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日々、多くの人が行き交う羽田空港・国際線。その一角に、特別なお土産品が集まるお店があります。
KIRI Japan Design Storeは、工芸品を中心に、日本全国から集まった商品が並ぶセレクトショップです。
コンセプトは、『「何気ない土産」を「特別なギフトに」』。
空港ギフトをテーマに、日本全国の産地に足を運んで仕入れた工芸品や、産地と一緒につくった商品を並べています。
提案するのは、贈る人と受け取る人をつなぐような特別なギフト。
今回は、販売スタッフを募集します。
平日の昼、羽田空港行きの京急線。
国際線ターミナル駅で降りてエスカレーターに乗ると、出発フロアは人で溢れていた。
KIRIがあるのは、出発フロアの一つ上の階。にぎやかなモールの中で、落ち着いた雰囲気の店構えが目を引く。
さっそくお店に入ると、さまざまな商品がずらりと並んでいる。
漆器や陶器、ハンカチに扇子。なかには招き猫など遊び心ある商品もあって、思わず見入ってしまう。
「ぜひ手にとって見てみてください。一つひとつ面白いんですよ」
そう話しかけてくれたのは、ディレクターの片桐さん。商品の仕入れから店頭での販売まで、お店全体のディレクションを担当している。
まっすぐな視線と、はきはきとした快活さが印象的な方だ。
このお店を一からつくってきた片桐さん。
もともとは、アパレルショップの販売員として働いていたそう。
「洋服が大好きで選んだ仕事でした。でも気づいたら、お客さまより上司の顔や売り上げを気にするようになっていて。本当にこのままでいいのかなって、迷いながら働いていました」
5年ほど勤めたのち、退社を決意する。
転職先に選んだのが、KIRIの前身のお店だった。片桐さんは店長として働きはじめるものの、途中でお店の運営会社が変わることに。
「急遽、お店の方向性決めから商品の仕入れ、販売まですべてを取り仕切ることになって。手探りではじめることになったけど、もともと企画やバイヤーに興味があったから、ワクワクもしていました」
海外へ向かう人が多く訪れるお店だから、荷物にならない手軽な商品がいい。そう考えて、手頃な価格のデザイン雑貨を中心に仕入れていたそう。
そんなあるとき、一つの分岐点となる出来事があった。
「群馬の『高崎ミニ達磨』って商品があって。一つひとつ丁寧につくられているのがいいなと思って仕入れていたんです」
「でもある日、ふと、もし自分が買うとしたら袋よりも箱に入っていたほうが気が利いていてうれしいよなって思って」
そこで試しに桐箱に入れて販売してみると、ミニ達磨はたちまち人気商品に。
とくに、これから海外へ向かう日本人が「外国の人に贈りたい」と買って行くことが多かったそう。
「求められているのは、手軽なお土産品じゃないんだって気づいて。特別さを感じるギフトを贈りたい人が、すごく多いんじゃないかと思うようになりました」
特別さを感じるギフト、ですか。
「ええ。高価格でも、商品そのものに魅力があって、贈った人と受け取った人の距離も自然と縮まるようなもの、というのかな」
「それなら、これから海外へ旅立つ人の背中を押すような、コミュニケーションのきっかけとなるものを売りたいなと思ったんです」
日本のギフトとして喜ばれるものは、どんなものだろう。
試行錯誤するなかで、現在のような日本の伝統工芸品を中心とした品揃えになっていったそう。
片桐さんも自ら全国のものづくりの現場に足を運び、つくり手を訪ねるように。
「作業の様子はもちろん、つくり手の表情、話しかたも。実際に生の現場に触れて、心に響いた商品を仕入れるようにしています」
ものを選ぶ基準については感覚的な部分も多く、ひと言では言い表せないよう。
「言葉にするのはなかなか難しくて。しいて言うなら、僕自身が贈りたい、売りたいと思ったものかな。つくり手の熱量を感じるものですね」
どんな人が、どんなふうにものづくりをしているのか。
顔が見える距離感を大切にすることで、自然と産地との関係も深まっていく。
そのなかで、産地の抱える問題も見えてきた。
本当はいいものなのに安売りされていたり、斬新なデザインゆえに売れなかったり。
商品がきちんとお客さんの手に届かない適切な価格で売れないことが、つくり手の負担になっている。
「でもやっぱり、それじゃ良くないんです。僕らも何かできないか考えるうちに、このお店だからこそできる解決方法があるんじゃないかなって思うようになって」
このお店だからこそ?
「はい。KIRIの特徴は、空港にお店があること。さらに言えば、お客さんに『これから海外へ向かう』というはっきりとした共通点があることです」
「それなら、これから海外へ向かう方が悩むことなく選べるギフトを、産地と一緒につくればいい。価格や文化の違いといったネックになる理由をすべてクリアして、日本の良さを伝えられるギフトをつくろうって」
目指すのは、これから海外へ向かう人が、思わず贈りたくなるようなギフト。
その一つが、「NANAROKU」というオリジナルの蕎麦猪口シリーズだ。
このシリーズの特徴は、全国さまざまな素材でつくられていること。
「テーマは『日本の素材をギフトに』です。オリジナルの型を用意して、全国の陶磁器や漆器の産地につくってもらいました。素材を直に感じられるように、持ちやすくシンプルな形にデザインしているんです」
お店では、本来の使い方だけでなく、スープやお酒など、さまざまな食文化にも対応できることを提案。
形を揃えることで、異なる素材をコレクションして楽しめるようにした。
そんなユニークさが人気となり、いまでは一番人気の商品となったそう。
「どんな国の人でも使えるから、空港のギフトとして最適なんじゃないかなって。いつか、空港のギフト=蕎麦猪口って価値観ができたら面白いですよね」
「お客さまが楽しんで買えて、産地にもちゃんとお金が回る。それってすごくいいことだと思うんです」
こうしたKIRIオリジナルの商品は、いまでは全体の7割ほどを占めている。
毎日店頭に立ち、お客さんの反応や売れ行きを見る。そうして少しずつ改良を重ねているそう。
だからこそお店の存在は大きいのだと、片桐さんは繰り返す。
「日本の伝統を発信するという側面もたしかにあるんです。でも僕らは、紹介することを仕事にしているわけではなくて」
「大切なのは、お客さまが納得して買えて、つくり手も僕らもしっかりと食べていけること。売ることはすごく力を持っていると、僕は思うんですよ」
そんなKIRIで働く一人が、ショップスタッフの渡邊さん。
一つひとつ、丁寧に言葉を選んで話してくれる。
もともと、皮革製品の製造・販売を手がける会社で働いていた渡邊さん。革職人と触れ合うなかで、接客の面白さを感じるようになったそう。
「職人さんから聞いた技術やこだわりを、自分なりに解釈してお客さまに伝えるようにしていました。そしたらお客さまももっと興味を持ってくれるようになって、これは楽しいぞと」
よりものづくりに近い仕事を探すなかで、KIRIを見つける。
応募する前に、お店を訪ねてみたそう。
第一印象はどうでしたか。
「スタイリッシュだなと思いました。商品の陳列も独特で、一点ずつ日本語と英語でキャプションがついていて。見ていて面白かったし、ものづくりに触れながら働けそうだなと」
そうして昨年の7月から販売スタッフとして働いている。
KIRIの接客は、どういうものなのでしょう。
「まず特徴的なのが時間ですね。基本的にお客さまがお店に入ってから出られるまで、だいたい10分くらいです」
「とくに出発前は1分1秒が貴重だから、お急ぎの方が多いんです。できるだけ早く、的確に選びたいというニーズが大きいかな」
お客さんは、日本のビジネスパーソンが多いそう。どうやら、ゆっくり商品説明をする接客ではないみたい。
限られた時間のなかで最適なギフトを提案するために、基本となる質問がある。
「どちらに行かれるのか、どういう方に会われるのかの2つです。『今からお仕事ですか?』といった言葉をきっかけに、どんどんこちらから話しかけていくイメージですね」
渡邊さんによると、ヨーロッパとアメリカでは好まれる商品が少し違うそう。
たとえばヨーロッパではアートが身近だからか、シンプルで考え抜かれたフォルムの黒い漆器が人気。一方アメリカ人には、折り鶴の形をした和柄のめがね拭きなどの商品が喜ばれるのだとか。
「一口に外国人向けのギフトといっても、けっこう幅広くて。これが一番人気ですよ、とは言わないようにしています。実際に使うシーンを想像できるように、具体的な言葉でお伝えしていますね」
もう一つ大切なのが、贈る人と受け取る人の距離感。
初対面の相手には、ちょっと場が和むような遊び心ある商品を。ビジネス用だったら、会社名義でも贈れる重厚感あるものを。
距離感によって、勧めるものは変わってくる。
「お店には外国のお客さまもいらっしゃるので、どんな商品を選ばれたのかを頭の中にストックして参考にしています。経験を積めば、どんな商品を勧めればよいかが掴めてきますよ」
商品に添える一言も重要。
たとえば水引は、古くから人と人を結びつける縁起物として伝わってきた。
お客さんがギフトを渡すときにそのことを伝えれば、もっと距離が縮まるかもしれない。
「実は、商品の背景や歴史をお客さまに伝える機会は少ないんです。それよりも、自分なりの言葉で伝えるほうが大切で」
「僕が思いを持って売ったら、お客さまもそういう思いで贈ってくれるかなって。つながっていくといいな、と思っています」
お客さんのなかには、商品を気に入ってくれて、その後も連絡を取り合うようになった海外の方や、リピーターとなってくれた方もいるのだそう。
さらに最近では、片桐さんと一緒に産地を回る機会も生まれてきた。
「九州の焼きものの産地を巡りました。窯出しの瞬間に立ち会わせてもらったんですけど、この道何十年の職人さんでも失敗を繰り返していて。でもそれが面白くもあるんだって話してくれました」
お店を訪れる人は、何を知りたいだろう。どんな伝え方をしたら、より魅力的に映るだろう。
お客さんの顔を思い浮かべながらの見学は、とても刺激的だったそう。
「知れば知るほどもっと面白くなる。愛着が生まれて、もうただのものに見えなくなるんです」
「だからやっぱり、もっと伝えたい、届けたいんですよね」
空港という特殊な場所だから、じっくりと時間をかけて伝えることは難しいかもしれません。
それでも商品について楽しそうに話す二人の言葉には、力を感じました。
きっとそうした姿勢は、産地やお客さんにも届いているはず。
その熱がきっかけとなって、産地とお客さん、そして贈る人と受け取る人の間に良いつながりが生まれるのかもしれません。
(2018/10/12 取材、2019/11/15 再募集 遠藤 真利奈)