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農の力で、福よ来い
ホトラ舎の挑戦

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ホトラという言葉、はじめて耳にするという人も多いかもしれません。

滋賀県北西部では、広葉樹の幼木のことをホトラと呼ぶのだそう。

その葉は畑の家畜の敷草になったり、肥料になったり、地域のなかを循環しながら人の営みを支えています。

それぞれの関わり合いのなかで、力を活かし合う。

滋賀県高島市にある「ホトラ舎」は、そんな発想から生まれた就労継続支援B型事業所。

ここでは「農福連携」といって、障がいのある人たちが農業を通じて社会に関わる福祉の仕組みをつくろうとしています。

運営しているのは、岡山県西粟倉村に本社を持つエーゼロ株式会社。福祉を専門とした法人ではなく、ローカルベンチャーの支援などを通じて、地域経済の循環を生み出すことに取り組んできた会社です。

今回はここでスタッフとして働く人を募集します。

今いるスタッフはほとんどが福祉未経験者。なので、今回は福祉の経験を持つ人が来てくれるとうれしいとのこと。

開所からまだ1年。これから整えていく部分も多いので、経験を生かしていろんな挑戦ができるフィールドだと思います。


京都駅から湖西線に乗り換えて1時間ほど。到着した安曇川(あどがわ)駅のそばには商店もいくつか見える。

11月の初旬。少し車で走ると稲穂を刈り取られた田んぼが広がる。山道を少し上がったところの、赤い壁の建物がホトラ舎の事業所。

靴を脱いでなかにお邪魔する。

昼下がりのこの時間帯、利用者さんのほとんどは畑の作業に出ているらしく、とても静か。

ミーティングスペースで話を聞かせてくれたのは、事業所長の清水さん。名刺には“一級建築士”という肩書きが。

「この事業所は、西粟倉のエーゼロ本社と同じころにスタートしていて。今は福祉の事業をやっていますが、当初は高島産の木材を使った建築とか、空き家対策のような移住促進の事業をしていました」

ところがそれらの事業はなかなか軌道に乗らず、もう一度地域の課題の根本に立ち返ってみることに。

「まずは人が減っているという問題があるんですよね。農業や林業のような一次産業も、高齢化で担い手がいないから、存続が難しい。地域のなかで雇用やいろんな生業が生まれるように、仕組みを工夫してみようと思って、今の事業がスタートしたんです」

清水さんたちが運営しているのは、障がいのある人たちが農作業を通じて就労するB型事業所の「ホトラ舎」と、グループホーム「やまえみ」。

グループホームでは、通常の雇用条件には当てはまりにくい高齢者もスタッフとして働いている。


現在そのふたつの施設を兼任しながら働いているスタッフの原田さんにも話を聞いた。

「僕は自然豊かな環境で子育てがしたくて、大津市から高島市に移住してきました。水もおいしいし、旬の野菜が食べられるし、本当に恵まれた環境なんですよ」

特に、このホトラ舎の事業所周辺に広がっている「黒ボク土」と呼ばれる土壌は、根菜類を育てるのに適している。

「泰山寺大根」など人気の高い特産品もある一方、高齢のために廃業する農家も多い。

ホトラ舎ではその人たちから、土地やトラクター、農具などを借り受けて野菜をつくったり、農家さんのところへ収穫や草取りなどの作業を手伝いに行ったり。

担い手不足の農業と、障がいのある人たちの就労支援。お互いを補い合う形で事業がスタートしたのが昨年の9月。

今は15人の利用者が通っている。秋には大根、夏にはトウモロコシ、最近は原木シイタケの栽培もはじめた。

「朝は利用者さんを車で迎えに行って、ここで朝礼。利用者さんの特性や相性を見ながら、その日の仕事を割り振っていきます。雨が降ったときは加工品の袋詰めとか室内でできる作業を準備しておいて、作業を組み立てていくんです」

「大根やさつまいもは、生鮮で売るだけじゃなくて切干などに加工もしています。細かい作業が得意な人には向いていますし、加工品として売るほうが利益も上がって、工賃向上にもつながっていくので」

就労支援施設でつくったものだからという理由ではなく、クオリティで選んでもらえるものをつくる。

高齢者も、障がいのある人もみんながフラットに働けるような環境をつくりたいと原田さんは言う。

「農業って、しんどいし儲からないみたいなイメージがあるかもしれないけど、ちゃんと事業として給料を払っていけることを示していきたいんです。みんなが生き生きと働いてて、高島ってなんか面白そうやな、って言ってもらえるような地域にしたいんですよね」

今は中心となって働いている原田さんも、清水さんと同じく、もともとは建築や移住支援の仕事をしていた。

はじめて福祉の分野に携わってみてどうですか?

「奥深いなあって思います。福祉の世界って、その人の欠点じゃなくて、もともと持っている力を最大限発揮してもらうにはどうしたらいいかっていう発想なんです。その考え方をほかの場面でも活用したら、社会はもっと豊かになるんじゃないかと思うんですよね」

「障がい者が抱えている困りごとって、僕のなかにも同じような種があるんですよ。たとえば若年性認知症って、物忘れの拡大版みたいなもので。わかっていてもうまくできないことってありますよね。『そうやんな、俺もできひんわ』って共感できるようになって」


はじめのころは利用者さんたちの咄嗟の行動に、どう対処していいか戸惑うことも多かったという。

ホトラ舎のなかで唯一の福祉経験者の牧野さんは「最初はよう呼びつけられてましたわ」と笑う。

牧野さんは、20年以上障がい者福祉の分野に携わってきたベテラン。

「移住者には支援制度あるで。新しい人来たら教えてあげるわ」「原田さん、知らんかったん?前も言うたやん!」

そんなやりとりからも温かい人柄が伝わってくる。きっとみんなに頼りにされているんだろうな。

「私はサービス管理者っていう立場上、会議とか、なんやかんや外に出ていく仕事が多くて、なかなか現場に行けてないんです。農業の指導ができる人はすでにいるので、今回は福祉の視点で利用者さんの支援を考えられる人に来てほしくて」

「今は、どのスタッフも時間に余裕がなくてね。今日は何を出荷せなあかんとか、その日その日の作業に追われてしまうんですけど、そのペースについていけてない利用者さんもいるような気がして。もうちょっと支援をしっかりしていきたいんですよね」

日々変化する環境のなかでの農作業。適切なタイミングで作業ができないと、商品として出荷できないことも。

たとえば大根の収穫なら、選別、機械へ流す、洗う、切る、それぞれの工程を効率よく進められるように、今は一人ひとりの「できること」を作業として任せているのだそう。

「もちろんね、できないことをやらせたら虐待ですわ。でも、できないから無理って決めつけたら、支援とは言えない。寄り添いながら押し上げていくのが私らの仕事やと思います」

今はできない作業も、どういう支援があったらできるようになるか。

声かけの仕方や道具の工夫、作業を分けたり、ペアにしてみたり。

自分の状況を言葉でうまく説明できない人もいるので、様子を見て、汲み取って、考えていく。専門家の視点に立った適切な接し方や、人としての信頼関係を築いていくプロセスをもっと丁寧にできるように。

ただ農作物を出荷するという目的のためだけでなく、その過程もその人の糧になるように。そういう関わり方を増やしていきたいと牧野さんは言う。

「よく、お医者さんは命を預かる人で、私らは人生を預かる人って言うんです。就労支援っていうのは、これからの人生を一緒に考えてあげなあかん。本人の希望に行き着くまで伴走していくような仕事なんですよ」

長く福祉の仕事を続けてきた牧野さんが、このホトラ舎に来て驚いたことがあるという。

それは、利用者があまり休まずに通ってくるということ。

「20年この仕事してて、難しい難しいと思ってたのに、ここはみんなちゃんと来はるんでびっくりしました。たしかに空は高いし、まわりは広いし気持ちいい場所ですよね。口には出さんけど、毎日来はるっていうことは生きがいに感じてくれてるんじゃないかと思います」

ホトラ舎の開所に合わせて、エーゼロに入社した牧野さん。実は20年ほど勤めた前の職場は、あと数ヶ月で定年退職するというタイミングだったのだそう。

「ここはB型やけど、いつかはA型の事業所もやりたいっていう話をチラチラ出さはるから、やってみたいなあって思って」

もっとこうしたい。牧野さんの言葉からは福祉の仕事に対する前向きな気持ちが伝わってくる。

専門的な福祉法人ではなく、ベンチャー企業であるエーゼロが運営するホトラ舎は、働く環境としてどうですか。

「たしかに社会福祉法人で働いてきた人にとっては不安かもしれないけど、いいところもあります。大きな法人だったら、代表者の理事長に直接何か意見なんか言えないでしょ。ここの社長はきっと聞いてくれはると思いますわ」

大きな組織のなかで感じていた違和感や、声に出しにくかったこと。ここなら、隠さずに挑戦できるかもしれない。

一方で、まだできたばかりの組織にはこれから整えていくところも多い。経験を生かして気づきを形にしていける人には手応えを感じられるはず。

「最初の1年は採算がとれるようになることに集中してきましたけど、私はこれからもっと一人ひとりに向きあえる体制をつくりたい。私らが仕事をするのも、お金のためだけじゃないですよね。それと同じやと思うんです」

「正解がない世界ですから。いろんな人がいろんな働き方をして、失敗しながら学び取ってもらわないかん。同じ作業に取り組むとしても、人によって全然違う顔を見せてくれる。そこが福祉の楽しいところです。私はこの世界で20年やってきて、もう病みつきです(笑)」


帰り道の途中で、収穫間近の大根畑を見せてもらった。白い根が大きく土から顔を出している。

お土産に一本いただいた大根は、おでんにして食べました。いつもどおりつくったのに柔らかく、薄い味つけでもしっかり甘い大根の味がした。

夕暮れの畑で大きな声で挨拶を返してくれた利用者のみなさんにも、そのことを伝えたいなと思いました。

(2019/11/7 取材 高橋佑香子)
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