろいろな種類があります。私の持論なんですけどね、塗装の仕事には距離感が大きく関係すると思うんです」

距離感、ですか?

「そう、人間との距離感。たとえば鉄橋や橋げたなんかの塗装は、色がついているかどうかくらいしか判別できない。でも住宅の外壁は、塗りムラがあればわかりますよね。さらに内装となれば、凹凸も見て取れちゃうし、家具は手触りまで気にするでしょう」

「人間との距離が近いほど、繊細さが求められる。私たちのやっている内装や木工は、塗装のなかでも特にきれいなものをつくることが重要視されるんです」

そう言われ、あらためてショールームを見回してみる。

最初に紹介してもらった意匠性の高い壁の反対側には、白い塗料が一面に塗られている。

つい目立つものに注目しがちがけど、ムラなく滑らかに塗装するのにも、かなりの技術が必要なんだそう。

「内装塗装の特徴は、ただ塗るだけじゃなくて、その下地からつくることです。ほかの塗装の経験があっても難しい仕事なんですよ」

下地づくりは、まず“プラスターボード”と呼ばれる壁材への作業からはじまる。

下地に貼ったボードとボードのすき間を、ヘラを使いパテで埋めていく。この作業がきれいに仕上がることで、最終的に滑らかな一枚の壁に見せることができるという。

普段私たちが目にしている壁は、この上から壁紙を貼ったり、塗装を行ったりしたもの。

「うちが手がけるのは、ほとんどが商業施設。アパレルの店舗の内装工事を請け負った業者さんから、塗装部分を依頼される仕組みです。関東で大きいショッピングモールができると、そのテナントの何店舗かにはだいたいうちが携わっているイメージですかね」

有名ブランドの店舗の内装塗装を担当することも多い。ひとつのブランドが多店舗展開するときには、全国のさまざまな場所に出向いて塗装を行うこともあるそう。

商業施設以外では、住宅の内装塗装も請け負う。普通の壁紙では満足しない、こだわりのある著名人の自宅に出向くこともあるのだと、こっそり教えてくれた。

「華やかさを支える地味な仕事っていうかね。閉店後の夜中に作業することもあるし、店舗づくりの途中段階で入るから完成を見られない場合も多い。もちろんレセプションに呼ばれるわけでもない。本当に影なんですよね」

そう言いつつ、誇らしげな表情の小渕さん。

光は当たらなくとも、空間のベースとなる部分を支える仕事。その距離感が、小渕さんにとってはちょうどいいのかもしれない。

ただ、塗装業界を取り巻く現実は厳しい。

「内装塗装ができる職人さんはそもそも数が少なくて。社員のキャパを越えそうなときは応援を探すんですが、今年はじめて職人さんが見つからずに仕事を断っちゃったことがあって」

「これはもう、外を頼りにしているだけじゃなくて、自分たちで仕事をこなせる体制をつくっておかなきゃいけないなと。ちゃんと自社で人を育てていきたいので、今回募集をすることにしました」

内装塗装に特化した会社として、業界ではよく名の知られるひかり塗装。

自社で職人を育てたいと考えた背景には、高いクオリティを維持し続けたいという思いもある。

「うちの先代は『仕事が営業だ』っていう精神を大切にしていて。いいものをつくり続けていれば仕事はくる、リピーターになってくれるっていう考えで、それは今も変わりません。だから今までも営業はせずに、声をかけ続けてもらえるような仕事を心がけてきました」

「お客さんも『ひかり塗装ならいい仕事をしてくれるだろう』っていう期待で仕事をくれるから、それに応えないといけないプレッシャーはあります。だからますます、社内できちんと人を育てて、どんな依頼にも応えられるような技術力を高めていきたいと思っているんです」



内装塗装の職人として働く人にも話を聞いてみる。

入社して7年になる草島さん。よく通る声と、笑顔が印象的な方。

ちょうど、現場から帰ってきたところだという。

「今日は中野の現場で、玄関扉とその枠を塗装する仕事でした。こんなふうに壁以外の依頼もありますよ。今日の現場は自分1人で行って、5時間くらいで終わったので、すごく短いほうですね」

現場は、人数も期間も毎回異なる。残業することはほとんどなく、何日か同じ場所に通ったり、遠方で泊りがけの出張になったりすることもあるそう。

「最近面白かったのは、お化け屋敷ですね。エイジングをやったんですよ」

エイジングとは、錆や汚れを表現することで、経年変化したように見せる特殊な塗装のこと。

「先輩と一緒に行って、教わりながら。普段あまりやらない加工なので、最初は全然できなかったんですけど、だんだん仕組みがわかって、できるようになっていったのは面白かったですね。7年経っても、まだまだ経験していないことはたくさんあります」

新しく入る人も、まず先輩と一緒に現場に行き、仕事をしながら技術を学んでいくことになる。

車の運転や荷物の搬入、掃除、パテ作業など。比較的簡単な作業からはじめて、徐々にできることを増やしていく。

「最初はめちゃめちゃ大変だと思います。仕上がった壁はシンプルだから、それだけ見るとなんかできそうな気がしちゃうんですよ。でも『これくらいできるだろう』って思ってやってみると、実はすごく難しい」

まったくの未経験でも大丈夫なんでしょうか?

「むしろ未経験のほうがいいですね。たとえば違う会社で経験の長い人だと、今からうちのやり方に合わせることは難しい。何もしてこなかった、塗装ははじめてという人のほうが、変な型がついていなくていいと思うんですよね」

ひかり塗装の職人は、20〜40代の各世代が2、3人ずついる構成。内装業界のなかでは、かなり若いほうだという。

「職場の雰囲気は、悪くはないです!みんなお世話するのが好きなんで、若い人は居やすいと思います。自分も教わってきた実感がありますし、僕も人に教えるのは嫌いじゃないですよ(笑)」

気さくに、いろいろな話を教えてくれる草島さん。

現場ではほかの職人さんと一緒に作業を進める時間も多いから、黙々と目の前のことをやるだけでなく、コミュニケーションを楽しめる人だといいのかもしれない。



続いて、もうひとつの主力事業である木工塗装について紹介してもらう。

本社から歩いて数分の場所にあるのが、木工塗装の工場。きれいに整理整頓された広い空間では、それぞれの場所で職人さんたちが作業を行っている。

日々運び込まれる家具や什器に、指定の色で塗装を行っていく。既製品にはない色味を出したい、という依頼が多く、すべてオーダーメイドの対応になるという。

ここで話を聞いたのは、前回の日本仕事百貨の記事で入社した田中さん。働きはじめて半年ほどになる。

出身は高知県。面接には夜行バスでやってきた。

代表の小渕さんは、「それだけでやる気があるのがわかった」と話していた。

「塗装の経験はまったくないです。飲食とかアパレルとか、いろんな仕事をやってきたんですけど、手に職をつけたいと思って探していたら、ここを見つけました」

仕事はどうですか?と尋ねると、「難しいです!」と即答。

「最初は、ものの名前を覚えるのに苦労しました。日常にない言葉がいきなり飛び交うんで。『ウレタンの何番持ってきて』って言われてもわからないし、養生する紙のサイズもいろいろだし」

用語は少しずつ覚えてきたものの、塗装の仕事には、まだまだ苦労しているそう。

「失敗しちゃいけないと思って、丁寧にやろうとしすぎると、スピードが出せない。ただ遅すぎてもきれいにならないんですよね。結構苦戦しています」

「なので最近は、もともと得意だったパソコン関係のほうで力になれるように、事務のほうの手伝いをさせてもらうことも多いです。せっかくいるんだから、なんでもいいから力になりたいって、今は思います」

口数は多くないけれど、田中さんからは実直に仕事に取り組んでいることが伝わってくる。

田中さんは、将来どんな職人になりたいですか?

「いつかは、全部できるようになりたいです。塗装も、事務も。全部できたら一番助けになるし、きっと楽しいじゃないですか」



決して目立つわけではない、この仕事。

それでも塗装へのこだわりを絶やさず、目の前の仕事に向き合うみなさんの姿勢が印象に残りました。

一人前の職人になるために。技術はもちろん、仕事に向き合う姿勢からも、学べることがたくさんある会社だと思います。

(2019/9/27取材 増田早紀)

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