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「地域活性化」という言葉をよく耳にするようになって数年。地域を元気にするために、観光客や移住する人を増やす取り組みが全国各地で行われています。
新しい人の流れをつくり出すことも大切。その一方で、地元で今頑張っている中小企業の発展も、地域の活性化には欠かせません。
そんな地元の中小企業を支援する取り組みとして注目されているのが、富士市産業支援センター「f-Biz」。
ここには、日々いろんな人たちが訪れます。廃業寸前で駆け込んでくる中小企業の経営者もいれば、新しく事業をはじめたばかりのスタートアップ、手づくりの商品を売り始めた地域のお母さんや農家さんなど。
そんな人たちの話を、専任のアドバイザーがまずはしっかりと受け止め、相手の強みを見極めて売上アップにつながる提案をしていく。しかも、どれだけ成果をあげても相談料はとっていないそうです。
お金をかけずに知恵を絞る。「Bizモデル」と呼ばれる新しいコンサルティングは、全国20以上の市町村に広がっています。
そして2020年2月、広島県東広島市で、東広島ビジネスサポートセンター「Hi-Biz(ハイビズ)」が新しく始まります。
今回募集するのは、Hi-Bizのバックオフィスを担う事務長。
オフィスでの受付や電話対応、相談案件の進捗管理など。相談以外のさまざまな仕事を担当することになります。
Hi-Bizを立ち上げていくメンバー。1からつくりあげる苦労があるぶん、やりがいも大きいと思います。
取材に向かったのは、愛知県岡崎市にあるOKa-Biz。Bizモデルの先駆けであるf-Bizに次いで6年前にオープンした拠点。
名鉄東岡崎駅で降り、駅から歩いて15分ほどで事務所が見えてきた。
はじめにお話を伺ったのは、東広島市役所の岡本さん。この日は東広島市から取材のためにここまで来てくれたという。
東広島市と商工会議所が共同で設立するHi-Biz。岡本さんはプロジェクトが動き出すタイミングから関わっている。
今回の舞台となる東広島市はどんなまちなのか、まず聞いてみる。
「お酒づくりが有名で、『日本三大銘醸地』のひとつに数えられるまちですね。蔵元が7つも並ぶ通りもあって、仕込みの時期は、日本酒の香りがまち全体に漂います」
赤レンガの煙突や瓦屋根、白壁の建物など、歴史ある景観が残る東広島。と同時に、市内には広島大学をはじめ複数の大学があり、若い人たちが多く住んでいるまちでもある。
Bizモデルのような産業支援拠点をつくるのは、まちとして初めての試み。どうしてHi-Bizを始めることになったんでしょう。
「東広島市内には約7,000の事業所がありますが、大半は中小企業です。その多くは、売上向上や経営者の高齢化、人手不足など様々な課題を抱えていました」
「早急に企業の経営改善が必要だと話し合っていたところ、追い打ちをかけるように、非常に大きな豪雨災害があって。東広島の中小企業も深刻な被害を受けたんです」
2018年7月。西日本を中心に起きた集中豪雨。
東広島市も、過去に経験したことのない記録的な大雨に見舞われたそう。被災件数は4,400件を超え、地域の中小企業にも大きなダメージを与えた。
「水に浸かってしまった商店街もあって、置いていた商品や機械に大変な被害があったんです。このままでは事業を続けられないという声も多くあがってきました」
中小企業を支援するために、市として何ができるか。
たとえば金銭的な支援も一つの方法かもしれないけど、それだけでは課題の本質的な解決にはつながらない。長い目で見たとき、本当に中小企業の助けとなる方法は何なのか。
「いろいろな意見が出たんです。そのなかで市長が強く求めたのが、Bizモデルの導入でした」
全国各地で多くの企業の相談を受けているBizモデル。
相談にかかる費用は無料で、リピート率も高いため「行列のできる経営相談所」と言われているそう。月間で200〜300件、年間で3000件ほどの相談が寄せられている相談所もあるという。
相談内容をもとに、企業の強みを見つけ出し、長期的に売上を伸ばしていくための具体的な提案をする。このモデルこそ、このまちに今必要なものなんじゃないか。
話し合いの結果、2019年4月からBizモデルの導入に向けたプロジェクトがスタートした。
「私はちょうどプロジェクトがはじまるタイミングで今の部署に異動してきて。それまでBizについては詳しく知らなかったので、Bizってなんだろう?と思いながら、まずBizに関する講演を聴いたんです」
講演では、f-Bizに持ち込まれたさまざまな相談事例が紹介された。
たとえば、創業114年の老舗和洋菓子店「もちのき」。
競合店の台頭や、クオリティの高いコンビニスイーツの増加、さらにお取り寄せスイーツの普及で、全国の有名店まで競争相手となってしまった。厳しい経営状況をなんとかしたい、とf-Bizにやってきたそう。
アドバイザーは、相談者の話をじっくり聞いてポイントを整理していく。そうして提案したのが、和菓子と洋菓子、どちらも高い技術を持つもちのきならではのフルーツサンド。どら焼きの皮を使ったどらサンドだった。
いざ商品が店頭に並ぶと、連日完売。さらに隣の静岡市の松坂屋百貨店に2日間限定で出品したところ、両日とも数時間で完売するなど、1年間で2万個を売り上げる人気商品となった。
「お金をかけるのではなく、視点を変える。その発想力に圧倒されて。これは絶対に東広島の企業にとって大きな力になると思ったんです」
現在、商工会議所が行なっている経営相談は、企業の弱点を克服する経営相談が中心になっている。そこにビジネススキルの高い専門スタッフによる、企業の強みを活かすHi-Bizが加われば、まち全体としてより良い支援ができる。
「行政も、Hi-Bizのサポーターというより、一緒に盛り上げていく仲間だと思っていて。東広島市と東広島商工会議所が一緒になって、できることはなんでもバックアップしていきたいと思っています」
行政のバックアップも受けつつ始まるHi-Biz。今回募集する事務長は、具体的にどんな仕事をするのだろう。
先輩BizであるOKa-Bizのセンター長、秋元さんにお話を伺った。
「まずは富士市のf-BizやOKa-Bizで、1週間程度の研修を受けてもらいます。そこで基本的な仕事やBizの考え方を学んで、Hi-Bizに還元してもらえたらいいなと思っています」
事務長の仕事の一つが、相談者の窓口になること。
相談者から電話を受け、専門スタッフとの日程を調整し、予約をとる。来所したときには、最初に受付で出迎える。Hi-Bizの顔となる仕事だと思う。
「あとは、相談以外の全部が仕事。何もない状態からのスタートなので、やるべきことを考えるところから始まると思います。些細だけど、受付にポップをつくるとか」
Hi-Bizのことを知ってもらうために、ホームページやSNS、ブログを更新することも。
セミナーを告知するためのチラシをつくって配布したり、セミナー当日の運営を担当したり。業務は多岐にわたる。
「立ち上げてからの数ヶ月は、専門スタッフも自分のことで精一杯。だから事務長も、自分が会社を創業したような感覚でいるのがいいと思うんですよね」
Hi-Bizを一からつくりあげていく。
ないものをつくる楽しさはあるけれど、たくさんの仕事をこなしていくのは大変そうです。
「ぼくがOKa-Bizを立ち上げたときも、事務スタッフは1人でした。その子も、決して最初から全部できていたわけではないですよ。一つずつ、自分のできることを増やしていってくれたと思います」
「大事なのは、経験やスキルよりも想像力じゃないかと思っていて」
想像力?
「相談に来てくれる人って、僕らが思っている以上に緊張していたり、複雑な思いを抱えていたりする。だから相談者の気持ちを想像して、そっと寄り添ってあげるような。そんな感覚が大切だと思うんですよね」
最後に話を聞いたのは、Hi-Bizのプロジェクトマネージャーに就任した西村さん。今は、オープンに向けて3ヶ月間の研修を受けている最中とのこと。
もともとは金融機関や会計事務所で、企業のコンサルティングを行なっていたそう。
「会社がどうして赤字になっているのか。財務資料などから原因を見つけて、問題点を解決するためのアドバイスをしていました」
ただ、会社の赤字は減らせても、売上アップには貢献できないもどかしさを感じていた。
「売上アップに関しては、社長なんとか頑張って!と言うことしかできなくて。相談してくれた人からお金をもらっているけれど、これは本当にその会社のためになっているのかなって、疑問を持っていたんです」
もっと直接的に、売上アップにつながる提案ができないだろうか。
そんな思いから、秋元さんが講師を務めるセミナーに参加したという西村さん。秋元さんの話を聞いて、全国各地で実績をあげてきたBizモデルに魅力を感じたそう。
「自分のやりたいことはこれだと思いました。さまざまな地域で成功しているBizモデルのプロセスを学べば、絶対に中小企業のためになるし、地域をより良くする力になると思ったんです」
滋賀県出身の西村さん。なぜ東広島で挑戦しようと思ったんですか。
「もちろん地元にBizがあったら一番よかったんですが、それがいつになるかなんて分からないじゃないですか。場所よりも、『やりたい!』と思ったタイミングが大事だと思うので。この機会を逃してはいけないと思いました」
「それに、東広島市の人たちと話していると、Hi-Bizにかける思いも伝わってきて。この人たちと一緒にやりたいなって思ったんです」
東広島市は、広島大学をはじめ近畿大学や広島国際大学など、複数の大学がある学園都市。Hi-Bizの施設デザインコンセプトや空間設計は、初期段階から地域の学生を巻き込んでつくってきた。
内装デザインを中心となって手がけたのは、広島大学や広島修道大学、呉工業高等専門学校の学生。そのほかインテリアの製作や塗装、空間のリノベーションも一緒になって進めている。
この場所はHi-Biz以外にも、いろいろなイベントやプログラムが行われる場所になるそう。親子向けの科学イベントや、有名野球部の監督から学ぶ育成論講座など、世代もジャンルもさまざまな企画が開かれる。
中小企業支援なんて自分には関係ない。そう思っている子育て世代や若者にも、Hi-Bizを知ってもらいたいと、西村さんは話す。
「Hi-Bizでは起業のサポートもしています。お店を開いてみたいお母さんや、起業に興味を持った学生が気軽に相談に来てくれたら嬉しいですね」
岡本さんが、最後にこんな話をしてくれました。
「ほかの地域に負けない、日本一のBizにしたいと思っているんです。地域の人に、相談に来て本当によかったって思ってもらえるような、満足度ナンバーワンの場所を一緒につくっていきたいですね」
日々訪れる人たちの希望や課題と向き合い、アイデアの力で解決していく。
まちの人たちと間近に関わりながら、その変化を感じられる距離感は、Bizモデルならではだと思います。立ち上げの時期に関わることで、ほかではなかなか味わえない経験も得られるはず。
地域のためになる仕事は、同時に自分自身を大きく育ててくれるものかもしれません。
(2019/11/11 取材、2020/1/6 再掲載 鈴木花菜)