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ホタテの卵が入った岩手のおかず味噌、愛媛の柑橘を手絞りしてつくったゼリー、那須の工房から届いたナチュラルチーズ…。日本全国から集まった食べものが、手にとってもらうのを待つかのように、ところ狭しと並んでいる。
「おいしい」をぎゅっと詰めこんだこのお店が、今回の舞台です。
日本全国で地域産品のコンサルティングや販売を手がける有限会社良品工房。
東京駅構内にある直営店のニッコリーナで、販売スタッフを募集します。
毎日多くの人が行き交う東京駅は、まだ知られていない地域の魅力を伝えるには絶好の場所。たくさんの人に興味を持ってもらい、商品を手に取ってもらうにはどうすればいいか、スタッフ一人ひとりが自主的に考えながらお店をつくっています。
商品の背景まで知った上で販売をしたい人、それにおいしいものが好きな人には、きっと働きがいのあるお店だと思います。
東京駅の改札内にある「エキュート東京」には、お菓子屋さんやお弁当屋さんが20件ほど並んでいて、旅のお供やお土産を買い求める人たちで賑わっている。
フロアのちょうど真ん中あたりにあるお店が、ニッコリーナ。
お店の前まで来てみて、私も何度か訪れたことがある場所だと気がついた。
ちょっと気になった商品を手にとって、そのまま中へふらりと。そんなふうに、立ち寄りやすいお店なんだと思う。常にたくさんのお客さんが出入りしていて、スタッフの皆さんの「いらっしゃいませ」という声が響いている。
最初に話を聞いたのは、代表の白田(はくた)典子さん。普段はこの東京駅を起点に日本全国を飛び回っているので、出張の前後でお店に立ち寄ることが多いそう。
会社を立ち上げたのは25年前。子育て中でも何か仕事がしたいと、地元の栃木県でとれる鮎の卸をはじめた。
いろいろな小売店やメーカー、バイヤーとつながりが生まれるなかで、商品についての相談を受けるようになっていったという。
「小さなお店から『価格競争だと大手に負けてしまうから、品質で勝負できる商品がほしい』って相談を受けて。それなら地域産品なんじゃないかと思いました。今でこそ日本各地の特産品ってよく見かけるけれど、当時はすごくめずらしがられたんですよ」
白田さんは少しずつ、取引先を日本全国に拡大。新商品の開発やブラシュアップといったコンサルティングもはじめた。
直営店であるニッコリーナがオープンしたのは、これらの事業が軌道に乗ってきた10年ほど前のこと。
お菓子や調味料、漬けものにジャムなど、お店に並ぶ商品は幅広い。
店頭では毎月季節に合わせたフェアを行っていて、今月のテーマは柚子。定番の柚子胡椒やゼリーをはじめ、柚子風味のケチャップやうどんなど変わったものもおいてある。
「店頭に置く商品は、コンサルの仕事で関わった地域のものが多いですね。生産者さんと一緒につくったものや、紹介してもらったもの、地域で偶然出会った商品もあります」
どの商品もその背景にあるストーリーや、つくり手の想いを受け取った上でお店に置いている。そして、自分自身が「おいしい」「魅力的だ」と心から感じるものを扱っている。
お客さんとしての視点を忘れないことは、働く上でも大切になるという。
「この仕事って、公私混同しないとできない仕事なんですよ。たとえば自分がスーパーに行ったときに、どんなものをほしいと思うか。そういう消費者の感覚を忘れてしまうと、手に取りたくなる商品のアイデアも思いつかないし、魅力的な売り場づくりもできないんです」
「私なんか、仕事中でも買いものしちゃうくらい、買いものが好き。出張先でアテンドの方に『白田さんすみません、今回は時間がなくてお買いものタイムはないんです』って言われることもあるの(笑)」
「親子揃って買いもの好きなんです」と、話を引き継いだのは娘の白田さやかさん。
新聞社での勤務を経て、10年前から典子さんと一緒に働いている。ニッコリーナの初代店長を務め、今は販促や商品開発の仕事を担っている。
この日も取材の合間にいろいろなものを買い込んでいた。
「うちの会社は、社長でさえも社員割引がないんですよ。定価で売りたい商品だから、自分たちも定価で買うんです」
スタッフ自身が、お店で買いものをすることも多いそう。
「ニッコリーナって、商品のロスがほとんどないお店なんです。運ぶ途中で割れちゃった、とかはあっても、売れ残りや賞味期限切れはゼロに近い。それって、スタッフが自分たちの商品を好きだから実現している部分も大きいと思うんです」
商品が好きだから、なるべく廃棄を出したくない。それに生産者さんの顔を知っていると、余計に気持ちもこもるもの。
「一日に一人くらいは、どこかの生産者さんがお店に顔を出してくれているんじゃないかな。東京駅っていう場所柄、出張や旅行のついでに寄ってくれるんですよね。その顔を思い浮かべると、どうしても売れ残りは出したくないんですよ」
はじめて商品がお店に並んだときには、売り場の写真を撮って生産者さんに送るようにしている。
「高知県の缶詰工場の人に写真を送ったら、スタッフで回覧する日誌にその写真を貼ってくれて。その日誌の写真をまた送ってくれました。お店に並ぶだけでこんなに喜んでくれるっていうのはうれしいですね」
つくり手を思う気持ちから生まれた、ささやかなやりとり。その積み重ねがあってこそ、お互いを近くに感じられるようになっているんだと思う。
最後に話を聞いたのは、前回の日本仕事百貨の記事をきっかけに入社した塚原さん。入社3年目で、今はニッコリーナの副店長を務めている。
前職では家具の販売をしていたという塚原さん。旅先のおいしいお土産を買うのが好きで、商品がつくられた背景まで知った上でお店に立ちたいという想いから入社を決めた。
ここで働くようになって驚いたのは、売り場をスタッフが自由に変えていいということ。
「地域産品は一つひとつの納品数が少ないので、それを大切に売るんです。商品数が減ったらカゴを小さくして、そのぶんほかの商品を広げて…と、一人ひとりが考えてどんどん変えていく」
「以前は決まった商品を決まった並びで置くことが当たり前だったので、数時間おきに変えることに最初は戸惑いましたね。端から端にお菓子を動かしたら、あまりに変えすぎて注意されたこともありましたけど(笑)」
日常の小さなアレンジのほかに、コーナーを一から企画することもある。同じ商品でも見せ方次第で、売れ方がまったく変わってくるという。
「最近担当したのは“幸のこわけ”っていう、富山県のおつまみです。普段セット売りしかしない商品をバラで買いたいという、お客さんの声をきっかけに企画しました」
このホタルイカ、食べたことあります。有名な商品ですよね。
「うちでも定番なんですよ。実はホタルイカも2種類あって、海水に浸けて干したものと、塩をふって素干ししたもの。その説明をすると、食べ比べてみようと2つ買ってくれる方も多いです」
どうすればより効果的なコーナーがつくれるか。お店で届け方を工夫した経験は、コンサルティングの仕事でも役に立つ。
塚原さんは最近、白田さんと一緒に生産者さんのもとを訪れ、商品開発にも関わっている。
「お店に立つ人間だからわかることもあって。毎日の検品や品出しで感じていることを自分のなかに蓄積しておくと、『このサイズだと並べづらいな』『このパッケージなら目立つだろうな』とか、根拠を持って生産者さんにアドバイスできるようになりますから」
これから入る人も、将来的には実際に生産者のもとを訪ねて、コンサルティングの仕事に関わる可能性もあるという。
そのためにもまずは、日々のお店の仕事にしっかりと取り組み、販売の視点で経験を積み重ねていくことが大切になるのだと思う。
東京駅構内という場所。働く環境としてはどうですか。
「営業時間が長いですね。早番は朝7時半出勤からで、遅番は23時退勤。8時間勤務のシフト制で残業はないんですけど、はじめのうちは生活リズムが崩れやすいので大変だと思います」
基本的に閑散期はなく、お盆とお正月の繁忙期により忙しくなるイメージ。加えて、スピード感も求められる。
「レジに10人並んでいて、みんながsuicaを出して、たまに時計も見ていて、みたいな(笑)。そういうときは焦りますね」
「ただ、スタッフ間は阿吽の呼吸で。みんなが一つの生きものみたいに、自分のするべき動きをわかっている。アルバイトの学生さんでも、少し教えると『自分はこれをやろう』って徐々に考えられるようになります。いきなり現場に入るので、スパルタなのかもしれませんけどね」
流動客の多い東京駅のなかでも、リピーターが多いのがニッコリーナの特徴。
通院に合わせて定期的に立ち寄ってくれるおばあちゃんがいたり、出張で利用するたびに手土産を買っていくビジネスマンがいたり。塚原さんも、顔見知りのお客さんが増えてきたという。
「話をするわけじゃなくても、顔を知っているお客さまは結構います。たとえば毎回急いでお水だけ買う方。いつも袋はお断りされるので、最近は最初から渡さないようにしています。東京駅ならではのお客さまとの付き合い方もあるのかもしれませんね」
新しく入る人は、まずは検品や品出しをしながら商品を覚えていく。慣れてきたらレジ打ちやラッピング、売上の計算、コーナーの企画などを担ってもらうことになる。
「すごく忙しいし肉体労働だし、単に販売の仕事をしたいだけだと続かないんじゃないかな」
「でも商品に興味を持って生産者さんと話してみたり、ルーティン業務のなかでも時間を見つけてコーナーの企画を楽しんだり。プラスアルファで、自分から『やりたい』と思えることを見つけられたら、きっと楽しめると思います」
「やりたい」を見つける。
そのためにまずは商品に興味を持って、食べてみたい、もっと知りたいと思うことがはじまりなのかもしれません。
そこで感じたことや深めた知識は、きっとお店づくりや商品開発に役立っていく。
今日の自分の仕事も、日本のおいしいものを応援することにつながっている。そんなやりがいを感じながら、日々働く人たちが集まっている場所だと思いました。
(2019/11/11取材 増田早紀)