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「顔の見える人がつくったものを、毎日の生活で使えている。それが僕は幸せだなと感じていて。この距離感を味わってほしいと思っているんです」そう話すのは、麦わら帽子や手ぬぐいなどさまざまなものづくりのワークショップを手がけてきた「にっぽん てならい堂」の中村さん。
ものづくりに込められた技や想いに触れてもらいたいと、つくり手が直々に指導をしてくれるワークショップを運営しています。
つくり手と会話し、その人となりに触れながら一緒につくっていく。そうして完成したものには思い入れも一段と湧くだろうし、ふとした瞬間につくり手のことを思い出して誰かに伝えたくなる。
そんなふうに身近なものと向き合える日々は、幸せなんだろうなと思います。

どちらも、つくり手の想いを尊重して伝えていく仕事だと思います。
東京メトロ神楽坂駅で降り、静かな住宅地を5分ほど歩く。大通りから道を一本入ると、さらにひっそりとした雰囲気に。
到着したのは、一見普通の民家。
2階にあるのが、てならい堂の店舗「ひみつの小店」。名前のとおり、知る人ぞ知る秘密のお店という感じがする。

扉を開けて中におじゃまする。
「迷わなかったですか?」
と声をかけてくれたのは、店主の中村さん。てならい堂のプログラムは、基本的に中村さんが企画運営しているそう。

え、フライパンもつくるんですか?
「そうそう。鉄のフライパンをつくっている埼玉県の工房を訪れて。平たい一枚の鉄板を熱するところから職人さんに教わってつくるんです」
実際に工房を訪ねて、つくり手から直接教えてもらうスタイルのため、1回の参加人数はだいたい10名まで。なかには2名定員のワークショップもある。
中村さんは、この取り組みをどうしてはじめたんだろう。
「それは、つくり手たちとの出会いがきっかけだったんです」
もともと、生活用品などを扱う通販サイトで働いていた中村さん。扱っている商品について学ぶため、つくり手のもとに通う機会が頻繁にあったそう。
富山県の鋳物職人や、佐賀の有田焼の問屋や、島根県の鍛冶屋など。30代の人も多く、いつしか一緒に飲みに行く仲になっていった。
飲みながら話を聞いていくうちに、多くのつくり手が同じ想いを持っていることに気がつく。
「みんな、ものづくりを次の世代にも残したいという気持ちが一番にあって。自分たちの利益とかじゃないんですよね」

そのなかで、どうやって技術を守り続けていくのか。何を変化させて、何を変えないのか。
「時代に合わせていきながらも、ものが持つ大切な部分は変えない。そうやってこの先もものづくりを続けていこうとするつくり手の姿を、かっこいいと思ったんです」
何百年も前から受け継いできた、ものづくりの技術。
「そういう技術って、使う人のためを思ったものなんです。それはこの先もずっと、なくなってほしくないなと感じて」
たとえば、株式会社まちづくり山上がつくっている「中津箒」。神奈川県の中津地区で明治時代から盛んにつくられていた箒を復興して、原料から自家栽培してつくっているんだそう。

箒はもともと、高価な畳を傷つけずに掃くためにつくられたもの。穂先の柔らかさは何よりも大切だった。
穂の原料であるホウキモロコシは、収穫後すぐに天日干しをする。そのときも、しなやかさを保てるように穂先の部分だけ日除けをするんだそう。

「この柔らかさのおかげで、カーペットに入り込んだほこりや髪の毛も簡単に掃除することができるんですよ」
「つくり手がどんな想いを込めてものをつくっているかなんて、普段考えることはないですよね。でも、知ると愛着が湧いてくる。ものについて今よりちょっとでも知る機会があったら、自分の生活に取り入れたいと感じるものもきっとたくさんあると思うんです」
続いていくものづくりを、支えるために。一人の生活者として、ものに込められた想いや技について知ってもらう機会を提供したいと思った。
「調べようと思えば、知識を得ることは簡単なんです。インターネットにはいろいろな情報が載っていますよね。ただ、それを見るだけでは、分かった気になってしまうと思っていて」
では、中村さんにとって「知る」ってどういうことですか。
「何かを五感で感じて、心が動く。それが本当に知るってことなんじゃないかな」
フライパンをつくる工房の、鉄を熱するときの音や匂い、飛び散る火花のまぶしさ。鉄を叩くスピードや、そのときの職人さんの表情など。
どれも、パソコンやスマホの画面を前にしているだけでは得られないものばかり。

さまざまな体験を通して伝えたいのは、ものづくりのリアル。
「何時間もかけて、できなかったね、で終わるワークショップがあってもいいと思うんです。誰でも簡単にできる体験より、職人さんの本気の技に触れる体験をしてほしい」
先日開催したのは、座布団をつくるワークショップ。座布団のなかに綿を入れる体験をしてもらったそう。
「聞くだけだと簡単そうでしょう。これが、やってみるとすごく難しいんです」
綿を四つ折りにし、角にも行き渡るよう平らに布地へ入れていく。綿のかたまりは大きくて扱いづらいため、なかなか均一に入れることができないそう。

「これも、ちぎって詰められたらもっと楽なんです。でもそうすると、綿が粉々になってしまって、潰れやすくなってしまう。どんな技術も使う人のことを考えて今の形があるんですよね」
扱いやすい羽毛ではなく、綿を使用するのも意味がある。綿はへたっても日に干せばもとに戻りやすいし、角まで均一に詰めることで、重みもしっかりと受け止めてくれるだけの弾力がある。
簡単そうだけど、実はこんなに難しいんだ。あえて楽な方法をとらないのには、こんな意味が込められているんだ。そうやって実感することで、初めて本当に「知る」ことができるんだと思う。
「体験してみて、自分の生活にも取り入れたいって思うのか、自分には合わないと思うのか。それは個人で判断したらいいと思うんです」
普段は掃除機に頼りつつ、時間があるときは箒を使うとか。ワークショップをきっかけに、「いいな」と思ったものを日常に取り入れていく。
小さな変化かもしれないけれど、体験して「知る」ことが伝統的なものづくりを残していくことにつながるかもしれない。

その一つが、企画職。
まずは、中村さんがどのように企画から運営まで行っているのかをそばで学んでいく。慣れてきたら、どんなワークショップを開催するのか一緒に考え、運営も担当してほしいそう。
企画は二人で進めるものの、当日の運営をすべて任されることもある。職人さんとのやりとりなど、責任を持って仕事を進めていける人がいいと思う。
「つくり手の技と想いを実感してもらうために、体験してもらう人には何をどこまでやってもらうのか。時間はどのくらい必要なのか。意外と考えることはたくさんあります」
つくり手には「素人にはできないようなことでも体験させてほしい」と伝える。その上で、事前に準備をしてもらうことや最終的に仕上げをお願いする部分について、話し合いを重ねていく。
ワークショップの告知文や体験レビューなど、文章を書く機会もある。
「職人さんには、ものをつくる時間を割いてワークショップに協力してもらっている。感謝の気持ちを持つことが一番大事だと思っています」
あわせて募集をするのが、「ひみつの小店」の販売スタッフ。

販売する商品は、今までのワークショップなどで付き合いのあるつくり手がつくったものたち。ゆくゆくは、今回入る人に買い付けをお願いすることもあるかもしれない。
まずは土日限定でお店を開けて、基本的には新しく入る人が一人で運営していくことになるという。
「まずは、販売する商品について知ってほしい。どんなつくり手が、どんな想いでつくっているのか。それを自分の言葉でお客さんに伝えてもらいたいと思っています」
「あと、ふらっと来てくれた人が気軽にできるような体験も考えていて」
型に錫(すず)を流すことでできる器づくりや、陶器に下絵をつける体験など、簡単なワークショップも運営してほしいそう。
こういった体験をきっかけに、つくり手が行うワークショップに興味を持ってくれる人もきっといるはず。
「僕がやっているこの取り組みに共感してもらえる人であれば、スキルや能力は関係ないと思っています。週に一回だけお店やワークショップを手伝ってくれるとか、そういう関わり方も大歓迎ですね」
ここで働くうちに、たくさんのつくり手たちと知り合うことができると思います。
これは、あのときにつくったものだよな。
そんなふうに、普段使っているもの一つひとつに物語ができていく。思い出のつまったものたちと一緒に、毎日の生活も大事に過ごしていくことができるように思いました。
(2019/11/14 取材 鈴木花菜)